StudyMed医師国家試験

噛むと痛む顎、こわばる肩―高齢者の新しい頭痛に潜む巨細胞性動脈炎を超音波で捉える

第120回医師国家試験 D問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第18問

70歳の男性。筋肉痛と頭痛を主訴に来院した。2週間前から大腿と上腕の筋肉痛が出現し,起床時のこわばりがひどくて寝返りも打てないため受診した。左側に拍動性の頭痛があり,食事をしていると顎の痛みが出てくる。体温37.2℃。左浅側頭動脈に結節状の腫脹と圧痛を認める。両側の上腕に把握痛を認める。四肢の筋力低下を認めない。関節に腫脹と圧痛を認めない。尿所見に異常を認めない。血液所見:赤血球295万,Hb 9.8g/dL,Ht 29%,白血球10,100,血小板38万。血液生化学所見:総蛋白6.9g/dL,AST 29U/L,ALT 28U/L,LD 178U/L(基準124~222),CK 66U/L(基準59~248),尿素窒素21mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL。免疫血清学所見:CRP 8.6mg/dL,リウマトイド因子〈RF〉陰性,抗核抗体陰性,MPO-ANCA陰性,PR3-ANCA陰性。胸部エックス線写真で異常を認めない。  診断に最も有用な検査はどれか。

