転移があっても治せるがん―進行精巣腫瘍に化学療法を選ぶ理由
第99回医師国家試験 I問題 第30問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,28~30の問いに答えよ。 28歳の男性。左陰囊の無痛性腫大を主訴に来院した。 現病歴:6か月前に左陰囊の腫れに気付き,その後徐々に増大してきた。疼痛はなかった。 既往歴・家族歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。身長176cm,体重68kg。体温36.1℃。脈拍68/分,整。血圧110/72mmHg。身体所見で胸腹部に異常を認めない。陰囊皮膚と右陰囊内容とに異常はない。左陰囊内容は鶏卵大で一塊として硬く触知するが,圧痛と透光性とは認めない。 検査所見:尿所見:異常を認めない。血液所見:赤血球456万,Hb 15.1g/dL,白血球8,300,血小板26万。血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL,アルブミン3.9g/dL,クレアチニン0.9mg/dL, AST 40U/L,ALT 38U/L,LD 410U/L(基準176~353)。胸腹部CTで両肺に多発性結節影と傍大動脈リンパ節の腫脹とを認める。 入院後経過:精巣腫瘍と診断し,高位精巣摘除術を施行した。
対応として適切なのはどれか。
- a.経過観察
- b.ホルモン療法
- c.放射線治療
- d.化学療法
- e.リンパ節郭清
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
肺転移と後腹膜リンパ節転移を伴う精巣胚細胞腫瘍は進行期(Ⅲ期)ですが、シスプラチンを中心とする化学療法への感受性が非常に高く、遠隔転移があっても治癒が期待できるため、全身療法である化学療法(BEP療法)が第一選択です。肺以外の臓器転移がないセミノーマはIGCCC分類で予後良好群となり、BEP療法3コース(またはEP療法4コース)が標準です。セミノーマは放射線感受性が高いものの局所療法であり、適応はⅠ〜ⅡB期程度に限られ、経過観察はⅠ期のみ、後腹膜リンパ節郭清は主に非セミノーマや化学療法後の残存腫瘍に対して行われ、ホルモン療法の適応はありません。治療にあたっては薬剤ごとの副作用に注意し、若年患者では治療前の精子凍結保存を検討します。「病期で局所か全身かを決め、腫瘍の感受性で手段を選ぶ」という考え方は、がん治療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はdです
症例の整理
28歳男性。痛みのない左陰囊腫大があり、硬く、圧痛も透光性もない腫瘤を触れる。これらから精巣腫瘍と診断され、高位精巣摘除術が行われた。病理組織では、淡明な細胞質をもつ均一な大型細胞がシート状に並び、リンパ球浸潤を伴っていた。AFP(α-フェトプロテイン)とhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は正常で、セミノーマ(精上皮腫)と診断される。
病期の判断
胸腹部CTでは、傍大動脈リンパ節の腫大(後腹膜リンパ節転移)に加え、両肺に多発する結節影(肺転移)がある。遠隔臓器への転移があるので、日本で用いられる病期分類ではⅢ期、TNM分類(UICC/AJCC)ではM1の進行例にあたる。
治療方針の考え方
精巣摘除術は原発巣を取り除くためのもので、すでに全身に広がった転移巣には効果がない。精巣胚細胞腫瘍は、固形癌の中でもシスプラチンを中心とする化学療法が非常によく効く腫瘍である。遠隔転移がある進行例でも、多くの患者で治癒が期待できる。そのため、全身に広がった病変を治療するには、全身療法である化学療法が第一選択となる。標準的なレジメンはBEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)で、コース数は国際的なリスク分類(IGCCC分類)で決める。セミノーマは、肺以外の臓器への転移がなければ予後良好群に分類される。本例は肺転移のみなので予後良好群にあたり、BEP療法3コース(ブレオマイシンが使えない場合はEP療法4コース)が標準である。化学療法の後に残った腫瘤は、画像検査(大きさやPET)で評価し、必要に応じて切除を考える。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
