笑顔の1歳児に潜む時限爆弾―コイン型リチウム電池誤飲で「まず撮る」理由
第119回医師国家試験 D問題 第61問
国試問題にチャレンジ
1歳の女児。コイン型リチウム電池を飲み込んだかもしれないため両親に連れられて来院した。1時間前に,母親が台所で家事をしているときに足元で遊んでいた。患児がオエっと吐きそうになっているところに母親が気付き,取り出そうとしたが,何かを飲み込んでしまったという。近くにキッチンタイマーが落ちており,蓋が開いてコイン型リチウム電池が一つなくなっていた。来院時は,意識清明で機嫌はよく笑顔がみられ,咳嗽,流涎および嘔吐は認めない。脈拍120/分,整。呼吸数24/分。SpO2 98%(room air)。皮膚色は良好で,チアノーゼを認めない。口腔内や咽頭に異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,圧痛を認めない。 まず行う対応はどれか。
- a.動脈血ガス分析
- b.上部消化管造影検査
- c.胸腹部エックス線撮影
- d.上部消化管内視鏡検査
- e.自宅での経過観察を指示
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
コイン型リチウム電池は、食道粘膜に接すると負極側で水酸化物イオンが生じ、2時間程度でアルカリによる液化壊死が進むため、小児の誤飲の中でも特に危険な異物です。初期は無症状のことが多く、機嫌がよく全身状態が良好でも安全とはいえないため、誤飲が疑われたらまず頸部から腹部までの単純エックス線撮影で有無と位置を確認します。電池は正面像でdouble ring sign(halo sign)を示して硬貨と区別でき、食道にあれば無症状でも緊急内視鏡で摘出し、胃より先なら年齢・電池の大きさ・症状に応じて摘出か経過観察かを判断します。造影検査や内視鏡をいきなり行うこと、吐かせること、画像確認なしに帰宅させることは避けるべきで、摘出後の遅発性合併症にも注意が必要です。「症状がない=安全」ではない異物があることを知り、まず位置を確かめるという救急の基本を身につけることが、子どもの命を守る判断につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・1歳の女児。キッチンタイマーの蓋が開いており、コイン型リチウム電池が1個なくなっていた。直前に「オエっ」と吐きそうになり、何かを飲み込んだ様子があった。このため、電池の誤飲が強く疑われる。誤飲から1時間が経過している。 ・意識は清明で機嫌がよい。咳嗽、流涎、嘔吐はない。 ・脈拍120/分、呼吸数24/分は、1歳児の基準範囲内である。SpO2 98%で、チアノーゼもない。 ・口腔内と咽頭に異常はない。心音・呼吸音も正常で、腹部所見にも異常はない。 →全身状態は良好で、症状もない。ただし、誤飲したかどうかはまだ確定していない。
考え方
コイン型リチウム電池は、小児の誤飲の中でも特に危険な異物である。食道にとどまると、消化管の粘膜に接した電池から電流が流れ、電池の負極側で水酸化物イオンが生じる。その結果、強アルカリによる化学損傷(液化壊死)が2時間程度という短時間で進む。食道穿孔や、気管・大動脈との瘻孔といった致死的な合併症を起こしうる。しかも、食道に電池がとどまっていても、はじめは無症状のことが少なくない。症状がないことや全身状態が良好なことは、安全である根拠にならない。 このため、誤飲が疑われる段階でまず行うべきは、次の3点をすぐに確認することである。 (1) 本当に飲み込んだのか (2) 電池は消化管のどこにあるのか(特に食道にとどまっていないか) (3) 本当に電池なのか(硬貨などとの区別) 金属製の電池はエックス線を通さないため、単純エックス線撮影で写る。頸部から腹部までを含めて撮影すれば、有無と位置を一度に確認できる。結果に応じて、その後の方針が決まる。食道にあれば緊急に内視鏡で摘出する。胃より先にあれば、年齢や電池の大きさ、症状に応じて摘出するか経過を観察するかを判断する。
選択肢考察
- ×a. 動脈血ガス分析
