StudyMed医師国家試験

溶血の子に現れた「直接型」の黄疸―遺伝性球状赤血球症に潜む総胆管結石

第119回医師国家試験 A問題 第51問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第51問

10歳の女児。腹痛を主訴に両親に連れられて来院した。今朝から腹痛が出現し,次第に増強してきたため受診した。3歳時に遺伝性球状赤血球症と診断され,小児科で定期的な診察を受けていた。体温37.2℃。脈拍100/分,整。血圧110/58mmHg,呼吸数16/分。皮膚は黄染を認める。腹部は右季肋部に圧痛を認め,左肋骨弓下に脾を4cm触知する。血液所見:赤血球320万,Hb 9.2g/dL,Ht 33%,白血球9,500,血小板20万。血液生化学所見:総ビリルビン22.3mg/dL,直接ビリルビン15.8mg/dL,AST 125U/L,ALT 647U/L,γ-GT 313U/L(基準9~32)。CRP 0.9mg/dL。腹部単純CT水平断像(A)と腹部造影CT冠状断像(B)を下に示す。  適切な処置はどれか。

第119回 A問題 第51問の問題画像
  1. a.血漿交換
  2. b.光線療法
  3. c.脾臓摘出術
  4. d.腹腔鏡下胆嚢摘出術
  5. e.内視鏡的胆管ドレナージ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、遺伝性球状赤血球症をもつ子どもが急な腹痛と黄疸で受診した症例から、いま最優先で行う処置を選ぶ問題だ。着眼点は、黄疸がもともとの溶血によるものなのか、それとも別の何かが起きているのか、という見極め。カギはビリルビンの内訳と画像だよ。
医学生医学生
遺伝性球状赤血球症なら、もともと溶血で黄疸があるはずですよね。今回も溶血発作が強くなっただけ、ということはないですか。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だ。溶血で増えるのは、肝臓で抱合される前の間接ビリルビンだよね。ところが今回は直接ビリルビンが総ビリルビンの大半を占めている。直接型優位ということは、肝臓で抱合したあとの胆汁がうまく流れ出ていない、つまり閉塞性黄疸を示しているんだ。
医学生医学生
生化学の講義で習ったビリルビン代謝の流れですね。ALTやγ-GTが高いのも、胆汁がせき止められたせいでしょうか。
ドクタードクター
そう。胆道が急に詰まると胆汁うっ滞でγ-GTが上がり、急激な胆管内圧の上昇で肝細胞も障害されてALTが跳ね上がることがある。では、なぜこの子の胆道が詰まったんだろう。遺伝性球状赤血球症の合併症を思い出してみて。
医学生医学生
慢性溶血でビリルビンがたくさん作られるので、胆石ができやすいんでした。小児科実習でも、溶血性貧血の子の腹部エコーで胆石を探すと教わりました。
ドクタードクター
その通り。ビリルビンカルシウム石などの色素石が、子どものうちからできうる。画像を見ると、単純CTで胆嚢内と総胆管内に結石があり、造影CTの冠状断では総胆管の下端、乳頭部付近に結石がはまり込み、その上流の総胆管から肝内胆管まで拡張している。胆嚢の石が総胆管へ落ちて嵌頓し、閉塞性黄疸を起こしたというストーリーだ。
医学生医学生
