低血圧なのにⅡ音が大きい―SLEの息切れに潜む肺動脈性肺高血圧症
第119回医師国家試験 D問題 第17問
国試問題にチャレンジ
34歳の女性。労作時の息切れを主訴に来院した。数週間前から発熱,脱毛および両頰部の紅斑が出現し,3日前から労作時の息切れが出現したため受診した。身長155cm,体重52kg。体温38.2℃。脈拍96/分,整。血圧92/46mmHg。呼吸数20/分。SpO2 98%(room air)。両頰部の紅斑を認める。眼瞼結膜はやや貧血様である。眼球結膜に異常を認めない。硬口蓋には痛みを伴わない潰瘍性病変を認める。頸静脈の怒張を認めない。心音でⅡ音の亢進を認める。呼吸音に異常を認めない。両手指の近位指節間関節,中手指節間関節および手関節の腫脹を認める。下肢に軽度の浮腫を認める。血液所見:赤血球346万,Hb 10.8g/dL,Ht 36%,白血球2,200,血小板13万。PT-INR 1.2(基準0.9~1.1),フィブリノゲン289mg/dL(基準186~355),FDP 3.1μg/mL(基準10以下),Dダイマー0.6μg/mL(基準1.0以下)。血液生化学所見:AST 28U/L,ALT 26U/L,LD 160U/L(基準124~222),CK 42U/L(基準41~153),クレアチニン0.5mg/dL,BNP 76pg/mL(基準18.4以下),KL-6 322U/mL(基準500未満)。免疫血清学所見:抗核抗体640倍(基準20以下),抗dsDNA抗体325IU/mL(基準12以下),血清補体値(CH50)12U/mL(基準値30~40),C3 42mg/dL(基準値52~112),C4 3mg/dL(基準値16~51)。心筋トロポニンT迅速検査陰性。入院時の心電図(A)と胸部エックス線写真(B)を下に示す。 息切れの原因はどれか。

- a.心外膜炎
- b.心筋梗塞
- c.間質性肺炎
- d.完全房室ブロック
- e.肺動脈性肺高血圧症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
蝶形紅斑、無痛性口腔潰瘍、関節炎、汎血球減少、抗dsDNA抗体陽性、低補体血症がそろえばSLEと診断できます。SLEの息切れでは漿膜炎、心筋炎、間質性肺炎、肺胞出血、肺血栓塞栓症、肺動脈性肺高血圧症などを鑑別し、凝固系、KL-6、心筋逸脱酵素、心電図、胸部エックス線写真で一つずつ絞り込みます。低血圧なのにⅡ音が亢進していれば肺動脈成分の亢進を考え、心電図の右軸偏位・右側胸部誘導の陰性T波・時計方向回転、胸部エックス線写真の左第2弓突出、BNP上昇がそろえば右心負荷を伴う肺高血圧が示唆されます。確定は心エコーと右心カテーテル(平均肺動脈圧20mmHg超、肺動脈楔入圧15mmHg以下、肺血管抵抗2 Wood単位超)で行い、膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症は強皮症、混合性結合組織病、SLEに多く、免疫抑制療法で改善しうる例もあります。所見同士の矛盾に注目して病態を組み立てる姿勢は、膠原病診療全般で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
基礎疾患の診断:全身性エリテマトーデス(SLE)
34歳の女性に、数週間続く発熱、脱毛、両頰部の紅斑(蝶形紅斑)、無痛性の口腔(硬口蓋)潰瘍、手指・手関節の多発関節炎がそろっている。血液では白血球2,200、血小板13万、Hb 10.8g/dLと3系統すべてが低下(汎血球減少)している。なお、MCV(平均赤血球容積)はHt÷赤血球数で約104fLと大球性である。免疫学的には抗核抗体640倍、抗dsDNA抗体高値、CH50・C3・C4の著明な低下を認め、SLEと診断してよい。SLEの分類基準(2019年EULAR/ACR)に照らしても、発熱、白血球減少、血小板減少、口腔潰瘍、脱毛、関節炎、抗dsDNA抗体、低補体血症と多数の項目を満たす。