動脈血ガス分析は、呼吸不全の評価(酸素や二酸化炭素の分圧)や、酸塩基平衡の異常を調べるために行う。本例は呼吸数、SpO2、皮膚色に異常がなく、呼吸状態は安定している。さらに、乳児に動脈穿刺をするのは負担が大きい。誤飲した電池の位置確認という、この場面で最も急ぐべき課題にも役立たない。
- ×b. 上部消化管造影検査
造影検査は、エックス線に写らない異物(プラスチックなど)の位置を調べるときや、狭窄や穿孔を評価するときに用いることがある。リチウム電池は金属であり、造影剤を使わない単純撮影ではっきり写るため、最初に行う必要はない。また、造影剤を飲ませると誤嚥の危険があるうえ、その後の内視鏡で観察しにくくなり、摘出を遅らせる原因にもなる。
- ○c. 胸腹部エックス線撮影
金属製のリチウム電池は単純エックス線写真に明瞭に写る。誤飲したかどうかと、電池の位置(食道か、胃か、それより先か)を、素早く、体に負担をかけずに確認できる。電池は正面像で縁が二重の輪(double ring sign、halo sign)に見え、硬貨と区別できる。側面像では縁に段差が見える。頸部から腹部までを含めて撮影し、必要に応じて側面像も加える。この結果によって、緊急に内視鏡で摘出するかどうかが決まる。したがって、最初に行う対応である。
- ×d. 上部消化管内視鏡検査
内視鏡検査は、電池を取り出す手段であり、粘膜の損傷を評価する手段である。エックス線撮影で電池が食道にあると分かれば、症状がなくても緊急に内視鏡で摘出する。しかし、本例はまだ誤飲したかどうかも、電池の位置も確定していない。小児の内視鏡検査には全身麻酔や鎮静が必要になることが多い。そのため、画像で有無と位置を確認してから適応を判断する。最初に行う対応ではない。
- ×e. 自宅での経過観察を指示
リチウム電池が食道にとどまっている場合、無症状でも短時間で重い組織障害が進むおそれがある。症状がなく全身状態が良好だからといって、誤飲がないことにも、電池が安全な位置にあることにもならない。画像で位置を確認しないまま帰宅させるのは危険である。経過観察を検討できるのは、エックス線撮影で誤飲していないことが確認された場合や、電池がすでに胃より先に進み、緊急の摘出が不要と判断された場合に限られる。
小児の異物誤飲
誤飲は生後6か月から3歳ごろに多い。この時期は手にしたものを口に入れる行動が盛んで、喉の構造も未熟なためである。誤飲したものの多くは自然に排泄される。ただし、電池、強力な磁石の複数個、鋭いもの(針、画鋲など)は、自然排泄を待たず積極的に対応すべき危険な異物である。
コイン型リチウム電池の危険性
・直径20mm前後で3V程度の電圧があり、ボタン型アルカリ電池より電圧が高い。このため組織障害を起こしやすい。 ・食道の生理的狭窄部(特に入口部)にとどまりやすい。 ・粘膜に接して電流が流れると、負極側で水酸化物イオンが生じ、アルカリによる化学損傷(液化壊死)が進む。障害は2時間程度で起こりうる。 ・電池を取り出した後も、数日〜数週間たってから組織障害が進むことがある。食道穿孔、気管食道瘻、大動脈食道瘻(大量出血)、食道狭窄などを起こすことがあり、摘出後も注意して経過を観察する必要がある。
誤飲後の対応の流れ
(1) まず単純エックス線撮影(頸部〜腹部)で有無と位置を確認する。 (2) 食道にある場合は、症状がなくても緊急に内視鏡で摘出する。 (3) 胃より先にある場合、多くは自然に排泄される。ただし、症状がある場合や、年齢が低く電池が大きい場合などは、内視鏡(またはマグネットカテーテル)で摘出したり、食道の損傷を評価したりする。経過を観察する場合は、エックス線撮影を繰り返して排泄を確認する。 (4) 吐かせることは行わない。吐かせる途中で電池が食道や気道にとどまる危険があるためである。
予防
電池を使う製品は、電池の蓋がねじなどで簡単に開かない構造のものを選ぶ。使用済みの電池も子どもの手が届かない場所に保管するよう、保護者に指導する。
POINT
・コイン型リチウム電池の誤飲が疑われたら、まず単純エックス線撮影(頸部〜腹部)で有無と位置を確認する。 ・食道にとどまっている場合は、症状がなくても緊急に内視鏡で摘出する。 ・電池は正面像で縁が二重の輪(double ring/halo sign)に見え、硬貨と区別できる。 ・無症状や全身状態が良好なことは、安全を保証しない。画像で確認しないまま帰宅させてはならない。
