まず管を入れよ―転落後の血気胸に「最初の一手」を選ぶ
第119回医師国家試験 D問題 第60問
国試問題にチャレンジ
81歳の女性。右胸部痛を主訴に救急車で搬入された。自宅の階段で5段の高さから転落し,右胸部をぶつけ倒れているところを家族に発見された。痛みで立ち上がれないため,家族が救急車を要請した。意識は清明。体温36.6℃。心拍数88/分,整。血圧136/78mmHg。呼吸数24/分。SpO2 92%(room air)。動揺胸郭を認めない。心音に異常を認めない。右胸部の呼吸音が対側と比べ減弱している。右前胸部から側胸部にかけて皮下気腫を認める。胸部単純CTを下に示す。 まず行うべき治療はどれか。

- a.開胸止血術
- b.肋骨固定術
- c.胸腔ドレナージ
- d.人工呼吸器管理
- e.心囊ドレナージ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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医学生まとめ
胸部外傷で患側の呼吸音減弱と皮下気腫を認めれば外傷性気胸を考え、CTで胸腔内に空気と血液の貯留があれば血気胸と診断します。循環が安定しており、緊張性気胸・大量血胸・フレイルチェスト・心タンポナーデなどの致死的病態が否定的であれば、まず行うべき治療は胸腔ドレナージで、空気と血液を排出して肺を再膨張させると同時に、排液量から開胸止血術の適応を判断します。ドレナージしていない気胸に陽圧換気を行うと緊張性気胸を招くおそれがあるため、人工呼吸が必要な場合でも先にドレナージを行うのが原則です。肋骨固定術はフレイルチェスト、心囊ドレナージは心タンポナーデに対する治療であり、病態と処置を正しく対応させることが重要です。致死的病態を順に除外して優先順位を決める考え方は、外傷初療全般の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・高齢女性が階段から転落して右胸部を強く打ち、右胸部痛を訴えている。鈍的胸部外傷である。 ・意識は清明、心拍数88/分、血圧136/78mmHgで、循環は保たれておりショックではない。 ・呼吸数24/分とやや速く、SpO2は92%(room air)とやや低い。呼吸の障害が中心である。 ・動揺胸郭(フレイルチェスト)はない。心音にも異常はない。 ・右胸部の呼吸音が左に比べて減弱しており、右胸腔に空気または血液がたまっていることが疑われる。 ・右前胸部から側胸部に皮下気腫がある。肺や胸膜が損傷して漏れた空気が皮下に入り込んだことを示し、外傷性気胸を強く示唆する所見である。 ・胸部単純CTでは、右胸腔に空気と液体(血液)の貯留が認められ、右肺は虚脱している。
診断
以上から、鈍的胸部外傷による右外傷性血気胸(気胸と血胸の合併)と診断する。
鑑別と治療方針の考え方
胸部外傷の初療では、すぐに命に関わる病態を必ず考える。具体的には、気道閉塞、緊張性気胸、開放性気胸、大量血胸、フレイルチェスト、心タンポナーデなどである。本例ではそれぞれ次のように評価できる。 ・緊張性気胸:血圧は保たれ、ショックや頸静脈怒張の記載がなく、現時点では否定的である。 ・大量血胸:循環が安定しており、CT上も胸腔の大部分を占める血液の貯留ではない。 ・フレイルチェスト:動揺胸郭はない。 ・心タンポナーデ:心音に異常がなく、血圧も保たれている。 残る病態は、呼吸障害の原因となっている血気胸である。胸腔内の空気と血液を外に出して肺を再び膨らませる胸腔ドレナージが、まず行うべき治療となる。ドレナージには評価の役割もある。排出される血液の量と出血が続く速さを見て、開胸止血術が必要かどうかを判断する。
選択肢考察
- ×a. 開胸止血術
開胸止血術が必要になるのは、大量血胸や出血が続く血胸である。その場合でも、最初に胸腔ドレナージを行い、排液量と出血の続く速さを評価してから適応を決める。一般的な目安は、ドレナージ直後の排液が1,000〜1,500mL以上の場合や、1時間あたり200mL以上の出血が数時間続く場合である。輸液をしても循環が不安定なときも適応となる。本例は血圧が保たれており、CTでも大量血胸ではない。いきなり開胸を選ぶ理由はない。
