胃の中の画鋲は待てない―「鋭利な異物」は症状がなくても内視鏡で取る
第120回医師国家試験 D問題 第17問
国試問題にチャレンジ
1歳3か月の女児。画鋲を誤飲したため救急車で搬入された。机の上に置いてあった画鋲を飲んだところを母親が目撃し,救急車を要請した。飲み込んだ画鋲と同じものを持参している。体温36.4℃。心拍数110/分,整。血圧84/50mmHg。呼吸数30/分。SpO2 98%(room air)。機嫌はよく,顔色は良好である。努力呼吸を認めず,呼吸音に異常を認めない。腹部を軽く触ると平坦で軟らかく,啼泣は認めない。持参した画鋲の写真(A)と来院時の胸腹部エックス線写真(B)を下に示す。 適切な対応はどれか。

- a.浣腸
- b.活性炭の投与
- c.緩下薬の投与
- d.Heimlich法の実施
- e.上部消化管内視鏡による摘出
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
小児の異物誤飲では、まず呼吸状態と画像から気道異物か消化管異物かを区別し、次に異物の種類・大きさ・存在部位・症状の有無で対応を決めます。小さく鈍な異物が胃以遠にあれば経過観察が可能なことが多い一方、画鋲や針などの鋭利な異物は幽門や回盲部などで腸管穿孔を起こす危険があるため、内視鏡の届く範囲にあれば無症状でも早期に内視鏡で摘出します。浣腸や緩下薬で排泄を促すと内視鏡の届かない部位へ異物を送り込むことになり、活性炭は中毒の治療、Heimlich法は窒息に対する手技であるため、いずれも適応になりません。ボタン電池や複数の磁石も緊急性の高い異物として押さえておく必要があります。異物の性質から危険度を見積もる考え方は、救急外来での初期対応の基本になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・1歳3か月の女児。画鋲を飲み込むところを母親が見ており、誤飲は確実である。同じ画鋲を持参しているので、異物の形状と大きさがわかる。 ・体温36.4℃、心拍数110/分、血圧84/50mmHg、呼吸数30/分、SpO2 98%。いずれもこの年齢の正常範囲である。 ・機嫌・顔色は良好で、努力呼吸はなく、呼吸音にも異常がない。したがって、気道異物による気道閉塞の所見はない。 ・腹部は平坦・軟で、触っても泣かない。腹膜刺激症状はなく、現時点で消化管穿孔を示す所見はない。 ・持参した画鋲の写真(A):針が鋭く突出した金属異物である。 ・胸腹部エックス線写真(B):金属は放射線を通さないので、白く写る。異物は左上腹部の胃の位置にあり、食道や気道には認めない。
診断
無症状の胃内異物(鋭利な金属異物=画鋲)である。
設問の考え方
小児の消化管異物への対応は、①異物の種類(鋭利物、ボタン電池、磁石、硬貨など)、②大きさ・長さ、③存在部位(食道か胃以遠か)、④症状の有無、で決める。多くの小さく鈍な異物は、胃まで到達すれば自然に排泄されることが多く、経過観察でよい。一方、画鋲・針・魚骨・爪楊枝などの鋭利な異物は、腸管を通過する途中で壁に刺さり穿孔を起こす危険がある。特に、幽門、十二指腸の屈曲部、回盲部などの狭い部位や曲がった部位で引っかかりやすい。そのため、鋭利な異物が内視鏡の届く範囲(食道・胃・十二指腸)にあれば、症状がなくても早期に内視鏡で摘出する。食道内なら緊急で摘出し、胃内でも原則24時間以内の摘出が勧められる。摘出時は、針先で食道粘膜を傷つけないよう、針先を後ろに向けて把持する。また、オーバーチューブ(内視鏡の外側にかぶせる筒)やフード(先端の保護具)を使って粘膜を保護する。乳幼児では安静を保つことが難しいので、全身麻酔下で行うことが多い。
選択肢考察
- ×a. 浣腸
浣腸は直腸・S状結腸の便を排出させる処置であり、胃内の異物には直接の効果がない。腸蠕動を促して鋭利な異物を腸管へ送り出すことになれば、内視鏡で取れない位置まで移動させてしまう。その結果、腸管穿孔の危険を高めるだけであり、行うべきではない。
