StudyMed医師国家試験

3つの物差しで決める治療―前立腺癌の「広がり・悪性度・PSA」

第116回医師国家試験 D問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第13問

前立腺癌の治療方針の決定に用いられるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.PSA値
  2. b.TNM分類
  3. c.Gleason score
  4. d.テストステロン値
  5. e.国際前立腺症状スコア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、前立腺癌の治療方針を決めるときに何を使うかという問題だ。前立腺癌は監視療法から手術、放射線、内分泌療法、化学療法まで選択肢がとても多い。だからこそ、癌の広がりと悪性度を客観的に評価する物差しが必要になる。どんな物差しが思い浮かぶかな。
医学生医学生
がん全般なら、まずTNM分類で病期を決めることですよね。
ドクタードクター
その通り。原発巣の局所進展をT、所属リンパ節転移をN、遠隔転移をMで評価する。T分類は直腸診やMRIで、NとMはCTや骨シンチグラフィで調べる。限局性か、局所進行か、転移があるかで、手術・放射線による根治療法を目指すのか、内分泌療法が中心になるのかが大きく変わるんだ。
医学生医学生
病理学の講義で、前立腺癌には独自の悪性度評価があると習いました。Gleason scoreですね。
ドクタードクター
そう。腺管構造の崩れ方を1〜5のパターンに分け、最も多い成分と2番目に多い成分を足して表す。現在の生検診断では実質的に6〜10が使われ、高いほど悪性度が高い。最近はGleason scoreをもとにしたグレードグループ1〜5も併用されているよ。
医学生医学生
PSAはスクリーニングのための検査というイメージでしたが、治療方針にも使うんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。PSAは前立腺上皮から分泌される蛋白で、検診のカットオフは一般に4.0 ng/mLとされる。でも役割はそれだけじゃない。診断時のPSA値は腫瘍量や進展度を反映するので、10未満、10〜20、20超といった区分でリスク評価に組み込まれる。治療後の効果判定やPSA再発の監視にも使うんだ。
医学生医学生
つまり、TNM分類、Gleason score、PSA値の3つを組み合わせるということですね。
ドクタードクター
その通り。転移のない限局性癌では、この3つでD'Amico分類やNCCN分類といったリスク分類を行い、低・中・高リスクに分けて治療を選ぶ。たとえばPSA 10以下、Gleason score 6以下、T2a以下ならすべて満たして低リスクだ。
医学生医学生
低リスクならすぐに手術しなくてもいいこともあるんですか。
ドクタードクター
そう、監視療法という選択肢がある。定期的なPSA測定や再生検で厳密に経過をみて、進行の兆候があれば根治療法に移る方針だ。高リスクなら手術や、内分泌療法を併用した放射線療法が検討される。では、テストステロン値はどうだろう。
医学生医学生
前立腺癌はアンドロゲン依存性なので、テストステロンが高いと進みやすいから治療方針に関わりそうに思えます。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でもテストステロン値は、診断時の病期やリスク評価には使わない。使われるのは内分泌療法を始めてからで、去勢域、つまり50 ng/dL未満に下がっているかの確認や、去勢域なのに病勢が進行する去勢抵抗性前立腺癌の判定に用いるんだ。
医学生医学生
国際前立腺症状スコアは、泌尿器科の外来実習で患者さんが問診票に記入していました。あれは前立腺肥大症の評価ですよね。
ドクタードクター
よく見ていたね。残尿感、頻尿、尿線途絶、尿意切迫、尿勢低下、腹圧排尿、夜間頻尿の7項目を0〜5点で自己評価する質問票で、下部尿路症状の重症度をみるものだ。主に前立腺肥大症の重症度評価や治療効果判定に使い、癌の進展度や悪性度は反映しない。だから前立腺癌の治療方針決定には用いない。
医学生医学生
テストステロンは治療の経過で、症状スコアは肥大症で使う、と場面ごとに分けて覚えます。
ドクタードクター
それがいい。最後に臨床での注意点だ。PSAは前立腺肥大症や前立腺炎、尿閉でも上がるので癌に特異的ではなく、確定診断は前立腺生検で行う。実際の治療選択では、リスク分類に加えて年齢や期待余命、合併症、患者さんの希望も大切になる。高齢で合併症が重い人では、症状が出てから内分泌療法を行う待機療法を選ぶこともあるんだ。
医学生医学生
監視療法と待機療法は名前が似ていますが、根治を目指すかどうかが違うんですね。
ドクタードクター
その通り。転移性癌ではアンドロゲン除去療法が基本で、近年は新規アンドロゲン受容体経路阻害薬やドセタキセルを早期から併用することもある。物差しを正しく使い分けることが、過不足のない治療につながるんだ。

