同じ前立腺でも治療は別物―癌と肥大症を見分ける治療選択の地図
第118回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
前立腺癌に対する治療で適切なのはどれか。3つ選べ。
- a.精巣摘除術
- b.放射線治療
- c.α1遮断薬投与
- d.前立腺全摘除術
- e.経尿道的前立腺切除術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
前立腺癌の治療は、病期やリスク分類、期待余命に応じて選択され、限局性癌に対しては前立腺全摘除術と放射線治療(外照射、密封小線源療法、粒子線)が根治療法の柱です。前立腺癌の多くはアンドロゲン依存性であるため、進行癌や転移性癌では両側精巣摘除術やLH-RHアゴニスト・アンタゴニストによるアンドロゲン除去療法が基本となり、効かなくなった去勢抵抗性癌には新規ホルモン薬や化学療法などが用いられます。一方、α1遮断薬やTURPは前立腺肥大症の排尿障害を改善する治療であり、癌そのものの治療にはなりません。肥大症は移行域、癌は辺縁域に好発するという発生部位の違いは、直腸診で癌が触れやすい理由やTURPで癌を根治できない理由にもつながります。同じ臓器の良性疾患と悪性疾患で治療の目的を区別して理解することが、適切な治療選択の第一歩です。
解答・解説
正解はa, b, dです
前立腺癌の治療法と、同じ前立腺の病気である前立腺肥大症(BPH: benign prostatic hyperplasia)の治療法を区別できるかを問う問題である。 前立腺癌の治療は、病期(癌が前立腺内にとどまる限局性か、周囲に広がる局所進行性か、遠隔転移を伴う転移性か)と、リスク分類(PSA値、Gleasonスコア〔グレードグループ〕、T分類)、年齢・期待余命によって選ぶ。大きく分けると、 ・根治を目指す局所治療:前立腺全摘除術、放射線治療 ・全身治療:アンドロゲン除去療法(ADT: androgen deprivation therapy、いわゆるホルモン療法)、化学療法など ・治療を急がずに経過をみる方法:PSA監視療法(active surveillance)、待機療法 がある。前立腺癌の多くはアンドロゲン(男性ホルモン)に依存して増殖するため、精巣からのテストステロン分泌を断つ去勢(外科的または薬物による)が有効である。 一方、α1遮断薬や経尿道的前立腺切除術(TURP)は、前立腺の腫大や平滑筋の緊張による排尿障害を和らげる治療であり、主に前立腺肥大症に用いる。癌そのものを治す、あるいは癌の進行を抑える効果はない。したがって、癌に対する治療として適切なのは精巣摘除術、放射線治療、前立腺全摘除術の3つである。
選択肢考察
- ○a. 精巣摘除術
両側の精巣を摘除する外科的去勢術であり、アンドロゲン除去療法の一つである。血中テストステロンの約95%は精巣由来であるため、精巣を摘除すると速やかに去勢レベル(テストステロン50 ng/dL未満)まで低下し、アンドロゲン依存性の癌細胞の増殖が抑えられる。主な対象は転移性・局所進行性の癌である。現在はLH-RH(GnRH)アゴニストやアンタゴニストによる薬物的去勢が選ばれることが多いが、一度の手術で効果が得られ、薬剤費がかからない点で今も選択肢になる。ほてり(ホットフラッシュ)、性機能低下、骨密度低下、代謝異常などの副作用がある。
- ○b. 放射線治療
限局性および局所進行性の前立腺癌に対して、手術と並ぶ根治的治療である。方法には、体外から照射する外照射(強度変調放射線治療〔IMRT〕など)、前立腺内に放射性物質を埋め込む密封小線源療法(ヨウ素125シードによる永久挿入など)、陽子線・重粒子線治療がある。高リスク例ではホルモン療法を併用することが多い。また、骨転移による痛みを和らげる緩和照射としても用いる。
