2年間変わらない丸い影―「増えない・滑らか・石灰化」が示す肺過誤腫
第119回医師国家試験 D問題 第16問
国試問題にチャレンジ
72歳の女性。健康診断で胸部異常陰影を指摘され来院した。2年前から,毎年の健康診断でも胸部エックス線写真で同様の類円形の結節を認めていたが増大傾向はない。自覚症状はない。胸部エックス線写真(A)と胸部造影CT(B,C)を下に示す。 最も考えられる疾患はどれか。

- a.肺過誤腫
- b.肺分画症
- c.原発性肺癌
- d.肺動静脈瘻
- e.転移性肺腫瘍
対話形式の解説
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ドクターまとめ
孤立性肺結節をみたら、まず良性か悪性かを考えます。充実性結節が2年以上増大しない、辺縁平滑で境界明瞭、良性パターン(びまん性・中心性・層状・ポップコーン状)の石灰化や結節内の脂肪濃度を伴う、といった特徴は良性を強く示唆し、健診で偶然見つかる無症状の単発結節なら、肺良性腫瘍で最も多い肺過誤腫が第一に考えられます。原発性肺癌や転移性肺腫瘍は経時的に増大し、肺動静脈瘻は造影CTでの流入・流出血管、肺分画症は大動脈からの異常動脈が診断の鍵です。ただし、すりガラス成分をもつ肺腺癌は増大が遅いことがあるため、結節の性状に応じて経過観察期間を考える必要があります。過去画像との比較と結節の形態評価を組み合わせる考え方は、健診や外来で日常的に出会う肺結節の診療の基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・72歳女性、無症状で、健康診断の胸部エックス線写真で異常陰影を指摘された。 ・2年前から毎年同じ類円形の結節が写っており、大きさは変わっていない(少なくとも2年間増大なし)。 ・胸部エックス線写真(A):左下肺野に境界明瞭な円形の小結節影がある。 ・胸部造影CT肺野条件(B):左下葉の背側寄りに、辺縁が平滑で境界明瞭な類円形結節を認める。スピキュラ(棘状突起)や胸膜陥入像、周囲のすりガラス影はみられない。 ・縦隔条件(C):結節は骨に近い高い吸収値を示しており、結節内部に石灰化があると読める。結節に出入りする太い拡張血管はみられない。
診断に至る考え方
孤立性肺結節(coin lesion)をみたときは、まず良性か悪性かを考える。良性を示唆する特徴は、(1) 長期間(充実性結節で2年以上)大きさが変わらない、(2) 辺縁が平滑で境界明瞭、(3) 良性パターンの石灰化(びまん性・中心性・層状・ポップコーン状)を伴う、(4) 結節内に脂肪濃度を含む、などである。本例は(1)〜(3)を満たし、無症状の高齢者に偶然見つかった単発結節であることから、肺の良性腫瘍で最も頻度の高い肺過誤腫が最も考えられる。 一方、原発性肺癌や転移性肺腫瘍は経時的に増大するのが通常であり、肺動静脈瘻であれば造影CTで流入・流出血管が確認されるはずである。肺分画症は下葉背側に好発する点は合致するが、先天性の異常肺組織であり、石灰化を伴う小さな円形結節という像とは異なる。
選択肢考察
- ○a. 肺過誤腫
肺過誤腫は軟骨・脂肪・平滑筋・気管支上皮など、肺に本来存在する組織が異常な配列で増生した良性腫瘍で、肺良性腫瘍の中で最も多い。中高年に多く、多くは無症状で健診の胸部エックス線写真で偶然見つかる。画像では末梢肺の境界明瞭・辺縁平滑な円形結節として描出され、増大は非常に緩徐である。軟骨成分の石灰化(典型的にはポップコーン状)や、CTでの脂肪濃度の検出が特徴的である。本例は2年以上増大がなく、境界明瞭な単発結節で内部に石灰化を伴っており、肺過誤腫の像に最もよく合致する。
- ×b. 肺分画症
