StudyMed医師国家試験

標的は皮膚にもいる―EGFR阻害薬で「にきび」が出るわけ

第120回医師国家試験 A問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第6問

EGFR遺伝子変異陽性の進行肺腺癌に対する治療薬であるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の有害事象で頻度が高いのはどれか。

  1. a.脱毛
  2. b.貧血
  3. c.蛋白尿
  4. d.副腎不全
  5. e.痤瘡様皮疹

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は分子標的薬の有害事象を問う問題だ。丸暗記で挑むより、「標的分子が正常組織のどこにあって、何をしているか」から推測するのがコツだよ。まずはEGFRという分子が体のどこに発現しているかを思い浮かべてみよう。
医学生医学生
EGFRは癌細胞の増殖シグナルに関わる受容体、という印象しかありません。
ドクタードクター
腫瘍の話で目立つから、そう思うのも無理はないね。でもEGFRは本来、皮膚の表皮基底細胞や毛包・皮脂腺、爪の周囲の組織、消化管の粘膜上皮など、正常な上皮にも広く発現していて、上皮細胞の増殖や分化を支えているんだ。
医学生医学生
ということは、薬でシグナルを止めると、正常な皮膚や腸の上皮も障害されるわけですね。
ドクタードクター
その通り。皮膚では角化異常や毛包の炎症、皮膚の菲薄化・乾燥が起こる。その結果、顔面や頭皮、前胸部、背部といった脂漏部位に、にきびに似た毛包一致性の紅色丘疹や膿疱が出てくる。これが痤瘡様皮疹で、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬で最も頻度の高い有害事象の一つ、つまり正解だ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、EGFR阻害薬を飲んでいる患者さんの顔に赤いぶつぶつがあって、指導医の先生から「この薬ではとてもよくある皮膚障害だよ」と教わりました。
ドクタードクター
実際に見ていると記憶に残るね。痤瘡様皮疹のほかにも、皮膚乾燥・掻痒、爪の周りが赤く腫れる爪囲炎が多い。消化管上皮の障害による下痢や口内炎も代表的だ。「皮膚障害と下痢」をセットで覚えておくといい。では、ほかの選択肢を見ていこう。脱毛はどうかな。
医学生医学生
抗癌薬の副作用といえば脱毛なので、つい選びたくなります。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。高度の脱毛は、分裂の盛んな毛母細胞を傷害する殺細胞性抗癌薬、たとえばタキサン系やアントラサイクリン系に典型的なんだ。EGFR阻害薬でも毛が細くなる、縮れる、睫毛が長くなるといった毛髪の変化は起こりうるけれど、目立つ脱毛の頻度は皮膚障害よりずっと低い。
医学生医学生
貧血も、骨髄抑制によるものなら殺細胞性抗癌薬の側ですね。
ドクタードクター
そう。プラチナ製剤やペメトレキセドなどは造血幹細胞や前駆細胞の分裂を妨げ、貧血を含む骨髄抑制を起こしやすい。EGFR阻害薬は骨髄抑制が軽いのが特徴の一つだ。
医学生医学生
蛋白尿は……腎臓の講義で、VEGFがポドサイトから分泌されていると習った記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。VEGFはポドサイトから分泌されて糸球体内皮細胞の維持に働いている。だからベバシズマブやラムシルマブのようにVEGF経路を阻害する薬では、糸球体が障害されて蛋白尿や高血圧が出やすい。EGFR阻害薬では特徴的ではないんだ。
医学生医学生
副腎不全は、免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象でしょうか。
ドクタードクター
その通り。抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体などで、下垂体炎に伴う続発性副腎不全や副腎炎として起こることがある。EGFR阻害薬の典型的な有害事象ではないね。
医学生医学生
薬の系統ごとに副作用を対応させると、ずいぶん整理しやすくなりますね。
ドクタードクター
そういうこと。ここでEGFR阻害薬の全体像も押さえておこう。EGFR遺伝子変異はエクソン19欠失とエクソン21のL858R点変異が代表で、日本人、女性、非喫煙者の腺癌で陽性率が高い。第1世代のゲフィチニブ・エルロチニブ、第2世代のアファチニブ・ダコミチニブ、第3世代のオシメルチニブがあり、オシメルチニブは耐性変異T790Mにも有効で、現在は初回治療の中心になっている。下痢は第2世代のアファチニブで特に多いとされるよ。
医学生医学生
皮疹が出たら、薬はやめなければいけないんですか。
ドクタードクター
多くは投与開始後1〜2週ほどで出てくるけれど、保湿、ステロイド外用薬、ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬の内服で対処しながら、治療を続けることが多い。症状が強ければ休薬や減量も検討する。そして、頻度は数%程度と高くはないものの、最も注意すべきなのが間質性肺疾患だ。致死的になりうるし、日本人で比較的多いとされている。
医学生医学生
乾いた咳や息切れ、発熱が出てきたら、皮疹よりもそちらを真っ先に疑わないといけないんですね。
ドクタードクター
その通り。直ちに休薬して胸部CTで評価する。オシメルチニブではQT延長や心機能低下にも注意が必要だ。「頻度が高いのは皮膚障害と下痢、重篤で見逃せないのは間質性肺疾患」と、頻度と重大さの両面から覚えておこう。

