紫斑・関節痛・腹痛の三拍子―IgA血管炎で見逃せない「腎」と「腸」
第120回医師国家試験 A問題 第70問
国試問題にチャレンジ
4歳の女児。皮疹,両足関節の痛み及び腹痛を主訴に父親に連れられて来院した。1週間前に発熱と咽頭痛が出現し,自宅近くの診療所を受診した。2日前から発疹と両足関節の痛みが出現した。今朝から腹痛を訴えているため受診した。体温36.9℃。脈拍68/分,整。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。咽頭に発赤を認めない。扁桃に腫大を認めない。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,臍周囲に圧痛を認める。尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-),沈渣に白血球を認めない。血液所見:赤血球466万,Hb 12.1g/dL,Ht 39%,白血球8,900(好中球62%,単球8%,リンパ球30%),血小板37万,PT-INR 1.0(基準0.9~1.1),APTT 29.0秒(基準対照32.2)。CRP 0.2mg/dL。下腿の写真を下に示す。 この患児で注意すべき合併症はどれか。2つ選べ。

- a.腎炎
- b.冠動脈瘤
- c.腸重積症
- d.間質性肺炎
- e.大動脈弁閉鎖不全
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
上気道感染に続いて下肢優位の触知可能な紫斑、関節痛、腹痛が出現し、血小板数と凝固能が正常であればIgA血管炎を考えます。注意すべき合併症は、長期予後を左右する腎炎(IgA血管炎腎炎)と、腸管壁の浮腫や血腫を先進部とする腸重積症(回腸-回腸型が多い)の2つです。腎炎は紫斑から遅れて出ることが多いため、初診時の尿所見が正常でも数か月は尿検査と血圧で経過を追い、腸重積は腹痛の増悪や血便があれば腹部超音波で確認します。冠動脈瘤は川崎病、大動脈弁閉鎖不全はリウマチ熱や高安動脈炎、間質性肺炎は皮膚筋炎などの合併症であり、血管炎ごとに侵す血管の太さと合併症を対応させて覚えることが、小児の血管炎を見分ける力につながります。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・4歳女児 ・1週間前に発熱・咽頭痛(上気道感染が先行) ・2日前から皮疹と両足関節痛、本日から腹痛 ・バイタルサインは安定(体温36.9℃、脈拍68/分)。貧血・黄疸を示す結膜所見なし ・咽頭発赤・扁桃腫大・頸部リンパ節腫脹なし(現在の症状は上気道感染そのものによるものではない) ・腹部:平坦・軟、臍周囲に圧痛(腹膜刺激症状の記載なし) ・尿所見:蛋白・潜血とも陰性(現時点で腎病変はない) ・血算:血小板37万と正常、PT-INR・APTT も正常、CRP 0.2mg/dL と炎症反応は軽度 ・下腿の写真:両下腿に多発する紫斑(点状〜斑状の、わずかに盛り上がって触れる紫斑)
診断へのプロセス
小児の紫斑をみたら、まず血小板と凝固系を確認する。本例は血小板数・凝固能が正常なので、免疫性血小板減少症(ITP)や白血病、血友病などの凝固因子異常は否定的である。血小板・凝固が正常な紫斑は、血管の異常(血管炎など)によるものを考える。 上気道感染に続いて、下腿優位の触知可能な紫斑、関節痛、腹痛が出現しており、IgA 血管炎(旧称 Henoch-Schönlein 紫斑病、Schönlein-Henoch 紫斑病)の典型像である。IgA 血管炎は IgA を含む免疫複合体が全身の小血管壁に沈着して起こる小型血管炎で、小児の血管炎としては川崎病に次いで多く、4〜6歳ごろに好発する。紫斑はほぼ全例、関節症状は約7〜8割、腹痛などの消化器症状は半数以上にみられる。
設問の考え方
IgA 血管炎で特に注意すべき合併症は、①長期予後を左右する腎炎(IgA 血管炎腎炎)と、②消化管病変に伴う急性の外科的合併症である腸重積症である。本例は現時点では尿所見が正常だが、腎炎は紫斑の出現からしばらくして現れることが多いため、正常でも経過観察を続ける必要がある。また、腹痛がある患児では腸重積の発症に注意する。
選択肢考察
- ○a. 腎炎
IgA 血管炎では糸球体のメサンギウム領域に IgA が沈着し、血尿・蛋白尿を呈する腎炎(IgA 血管炎腎炎、紫斑病性腎炎)を合併する。頻度は報告により2〜5割程度で、多くは発症から1か月以内、ほとんどが数か月以内に出現する。大部分は血尿のみの軽症で自然に軽快するが、ネフローゼ症候群や腎機能低下を伴う例は慢性腎臓病へ進行することがあり、生命・長期予後に最も影響する合併症である。本例は初診時の尿所見が正常だが、それで腎炎が否定されるわけではなく、発症後おおむね半年間は血圧測定と尿検査を定期的に行って経過をみる。