息切れの原因をどう絞るか
SLEで労作時息切れを起こしうる病態には、貧血、胸膜炎・心外膜炎(漿膜炎)、心筋炎、間質性肺炎、肺胞出血、肺血栓塞栓症(抗リン脂質抗体症候群の合併)、肺動脈性肺高血圧症などがある。本例の所見を一つずつ当てはめる。 ・貧血はHb 10.8g/dLと軽度で、これだけで息切れは説明しにくい。 ・凝固系(FDP、Dダイマー)は正常で、肺血栓塞栓症は考えにくい。 ・呼吸音は正常、KL-6は正常範囲、SpO2 98%であり、間質性肺炎や肺胞出血の所見に乏しい。 ・CK・心筋トロポニンTは正常で、心筋傷害を示す所見はない。 ・一方で、心音のⅡ音亢進がある。血圧は92/46mmHgと低いので大動脈成分の亢進とは考えにくく、肺動脈成分(ⅡP)の亢進、すなわち肺高血圧を示唆する。BNPも76pg/mLと上昇しており、心負荷があり、下肢浮腫も認める。 ・心電図(A):洞調律で、ST変化や異常Q波はない。肢誘導ではⅠ誘導のR波が小さく右軸偏位を示し、V1〜V4に陰性T波(右側胸部誘導の陰性T波)、胸部誘導の移行帯が左方(V5〜V6付近)に偏っており時計方向回転を示す。いずれも右室負荷・右室肥大の所見である。 ・胸部エックス線写真(B):心胸郭比はほぼ50%で心拡大は軽度であるが、左第2弓(肺動脈幹)が突出し肺動脈主幹部が拡大している。右第2弓(右房)の突出、心尖部の挙上もみられ、右心系の拡大を示す。肺野に明らかなすりガラス影や網状影はない。 以上より、SLEに合併した肺動脈性肺高血圧症(PAH)による右心負荷が息切れの原因と考えるのが最も妥当である。確定には心エコーでの三尖弁逆流速度からの肺動脈圧推定、右心カテーテル検査での平均肺動脈圧・肺動脈楔入圧・肺血管抵抗の測定を行う。
選択肢考察
- ×a. 心外膜炎
心外膜炎はSLEの漿膜炎として頻度が高く、鑑別すべき重要な病態である。典型的には前屈で軽快し吸気や臥位で増悪する胸痛、心膜摩擦音、心電図の広範な誘導でのST上昇とPR低下を呈し、心囊液が貯留すれば低電位や胸部エックス線写真での左右対称の心拡大(いわゆる水瓶状の心陰影)を示す。心タンポナーデに至れば頸静脈怒張や奇脈、脈圧の減少が出る。本例には胸痛も心膜摩擦音もなく、心電図にST上昇はない。胸部エックス線写真の心陰影も左右対称の拡大ではなく、肺動脈幹や右心系が突出するパターンであり、頸静脈怒張もない。息切れの主因とは考えにくい。
- ×b. 心筋梗塞
心筋梗塞では胸痛を伴うことが多く、心電図でST上昇や異常Q波、血液検査で心筋トロポニンやCKの上昇がみられる。本例は胸痛がなく、心電図にST上昇や異常Q波はなく、心筋トロポニンT迅速検査陰性、CK正常である。V1〜V4の陰性T波は虚血ではなく、右軸偏位や肺動脈拡大と合わせて右室負荷として解釈すべきである。SLEは若年でも動脈硬化が進みやすいことが知られているが、本例で心筋梗塞を示す所見はない。
- ×c. 間質性肺炎
間質性肺炎では、両側下肺の捻髪音(fine crackles)、胸部エックス線写真での両側下肺野優位のすりガラス影・網状影、KL-6などの間質性肺炎マーカー上昇、拡散能低下、労作時の低酸素血症がみられる。本例は呼吸音に異常がなく、KL-6は322U/mLと正常範囲であり、胸部エックス線写真にも明らかな間質影はない。なお、SLEでは間質性肺炎の合併は全身性強皮症や皮膚筋炎ほど多くない。
- ×d. 完全房室ブロック
完全房室ブロックでは心房から心室への興奮伝導が完全に途絶え、心電図でP波とQRS波が無関係に出現する房室解離と、補充調律による徐脈(多くは40/分前後以下)を呈する。本例は脈拍96/分で整、心電図はP波に続いてQRS波が一定の間隔で出現する洞調律であり、房室ブロックはない。なお、抗SS-A抗体陽性の母親から生まれた児に生じる先天性完全房室ブロック(新生児ループス)とは区別して覚えておく。
