詰まった場所が犯人を教える―MRCPで読み解く肝門部胆管癌
第119回医師国家試験 D問題 第59問
国試問題にチャレンジ
53歳の女性。心窩部痛と食欲不振を主訴に来院した。1か月前に心窩部痛が出現し,1週間前から食欲不振を伴うようになったため受診した。喫煙歴と飲酒歴はない。身長152cm,体重49kg。体温37.0℃。脈拍76/分,整。血圧116/68mmHg。眼球結膜に黄染を認める。心窩部に圧痛を認めるが,筋性防御は認めない。血液所見:赤血球388万,Hb 12.4g/dL,Ht 36%,白血球5,180,血小板16万。血液生化学所見:総蛋白6.6g/dL,アルブミン4.0g/dL,総ビリルビン6.0mg/dL,直接ビリルビン4.8mg/dL,AST 38U/L,ALT 36U/L,LD 176U/L(基準124~222),ALP 2,051U/L(基準38~113),γ-GT 180U/L(基準9~32),アミラーゼ63U/L(基準44~132),CK 38U/L(基準41~153),尿素窒素10mg/dL,クレアチニン0.5mg/dL,尿酸3.9mg/dL,血糖103mg/dL,HbA1c 5.9%(基準4.9~6.0)。CEA 0.3ng/mL(基準5以下),CA19-9 73U/mL(基準37以下)。免疫血清学所見:HBs抗原陰性,HCV抗体陰性。MRCP像を下に示す。 この患者の閉塞性黄疸の原因はどれか。

- a.胆嚢癌
- b.肝細胞癌
- c.膵頭部癌
- d.肝門部胆管癌
- e.十二指腸乳頭部癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
直接ビリルビン優位の黄疸にALP・γ-GTの著増を伴い、AST・ALTがほぼ正常であれば、胆道の閉塞による閉塞性黄疸と判断します。原因疾患は「閉塞部より上流の胆管は拡張し、下流は拡張しない」という原則で画像から閉塞部位を推定し、肝内胆管のみが拡張して肝門部で途絶していれば肝門部胆管癌を第一に考えます。一方、膵頭部癌・十二指腸乳頭部癌・遠位胆管癌では総胆管まで拡張して胆嚢が腫大し(Courvoisier徴候)、膵頭部癌ではdouble duct signを伴うことが多い点が鑑別の決め手です。肝門部胆管癌ではBismuth-Corlette分類で進展範囲を評価して肝切除範囲を決め、必要に応じて術前の減黄や門脈塞栓術を行います。「黄疸の型」と「閉塞の高さ」を順に押さえる読み方は、胆膵領域の画像診断全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・53歳女性。1か月前からの心窩部痛と、1週間前からの食欲不振。喫煙・飲酒歴なし。 ・眼球結膜黄染(黄疸)。心窩部圧痛はあるが筋性防御はない(腹膜炎を示す所見はない)。発熱は目立たない(37.0℃)。 ・総ビリルビン6.0mg/dL、直接ビリルビン4.8mg/dL → 直接(抱合型)ビリルビン優位の高ビリルビン血症。 ・ALP 2,051U/L、γ-GT 180U/Lと胆道系酵素が著明に上昇する一方、AST 38U/L・ALT 36U/Lはほぼ正常 → 肝細胞障害ではなく胆汁うっ滞(閉塞性黄疸)のパターン。 ・アルブミン4.0g/dL、血小板16万で、肝の合成能や慢性肝疾患を示す所見は乏しい。HBs抗原・HCV抗体陰性。 ・アミラーゼ正常で膵炎を示す所見はない。 ・CA19-9 73U/mLと軽度上昇(CEAは正常)。 ・MRCP:左右の肝内胆管が両側性に拡張し、肝門部(左右肝管の合流部付近)で胆管が狭窄・途絶している。その下流の総胆管は拡張しておらず、胆嚢は描出され内腔が保たれている。
