StudyMed医師国家試験

「腕を動かさない」幼児の正体―腫れない肘が語る肘内障

第117回医師国家試験 D問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第117回 D問題 第11問

肘内障でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.上肢下垂位
  2. b.前腕回内位
  3. c.肘関節腫脹
  4. d.肘関節発赤
  5. e.肘関節伸展位

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は小児整形外科の定番、肘内障の問題だ。ポイントは2つ。患児がどんな肢位をとるか、そして肘の外観に変化があるかどうか。病態をイメージできれば、答えは自然に見えてくるよ。
医学生医学生
肘内障は、子どもの手を引っ張ったときに起こるものですよね。でも具体的に何が起きているのかは曖昧です。
ドクタードクター
そこから押さえよう。肘内障は主に5歳以下の幼児にみられる、橈骨頭の亜脱臼だ。橈骨頭は輪状靱帯に取り囲まれて尺骨に固定されているけれど、幼児では橈骨頭が小さく、輪状靱帯も緩い。そのため肘を伸ばして前腕を回内した状態で手を急に引っ張られると、輪状靱帯の一部が橈骨頭を乗り越えて腕橈関節の間にはさまり込むんだ。
医学生医学生
解剖の講義で輪状靱帯を習ったときは、まさかこんな形で臨床につながるとは思いませんでした。
ドクタードクター
解剖がそのまま病態になる、わかりやすい例だね。では、靱帯がはさまり込んで肘の動きがロックされた子どもは、どんな姿勢をとると思う?
医学生医学生
痛いので腕を動かさず、だらんと下げているイメージです。
ドクタードクター
正解。それが上肢下垂位だ。保護者は「腕を動かさない」「手を使わない」と訴えて連れてくることが多く、肩や手首を痛がっていると誤解されることもある。では前腕の向きはどうだろう。
医学生医学生
受傷したときに回内位で引っ張られたので、そのまま回内位になっているのでしょうか。
ドクタードクター
その通り。亜脱臼した状態では前腕は回内位のまま保持され、回外させようとすると痛がって嫌がる。だから上肢下垂位と前腕回内位、この2つが答えになる。
医学生医学生
肘は伸ばしたままですか。受傷のときは伸びていたので、伸展位かと思いました。
ドクタードクター
そこはよくある引っかけだね。受傷の瞬間は肘伸展位で引っ張られるけれど、受傷後に患児がとる安静肢位は、痛みの少ない軽度屈曲位であることが多い。受傷時の肢位と受傷後の肢位を混同しないようにしよう。
医学生医学生
腫脹や発赤はどうでしょう。関節を痛めたなら腫れそうな気もします。
ドクタードクター
ここが肘内障の大きな特徴なんだ。肘内障は靱帯の位置がずれただけで、組織の断裂や出血、炎症を伴わない。だから左右を比べても腫脹はなく、発赤や熱感もない。橈骨頭付近に圧痛はあるけれど、外観上はほとんど変化がないんだ。
医学生医学生
逆に言えば、腫れていたら肘内障以外を考えるべきということですね。
ドクタードクター
まさにそう。腫脹があれば上腕骨顆上骨折や外顆骨折などの骨折、発赤があれば化膿性関節炎や蜂窩織炎などの炎症を疑い、X線などで評価する。典型的な受傷機転と肢位があり、腫脹がなければ臨床的に診断でき、X線は通常不要だ。
医学生医学生
小児科の臨床実習で、救急外来の先生が数秒で整復していて驚きました。どうやっていたんでしょう。
ドクタードクター
代表的なのは回外屈曲法だね。母指を橈骨頭に当てて、前腕を回外しながら肘を屈曲する。ほかに、肘を軽く曲げて前腕をさらに回内する回内法もある。整復時には橈骨頭部でクリックを触れることが多く、しばらくすると子どもが普通に腕を挙げて物をつかむようになる。固定は通常いらない。
医学生医学生
整復したのに腕を使わないままだったら、どうすればいいですか。
ドクタードクター
クリックがなく、その後も痛がって腕を使わない場合は、骨折など別の疾患を考えて画像検査を行う。それから、肘内障は再発しやすいから、保護者に「手を急に引っ張らないように」と指導することも大切だ。受傷機転がはっきりしない場合や乳児の場合は、骨折に加えて虐待の可能性にも注意を払おう。
医学生医学生
問診で受傷時の状況を丁寧に聞くことが、診断にも安全確認にもつながるんですね。

まとめ

肘内障は主に5歳以下の幼児に起こる橈骨頭の亜脱臼で、肘伸展・前腕回内位で手を急に引っ張られた際に、緩い輪状靱帯が橈骨頭を越えて腕橈関節にはまり込むことで生じます。患児は痛む腕をだらりと下げた上肢下垂位をとり、前腕は回内位、肘は軽度屈曲位で、回外を嫌がります。靱帯のずれのみで出血や炎症を伴わないため、肘の腫脹・発赤・熱感はみられず、これらがあれば上腕骨顆上骨折などの骨折や化膿性関節炎を疑います。典型的な受傷機転と肢位から臨床的に診断し、回外屈曲法や回内法で整復すれば速やかに腕を使えるようになり、再発予防の保護者指導も重要です。病態から肢位と外観を推論する姿勢は、小児の「腕を動かさない」という訴えを鑑別する際の基本となります。