- ○e. 肺動脈性肺高血圧症
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺の細い動脈の内膜・中膜の肥厚やリモデリングによって肺血管抵抗が上昇し、右心負荷から右心不全へ進む病態である。膠原病はPAHの重要な原因で、全身性強皮症、混合性結合組織病に次いでSLEでもみられる。本例では、低血圧なのにⅡ音が亢進していること(肺動脈成分の亢進)、BNP上昇と下肢浮腫(右心負荷)、心電図の右軸偏位・V1〜V4の陰性T波・時計方向回転(右室肥大・負荷)、胸部エックス線写真の左第2弓突出(肺動脈幹拡大)と右心系の突出がそろう。他の候補が除外されることも合わせ、息切れの原因として最も合致する。安静時SpO2が保たれていても、運動時には心拍出量を増やせず息切れや低酸素血症が生じる。
肺高血圧症の定義と分類
・定義:右心カテーテル検査で安静時平均肺動脈圧が20mmHgを超えるもの(2022年の欧州心臓病学会・欧州呼吸器学会ガイドライン以降。かつては25mmHg以上とされていた)。 ・肺動脈性肺高血圧症(第1群)は、これに加えて肺動脈楔入圧15mmHg以下(左心疾患によらない)、肺血管抵抗の上昇(2 Wood単位を超える)を満たす前毛細血管性肺高血圧である。 ・臨床分類:第1群 肺動脈性肺高血圧症(特発性、遺伝性、薬剤誘発性、膠原病・HIV感染・門脈圧亢進症・先天性心疾患に伴うものなど)、第2群 左心疾患に伴うもの、第3群 肺疾患・低酸素に伴うもの、第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症など肺動脈閉塞によるもの、第5群 詳細不明・多因子によるもの。
肺高血圧症の所見
・症状:労作時息切れ、易疲労感、失神、胸痛。進行すると右心不全(下腿浮腫、頸静脈怒張、肝腫大)。 ・身体所見:Ⅱ音の肺動脈成分(ⅡP)亢進、三尖弁逆流による収縮期雑音。 ・心電図:右軸偏位、右側胸部誘導(V1〜V3)の高いR波と陰性T波、肺性P波(Ⅱ誘導の尖鋭なP波)、右脚ブロック、時計方向回転。 ・胸部エックス線写真:左第2弓(肺動脈幹)の突出、肺門部肺動脈の拡大と末梢肺血管影の急な途絶、右房・右室の拡大。 ・心エコー:三尖弁逆流速度の上昇、右室拡大、心室中隔の扁平化(D型の左室)。
膠原病に伴う肺高血圧症
全身性強皮症、混合性結合組織病、SLEが主な原因疾患である。SLEや混合性結合組織病に伴うPAHでは、肺血管拡張薬(エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、プロスタサイクリン系薬など)に加えて、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬による原疾患の治療で改善する例があることが特徴である。
SLEの心肺病変の整理
漿膜炎(胸膜炎・心外膜炎)が最も多く、そのほか心筋炎、Libman-Sacks型心内膜炎(疣贅性心内膜炎)、肺胞出血、急性ループス肺炎、間質性肺炎、肺高血圧症、抗リン脂質抗体症候群による血栓塞栓症などがある。
POINT
・若年女性の蝶形紅斑、無痛性口腔潰瘍、関節炎、汎血球減少、抗dsDNA抗体陽性、低補体はSLEである。 ・低血圧なのにⅡ音亢進がある場合は、肺動脈成分の亢進(肺高血圧)を考える。 ・肺高血圧の右心負荷所見:心電図の右軸偏位・V1〜V3陰性T波・時計方向回転、胸部エックス線写真の左第2弓突出。 ・膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症は全身性強皮症、混合性結合組織病、SLEで多い。 ・確定診断は右心カテーテル検査(平均肺動脈圧>20mmHg、肺動脈楔入圧≤15mmHg、肺血管抵抗>2 Wood単位)。