診断へのプロセス
黄疸は、ビリルビンの過剰産生(溶血など)、肝細胞性、胆汁うっ滞(閉塞性)に大別される。本例は直接ビリルビン優位で、ALP・γ-GTが著増しトランスアミナーゼがほぼ正常であることから、胆道の閉塞による閉塞性黄疸と判断できる。 閉塞性黄疸では、どこで胆管が詰まっているかを画像で調べる。原則として「閉塞部より上流の胆管は拡張し、下流は拡張しない」。 ・十二指腸乳頭部や膵内胆管(遠位)で詰まれば、肝内胆管から総胆管まで全体が拡張し、胆嚢も腫大する(Courvoisier徴候)。 ・肝門部で詰まれば、肝内胆管だけが拡張し、総胆管は拡張しない。 本例のMRCPでは、肝内胆管が両葉で拡張し、肝門部で途絶、下流の総胆管は細いままである。したがって閉塞部位は肝門部であり、無痛性〜軽い痛みで緩徐に進行する黄疸、CA19-9上昇とあわせて肝門部胆管癌と診断する。
設問の考え方
閉塞性黄疸の原因疾患を問う問題では、まず胆管の「拡張している範囲」と「途絶している高さ」をMRCPで確認し、閉塞部位から原因疾患を絞り込む。肝門部で途絶し肝内胆管のみが拡張していれば、肝門部胆管癌を第一に考える。
選択肢考察
- ×a. 胆嚢癌
胆嚢癌は胆嚢の粘膜から発生し、内腔に向かって隆起したり壁が不整に厚くなったりする。進行すると肝床部の肝臓や肝門部・胆嚢管・総肝管に浸潤し、閉塞性黄疸を来すことがある。しかし本例のMRCPでは胆嚢は内腔がきれいに保たれ、胆嚢内に陰影欠損や壁の不整を示す所見はない。胆嚢そのものに腫瘍を示す所見がないため、胆嚢癌の肝門浸潤とは考えにくい。
- ×b. 肝細胞癌
肝細胞癌は多くがB型・C型肝炎ウイルスやアルコール、代謝異常関連脂肪性肝疾患などによる慢性肝疾患・肝硬変を背景に発生する。腫瘍が胆管内に進展する例(胆管内腫瘍栓)では閉塞性黄疸を来すことがあるが例外的であり、肝細胞癌の黄疸は通常、肝予備能の低下による肝細胞性黄疸である。本例は肝炎ウイルスマーカーが陰性で、アルブミン・血小板も保たれて慢性肝疾患を示唆する所見がなく、MRCPでも肝実質の腫瘤による胆管圧排ではなく肝門部胆管自体の狭窄がみられるため合致しない。
- ×c. 膵頭部癌
膵頭部癌は膵内を走る遠位胆管(膵内胆管)に浸潤して閉塞性黄疸を起こす。この場合、閉塞部は膵内胆管にあるため、その上流の総胆管・総肝管・肝内胆管がすべて拡張し、胆嚢も腫大する(無痛性に腫大した胆嚢を触れるCourvoisier徴候)。また多くは主膵管も同じ部位で狭窄・途絶し、上流の主膵管が拡張して、胆管と膵管が並んで途絶する double duct sign を示す。本例は総胆管の拡張がなく、閉塞部位が肝門部であるため合致しない。
- ○d. 肝門部胆管癌
MRCPで左右肝管の合流部付近(肝門部)に胆管の狭窄・途絶があり、その上流の両側肝内胆管が拡張している一方、下流の総胆管は拡張していない。これは閉塞部位が肝門部であることを示し、肝門部胆管癌に典型的な像である。直接ビリルビン優位の黄疸とALP・γ-GTの著増(閉塞性黄疸)、腫瘍マーカーCA19-9の上昇も本症に合致する。胆管癌は胆管壁に沿って浸潤しながら内腔を狭めていくため、腫瘤としてよりも胆管の狭窄として画像に現れることが多い。
- ×e. 十二指腸乳頭部癌
十二指腸乳頭部癌は胆管・膵管の出口である十二指腸乳頭に発生するため、閉塞部は胆道の最下端となる。その結果、肝内胆管から総胆管の末端まで全長にわたって拡張し、胆嚢も腫大する。主膵管も拡張することが多い。腫瘍の壊死・脱落により黄疸が一時的に軽快・再燃する(黄疸の動揺)ことや、腫瘍からの出血による貧血・便潜血がみられることもある。本例は遠位の総胆管が拡張しておらず、閉塞部位が肝門部であるため合致しない。
