StudyMed医師国家試験

3つの数字が治療を決める―精巣腫瘍マーカーhCG・AFP・LDの読み方

第117回医師国家試験 D問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第117回 D問題 第12問

精巣腫瘍の治療方針決定に使われる血液検査はどれか。3つ選べ。

  1. a.ヒト絨毛性ゴナドトロピン〈hCG〉
  2. b.α-フェトプロテイン〈AFP〉
  3. c.CA19-9
  4. d.CEA
  5. e.LD

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は精巣腫瘍の血液検査の問題だ。精巣腫瘍は、腫瘍マーカーが病期分類や予後分類にそのまま組み込まれているという点で、ほかの固形癌とはかなり性格が違う。どのマーカーが「治療方針を決める側」に入っているかを考えてみよう。
医学生医学生
腫瘍マーカーって、診断の補助や再発のチェックに使うものというイメージでした。治療方針まで決めるんですか。
ドクタードクター
多くの癌ではそうだね。でも精巣腫瘍の約95%を占める胚細胞腫瘍では事情が違う。TNM分類にはT・N・Mに加えて、血清マーカーの値によるS因子という項目があって、これが病期を左右する。さらに転移のある例では、IGCCC分類という国際的な予後分類でマーカー値を使って予後良好・中間・不良の3群に分け、それに応じて化学療法のコース数やレジメンを決めるんだ。
医学生医学生
そのS因子に入っているマーカーが答えということですね。hCGとAFPは胚細胞腫瘍のマーカーとして講義で習いました。
ドクタードクター
その2つはまず確実だね。hCGは胎盤の合胞体栄養膜細胞がつくるホルモンで、健常男性の血中にはほとんど出てこない。だから男性で上がっていれば胚細胞腫瘍を強く疑う。絨毛癌では著明に高くなり、胎児性癌などの非セミノーマでもよく上がる。
医学生医学生
セミノーマではhCGは上がらないんでしたっけ。
ドクタードクター
そこはよく誤解されるところだ。セミノーマでも、合胞体栄養膜細胞に似た巨細胞を含む場合にはhCGが軽度上昇することがある。一方、はっきり言えるのはAFPのほうなんだ。AFPは胎児期の卵黄嚢や肝臓でつくられる蛋白で、卵黄嚢腫瘍の成分を含む非セミノーマで上がる。純粋なセミノーマはAFPをつくらない。
医学生医学生
ということは、病理でセミノーマと言われてもAFPが高かったら……。
ドクタードクター
そう、非セミノーマの成分が混じっているとみなして、非セミノーマとして治療する。AFPは組織型の判断と治療方針に直結するマーカーなんだ。では3つ目はどうだろう。残りはCA19-9、CEA、LDだね。
医学生医学生
CA19-9とCEAは消化器内科の実習でよく見ました。膵癌や大腸癌のフォローで毎回チェックしていた気がします。LDはどこにでもある酵素なので、腫瘍マーカーとしては弱い印象です。
ドクタードクター
その感覚は半分正しい。LDは全身の細胞にあるから特異性は低い。ただ、血中濃度が腫瘍量や増殖の勢いをよく反映するんだ。だから精巣腫瘍ではLDもS因子とIGCCC分類の判定項目に入っていて、非セミノーマでは正常上限の何倍かで層別化される。hCGやAFPが上がりにくいセミノーマでは、経過を追ううえで貴重な指標にもなる。
医学生医学生
特異性は低くても、腫瘍量の指標として分類に組み込まれているんですね。だから正解はhCG、AFP、LDの3つ。
ドクタードクター
その通り。CA19-9は膵癌や胆道癌、CEAは大腸癌をはじめとする腺癌のマーカーで、精巣胚細胞腫瘍の病期分類や予後分類には含まれない。CA19-9は良性の胆道閉塞でも上がるし、CEAは喫煙者でも軽く上がるなど、特異度もそれほど高くないね。
医学生医学生
CBTの勉強では「臓器と腫瘍マーカーの組み合わせ」を丸暗記していましたが、こうして使われ方まで理解すると覚えやすいです。
ドクタードクター
では臨床の流れも押さえておこう。精巣腫瘍は20〜30歳代に多く、典型的には痛みのない陰嚢の腫れで見つかる。停留精巣の既往はリスク因子だ。疑ったら、精巣を摘除する前に3つのマーカーを測っておき、速やかに高位精巣摘除術を行って組織型と病期を確定する。陰嚢側から針を刺して生検するのは播種の危険があるので行わない。
医学生医学生
術前に測っておくのは、術後の下がり方を見るためですか。
ドクタードクター
まさにそう。摘除や化学療法のあと、マーカーが半減期に見合った速さで下がっているかを確認する。hCGの半減期は数日以内、AFPは約5〜7日だ。下がり方が遅い、あるいはいったん下がったのに再び上がる場合は、残存腫瘍や再発を疑う。精巣腫瘍は化学療法がよく効き、進行例でも治癒を目指せる腫瘍だからこそ、マーカーを正確に読むことが重要なんだ。