まとめ

前立腺癌の治療方針は、TNM分類による病期、Gleason scoreによる病理学的悪性度、診断時のPSA値の3つを柱として決定します。限局性癌ではこれらを組み合わせたD'Amico分類やNCCN分類で低・中・高リスクに分け、低リスクでは監視療法、中〜高リスクでは手術や放射線療法(高リスクでは内分泌療法併用が多い)を検討し、さらに年齢・期待余命・合併症・患者の希望も考慮します。テストステロン値は内分泌療法で去勢域(50 ng/dL未満)に達しているかの確認や去勢抵抗性前立腺癌の判定に、国際前立腺症状スコアは主に前立腺肥大症の症状評価に用いる指標です。各指標が「いつ、何のために」使われるかを区別して理解することは、泌尿器科診療で患者に適切な治療を提示する基礎になります。

解答・解説

正解はa, b, cです

前立腺癌の治療は、経過観察(監視療法)から手術、放射線療法、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法まで選択肢が多い。そのため、癌の広がりと悪性度を客観的に評価し、それに応じて治療を選ぶ。 治療方針を決める柱は次の3つである。 ・病期: TNM分類で、原発巣の局所進展(T)、所属リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)を評価する。 ・病理学的悪性度: 生検組織のGleason score(およびそれに基づくグレードグループ)。 ・腫瘍マーカー: 診断時のPSA(前立腺特異抗原)値。 転移のない限局性癌では、この3つ(T分類、Gleason score、PSA値)を組み合わせたリスク分類(D'Amico分類やNCCN分類)で低・中・高リスクに分け、治療法を選ぶ。実臨床では、これに加えて年齢・期待余命・合併症・患者の希望も考慮する。テストステロン値と国際前立腺症状スコアは、診断時の治療方針の決定に使う指標ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  PSA値

    PSA(prostate-specific antigen、前立腺特異抗原)は前立腺上皮から分泌される蛋白で、前立腺癌の腫瘍マーカーである。検診での基準値(カットオフ値)は一般に4.0 ng/mLとされる。診断時のPSA値は腫瘍量や進展度を反映し、限局性癌のリスク分類では10 ng/mL未満、10〜20 ng/mL、20 ng/mL超で区分される。治療方針の決定に用いられ、正しい。治療後の効果判定や再発(PSA再発)の監視にも用いられる。

  2. ○b.  TNM分類

    TNM分類は、原発腫瘍の進展度(T: T1は触知不能、T2は前立腺内に限局、T3は被膜外進展や精嚢浸潤、T4は隣接臓器への浸潤)、所属リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)で病期を決める。T分類は直腸診・MRIなどで、N・Mは CT・骨シンチグラフィなどで評価する。限局性癌か、局所進行癌か、転移性癌かによって根治療法(手術・放射線)か内分泌療法中心かが大きく変わるため、治療方針決定の基本であり、正しい。