解答・解説

正解はa, bです

肘内障は、主に5歳以下の幼児(特に2〜4歳前後)にみられる、橈骨頭の輪状靱帯からの亜脱臼である。幼児の橈骨頭は小さく、橈骨頭を取り巻いて尺骨に固定している輪状靱帯も緩いため、肘を伸ばして前腕を回内した状態で手を急に引っ張られると(手をつないで歩いていて転びそうになった子を引き上げた、など)、輪状靱帯の一部が橈骨頭を乗り越えて腕橈関節の間にはさまり込む。これにより肘の動きがロックされる。 典型的な臨床像は、「手を引っ張られた直後から急に泣き出し、腕を動かさなくなった」というもので、患児は痛む腕をだらりと下げ(上肢下垂位)、前腕を回内位にしたまま、肘を軽く曲げた姿勢をとる。橈骨頭付近に圧痛はあるが、骨折や炎症とは異なり、肘関節の腫脹・発赤・熱感はみられないのが特徴である。前腕を回外させようとすると痛がって嫌がる。 したがって本問では、肘内障に特有の肢位(上肢下垂位・前腕回内位・肘関節軽度屈曲位)と、「腫れない・赤くならない」という外観の特徴を押さえていれば正解を選べる。

選択肢考察

  1. ○a.  上肢下垂位

    肘内障でみられる。肘を動かすと痛むため、患児は患側の腕を自分から動かそうとせず、体の横にだらりと垂らした肢位をとる。保護者は「腕を動かさない」「手を使わない」と訴えて受診することが多く、肩や手首の痛みと誤解されることもある。

  2. ○b.  前腕回内位

    肘内障でみられる。受傷は前腕回内・肘伸展位で手を引かれることで起こり、亜脱臼した状態では前腕は回内位のまま保持される。回外させようとすると痛みが強くなるため、回外を拒む。整復の際は、この回内位から前腕を回外しつつ肘を屈曲させる(回外屈曲法)か、さらに回内させる(回内法)。

  3. ×c.  肘関節腫脹

    肘内障ではみられない。肘内障は靱帯の位置のずれ(亜脱臼)であり、組織の断裂や出血、炎症を伴わないため、左右の肘を比べても腫脹はない。肘関節に腫脹がある場合は、上腕骨顆上骨折や外顆骨折などの骨折、あるいは化膿性関節炎などの炎症性疾患を考え、X線撮影などで評価する必要がある。

  4. ×d.  肘関節発赤

    肘内障ではみられない。発赤は炎症や感染を示唆する所見であり、化膿性関節炎や蜂窩織炎などで認められる。外観上の変化がほとんどないことが肘内障の特徴である。

  5. ×e.  肘関節伸展位

    肘内障では、肘関節は完全な伸展位ではなく軽度屈曲位をとることが多い。受傷時は肘伸展位で引っ張られるが、受傷後の安静肢位は痛みの少ない軽度屈曲位であり、肘の屈伸を嫌がる。

肘内障の病態

輪状靱帯は橈骨頭を取り囲み尺骨の橈骨切痕に固定する靱帯である。幼児では橈骨頭の発育が不十分で輪状靱帯が緩いため、牽引力によって靱帯の一部が橈骨頭を越えて近位へずれ、腕橈関節にはまり込む(橈骨頭の亜脱臼)。年齢とともに橈骨頭が発育し靱帯が強くなるため、学童期以降はまれとなる。再発しやすいので、整復後は保護者に手を急に引っ張らないよう指導する。

診断

典型的な受傷機転(手を引っ張られた)と特徴的な肢位、腫脹のないことから臨床的に診断でき、骨折を疑う所見(腫脹、変形、転倒・転落などの受傷機転)がなければX線撮影は通常不要である。保護者から受傷時の状況を詳しく聴取することが重要である。受傷機転がはっきりしない場合や乳児の場合は、骨折に加え虐待の可能性にも注意する。

整復法

・回外屈曲法:検者の母指を橈骨頭に当て、もう一方の手で前腕を把持し、前腕を回外しながら肘を屈曲する。 ・回内法(過回内法):肘を軽度屈曲位とし、橈骨頭を押さえながら前腕を回内する。 整復時には橈骨頭部でクリック(整復音)を触れることが多く、数分〜十数分後には患児が腕を挙げて物をつかむなど普通に使えるようになる。固定は通常不要である。整復音がなく、その後も腕を使わず痛がり続ける場合は、骨折などほかの疾患を考えて画像検査を行う。

鑑別

上腕骨顆上骨折(転倒時の受傷、腫脹・変形、神経血管損傷に注意)、上腕骨外顆骨折、鎖骨骨折、化膿性関節炎など。

POINT

・肘内障は幼児(主に5歳以下)の橈骨頭亜脱臼で、手を引っ張られて発症する。 ・肢位は上肢下垂位、前腕回内位、肘関節軽度屈曲位。 ・腫脹・発赤・変形はみられない(あれば骨折や炎症性疾患を疑う)。 ・診断は受傷機転と肢位で臨床的に行い、X線は骨折を疑う場合に撮る。 ・整復は回外屈曲法または回内法で、整復後は速やかに腕を使えるようになる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。