- ×b. 活性炭の投与
活性炭は、消化管内の薬物・毒物を吸着して吸収を防ぐ目的で、中毒の際に用いる。画鋲は化学的に毒性を示す物質ではないので、吸着する対象がない。さらに、黒い活性炭が胃内に残ると、内視鏡の視野が妨げられて摘出の支障となる。嘔吐や誤嚥の危険もあるため、本例では投与しない。
- ×c. 緩下薬の投与
緩下薬で腸管の動きを促して排泄させようとすると、鋭利な画鋲が腸管内を移動する途中で腸壁に刺さり、穿孔を起こすおそれがある。内視鏡で届かない小腸以遠へ移動すると、摘出には開腹・腹腔鏡手術が必要になりうる。そのため、鋭利な異物に対して緩下薬で排泄を促すことはしない。
- ×d. Heimlich法の実施
Heimlich法(腹部突き上げ法)は、気道異物で窒息しかけている、意識のある患者に行う気道異物除去法である。本例は呼吸状態が安定しており、エックス線写真でも異物は胃内にあるので、気道閉塞はない。消化管内の異物を吐き出させる方法ではないので、適応がない。なお、1歳未満の乳児の気道異物には、Heimlich法ではなく背部叩打法と胸部突き上げ法を行う。意識がなければ、ただちに心肺蘇生を開始する。
- ○e. 上部消化管内視鏡による摘出
画鋲は鋭く突出した針をもつ鋭利異物である。腸管を通過させると、幽門・十二指腸・回盲部などで刺さって穿孔するおそれがある。現在、異物は胃内にあり、上部消化管内視鏡で回収できる位置にある。無症状であっても、小腸へ移動する前に、可能な限り早く(原則24時間以内に)内視鏡で摘出するのが適切である。摘出時は、針先を後方に向けて把持する。また、オーバーチューブやフードで食道・咽頭の粘膜を保護しながら引き抜く。
小児消化管異物の対応の原則
・食道内異物:食道に停滞すると、潰瘍・穿孔・縦隔炎などの危険がある。鋭利物やボタン電池は緊急で摘出する。鈍な異物(硬貨など)でも、症状があるか長時間停滞していれば摘出する。 ・ボタン電池:粘膜と接触すると電流が流れ、アルカリが生じて短時間で組織が壊死する。食道内なら緊急摘出が必要である。胃内でも、大きな電池、乳幼児例、症状のある例では摘出を考慮する。 ・磁石:複数個または金属と同時に飲み込むと、腸管壁を挟んで引き合い、圧迫壊死・穿孔・瘻孔を起こす。原則として摘出を検討する。 ・鋭利物(画鋲・針・魚骨・爪楊枝など):内視鏡が届く範囲にあれば、無症状でも早期に摘出する。 ・大きい・長い異物:幽門や十二指腸を通過しにくいため、摘出を考える。長さの目安は年齢で異なり、乳幼児ではより短いものでも通過しにくい。 ・小さく鈍な異物が胃以遠にある場合:多くは自然に排泄されるので、便の観察とエックス線写真で経過をみる。腹痛・嘔吐・発熱・腹膜刺激症状が出たら、穿孔や腸閉塞を疑う。
画像検査の注意
金属異物は単純エックス線写真で確認できる。一方、プラスチック・木片・魚骨などは写りにくく、CTや内視鏡が必要になることがある。食道内の硬貨は、正面像で円形に見える。気管内の異物は前後方向の扁平な形に見えることがあり、側面像も併せて部位を確認する。
気道異物との区別
誤飲(消化管)と誤嚥(気道)を区別する。むせ込み、喘鳴、呼吸音の左右差、努力呼吸があれば気道異物を疑う。本例のように呼吸状態が正常で、異物が腹部に写れば消化管異物である。
POINT
・鋭利な消化管異物(画鋲・針など)は穿孔の危険が高いので、内視鏡の届く範囲にあれば無症状でも早期に内視鏡で摘出する(胃内でも原則24時間以内)。 ・浣腸や緩下薬で排泄を促すのは、鋭利異物では禁忌的である。活性炭は中毒の治療であり、異物には無効である。 ・Heimlich法は意識のある患者の気道異物による窒息に用いる。乳児では背部叩打法と胸部突き上げ法を行う。 ・ボタン電池(特に食道内)と複数個の磁石も、緊急性の高い異物として押さえる。