  1. a.脳波検査
  2. b.呼吸機能検査
  3. c.針筋電図検査
  4. d.血管超音波検査
  5. e.末梢神経伝導検査

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の「近位部の痛みとこわばり」と「新しく始まった片側の頭痛」をどう結びつけ、どの検査で診断に迫るかを考える問題だ。注目してほしいのは、筋症状の性質と、頭頸部の血管に関する所見の2点。まず、大腿や上腕の筋肉痛と朝のこわばりから何を考えるかな。
医学生医学生
近位筋の痛みというと、多発性筋炎がまず浮かびました。CBTの勉強でも近位筋優位は筋炎の典型と覚えました。
ドクタードクター
鑑別に挙げるのは正しいね。ただ、筋炎なら筋そのものが壊れるから、筋力低下が出て、CKなどの筋原性酵素が上がるのが普通だ。この患者さんは痛みとこわばりは強いのに、筋力は保たれていてCKも正常。この「痛いけれど筋は壊れていない」という組み合わせは何を示唆するだろう。
医学生医学生
リウマチ性多発筋痛症でしょうか。膠原病内科の実習で、朝起き上がれないほどこわばるのにCKは正常、という高齢の患者さんを担当しました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。そう、リウマチ性多発筋痛症に合う所見だ。関節炎がなくRFも陰性だから、高齢発症の関節リウマチも考えにくい。では次に、頭痛と顎の痛み、そして側頭部の所見はどう解釈する?
医学生医学生
食事中に顎が痛くなるのは、顎関節症かなと一瞬思いました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、ここは「顎跛行」と捉えたい。下肢の間欠性跛行と同じで、咀嚼筋を栄養する動脈が狭くなっているために、噛み続けると血流が足りなくなって痛む現象なんだ。高齢者の新しい片側頭痛、顎跛行、浅側頭動脈の結節状の腫脹と圧痛がそろえば、巨細胞性動脈炎、いわゆる側頭動脈炎を強く疑う。CRP上昇、慢性炎症に伴う正球性貧血、反応性の血小板増加も炎症の強さを裏づけているね。
医学生医学生
筋痛症と動脈炎が一緒に起きているということですか。偶然の合併にしてはできすぎている気がします。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。実はこの2つは同じ病態のスペクトラムと考えられていて、巨細胞性動脈炎の4〜5割程度にリウマチ性多発筋痛症が合併するとされている。だから筋痛症を診たら、必ず頭痛や顎跛行、視覚症状を確認する習慣をつけたい。では本題、診断に最も有用な検査はどれだろう。
医学生医学生
血管の壁の炎症を見たいので、血管超音波検査だと思います。でも、確定診断は浅側頭動脈生検だと講義で習った気がします。
ドクタードクター
その理解も正しい。従来は生検が確定診断の基本だった。ただ現在は、非侵襲的にベッドサイドですぐ行える血管超音波検査が、第一に行う画像検査として位置づけられている。炎症で浮腫状に肥厚した動脈壁が、血流のある内腔を低エコーの輪として取り囲む「halo sign」が特徴的な所見だ。プローブで押しても低エコーの壁が潰れずに残るcompression signも参考になる。2022年のACR/EULAR分類基準でも、halo signは生検陽性と同じ枠で扱われているんだ。
医学生医学生
側頭動脈だけでなく、ほかの血管も見られるんですか。
ドクタードクター
腋窩動脈なども観察できるから、大型血管病変の評価にも使える。生検は病変が飛び飛びに分布するskip lesionのせいで偽陰性になりうるから、その点でも超音波の価値は大きい。では、ほかの検査がなぜ役に立たないかも確認しておこう。針筋電図検査はどうかな。
医学生医学生
筋痛を訴えているので筋電図を考えたくなりますが、筋力低下もCK上昇もないので、筋原性変化は出にくそうです。
ドクタードクター
その通り。筋電図は筋炎か神経原性疾患かを見分ける検査で、リウマチ性多発筋痛症でも巨細胞性動脈炎でも通常は正常だ。せいぜい筋炎を否定する材料になる程度で、診断には直結しない。末梢神経伝導検査も同様で、しびれや筋力低下のない今回は出番がない。血管炎で神経伝導検査を使うのは、結節性多発動脈炎やANCA関連血管炎のような中・小型血管炎による多発単神経炎を評価するときだね。
医学生医学生
脳波は頭痛だから、呼吸機能検査は高齢者の全身評価として、という引っかけでしょうか。
ドクタードクター
そう読めるね。脳波はてんかんや意識障害、脳炎・脳症を評価する検査で、この頭痛は動脈の炎症によるものだから異常は出ない。呼吸機能検査も呼吸器症状がなく、血管の情報は得られない。どれも「症状の部位」からの連想に引っ張られた選択肢だ。
医学生医学生
症状の場所ではなく、病変の本体である血管を直接見に行く、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後に臨床で一番大事なことを伝えておこう。巨細胞性動脈炎の最も重大な合併症は失明だ。眼動脈や後毛様体動脈が閉塞して前部虚血性視神経症を起こすと、回復は難しい。だから視覚症状があれば、検査結果を待たずに高用量ステロイドを始める。ステロイド開始後も早期なら生検所見は残りうるから、治療を遅らせる理由にはならない。再燃やステロイド減量困難な例では、IL-6受容体抗体のトシリズマブを併用することもある。
医学生医学生
若い女性の大型血管炎なら高安動脈炎で、50歳以上なら巨細胞性動脈炎、と年齢で分けて覚えておきます。
ドクタードクター
いい整理だね。高齢者の新しい頭痛を見たら、まず側頭動脈を触り、顎跛行と視覚症状を聞く。この一手間が患者さんの視力を守ることにつながるんだ。

まとめ

高齢者に新たな片側頭痛、顎跛行、浅側頭動脈の腫脹・圧痛がみられ、CRPなどの炎症反応が上昇していれば巨細胞性動脈炎を疑います。近位部の痛みと朝のこわばりがあっても筋力低下やCK上昇がなければリウマチ性多発筋痛症と考え、両者は合併しやすい連続した病態です。診断には、非侵襲的に施行できる血管超音波検査で動脈壁の浮腫性肥厚を示すhalo signを確認することが有用で、浅側頭動脈生検はskip lesionによる偽陰性に注意が必要です。針筋電図や神経伝導検査、脳波、呼吸機能検査は症状の部位からの連想に過ぎず、病変の本体である血管の評価にはなりません。最重要合併症である失明を防ぐため、視覚症状があればただちに高用量ステロイドを開始するという判断は、臨床で確実に身につけておくべきポイントです。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・70歳の高齢男性で、2週間という比較的急な経過である。 ・筋骨格症状:大腿と上腕(四肢近位部)の筋肉痛があり、起床時のこわばりが強く寝返りも打てない。両上腕に把握痛がある。一方、四肢の筋力低下はなく、CKも正常(66U/L)である。関節の腫脹・圧痛もない。 ・頭頸部症状:左側の拍動性頭痛があり、食事中に顎が痛くなる(顎跛行:咀嚼筋への血流が不足して、噛み続けると痛む症状)。左浅側頭動脈に結節状の腫脹と圧痛がある。 ・炎症所見:微熱(37.2℃)、白血球10,100、CRP 8.6mg/dLと上昇している。Hb 9.8g/dLの貧血があり、MCV(Ht/赤血球数から約98fL)からみて正球性で、慢性炎症に伴う貧血と考えられる。血小板も38万と高めで、反応性の増加と考えられる。 ・自己抗体:RF・抗核抗体・MPO-ANCA・PR3-ANCAはいずれも陰性である。尿所見・腎機能も正常である。