肺分画症は、正常な気管支系と交通をもたず、大動脈から分岐する異常動脈により血流を受ける異常肺組織をもつ先天性疾患である。左下葉の背側(後肺底区)に好発する点は本例の部位と重なるが、CTでは内部が均一または不均一な軟部濃度の腫瘤や、嚢胞・液面形成を伴う像として現れ、造影CTで下行大動脈などから流入する異常動脈が確認されることが診断の決め手となる。成人では繰り返す肺炎を契機に見つかることも多い。石灰化を伴う小さな円形結節という本例の像には合わない。
- ×c. 原発性肺癌
原発性肺癌は、辺縁不整でスピキュラや胸膜陥入、ノッチ(切れ込み)を伴う結節として描出されることが多く、過去画像と比べると増大するのが典型である。本例は2年以上大きさが変わらず、辺縁平滑で、良性パターンの石灰化を伴うため、肺癌は考えにくい。ただし、すりガラス結節を呈する肺腺癌は増大が非常に遅いことがあるため、すりガラス成分をもつ結節では長期の経過観察が必要となる点には注意する。
- ×d. 肺動静脈瘻
肺動静脈瘻は、肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さずに直接つながる血管奇形である。CTでは結節状の拡張血管(瘤)に流入する動脈と流出する静脈が連続して描出され、造影CTでは肺動脈と同程度に強く造影されるのが特徴である。右左シャントによる低酸素血症やチアノーゼ、奇異性塞栓による脳梗塞・脳膿瘍の原因となる。本例では結節に出入りする拡張血管がなく、内部は石灰化によって高吸収となっているため合致しない。
- ×e. 転移性肺腫瘍
転移性肺腫瘍は血行性転移が主体のため、両側の下肺野末梢に大小さまざまな境界明瞭な結節が多発するのが典型である。原発性肺癌と同じく経時的に増大する。本例は単発で、2年以上増大がなく、原発巣を示す病歴もないため考えにくい。骨肉腫や軟骨肉腫などの転移では石灰化・骨化を伴うことがあるが、それらでも増大傾向を示すのが通常である。
孤立性肺結節の良性・悪性の鑑別
・増大速度:充実性結節が2年以上大きさを変えなければ良性の可能性が高い。悪性腫瘍の体積倍加時間はおおむね1か月〜1年程度とされる。 ・辺縁:平滑・境界明瞭は良性寄り、スピキュラ、胸膜陥入、ノッチ、血管収束像は悪性寄り。 ・石灰化:びまん性、中心性、層状(同心円状)、ポップコーン状は良性パターン。偏在性や点状の石灰化は悪性を否定できない。 ・脂肪濃度:結節内に脂肪濃度があれば肺過誤腫をまず考える。
肺過誤腫
・肺良性腫瘍の中で最も頻度が高い。中高年に多く、男性にやや多い。 ・大部分は末梢肺に発生する孤立性結節で、無症状。まれに気管支内に発生すると咳や閉塞性肺炎の原因となる。 ・組織学的には軟骨を主体に、脂肪、平滑筋、線維組織、気管支上皮が混在する。 ・画像:境界明瞭で分葉状〜円形の結節。ポップコーン状石灰化、CTでの脂肪濃度が特徴的だが、石灰化を伴う例は一部にとどまる。 ・治療:典型的な画像で増大がなければ経過観察でよい。増大する場合や悪性との鑑別が難しい場合は、胸腔鏡下の切除(核出術や部分切除)で診断・治療を兼ねる。
良性の石灰化結節の鑑別
肺過誤腫のほか、陳旧性結核腫などの肉芽腫も石灰化を伴う良性結節として重要である。結核腫では中心性・びまん性・層状の石灰化が多く、周囲に散布巣や石灰化リンパ節を伴うことがある。
POINT
・増大しない(2年以上)、境界明瞭・辺縁平滑、良性パターンの石灰化を伴う孤立性肺結節は良性を考える。 ・肺過誤腫は肺良性腫瘍で最も多く、健診で偶然見つかる無症状の末梢結節が典型である。 ・肺過誤腫の画像の鍵はポップコーン状石灰化と結節内の脂肪濃度である。 ・肺癌・転移性肺腫瘍は増大する。肺動静脈瘻は流入・流出血管、肺分画症は大動脈からの異常動脈が鍵となる。
