息切れ、むくみ、頸静脈―肺高血圧は「右心にかかる負担」で読み解く
第116回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
肺高血圧患者にみられるのはどれか。3つ選べ。
- a.奇脈
- b.足のむくみ
- c.頸静脈怒張
- d.労作時息切れ
- e.Ⅱ音の肺動脈成分の減弱
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
肺高血圧症は肺動脈圧が持続的に上昇した状態で、右心カテーテルでの平均肺動脈圧の上昇により診断されます(現在は20 mmHg超、従来は25 mmHg以上)。肺血管抵抗の上昇で労作時に心拍出量を増やせないため労作時息切れが最も多い初発症状となり、右室への圧負荷から右心不全に至ると頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫がみられます。聴診ではⅡ音の肺動脈成分が亢進し、減弱ではない点に注意が必要です。奇脈は心タンポナーデや収縮性心膜炎、重症喘息などでみられる所見で、肺高血圧症の特徴ではありません。「肺血管抵抗上昇→肺動脈圧上昇→右室負荷→右心不全」という流れで理解すれば、症状・身体所見から心電図・画像所見まで一貫して整理でき、見逃されやすい本症の早期発見に役立ちます。
解答・解説
正解はb, c, dです
肺高血圧症は、肺動脈圧が持続的に上昇した状態である。右心カテーテル検査で安静時の平均肺動脈圧が基準値を超えることで診断される(2022年の欧州心臓病学会・欧州呼吸器学会〈ESC/ERS〉ガイドライン以降は20 mmHg超、それ以前は25 mmHg以上が用いられた)。 症状や身体所見は、病態の流れに沿って考えると理解しやすい。 (1) 肺の細い動脈が狭くなる、または肺血管抵抗が上がる → 肺血流が増やせず、労作時に心拍出量を増やせない → 労作時息切れ、易疲労感、失神 (2) 肺動脈圧の上昇 → 肺動脈弁が強く閉じる → Ⅱ音の肺動脈成分(ⅡP)の亢進 (3) 右室に圧負荷がかかる → 右室肥大・拡大を経て右心不全 → 右房圧・中心静脈圧の上昇 → 頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫 この流れに当てはまる所見を選び、心膜疾患に特徴的な所見や、聴診所見の向き(亢進か減弱か)を取り違えないことがポイントである。
選択肢考察
- ×a. 奇脈
奇脈は、吸気時に収縮期血圧が10 mmHgを超えて低下する現象である。正常でも吸気時に血圧はわずかに下がるが、その変化が強調されたものである。心タンポナーデで代表的にみられ、収縮性心膜炎や重症喘息発作などでもみられる。心膜腔の圧が高く心臓全体の容積が制限されると、吸気で右室への静脈還流が増えたときに心室中隔が左室側へ押され、左室の充満と拍出が減ることで生じる。肺高血圧症の基本病態は右室の後負荷増大であり、奇脈は特徴的な所見ではない。
- ○b. 足のむくみ
肺高血圧が持続すると、右室は高い肺動脈圧に逆らって血液を送り出さなければならず、やがて右心不全に陥る。右房圧が上昇すると全身の静脈から心臓への還流が滞り、下半身では毛細血管内の静水圧が上がって間質へ水分が漏れ出し、下腿浮腫(足のむくみ)となる。右心不全の徴候として正しい。肝うっ血による肝腫大や腹水を伴うこともある。
- ○c. 頸静脈怒張
右心不全で右房圧(中心静脈圧)が上昇すると、上大静脈を介して頸静脈に圧が伝わり、半坐位(45°)でも頸静脈が膨らんでみえる(頸静脈怒張)。肺高血圧症に伴う右心不全の所見として正しい。三尖弁逆流を合併すると、頸静脈波で収縮期に大きなv波が目立つこともある。
- ○d. 労作時息切れ
労作時息切れは肺高血圧症で最も多い初発症状である。運動時には全身の酸素需要が増え、心拍出量の増加が求められる。しかし肺高血圧症では肺血管抵抗が高く、肺血流を十分に増やせないため、右室から左心系へ送られる血液が不足して心拍出量が増えない。さらに換気血流比の不均衡などで低酸素血症も起こりやすい。その結果、労作時に息切れが目立つ。正しい。進行すると労作時の失神や胸痛を伴うこともある。
- ×e. Ⅱ音の肺動脈成分の減弱
Ⅱ音は大動脈弁の閉鎖音(ⅡA)と肺動脈弁の閉鎖音(ⅡP)からなる。肺動脈圧が上昇すると、拡張期のはじめに肺動脈弁を閉じる力が強くなるため、ⅡPは亢進(増強)する。聴診では第2肋間胸骨左縁でⅡ音が大きく聞こえる。減弱ではないため誤りである。ⅡPの減弱は、弁の可動性が低下した肺動脈弁狭窄症などでみられる。
肺高血圧症の臨床分類(ニース分類を基本とした5群)
・第1群: 肺動脈性肺高血圧症(PAH)。特発性、遺伝性(BMPR2遺伝子変異など)、薬物・毒物誘発性、膠原病(全身性強皮症など)・門脈圧亢進症・HIV感染症・先天性心疾患に伴うものなど ・第2群: 左心疾患による肺高血圧症(左心不全、弁膜症など。最も頻度が高い) ・第3群: 肺疾患・低酸素血症による肺高血圧症(COPD、間質性肺炎、睡眠時無呼吸など) ・第4群: 肺動脈閉塞による肺高血圧症(慢性血栓塞栓性肺高血圧症〈CTEPH〉など) ・第5群: 詳細不明・多因子による肺高血圧症 かつての「原発性肺高血圧症」は、現在は特発性肺動脈性肺高血圧症に相当する。
主な所見・検査
・症状: 労作時息切れ、易疲労感、失神、胸痛、右心不全症状(浮腫、腹部膨満) ・身体所見: ⅡPの亢進、三尖弁逆流による収縮期雑音、右室拍動の触知(傍胸骨拍動)、頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫 ・心電図: 右軸偏位、右室肥大、肺性P波 ・胸部X線: 肺動脈主幹部の拡大(左第2弓の突出)、末梢肺血管影の減少 ・心エコー: 三尖弁逆流速度から推定する右室収縮期圧の上昇、右室拡大、心室中隔の扁平化 ・確定診断: 右心カテーテル検査(平均肺動脈圧の上昇を確認する。PAHでは肺動脈楔入圧15 mmHg以下で、肺血管抵抗が上昇している)
治療の概略(PAH)
肺血管拡張薬として、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、プロスタサイクリン製剤(エポプロステノールの持続静注など)を用い、併用療法が基本となる。低酸素血症があれば酸素療法を行い、右心不全には利尿薬を用いる。内科治療に抵抗性の重症例では肺移植が検討される。CTEPHでは肺動脈血栓内膜摘除術やバルーン肺動脈形成術が行われる。
POINT
・肺高血圧症の初発症状で最も多いのは労作時息切れ。 ・右心不全の徴候として頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫がみられる。 ・聴診ではⅡ音の肺動脈成分(ⅡP)が亢進する(減弱ではない)。 ・奇脈は心タンポナーデ、収縮性心膜炎、重症喘息などでみられる所見である。 ・診断の基準は右心カテーテルでの平均肺動脈圧の上昇(現在は20 mmHg超、従来は25 mmHg以上)。