鑑別診断のプロセス

①近位筋の痛みとこわばり:高齢者の四肢近位部の痛みとこわばりでは、リウマチ性多発筋痛症(PMR)と多発性筋炎・皮膚筋炎をまず考える。本例は筋力低下がなく、CKなどの筋原性酵素も正常なので、筋炎は否定的である。痛みはあるが筋そのものは壊れていない、という所見はPMRに合う。関節炎の所見がなくRFも陰性なので、高齢発症関節リウマチも考えにくい。 ②頭痛・顎跛行・浅側頭動脈の異常:高齢者の新たな片側頭痛、顎跛行、浅側頭動脈の腫脹・圧痛は、巨細胞性動脈炎(GCA、従来の側頭動脈炎)に非常に特徴的である。ANCA陰性で尿所見も正常なので、ANCA関連血管炎などの小型血管炎は考えにくい。 ③まとめ:GCAの約半数近くにPMRが合併することが知られている。本例はGCAとPMRの合併と考えられる。

設問の考え方

GCAは、浅側頭動脈などの頭蓋の動脈や大動脈とその主要分枝を侵す大型血管炎である。診断には、罹患血管の壁の炎症を証明する必要がある。従来は浅側頭動脈生検が確定診断の基本であった。しかし現在では、血管超音波検査が非侵襲的で迅速に行える第一選択の画像検査として位置づけられている。浅側頭動脈(および腋窩動脈)の血管超音波検査で、壁の浮腫性肥厚を示すhalo sign(ハローサイン)を確認する。選択肢のうち、GCAの診断に直接役立つのは血管超音波検査だけである。

選択肢考察

  1. ×a.  脳波検査

    脳波検査は、てんかん、意識障害、脳炎・脳症など、大脳皮質の電気活動の異常を評価する検査である。本例の頭痛は浅側頭動脈の炎症によるもので、けいれんや意識障害もない。GCAでは脳波に特異的な異常は生じないので、診断には役立たない。

  2. ×b.  呼吸機能検査

    呼吸機能検査(スパイロメトリーなど)は、気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの閉塞性障害、間質性肺炎などの拘束性障害を評価する検査である。本例には呼吸器症状がなく、胸部エックス線写真も正常である。血管の炎症を示す情報も得られないので、GCAの診断には有用でない。

  3. ×c.  針筋電図検査

    針筋電図検査は、筋に針電極を刺して活動電位を記録し、筋原性変化(多発性筋炎・皮膚筋炎、筋ジストロフィーなど)か、神経原性変化(運動ニューロン疾患など)かを判定する検査である。本例は筋痛を訴えるが、筋力低下もCK上昇もなく、筋そのものの障害ではない。PMRやGCAでは針筋電図は通常正常である。むしろ筋電図が正常であることは、筋炎を否定する材料になる程度で、GCAの診断には直結しない。

  4. ○d.  血管超音波検査

    GCAでは、罹患した動脈の壁が炎症で浮腫状に肥厚する。超音波では、血流のある内腔の周りを低エコーの輪が取り囲むように見え、これをhalo sign(ハローサイン)とよぶ。プローブで動脈を圧迫しても、肥厚した壁が低エコー帯として残るcompression signも参考になる。浅側頭動脈に加えて腋窩動脈なども観察でき、大型血管病変も評価できる。血管超音波検査は非侵襲的にベッドサイドで迅速に施行でき、現在の分類基準でも生検陽性と同等の重みをもつ所見として扱われる。本例のように左浅側頭動脈の腫脹・圧痛が明らかな症例では、最も有用な検査である。