- ×b. 冠動脈瘤
冠動脈瘤は川崎病の代表的な合併症である。川崎病は中型血管を主体とする血管炎で、5日以上続く発熱、両側眼球結膜充血、口唇発赤・いちご舌、不定形発疹、四肢末端の変化(硬性浮腫、回復期の膜様落屑)、非化膿性頸部リンパ節腫脹を特徴とする。本例は来院時に発熱がなく、結膜・口唇・リンパ節の所見もなく、紫斑という皮疹の性状も川崎病とは異なる。IgA 血管炎で冠動脈瘤を合併することはない。
- ○c. 腸重積症
IgA 血管炎では腸管壁の血管炎により粘膜下に浮腫や血腫が生じ、これが先進部となって腸重積症を起こすことがある(数%程度)。小児に一般的な特発性腸重積が回盲部(回腸-結腸型)に多いのに対し、IgA 血管炎に伴うものは小腸どうしが重なる回腸-回腸型が多く、注腸による整復が難しく手術を要することがある。腹痛の増悪、嘔吐、血便、腹部腫瘤を認めたら腹部超音波検査で確認する。その他、消化管出血や穿孔にも注意が必要である。
- ×d. 間質性肺炎
間質性肺炎は、皮膚筋炎(小児では若年性皮膚筋炎、特に抗 MDA5 抗体陽性例)、全身性強皮症、ANCA 関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎など)などの膠原病・血管炎で問題となる合併症である。IgA 血管炎でまれに肺胞出血の報告はあるが、間質性肺炎は注意すべき代表的合併症ではない。
- ×e. 大動脈弁閉鎖不全
大動脈弁閉鎖不全は、リウマチ熱(リウマチ性心臓病)、高安動脈炎、Behçet 病、梅毒性大動脈炎、Marfan 症候群などで生じ、川崎病でもまれにみられる。IgA 血管炎は小血管の血管炎であり、心臓弁や大動脈を障害することはないため、注意すべき合併症には当たらない。
IgA 血管炎の概要
・病態:IgA(特に糖鎖異常を持つ IgA1)を含む免疫複合体が小血管(毛細血管、細動脈、細静脈)壁に沈着して起こる白血球破砕性血管炎。 ・誘因:溶血性レンサ球菌などによる上気道感染、薬剤、食物、虫刺されなどが先行することが多い。 ・好発:3〜10歳(ピークは4〜6歳)。成人にも起こり、成人例は腎炎が重症化しやすい。
症状
・紫斑:下肢(下腿・足背)や臀部に左右対称性に分布する、わずかに隆起して触れる紫斑(palpable purpura)。 ・関節症状:足関節・膝関節の腫脹・疼痛。変形を残さず治癒する。 ・消化器症状:疝痛様の腹痛、嘔吐、下血。紫斑より先に腹痛が出ると急性腹症と紛らわしい。腹部超音波で十二指腸・小腸壁の限局的な肥厚がみられる。 ・腎症状:血尿・蛋白尿。
検査
・血小板数・凝固能(PT、APTT)は正常。 ・凝固第XIII因子活性の低下がしばしばみられ、腹部症状の重症度と関連する。 ・血清 IgA の上昇が約半数でみられる。FDP や D ダイマーの上昇が血管炎の活動性を反映するとされる。 ・診断が難しい例では皮膚生検で血管壁への IgA 沈着を確認する。 ・分類基準(EULAR/PRINTO/PRES):下肢優位の触知可能な紫斑(必須)に加え、腹痛、組織での IgA 沈着、関節炎・関節痛、腎病変(血尿・蛋白尿)のうち1つ以上。
治療
・多くは自然軽快し、安静と対症療法が基本。関節痛には鎮痛薬を用いる。 ・強い腹痛・消化管出血には絶食・補液を行い、副腎皮質ステロイドが腹痛の早期改善に有効である。第XIII因子が低下した重症の腹部症状に第XIII因子製剤を用いることがある。 ・腎炎が高度(ネフローゼ症候群、腎機能低下)の場合は腎生検で組織を評価し、ステロイドや免疫抑制薬などで治療する。 ・ステロイドの予防投与で腎炎の発症は防げないとされる。
小児の紫斑の鑑別
・血小板減少あり:ITP、白血病、再生不良性貧血、溶血性尿毒症症候群 ・凝固異常あり:血友病、ビタミン K 欠乏症、播種性血管内凝固(DIC) ・血小板・凝固正常:IgA 血管炎、虐待による外傷
POINT
・上気道感染後の下肢優位の触知可能な紫斑+関節痛+腹痛、血小板・凝固正常 → IgA 血管炎 ・注意すべき合併症は腎炎(長期予後を規定)と腸重積症(回腸-回腸型が多い) ・腎炎は遅れて出現することが多く、初診時の尿所見が正常でも数か月間は尿検査・血圧で経過観察 ・冠動脈瘤は川崎病、大動脈弁閉鎖不全はリウマチ熱・高安動脈炎・Behçet 病など、間質性肺炎は皮膚筋炎などの合併症 ・凝固第XIII因子の低下は腹部症状の重症度と関連