右季肋部の圧痛もそれで説明できますね。でも熱はそれほど高くないし、CRPもあまり上がっていません。急性胆管炎と言っていいんでしょうか。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。Tokyo Guidelines 2018の診断基準に当てはめると、胆汁うっ滞と胆管拡張・結石という画像所見は満たすけれど、全身の炎症所見はまだ軽い。急性胆管炎の初期、あるいはその一歩手前と考えるのが妥当だろう。ただ、せき止められた胆汁は細菌が増えやすく、放置すれば一気に重症化して敗血症に進むことがある。だからこそ、早めに手を打つ必要があるんだ。
医学生医学生
では、詰まった胆管を開通させることが最優先ですね。内視鏡的胆管ドレナージでしょうか。
ドクタードクター
正解だ。治療の原則は胆管の減圧で、第一選択はERCPの手技を使った内視鏡的胆管ドレナージ。鼻からチューブを出す経鼻胆管ドレナージや、胆管ステント留置がある。経皮経肝的なドレナージより低侵襲で、状況が許せば乳頭括約筋切開を加えて結石そのものを取り除くこともできる。年長児なら小児でも施行可能だよ。
医学生医学生
胆嚢にも石があるなら、腹腔鏡下胆嚢摘出術で根本的に治すほうがいい気もしますが……。
ドクタードクター
その発想は自然だけど、順番が大事なんだ。胆嚢を取っても、総胆管にはまった石は残ったままで、閉塞は解除されない。胆嚢摘出は再発作や石の再落下を防ぐために必要になるけれど、それは急性期を乗り越えて炎症が落ち着いてから、待機的に行う治療だ。
医学生医学生
脾臓摘出術はどうですか。溶血の大元を断つ治療だと思うのですが。
ドクタードクター
遺伝性球状赤血球症では、変形しにくい球状赤血球が脾臓で捕まって壊されるから、脾摘で溶血と貧血が改善し、将来の胆石も減らせる。ただ、今回の腹痛と黄疸の原因は胆管の物理的な閉塞だから、脾臓を取っても目の前の問題は解決しない。これも急性期を過ぎてから、必要に応じて検討するものだね。
医学生医学生
光線療法は黄疸の治療ですが、新生児黄疸で使うものですよね。
ドクタードクター
そう。光線療法は皮膚に光を当てて間接ビリルビンを水に溶けやすい形に変え、排泄を促す治療で、主に新生児の間接ビリルビン優位の黄疸に使う。直接型優位の閉塞性黄疸には効かないし、直接ビリルビンが高い状態で行うと皮膚が青銅色になるブロンズベビー症候群を起こすこともある。血漿交換もビリルビンを一時的に除けるだけで、閉塞が残る限り元に戻ってしまう。肝不全の所見もないから適応にはならない。
医学生医学生
原因が機械的な閉塞である以上、詰まりを取らないと何をしても改善しない、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。発展知識として、遺伝性球状赤血球症の全体像も押さえよう。アンキリンやスペクトリン、バンド3など赤血球膜骨格タンパク質の異常で起こり、多くは常染色体顕性遺伝で、日本人の先天性溶血性貧血で最も多い。三主徴は貧血・黄疸・脾腫で、MCHC高値や赤血球浸透圧抵抗の減弱、小型球状赤血球が特徴的な検査所見だ。合併症として、胆石のほかにパルボウイルスB19感染による無形成発作も重要だよ。
医学生医学生
脾摘をするときは感染症に注意が必要なんでしたよね。
ドクタードクター
そう。脾摘後は肺炎球菌など莢膜をもつ細菌による重症感染症のリスクが高まるから、乳幼児期を避け、術前にワクチン接種を行う。胆石があれば胆嚢摘出術を同時に検討することもある。臨床では、溶血性疾患の患者が黄疸を強めて来院したとき、すぐに「いつもの溶血」と決めつけず、ビリルビンの内訳を必ず確認する習慣をつけておこう。