精巣摘除後に経過観察(積極的サーベイランス)を選べるのは、転移のないⅠ期に限られる。Ⅰ期セミノーマでは再発率が約15〜20%で、再発しても化学療法などで救済できるため、定期的な画像検査と腫瘍マーカー測定で経過をみる方法が標準的な選択肢の一つとなる。本例は肺と後腹膜リンパ節に転移があり、放置すれば確実に進行する。経過観察は適切でない。
- ×b. ホルモン療法
ホルモン療法は、ホルモンに依存して増殖する腫瘍(前立腺癌に対するアンドロゲン除去療法、乳癌に対する抗エストロゲン療法など)で用いられる。精巣胚細胞腫瘍はホルモンに依存して増殖する腫瘍ではない。治療法としてホルモン療法の適応はない。
- ×c. 放射線治療
セミノーマは放射線に非常によく反応する腫瘍である。Ⅰ期の再発予防として傍大動脈への照射が、ⅡA・ⅡB期(小さな後腹膜リンパ節転移)の治療として傍大動脈と同側骨盤への照射が行われることがある。しかし放射線治療は照射した範囲にしか効かない局所療法であり、両肺への多発転移を含む全身の病変を治療することはできない。本例のような遠隔転移例には適応とならない。
- ○d. 化学療法
肺転移と後腹膜リンパ節転移を伴う進行期のセミノーマであり、全身に広がった病変を治療できる化学療法が適応となる。精巣胚細胞腫瘍はシスプラチンを中心とする多剤併用療法への感受性が非常に高い。標準はBEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)である。肺以外の臓器に転移がないセミノーマは予後良好群にあたり、BEP療法3コースで高い治癒率が得られる。ブレオマイシンによる間質性肺炎が心配な場合には、EP療法4コースが選ばれる。そのほか、シスプラチンによる腎障害・聴力障害・末梢神経障害、骨髄抑制、妊孕性(子どもをつくる能力)の低下などの副作用にも注意する。若年者なので、治療前に精子を凍結保存しておくことを検討する。
- ×e. リンパ節郭清
後腹膜リンパ節郭清(RPLND)は、主に非セミノーマで行われる。具体的には、Ⅰ期〜ⅡA期の一部に対する初回治療や、化学療法後に残った腫瘤の切除(残存腫瘍切除)として行われる。セミノーマでは初回治療としては基本的に行わない。本例のように両肺へ多発転移がある場合は、局所の外科治療であるリンパ節郭清だけでは病変を制御できないため、初回治療として適切でない。
精巣腫瘍の病期分類(日本泌尿器科学会の分類)
・Ⅰ期:転移がない。 ・Ⅱ期:横隔膜より下のリンパ節に転移がある。ⅡA期は後腹膜転移巣の最大径が5cm未満、ⅡB期は5cm以上である。 ・Ⅲ期:遠隔転移がある。横隔膜より上のリンパ節への転移、または肺・肝・骨・脳などの臓器への転移を含む。
セミノーマの病期別治療の概略
・Ⅰ期:高位精巣摘除術の後、経過観察、カルボプラチン単剤の化学療法、または傍大動脈への放射線照射から選ぶ。現在は経過観察が主流である。 ・ⅡA〜ⅡB期(比較的小さなリンパ節転移):放射線治療、または化学療法(BEP 3コース、EP 4コース)を行う。 ・ⅡC期以上の大きなリンパ節転移、およびⅢ期:シスプラチンを中心とする化学療法を行う。
非セミノーマの治療の概略
非セミノーマは放射線感受性がセミノーマより低く、放射線治療は基本的に用いない。Ⅰ期では経過観察、BEP療法1コース、後腹膜リンパ節郭清などから選ぶ。進行例では化学療法を行い、その後に残った腫瘤を切除する。
IGCCC分類(国際胚細胞腫瘍共同研究グループの予後分類)
腫瘍マーカーの値(AFP、hCG、LD)、原発部位、肺以外の臓器転移の有無によって、予後良好群・中間群・不良群に分ける。セミノーマは、肺以外の臓器転移がなければ予後良好群、あれば中間群となり、不良群には入らない。予後良好群ではBEP療法3コース、中間群・不良群ではBEP療法4コースが標準である。
治療効果の判定
治療効果の判定と経過観察には、腫瘍マーカー(治療前に高かったもの)とCTを用いる。
POINT
・遠隔転移(肺転移など)を伴う精巣胚細胞腫瘍の治療は、組織型にかかわらずシスプラチンを中心とする化学療法(BEP療法)が第一選択である。 ・精巣胚細胞腫瘍は化学療法がよく効き、進行例でも治癒が期待できる。 ・セミノーマは放射線感受性が高いが、放射線治療の対象はⅠ〜ⅡB期程度の限局した病変である。 ・経過観察を選べるのはⅠ期のみである。 ・後腹膜リンパ節郭清は主に非セミノーマで行われ、化学療法後の残存腫瘍の切除にも用いられる。 ・精巣腫瘍にホルモン療法の適応はない。