- ×b. 肋骨固定術
肋骨固定術(外科的に肋骨を固定する手術)は、フレイルチェストなどの多発肋骨骨折に対して、胸郭を安定させる目的で検討される。フレイルチェストとは、連続する複数の肋骨がそれぞれ2か所以上で折れ、その部分が呼吸と逆向きに動く(奇異呼吸)状態である。本例には動揺胸郭がなく、手術の適応はない。また、骨折の治療は血気胸による呼吸障害を解消してから考えるもので、最初に行う処置ではない。
- ○c. 胸腔ドレナージ
外傷性血気胸に対する基本の治療である。胸腔に管(胸腔ドレーン)を入れ、空気と血液を外に出して虚脱した肺を再び膨らませ、呼吸状態を改善させる。外傷性血胸では血液も排出する必要があるため、比較的太いドレーンを使う。挿入部位は通常、第4〜5肋間の前〜中腋窩線付近(安全三角)である。排液量と出血の続き方を観察すれば、開胸止血術の必要性も判断できる。後で人工呼吸器による陽圧換気が必要になったときも、先にドレナージをしておけば緊張性気胸への進行を防げる。
- ×d. 人工呼吸器管理
人工呼吸器管理(気管挿管して陽圧換気を行う)は、酸素を投与しても低酸素血症が改善しない場合、換気不全がある場合、意識障害で気道を守れない場合などに行う。本例は意識清明で、SpO2の低下は軽く、酸素投与で対応できる範囲である。さらに、ドレナージをしていない気胸に陽圧換気を行うと、肺から胸腔への空気の漏れが増え、緊張性気胸に進むおそれがある。人工呼吸が必要な場合でも、その前に胸腔ドレナージを行うのが原則である。
- ×e. 心囊ドレナージ
心囊ドレナージ(心膜腔に針や管を入れて血液を排出する処置)は、心タンポナーデの治療である。心タンポナーデとは、心膜腔にたまった血液が心臓を圧迫し、拡張を妨げる状態である。典型的な所見はBeckの三徴(血圧低下、頸静脈怒張、心音減弱)である。本例は血圧が保たれ心音も正常で、心タンポナーデを疑う所見はない。CTでも心囊液の貯留は目立たず、適応はない。
血胸・血気胸
血胸は胸腔内に血液がたまった状態である。出血源には、肺の損傷のほか、肋間動静脈や内胸動脈の損傷がある。原因の多くは胸部外傷で、まれに胸腔穿刺や中心静脈カテーテル挿入などの医療行為でも起こる(医原性)。外傷では気胸を伴うことが多く、これを血気胸とよぶ。肺からの出血は肺循環の圧が低いため自然に止まりやすい。これに対し、体循環系である肋間動脈や内胸動脈からの出血は止まりにくく、開胸止血が必要になることがある。
皮下気腫
皮下組織に空気が入り込んだ状態で、触ると雪を握ったような感触(握雪感)がある。胸部外傷で皮下気腫があれば、気胸の存在を強く疑う。
致死的胸部外傷(初療で見逃してはならない病態)
・気道閉塞 ・緊張性気胸:直ちに胸腔の減圧(穿刺またはドレナージ)を行う ・開放性気胸:三辺テーピングで応急処置を行い、その後胸腔ドレナージを行う ・大量血胸:胸腔ドレナージを行い、排液量によって開胸止血術を行う ・フレイルチェスト:鎮痛と呼吸管理を行い、必要に応じて肋骨固定術を行う ・心タンポナーデ:心囊穿刺またはドレナージを行い、必要なら開胸手術を行う
開胸止血術の適応の目安
ドレナージ直後に1,000〜1,500mL以上の排液がある場合、1時間あたり200mL以上の出血が数時間続く場合、輸液や輸血をしても循環が安定しない場合などである。
高齢者の胸部外傷
高齢者は骨がもろく、5段程度の高さからの転落でも肋骨骨折や血気胸を起こしうる。肺の予備能も低く、痛みで呼吸が浅くなると肺炎や呼吸不全を起こしやすい。十分な鎮痛と呼吸の管理が重要である。
POINT
・胸部外傷で「患側の呼吸音減弱+皮下気腫」があれば、外傷性気胸(血気胸)を考える。 ・血気胸の初期治療は胸腔ドレナージである。大量血胸であっても、まずドレナージを行い、排液量と出血の続き方を見て開胸止血術の適応を決める。 ・ドレナージしていない気胸に陽圧換気を行うと、緊張性気胸を招くおそれがある。人工呼吸の前に胸腔ドレナージを行う。 ・肋骨固定術はフレイルチェスト、心囊ドレナージは心タンポナーデに対する治療である。