  3. ○c.  Gleason score

    Gleason scoreは前立腺癌に特有の組織学的悪性度の評価法である。腺管構造の崩れ方を1〜5のパターンに分け、最も多い成分と2番目に多い成分のパターンを足し合わせて2〜10の値で表す(現在の生検診断では実質的に6〜10が用いられる)。値が高いほど悪性度が高い。2014年の国際泌尿器病理学会(ISUP)の合意以降、Gleason scoreをもとにしたグレードグループ(1〜5)も併用される。たとえば監視療法の対象は原則としてGleason score 6以下(グレードグループ1)の低リスク癌であり、治療方針の決定に直結する。正しい。

  4. ×d.  テストステロン値

    前立腺癌は男性ホルモン(アンドロゲン)依存性に増殖するため、進行癌には去勢術やLH-RH(GnRH)アゴニスト・アンタゴニストなどによるアンドロゲン除去療法を行う。テストステロン値は、この内分泌療法で去勢域(50 ng/dL未満)に到達しているかの確認や、去勢域にもかかわらず病勢が進行する去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の判定に用いられる。しかし診断時の病期・リスク評価に基づく初期治療方針の決定に用いる指標ではなく、誤りである。

  5. ×e.  国際前立腺症状スコア

    国際前立腺症状スコア(IPSS: International Prostate Symptom Score)は、残尿感・頻尿・尿線途絶・尿意切迫・尿勢低下・腹圧排尿・夜間頻尿の7項目を各0〜5点で自己評価する質問票(合計0〜35点)で、下部尿路症状の重症度を評価する。0〜7点が軽症、8〜19点が中等症、20〜35点が重症とされ、主に前立腺肥大症の重症度評価と治療効果判定に用いる。癌の進展度や悪性度を反映しないため、前立腺癌の治療方針決定には用いられず、誤りである。

限局性前立腺癌のリスク分類(D'Amico分類)

・低リスク: PSA 10 ng/mL以下 かつ Gleason score 6以下 かつ T1〜T2a ・中リスク: PSA 10〜20 ng/mL、または Gleason score 7、または T2b ・高リスク: PSA 20 ng/mL超、または Gleason score 8以上、または T2c以上 (実臨床ではより細分化したNCCN分類なども用いられる)

リスク・病期に応じた治療の概略

・低リスク: 監視療法(PSA監視療法。定期的なPSA測定・再生検を行い、進行の兆候があれば根治療法へ移行する)、根治的前立腺全摘除術、放射線療法(外照射・小線源療法) ・中〜高リスク: 前立腺全摘除術、または放射線療法(高リスクでは内分泌療法を併用することが多い) ・転移性癌: アンドロゲン除去療法が基本。近年は新規アンドロゲン受容体経路阻害薬(エンザルタミド、アビラテロンなど)やドセタキセルの早期併用が行われる。 ・去勢抵抗性前立腺癌: 新規ホルモン薬、タキサン系抗癌薬(ドセタキセル、カバジタキセル)、骨転移に対するラジウム223、遺伝子変異に応じたPARP阻害薬など。

監視療法と待機療法

・監視療法: 低リスク癌に対し、すぐには治療せず厳密に経過をみて、進行の兆候があれば根治療法を行う方針。 ・待機療法: 高齢や重い合併症のため根治療法の利益が少ない患者で、症状が出た時点で症状緩和目的の治療(主に内分泌療法)を行う方針。

その他

PSAは前立腺肥大症や前立腺炎、尿閉などでも上昇するため、癌に特異的ではない。確定診断は経直腸的または経会陰的前立腺生検で行う。

POINT

・前立腺癌の治療方針は TNM分類(病期)、Gleason score(悪性度)、PSA値の3つで決める。 ・限局性癌はこの3つを組み合わせたリスク分類(D'Amico分類など)で低・中・高リスクに分ける。 ・監視療法の対象は原則 Gleason score 6以下の低リスク癌。 ・テストステロン値は内分泌療法の効果確認や去勢抵抗性(去勢域 50 ng/dL未満で進行)の判定に用いる。 ・国際前立腺症状スコア(IPSS)は前立腺肥大症の症状評価に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。