まとめ

精巣腫瘍の大部分を占める胚細胞腫瘍では、hCG・AFP・LDの3つの血清マーカーがTNM分類のS因子と転移例のIGCCC分類に組み込まれており、化学療法の強度やコース数といった治療方針の決定に直接用いられます。hCGは絨毛癌で著明高値となりセミノーマでも軽度上昇しうる一方、AFPは純粋なセミノーマでは上昇しないため、上昇していれば非セミノーマとして扱います。LDは非特異的ですが腫瘍量を反映し、セミノーマの経過観察にも役立ちます。CA19-9やCEAは膵癌・大腸癌など腺癌のマーカーで、精巣腫瘍の診療には用いません。マーカーを摘除前から測定し、半減期に沿った低下を確認する流れを理解しておくと、治癒を目指せる若年者の癌を正しく管理する力につながります。

解答・解説

正解はa, b, eです

精巣腫瘍の大部分(約95%)は胚細胞腫瘍であり、腫瘍マーカーが診断・病期分類・予後分類・治療効果判定・再発監視のすべてに組み込まれている点が他の固形癌と大きく異なる。 精巣胚細胞腫瘍で用いられる血清腫瘍マーカーは、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、AFP(α-フェトプロテイン)、LD(乳酸脱水素酵素、LDHとも表記)の3つである。これらは高位精巣摘除術の前後で測定され、TNM分類の血清マーカー因子(S因子)や、転移例の予後分類であるIGCCC分類(International Germ Cell Consensus Classification)の判定に直接用いられる。IGCCC分類によって予後良好群・中間群・不良群に分けられ、導入化学療法(BEP療法など)のコース数やレジメンが決まるため、この3項目はまさに「治療方針決定に使われる血液検査」である。 一方、CA19-9やCEAは主に消化器系などの腺癌で用いられるマーカーであり、精巣胚細胞腫瘍の診療では用いられない。したがって、hCG・AFP・LDの3つを選ぶ。

選択肢考察

  1. ○a.  ヒト絨毛性ゴナドトロピン〈hCG〉

    hCGは胎盤の合胞体栄養膜細胞が産生するホルモンで、健常男性の血中では通常ほとんど検出されない。そのため男性で上昇していれば胚細胞腫瘍を強く疑う。絨毛癌では著明に高値となり、胎児性癌などの非セミノーマで上昇することが多いが、合胞体栄養膜細胞様の巨細胞を含むセミノーマでも軽度上昇しうる。TNM分類のS因子とIGCCC分類の判定項目であり、治療方針の決定と治療効果判定・再発監視に用いられる。なお、まれに肺癌や膀胱癌などの他腫瘍がhCGを産生することもあり、測定はhCG-βサブユニットとして行われることもある。

  2. ○b.  α-フェトプロテイン〈AFP〉

    AFPは胎児期の卵黄嚢・肝臓で産生される蛋白で、精巣腫瘍では卵黄嚢腫瘍(yolk sac tumor)成分を含む非セミノーマで上昇する。純粋なセミノーマはAFPを産生しないため、組織診断がセミノーマであってもAFPが上昇していれば非セミノーマ成分が含まれるとみなし、非セミノーマとして治療する。この点で組織型の判断と治療方針に直結する。hCGやLDとともにS因子・IGCCC分類の判定項目である。