- ×c. α1遮断薬投与
α1遮断薬(タムスロシン、シロドシン、ナフトピジルなど)は、前立腺や膀胱頸部の平滑筋にあるα1受容体を遮断して筋の緊張をゆるめ、尿道の通りを良くする薬である。前立腺肥大症による排尿症状の薬物療法の第一選択であり、癌細胞を減らしたり進行を止めたりする作用はない。前立腺癌に伴う排尿障害に対症的に用いられることはあっても、癌の治療には当たらない。
- ○d. 前立腺全摘除術
前立腺と精嚢をまとめて摘出し、膀胱と尿道をつなぎ直す手術で、限局性前立腺癌に対する代表的な根治療法である。期待余命がおおむね10年以上ある患者がよい適応となる。現在の日本ではロボット支援腹腔鏡下手術が主流である。術後の主な合併症は尿失禁と勃起障害で、必要に応じて神経温存手術が行われる。局所進行癌の一部でも、他治療と組み合わせて行うことがある。
- ×e. 経尿道的前立腺切除術
経尿道的前立腺切除術(TURP: transurethral resection of the prostate)は、尿道から内視鏡を入れて、尿道を圧迫している前立腺組織(主に内腺=移行域)を電気メスで削り取る手術であり、前立腺肥大症に対する標準的な手術である。前立腺癌の多くは辺縁域(外腺)から発生するため、TURPでは癌を取り切れず根治治療にはならない。進行癌で尿閉を来した場合に、排尿路を確保する目的で姑息的に行われることはあるが、癌そのものへの治療ではない。術後合併症として逆行性射精、尿道狭窄、尿失禁などがある。
前立腺癌の治療の整理
・PSA監視療法:低リスクの限局癌で、定期的なPSA測定や再生検を行い、進行の兆しがあれば根治治療に移る。 ・根治的前立腺全摘除術:限局癌(期待余命が長い例)。ロボット支援手術が主流。合併症は尿失禁、勃起障害。 ・放射線治療:外照射(IMRTなど)、密封小線源療法、陽子線・重粒子線。高リスク例ではADTを併用。直腸出血や膀胱炎などの晩期障害がある。骨転移の疼痛緩和にも用いる。 ・アンドロゲン除去療法(ADT):外科的去勢(両側精巣摘除術)またはLH-RHアゴニスト・アンタゴニストによる薬物的去勢。抗アンドロゲン薬(ビカルタミドなど)を併用することがある。 ・去勢抵抗性前立腺癌(CRPC):ADTを続けても進行する状態。新規アンドロゲン受容体経路阻害薬(エンザルタミド、アビラテロンなど)、タキサン系抗癌薬(ドセタキセル、カバジタキセル)、BRCA遺伝子などの相同組換え修復遺伝子に変異がある場合のPARP阻害薬(オラパリブなど)、骨転移に対する塩化ラジウム223などが用いられる。
前立腺肥大症の治療の整理
・薬物療法:α1遮断薬(第一選択)、PDE5阻害薬(タダラフィル)、5α還元酵素阻害薬(デュタステリド:前立腺を縮小させる。PSA値を約半分に下げるため、癌の評価時には注意が必要)。 ・手術療法:TURP、ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)など。
発生部位の違い
前立腺肥大症は主に移行域(内腺)から、前立腺癌は主に辺縁域(外腺)から発生する。このため癌は直腸診で硬い結節として触れやすく、また尿道から内腺を削るTURPでは根治できない。
POINT
・前立腺癌の根治治療は、前立腺全摘除術と放射線治療(外照射・小線源療法・粒子線)。 ・進行・転移性癌ではアンドロゲン除去療法(精巣摘除術またはLH-RHアゴニスト・アンタゴニスト)が基本。 ・α1遮断薬、5α還元酵素阻害薬、TURPは前立腺肥大症の治療であり、癌の治療ではない。 ・肥大症は移行域、癌は辺縁域に好発する。