  5. ×e.  末梢神経伝導検査

    末梢神経伝導検査は、手足のしびれや筋力低下があるときに、末梢神経障害の有無や型(軸索障害か脱髄か)を評価する検査である。血管炎では、中・小型血管炎(結節性多発動脈炎やANCA関連血管炎など)による多発単神経炎の評価に用いられる。本例にはしびれも筋力低下もなく、大型血管炎であるGCAの診断には寄与しない。

巨細胞性動脈炎(GCA)

・50歳以上(多くは70歳代)に発症する大型血管炎で、女性にやや多い。欧米の白人に多く、日本では比較的まれである。 ・病理:動脈壁、特に内弾性板付近に、多核巨細胞を含む肉芽腫性炎症が起こる。 ・症状:新たに起こった頭痛(側頭部に多い)、頭皮の圧痛(髪をとかすと痛むなど)、顎跛行、浅側頭動脈の腫脹・圧痛・拍動の減弱がある。発熱、体重減少、倦怠感などの全身症状も伴う。大動脈やその分枝が侵されると、上肢の跛行や脈拍の左右差、大動脈瘤を生じる。 ・最も重大な合併症は失明である。眼動脈・後毛様体動脈の閉塞による前部虚血性視神経症が原因で、いったん失明すると回復しにくい。そのため、視覚症状がある場合は検査結果を待たずにステロイドを開始する。 ・検査:赤沈とCRPが著明に上昇し、慢性炎症に伴う正球性貧血や血小板増加を伴う。自己抗体は陰性である。 ・画像診断:血管超音波(halo sign)、MRI、FDG-PET/CT(大型血管病変の評価)を用いる。 ・病理診断:浅側頭動脈生検を行う。病変が飛び飛びに分布する(skip lesion)ため、十分な長さの検体が必要で、陰性でもGCAを否定しきれない。ステロイド開始後も、早期であれば生検の所見は残りうる。 ・分類基準(2022年ACR/EULAR):50歳以上の発症を前提とする。臨床項目(肩・頸部の朝のこわばり、突然の視力障害、顎跛行・舌跛行、新たな側頭部痛、頭皮の圧痛、側頭動脈の診察所見の異常)、検査項目(赤沈・CRPの高値)、画像・病理項目(生検陽性またはhalo sign、両側腋窩動脈病変、FDG-PETでの大動脈病変)を点数化して判定する。 ・治療:高用量の副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が基本である。再燃例やステロイド減量が困難な例では、IL-6受容体抗体であるトシリズマブを併用する。

リウマチ性多発筋痛症(PMR)

・50歳以上に発症し、両肩・頸部・腰部・大腿など近位部の痛みと、朝のこわばりが特徴である。 ・筋力低下はなく、CKも正常である。赤沈・CRPは上昇し、RF・抗CCP抗体は陰性である。 ・少量から中等量のステロイドが著効することも診断の手がかりとなる。 ・PMRとGCAは同じ病態の連続と考えられており、互いに合併しやすい。PMRの患者を診たら、頭痛・顎跛行・視覚症状などGCAの症状がないかを必ず確認する。

大型血管炎の比較

高安動脈炎は、主に50歳未満の若年女性に多く、大動脈とその分枝を侵す。GCAとは発症年齢で区別する。

POINT

・高齢者で新たな頭痛、顎跛行、浅側頭動脈の腫脹・圧痛があり、CRP・赤沈が上昇していれば、巨細胞性動脈炎(GCA)を疑う。 ・GCAの診断には、血管超音波でのhalo sign(壁の浮腫性肥厚)が非侵襲的で有用である。病理診断は浅側頭動脈生検で行い、skip lesionのため偽陰性がありうる。 ・近位筋痛と朝のこわばりがあり、筋力低下やCK上昇がなければ、リウマチ性多発筋痛症(PMR)である。PMRとGCAは合併しやすい。 ・GCAの最重要合併症は失明である。視覚症状があれば、ただちに高用量ステロイドを開始する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。