見えない出血を見逃すな―交通外傷で骨盤骨折が「要注意」とされる理由
第117回医師国家試験 D問題 第10問
国試問題にチャレンジ
大量出血を想定して診療にあたるべき交通外傷はどれか。
- a.頸椎捻挫
- b.骨盤骨折
- c.肩関節脱臼
- d.橈骨遠位端骨折
- e.膝前十字靱帯損傷
対話形式の解説
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ドクターまとめ
外傷によるショックの多くは出血性ショックであり、Primary Surveyの循環評価では外出血・胸腔・腹腔・後腹膜(主に不安定型骨盤骨折)の4つの出血源を、胸部・骨盤X線とFASTで素早く検索します。骨盤骨折は海綿骨が豊富で静脈叢や内腸骨動脈の分枝に囲まれ、出血がたまる後腹膜腔も広いため、1,000 mLを超える大量出血をきたしうる代表的な外傷です。不安定型骨盤骨折が疑われればシーツラッピングや骨盤バインダーで固定し、動脈性出血にはTAE、さらに後腹膜パッキングや創外固定で止血を図ります。一方、頸椎捻挫、肩関節脱臼、橈骨遠位端骨折、膝前十字靱帯損傷は通常、循環を破綻させる出血には至りません。「どの損傷が見えない大量出血を起こすか」を知っておくことは、外傷初期診療で救命の分かれ目となる判断力につながります。
解答・解説
正解はbです
外傷初期診療では、生命を脅かす病態を「A(気道)、B(呼吸)、C(循環)、D(中枢神経)、E(脱衣と体温管理)」の順に評価・介入する(日本の外傷初期診療ガイドラインJATEC〈Japan Advanced Trauma Evaluation and Care〉におけるPrimary Survey)。外傷患者のショックの大部分は出血性ショックであり、Cの評価では大量出血の出血源を速やかに特定することが重要となる。 出血性ショックの原因となる大量出血の部位は、①止血されていない外出血、②胸腔内(大量血胸)、③腹腔内、④後腹膜(主に不安定型骨盤骨折)、に整理される。体内の出血は目に見えないため、胸部・骨盤のポータブルX線撮影とFAST(focused assessment with sonography for trauma:心嚢・胸腔・腹腔の液体貯留をみる迅速超音波検査)で探す。 本問の選択肢のうち、上記の大量出血源に該当するのは骨盤骨折のみである。骨盤は海綿骨が豊富で、周囲には静脈叢や内腸骨動脈の分枝が密に分布しており、しかも出血がたまる後腹膜腔は広いため圧迫止血効果が働きにくい。そのため、交通外傷のように強い外力が加わる受傷機転で骨盤骨折が疑われる場合には、大量出血を想定して診療にあたる必要がある。それ以外の選択肢は、局所の出血はあっても通常は循環動態を破綻させるほどの出血にはならない。
選択肢考察
- ×a. 頸椎捻挫
大量出血は想定しない。頸椎捻挫(いわゆる外傷性頸部症候群、むち打ち損傷)は、追突事故などで頸部が過伸展・過屈曲されて生じる軟部組織の損傷で、頸部痛や可動域制限などの局所症状が中心であり、骨折や脊髄損傷による神経症状は伴わない。頸部外傷で問題となりうる血管損傷としては椎骨動脈や内頸動脈の解離があるが、これは出血よりも血管の閉塞・狭窄による脳虚血症状が主体となる。
- ○b. 骨盤骨折
大量出血を想定すべき外傷である。特に骨盤輪の連続性が断たれた不安定型骨盤骨折は、正面衝突や高速走行時の事故、歩行者が車にはねられる事故など、高エネルギー外傷で生じる。出血源は骨折面(海綿骨)、骨盤内の静脈叢、内腸骨動脈系の分枝などで、出血は主に後腹膜腔にたまり、1,000 mLを超える大量出血となって出血性ショックをきたしうる。Primary Surveyでは骨盤X線で評価し、疑われればシーツラッピングや骨盤バインダーで骨盤を固定して容積を減らし、動脈性出血には経カテーテル動脈塞栓術(TAE)、さらに後腹膜パッキングや創外固定などで止血を図る。なお、不安定型骨盤骨折が疑われる場合、骨盤の用手的な動揺性の検査は出血を助長しうるため繰り返さない。
- ×c. 肩関節脱臼
大量出血は想定しない。肩関節脱臼(多くは前方脱臼)では関節周囲の関節包・筋・腱の損傷に伴う限局的な出血は起こるが、循環動態に影響する量にはならない。合併症として注意すべきは腋窩神経麻痺や、まれな腋窩動脈損傷などである。
- ×d. 橈骨遠位端骨折
通常、大量出血は想定しない。転倒して手をついた際などに生じる頻度の高い骨折で、骨折部周囲の血腫はできるが、末梢の細い血管からの出血であり量は限られる。ただし開放骨折で止血処置が遅れた場合などは外出血が問題になりうる。合併症としては正中神経障害、手根管症候群、長母指伸筋腱断裂、複合性局所疼痛症候群(CRPS)などが重要である。
- ×e. 膝前十字靱帯損傷
大量出血は想定しない。膝前十字靱帯損傷はジャンプの着地や急な方向転換などのスポーツ外傷で多く、受傷後に関節血症(関節内の血液貯留)を生じるが、出血は関節包内に限局し、全身の循環に影響する量ではない。
外傷における出血性ショックの出血源(Primary SurveyのC)
・外出血:圧迫止血で対応する。 ・胸腔内出血(大量血胸):胸部X線、FASTで評価し、胸腔ドレナージ、必要に応じ開胸止血。 ・腹腔内出血(肝・脾損傷など):FASTで評価し、開腹止血やTAE。 ・後腹膜出血(不安定型骨盤骨折):骨盤X線で評価し、簡易固定、TAE、後腹膜パッキング、創外固定。
骨折部位ごとの出血量の目安
出血量は骨折部位により大きく異なり、骨盤骨折は最も多く1,000〜4,000 mL程度、大腿骨骨折は1,000〜2,000 mL程度とされる。下腿や上腕の骨折はそれより少なく、前腕・手関節周囲の骨折では通常大量出血には至らない。
骨盤骨折の出血の特徴
出血の多くは静脈叢や骨折面からの静脈性出血であり、骨盤の固定によって骨盤腔の容積を減らし、骨片を安定させることで止血効果が期待できる。動脈性出血(内腸骨動脈の分枝、上殿動脈・内陰部動脈・閉鎖動脈など)が持続する場合はTAEの適応となる。また、骨盤骨折には尿道・膀胱損傷、直腸損傷を合併することがあり、尿道損傷が疑われる場合(外尿道口からの出血など)は尿道カテーテルの盲目的挿入を避ける。
出血性ショックの初期対応
初期輸液(成人で晶質液1 L程度)に対する反応をみて、反応がない、または一過性の場合は輸血と止血術(外科的止血、TAE)を急ぐ。大量の晶質液投与は希釈性凝固障害や低体温を助長するため、早期から赤血球・新鮮凍結血漿などの輸血を考慮する。
POINT
・外傷による出血性ショックの主な出血源は「外出血・胸腔・腹腔・後腹膜(骨盤骨折)」。 ・Primary SurveyのCでは胸部・骨盤X線とFASTで出血源を検索する。 ・不安定型骨盤骨折は後腹膜への大量出血(1,000 mL以上)をきたし、骨盤の簡易固定とTAEが重要。 ・頸椎捻挫、肩関節脱臼、橈骨遠位端骨折、膝前十字靱帯損傷は通常大量出血をきたさない。