  3. ×c.  CA19-9

    CA19-9は糖鎖抗原の一種で、膵管・胆管上皮をはじめ消化管、気管支腺、子宮内膜などに存在する。膵癌や胆道癌で特に高値となり、胃癌・大腸癌などでも上昇しうる。良性の胆道閉塞でも上昇する。精巣胚細胞腫瘍の病期分類・予後分類には含まれず、治療方針の決定には用いない。

  4. ×d.  CEA

    CEA(癌胎児性抗原)は大腸癌をはじめ、胃癌・膵癌・胆道癌・食道癌・肺癌などの腺癌で上昇するマーカーである。喫煙者では非担癌者でも軽度上昇することがあり、特異度は高くない。精巣胚細胞腫瘍の診療では用いられない。

  5. ○e.  LD

    LD(乳酸脱水素酵素)は全身の細胞に存在するため特異性は低いが、血中濃度は腫瘍量(腫瘍の大きさや増殖の勢い)をよく反映する。精巣腫瘍ではアイソザイムのうちLD1・LD2が上昇しやすいとされる。hCGやAFPが上昇しないことの多いセミノーマでは、経過観察に役立つ数少ないマーカーとなる。TNM分類のS因子とIGCCC分類(非セミノーマでは正常上限の何倍かで層別化)に含まれ、治療方針の決定に用いられる。

精巣腫瘍の概要

好発年齢は20〜30歳代で、この年代の男性で最も多い固形腫瘍の一つである。リスク因子として停留精巣、対側の精巣腫瘍の既往、家族歴などがある。症状は無痛性の陰嚢腫大が典型的で、診断がつけば速やかに高位精巣摘除術を行い、組織型と病期を確定する(経陰嚢的な生検は播種の危険があるため行わない)。

組織型の大別

・セミノーマ:放射線・化学療法の感受性がきわめて高い。AFPは上昇しない(上昇していれば非セミノーマ成分の存在を考える)。hCGは軽度上昇することがある。 ・非セミノーマ:胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫など。卵黄嚢腫瘍でAFP、絨毛癌でhCGが高値となる。

マーカーの使い方

・診断補助:精巣摘除前に3項目を測定する。 ・病期分類:TNM分類ではT・N・Mに加えて血清マーカー値によるS因子(S0〜S3)を組み合わせて病期を決める。 ・予後分類:転移例ではIGCCC分類により予後良好・中間・不良の3群に分ける。非セミノーマでは主にAFP・hCG・LDの値と縦隔原発・肺以外の臓器転移の有無で、セミノーマでは肺以外の臓器転移の有無(AFPは正常であることが前提)で分類する。分類に応じて化学療法の強度やコース数を決める。 ・治療効果判定と再発監視:精巣摘除後や化学療法後に、各マーカーが半減期に見合った速度で低下するかを確認する。AFPの半減期は約5〜7日、hCGは数日以内と短い。低下が遅い、あるいは再上昇する場合は残存腫瘍や再発を疑う。

他の主な腫瘍マーカー

CA19-9:膵癌・胆道癌。CEA:大腸癌など消化器系腺癌、肺腺癌。PSA:前立腺癌。CA125:卵巣癌。AFPは肝細胞癌でも重要である。

POINT

・精巣胚細胞腫瘍の腫瘍マーカーはhCG・AFP・LDの3つ。 ・3つともTNM分類のS因子とIGCCC分類に含まれ、治療方針(化学療法の強度)を決める。 ・AFP上昇はセミノーマでは起こらず、非セミノーマ(特に卵黄嚢腫瘍成分)を意味する。 ・hCGは絨毛癌で著明高値、セミノーマでも軽度上昇しうる。 ・LDは非特異的だが腫瘍量を反映し、セミノーマの経過観察に有用。 ・CA19-9・CEAは消化器系などの腺癌マーカーで、精巣腫瘍では用いない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。