まとめ

EGFRは腫瘍細胞だけでなく、表皮基底細胞・毛包・皮脂腺・爪周囲・消化管上皮にも発現しているため、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬では痤瘡様皮疹、皮膚乾燥、爪囲炎などの皮膚障害と下痢が高頻度に起こります。痤瘡様皮疹は投与開始後1〜2週ほどで出現することが多く、保湿やステロイド外用薬、テトラサイクリン系抗菌薬で対処しながら治療を継続するのが一般的です。一方、脱毛や貧血は殺細胞性抗癌薬、蛋白尿はVEGF経路阻害薬、副腎不全は免疫チェックポイント阻害薬に特徴的な有害事象であり、薬剤の系統と有害事象を対応づけて整理することが大切です。頻度は低いものの致死的になりうる間質性肺疾患には常に注意し、咳嗽や呼吸困難が出たら直ちに休薬して評価します。標的分子の正常組織での役割から有害事象を予測する考え方は、次々に登場する分子標的薬を理解するうえでの基礎になります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

EGFR(上皮成長因子受容体:epidermal growth factor receptor)遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌に使う分子標的薬、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の有害事象のうち、頻度の高いものを選ぶ問題である。

考え方

分子標的薬の有害事象は、標的分子が正常組織のどこに存在し、どのような働きをしているかから推測できる。EGFRは腫瘍細胞だけでなく、皮膚の表皮基底細胞・毛包・皮脂腺、爪の周囲の組織、消化管粘膜上皮などにも発現し、上皮細胞の増殖・分化の維持に関わっている。EGFR-TKIでこのシグナルが遮断されると、表皮の角化異常、毛包の炎症、皮膚の菲薄化・乾燥が起こる。その結果、痤瘡様皮疹(ざそうようひしん:にきびに似た毛包一致性の丘疹・膿疱)、皮膚乾燥・掻痒、爪囲炎(爪の周囲の炎症)といった皮膚障害が非常に高い頻度で出現する。消化管上皮の障害による下痢、口内炎も代表的である。 したがって「EGFR-TKIといえば皮膚障害(特に痤瘡様皮疹)と下痢」と押さえておけば正解に到達できる。一方、他の選択肢は、殺細胞性抗癌薬、血管内皮増殖因子(VEGF)経路の阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬といった別系統の薬剤に特徴的な有害事象であり、薬剤の種類と有害事象の対応を整理しておくことが鑑別の鍵になる。

選択肢考察

  1. ×a.  脱毛

    高度の脱毛は、細胞分裂が盛んな毛母細胞を傷害する殺細胞性抗癌薬(タキサン系、アントラサイクリン系など)に典型的である。EGFR-TKIでも毛髪が細くなる、縮れる、睫毛が長くなる(睫毛貧毛ではなく睫毛延長)などの毛髪変化がみられることはあるが、目立つ脱毛の頻度は皮膚障害と比べて明らかに低い。

  2. ×b.  貧血

    貧血を含む骨髄抑制は、造血幹細胞・前駆細胞の分裂を阻害する殺細胞性抗癌薬(プラチナ製剤、ペメトレキセドなど)で起こりやすい有害事象である。EGFR-TKIは骨髄抑制が軽く、貧血はその特徴的な有害事象ではない。