胆道癌の分類(発生部位)
胆道癌は次のように分けられる。 ・肝内胆管癌(肝内胆管から発生。肝癌として扱われることが多い) ・肝外胆管癌:肝門部領域胆管癌、遠位胆管癌 ・胆嚢癌 ・十二指腸乳頭部癌 危険因子として、膵・胆管合流異常、原発性硬化性胆管炎、肝内結石、胆道感染、印刷業における有機溶剤(1,2-ジクロロプロパンなど)への曝露による職業性胆管癌などが知られる。
肝門部胆管癌の特徴
・高齢者に多い。初発症状は黄疸が最も多く、ほかに皮膚瘙痒感、灰白色便、褐色尿、上腹部痛、体重減少、胆管炎による発熱などがある。 ・腫瘍マーカーはCA19-9やCEAが上昇することがあるが、陽性率は高くなく、閉塞性黄疸や胆管炎のみでもCA19-9は上昇しうるため、補助的な指標にとどまる。 ・閉塞が肝門部にあるため胆嚢は通常腫大しない(胆嚢管は閉塞部より下流で合流するため)。 ・Bismuth-Corlette分類で肝管合流部との位置関係により病変の広がりを分類し、肝切除範囲の決定に役立てる(I型:合流部より下、II型:合流部に及ぶ、IIIa/IIIb型:右または左の二次分枝まで、IV型:両側の二次分枝まで)。
閉塞性黄疸の画像診断の流れ
①腹部超音波検査:胆管拡張の有無と範囲を非侵襲的にスクリーニングする。 ②MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影):胆管・膵管の全体像を造影剤なしで描出し、閉塞部位と範囲を評価する。 ③造影CT:腫瘍の広がり、血管(門脈・肝動脈)への浸潤、リンパ節・遠隔転移を評価する。 ④ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影):胆管造影に加え、ブラシ細胞診や生検で組織学的診断を行い、ステントや経鼻胆管ドレナージで減黄も行える。
閉塞部位による画像所見の違い
・肝門部:肝内胆管のみ拡張、総胆管は拡張せず、胆嚢は腫大しない。 ・遠位胆管・膵頭部・乳頭部:肝内胆管から総胆管まで拡張し、胆嚢も腫大(Courvoisier徴候)。膵頭部癌・乳頭部癌では主膵管拡張を伴うことが多い。
治療
根治的治療は外科切除であり、肝門部胆管癌では病変の進展方向に応じて片葉切除+尾状葉切除+肝外胆管切除+胆道再建を行うことが多い。黄疸が強い場合は術前に胆道ドレナージを行い、残肝の容量が不足する場合は門脈塞栓術で残る側の肝を肥大させてから切除する。切除不能例では胆道ステントによる減黄と化学療法(ゲムシタビン+シスプラチンを基本に、免疫チェックポイント阻害薬の併用など)を行う。
閉塞性黄疸を来す主な疾患
・良性:総胆管結石、術後胆管狭窄、慢性膵炎による胆管狭窄、原発性硬化性胆管炎、IgG4関連硬化性胆管炎(自己免疫性膵炎に合併)、Mirizzi症候群など。 ・悪性:胆管癌(肝門部・遠位)、胆嚢癌、十二指腸乳頭部癌、膵頭部癌、悪性リンパ腫や転移性腫瘍による肝門部リンパ節の胆管圧迫など。
POINT
・直接ビリルビン優位の黄疸+ALP・γ-GT著増+AST・ALTほぼ正常 → 閉塞性黄疸。 ・閉塞部より上流の胆管が拡張し、下流は拡張しない。閉塞部位から原因を推定する。 ・肝内胆管のみ拡張し肝門部で途絶、総胆管拡張・胆嚢腫大なし → 肝門部胆管癌。 ・総胆管まで拡張し胆嚢腫大(Courvoisier徴候) → 膵頭部癌、遠位胆管癌、十二指腸乳頭部癌。膵頭部癌ではdouble duct sign。 ・肝門部胆管癌の病変の広がりはBismuth-Corlette分類で評価し、治療方針(肝切除範囲)の決定に用いる。