まとめ

遺伝性球状赤血球症などの慢性溶血性疾患では、ビリルビン産生の増加により小児期から色素胆石を生じやすく、総胆管への落下・嵌頓によって閉塞性黄疸や急性胆管炎を起こすことがあります。溶血による黄疸は間接ビリルビン優位ですが、直接ビリルビン優位と胆道系酵素上昇、画像での胆管拡張と結石があれば胆道閉塞を考えます。治療の最優先は胆管の減圧で、第一選択は内視鏡的胆管ドレナージ(経鼻胆管ドレナージや胆管ステント留置)であり、可能なら乳頭括約筋切開を加えて結石を除去します。胆嚢摘出術や脾臓摘出術は急性期を脱してから待機的に検討し、光線療法は新生児の間接ビリルビン優位の黄疸に対する治療です。黄疸の原因をビリルビンの内訳から見極める姿勢は、小児・成人を問わず黄疸診療の基本となります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・10歳女児。3歳時に遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis:HS)と診断されている。 ・今朝からの増強する腹痛、右季肋部圧痛、皮膚黄染。 ・左肋骨弓下に脾を4cm触知(HSによる脾腫)。 ・赤血球320万、Hb 9.2g/dL、Ht 33%:貧血(慢性溶血)。赤血球指数を計算するとMCV(平均赤血球容積)=33÷320×1,000≒103fL、MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)=9.2÷320×1,000≒29pg、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)=9.2÷33×100≒28%となる。HSは球状化した赤血球のため本来MCHC高値を示しやすいが、溶血に反応して増えた大型の網赤血球の影響でMCVは高めになり得る。 ・総ビリルビン22.3mg/dLで、直接ビリルビン15.8mg/dLと直接型優位。溶血だけなら間接型優位になるはずであり、直接型優位は胆汁の流出障害(閉塞性黄疸)を示す。 ・ALT 647U/Lと著明上昇、γ-GT 313U/L上昇:胆道閉塞に伴う急性の肝細胞障害と胆汁うっ滞。 ・体温37.2℃、白血球9,500、CRP 0.9mg/dLと、炎症所見は現時点では軽微。 ・CT:単純CT(A)で胆嚢内の結石と総胆管内の結石、造影CT冠状断(B)で総胆管下部(乳頭部付近)に嵌頓した結石と、その上流の総胆管・肝内胆管の拡張。

診断に至るプロセス

HSでは慢性溶血によりビリルビン産生が増え、小児期からビリルビンカルシウム石(色素石)による胆石を生じやすい。本例は胆嚢結石が総胆管へ落下して下部胆管に嵌頓し、総胆管結石による閉塞性黄疸を生じたものである。閉塞した胆管内の胆汁はうっ滞して感染を起こしやすく、急性胆管炎の発症初期あるいは発症直前の状態と考えられる。急性胆管炎の診断基準(Tokyo Guidelines 2018)に照らすと、胆汁うっ滞(黄疸・肝胆道系酵素上昇)と画像所見(胆管拡張・結石)は満たし、全身性炎症所見はまだ軽い段階にある。 鑑別として、急性肝炎(ウイルス性・薬剤性)はALTが上昇するが、明らかな胆管拡張や結石は伴わない。先天性胆道拡張症やCaroli病も小児の胆管拡張を示すが、画像で嚢状・紡錘状の拡張ではなく結石による閉塞性の拡張がみられる点で異なる。

設問の考え方

胆管閉塞を放置すると急性胆管炎が重症化し、敗血症(急性閉塞性化膿性胆管炎)に進展し得る。したがって最優先すべきは、閉塞した胆管の減圧(胆道ドレナージ)である。第一選択は低侵襲な内視鏡的逆行性胆道ドレナージであり、可能なら内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)を加えて結石を除去する。胆嚢結石に対する胆嚢摘出術や、HSに対する脾臓摘出術は、急性期を脱した後に計画的に検討する。

選択肢考察

  1. ×a.  血漿交換

    血漿交換は、血中の病因物質(自己抗体、毒素、蓄積したビリルビンなど)を除去する治療で、急性肝不全、血栓性血小板減少性紫斑病、Guillain-Barré症候群などで用いられる。本例の高ビリルビン血症は胆管の機械的閉塞が原因であり、ビリルビンを一時的に除去しても閉塞が解除されなければ改善しない。肝不全の所見(凝固障害、意識障害)もなく、適応とならない。

  2. ×b.  光線療法

    光線療法は、皮膚に青色〜青緑色光を照射して非抱合型(間接)ビリルビンを水溶性の異性体に変え、胆汁や尿へ排泄しやすくする治療であり、主に新生児の間接ビリルビン優位の高ビリルビン血症(核黄疸予防)に用いる。本例は10歳で、直接ビリルビン優位の閉塞性黄疸であるから効果がない。直接ビリルビン高値の状態で光線療法を行うと皮膚が青銅色になるブロンズベビー症候群を生じることもある。

  3. ×c.  脾臓摘出術

    HSでは、変形能の低い球状赤血球が脾臓で捕捉・破壊されるため、脾臓摘出術で溶血と貧血が改善し、将来の胆石形成も減らせる。中等症以上のHSでは、摘出後重症感染症のリスクが下がる年齢(おおむね6歳以降)での脾摘が検討される。しかし今回の腹痛と黄疸は総胆管結石による胆管閉塞が原因であり、脾摘ではこれを解除できない。脾摘は急性期を乗り切った後、必要に応じて待機的に行う治療である。