  3. ×c.  蛋白尿

    蛋白尿は、ベバシズマブ(抗VEGF抗体)やラムシルマブ(抗VEGF受容体2抗体)などVEGF経路を阻害する血管新生阻害薬の代表的な有害事象である。VEGFは腎糸球体のポドサイトから分泌され糸球体内皮細胞の維持に働くため、これを阻害すると糸球体障害が起こり蛋白尿や高血圧を生じる。EGFR-TKIでは特徴的ではない。

  4. ×d.  副腎不全

    副腎不全(副腎皮質機能低下症)は、抗PD-1抗体・抗PD-L1抗体・抗CTLA-4抗体などの免疫チェックポイント阻害薬で起こる免疫関連有害事象(irAE)として知られる。下垂体炎に伴う続発性副腎不全や原発性副腎炎による。EGFR-TKIの有害事象としては典型的でない。

  5. ○e.  痤瘡様皮疹

    EGFRは表皮基底細胞や毛包・皮脂腺に発現しており、その阻害により角化異常と毛包の炎症が生じ、顔面・頭皮・前胸部・背部などの脂漏部位に毛包一致性の紅色丘疹や膿疱が出現する。これが痤瘡様皮疹であり、EGFR-TKIで最も頻度の高い有害事象の一つで、多くの患者に出現する。通常は投与開始後1〜2週程度で出現し、保湿、ステロイド外用薬、ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬内服で対処しながら治療を継続することが多い。

EGFR-TKIの概要

EGFR遺伝子変異(エクソン19欠失、エクソン21 L858R点変異が代表)をもつ非小細胞肺癌、特に腺癌に用いられる。日本人・女性・非喫煙者で変異陽性率が高い。第1世代:ゲフィチニブ、エルロチニブ。第2世代:アファチニブ、ダコミチニブ。第3世代:オシメルチニブ(耐性変異T790Mにも有効で、現在は初回治療の中心)。

EGFR-TKIの主な有害事象

・皮膚障害:痤瘡様皮疹、皮膚乾燥・掻痒、爪囲炎、毛髪の変化 ・消化器症状:下痢(第2世代のアファチニブで特に多い)、口内炎 ・肝機能障害(AST・ALT上昇) ・間質性肺疾患:頻度は数%程度と高くはないが、致死的になりうる最も重要な重篤有害事象である。日本人での発症が比較的多いとされ、乾性咳嗽・呼吸困難・発熱が出現したら直ちに休薬し胸部CTで評価する。 ・オシメルチニブではQT延長、心機能低下にも注意する。

薬剤の系統ごとに特徴的な有害事象

・殺細胞性抗癌薬:骨髄抑制(貧血・好中球減少・血小板減少)、脱毛、悪心・嘔吐、粘膜炎 ・VEGF経路阻害薬(ベバシズマブ、ラムシルマブなど):高血圧、蛋白尿、出血、血栓塞栓症、消化管穿孔、創傷治癒遅延 ・免疫チェックポイント阻害薬:免疫関連有害事象(間質性肺炎、大腸炎、甲状腺機能異常、下垂体炎、副腎不全、1型糖尿病、肝炎、皮膚炎など) ・ALK阻害薬:視覚障害(クリゾチニブ)、消化器症状、肝機能障害など ・抗EGFR抗体(セツキシマブ、パニツムマブ:大腸癌などで使用):EGFR-TKIと同様に痤瘡様皮疹・爪囲炎、加えて低マグネシウム血症

POINT

・EGFRは皮膚・毛包・爪周囲・消化管上皮に発現するため、EGFR-TKIでは痤瘡様皮疹・皮膚乾燥・爪囲炎などの皮膚障害と下痢の頻度が高い。 ・頻度は低いが最も注意すべき重篤な有害事象は間質性肺疾患である。 ・蛋白尿・高血圧はVEGF阻害薬、副腎不全・甲状腺機能異常などはirAE(免疫チェックポイント阻害薬)、脱毛・貧血などの骨髄抑制は殺細胞性抗癌薬、と系統ごとに対応づけて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。