  4. ×d.  腹腔鏡下胆嚢摘出術

    症状のある胆嚢結石は胆嚢摘出術の適応であり、本例でも胆嚢結石の再発作や総胆管への再落下を防ぐため、いずれは胆嚢摘出術(脾摘と同時に行うこともある)が考慮される。しかし、胆嚢を摘出しても総胆管に嵌頓した結石は除去されず、胆管の閉塞は解除されない。黄疸と胆管炎のリスクがある急性期には、まず胆管のドレナージと総胆管結石の処置を優先し、胆嚢摘出は炎症が落ち着いてから行う。

  5. ○e.  内視鏡的胆管ドレナージ

    総胆管結石の嵌頓による閉塞性黄疸で、急性胆管炎の発症・重症化が危惧される状態である。治療の原則は胆管の減圧であり、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)の手技を用いた内視鏡的胆管ドレナージ(経鼻胆管ドレナージ:ENBD、胆管ステント留置:EBS)が第一選択となる。経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)より低侵襲で、同時に乳頭括約筋切開(EST)やバルーン拡張を行えば総胆管結石を除去でき、根本的な閉塞解除も可能である。小児でも年長児であれば施行可能である。

遺伝性球状赤血球症(HS)

・赤血球膜骨格を構成するタンパク質(アンキリン、スペクトリン、バンド3など)の遺伝子異常により、赤血球が球状化し変形能が低下する。多くは常染色体顕性(優性)遺伝で、日本人の先天性溶血性貧血で最も多い。 ・球状赤血球は脾臓の狭い血管腔を通過できずに捕捉・破壊される(血管外溶血)。 ・三主徴は貧血・黄疸・脾腫。検査では網赤血球増加、間接ビリルビン高値、ハプトグロビン低下、MCHC高値、赤血球浸透圧抵抗の減弱(浸透圧脆弱性の亢進)、末梢血塗抹での小型球状赤血球がみられる。 ・合併症:ビリルビン胆石(小児期から発生し得る)、パルボウイルスB19感染による無形成発作(aplastic crisis)、感染を契機とした溶血発作。 ・治療:中等症以上で脾臓摘出術。摘出後重症感染症(肺炎球菌など莢膜をもつ細菌による敗血症)の予防のため、術前のワクチン接種を行い、乳幼児期を避けて施行する。胆石があれば胆嚢摘出術を同時に検討する。

急性胆管炎の診断(Tokyo Guidelines 2018)

・A 全身の炎症所見:発熱(38℃超)・悪寒戦慄、または検査上の炎症反応(白血球数異常、CRP上昇) ・B 胆汁うっ滞所見:黄疸(総ビリルビン2mg/dL以上)、肝機能検査値異常 ・C 胆管病変の画像所見:胆管拡張、または狭窄・結石・ステントなどの原因 ・A・B・Cすべてを1項目以上満たせば確診、Aの1項目+BまたはCの1項目で疑診。 ・典型的な臨床像はCharcotの三徴(発熱、黄疸、右上腹部痛)、重症ではショックと意識障害を加えたReynoldsの五徴を呈する。

総胆管結石の治療の流れ

1. 胆道ドレナージ(内視鏡的が第一選択。困難なら経皮経肝的)と抗菌薬投与。 2. 内視鏡的結石除去(EST、内視鏡的乳頭バルーン拡張術:EPBD)。 3. 胆嚢結石を合併していれば、待機的に腹腔鏡下胆嚢摘出術。

POINT

・HSなど慢性溶血性疾患では小児期からビリルビン胆石を生じやすい。 ・直接ビリルビン優位の黄疸+胆管拡張+総胆管結石→総胆管結石による閉塞性黄疸(急性胆管炎)。 ・治療の最優先は胆管の減圧であり、第一選択は内視鏡的胆管ドレナージ(ENBD/EBS)、可能ならESTで結石除去。 ・胆嚢摘出術や脾臓摘出術は急性期を脱してから待機的に行う。 ・光線療法は新生児の間接ビリルビン優位の黄疸に対する治療である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。