StudyMed医師国家試験

繰り返す口内炎と前房蓄膿―Behçet病を支える「針反応」と「HLA」

第120回医師国家試験 F問題 第59問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第59問

32歳の男性。左眼の充血と視力低下を主訴に来院した。3日前から左眼の充血と視力低下を自覚したため受診した。数年前から有痛性の口内炎も繰り返し出現している。視力は右眼1.2(矯正不能),左眼0.1(矯正不能)。左眼の細隙灯顕微鏡写真を下に示す。  診断に有用な検査はどれか。2つ選べ。

第120回 F問題 第59問の問題画像
  1. a.針反応
  2. b.聴力検査
  3. c.胸部エックス線撮影
  4. d.組織適合抗原〈HLA〉検査
  5. e.血清アンジオテンシン変換酵素測定

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い男性の片眼の急性の充血・視力低下から原因疾患を推定して、その診断に役立つ検査を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、細隙灯顕微鏡写真の前房の所見と、数年来の「有痛性の口内炎」という一見眼とは関係なさそうな病歴の2つだよ。
医学生医学生
写真では前房の下のほうに白いものがたまって、水平な線をつくっていますね。前房蓄膿でしょうか。
ドクタードクター
その通り。前房蓄膿は、前房内に大量の炎症細胞、主に好中球が出てきて重力で下方に沈んだもので、上縁が水平な液面(ニボー)になる。強い非肉芽腫性の前部ぶどう膜炎、つまり虹彩毛様体炎を示す所見だ。眼鏡で矯正できない視力低下も、屈折の問題ではなく眼内の炎症によるものと考えられる。
医学生医学生
眼科の講義で、ぶどう膜炎の三大原因はサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病と習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。その3つを、肉芽腫性か非肉芽腫性か、両眼性か片眼性かで分けてみよう。サルコイドーシスと原田病は肉芽腫性で、豚脂様の角膜後面沈着物などを伴い、両眼性が多い。前房蓄膿はまれだ。一方Behçet病は非肉芽腫性で、前房蓄膿が特徴的。しかも左右差をもって片眼ずつ発作を繰り返すことが多い。
医学生医学生
口内炎を繰り返しているのもBehçet病っぽいです。でも、前房蓄膿だけならHLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎も考えられませんか。
ドクタードクター
いい鑑別だね。HLA-B27関連のぶどう膜炎も片眼性・非肉芽腫性で、前房蓄膿を伴うことがある。ただ背景にあるのは強直性脊椎炎などの脊椎関節炎で、再発性の口腔内アフタは伴わない。若年男性、片眼の急性ぶどう膜炎、前房蓄膿、反復する有痛性口内炎という組み合わせなら、Behçet病が最も考えやすい。
医学生医学生
Behçet病って、何か確定診断できる検査はあるんですか。抗体とか。
ドクタードクター
そこが大事なポイントで、Behçet病には疾患特異的な確定診断検査がない。口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍という4つの主症状と副症状の組み合わせで診断するんだ。そのうえで診断基準に「参考となる検査所見」として挙げられているのが、針反応とHLA-B51(B5)・HLA-A26の陽性。これが今回の正解の2つになる。
医学生医学生
針反応は、皮膚に針を刺して反応をみる検査ですよね。
ドクタードクター
そう。Behçet病では皮膚が軽い刺激に過敏に反応する、いわゆる被刺激性亢進がある。滅菌した針で前腕を穿刺し、24〜48時間後に紅斑や小膿疱が出れば陽性だ。採血部位が赤く腫れたり、髭剃り後に毛嚢炎様の発疹が出たりするのも同じ現象だよ。特異度は高いけれど、近年わが国では陽性率が下がっていることも知っておこう。
医学生医学生
HLAのほうは、B51が陽性ならBehçet病と言い切れるわけではないですよね。免疫学の講義で、健常者にも結構いると聞きました。
ドクタードクター
その理解で正しい。日本の患者ではHLA-B51の陽性率が約半数以上と健常者より明らかに高いけれど、健常者にも陽性者はいる。陽性でも確定にはならず、陰性でも否定はできない。HLA-A26は特に眼病変のある例との関連が知られている。ちなみに原田病はHLA-DR4、急性前部ぶどう膜炎はHLA-B27と関連する。
医学生医学生
残りの聴力検査、胸部エックス線、血清ACEは、ほかの三大原因のための検査ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。聴力検査は原田病で使う。原田病はメラノサイトを標的とする自己免疫疾患だから、眼だけでなく内耳の感音難聴、髄膜炎症状、回復期の白斑・白髪が出る。胸部エックス線と血清ACEはサルコイドーシスで、両側肺門リンパ節腫脹の確認や、類上皮細胞が産生するACEの上昇をみる。どれもBehçet病の診断には役立たない。
医学生医学生
つまり、まず病像から原因疾患をBehçet病に絞って、そのうえで鑑別疾患ごとの検査と区別すればいいんですね。
ドクタードクター
その流れで完璧だ。最後に臨床の注意点を少し。Behçet病の前房蓄膿はフィブリンが少なくさらさらしていて、頭位で移動しやすく、発作は比較的短期間で軽快しても繰り返す。眼底病変を繰り返すと視力予後が悪いので、発作予防が重要になる。発作時はステロイド点眼と散瞳薬、予防にはコルヒチンやシクロスポリン、効果不十分例や重症例では抗TNF-α抗体のインフリキシマブやアダリムマブを使う。
医学生医学生
臨床実習の膠原病内科で、腸管型や神経型の話も聞きました。
ドクタードクター
そう、消化器・血管・神経病変が前面に出る特殊型は重症化しやすい。眼科で診断のきっかけをつかんだら、全身を診る視点を忘れないことが大切だよ。

まとめ

若年者の片眼性の急性ぶどう膜炎に前房蓄膿と再発性の有痛性口腔内アフタを伴う場合、非肉芽腫性ぶどう膜炎を発作性に繰り返すBehçet病を第一に考えます。Behçet病には確定診断検査がなく、主症状・副症状の組み合わせで診断し、参考となる検査所見として針反応(皮膚の被刺激性亢進)とHLA-B51・A26陽性が挙げられますが、いずれも単独で確定や否定はできません。聴力検査はVogt-小柳-原田病、胸部エックス線(両側肺門リンパ節腫脹)や血清ACEはサルコイドーシスの診断に用いる検査で、ぶどう膜炎の三大原因それぞれの特徴的検査を整理しておくことが鑑別の助けになります。眼病変の治療では発作予防が視力予後を左右し、コルヒチンやシクロスポリン、抗TNF-α抗体が用いられるため、眼所見から全身疾患を見抜く力が臨床で重要です。

解答・解説

正解はa, dです

所見の整理

・32歳の男性。比較的若年の成人男性である。 ・3日前からの左眼の充血と視力低下。片眼性で急性発症し、視力は左眼0.1(矯正不能)まで低下している。眼鏡で矯正できない視力低下は、屈折異常ではなく眼内の器質的病変(炎症など)を示唆する。 ・数年前から有痛性の口内炎を繰り返している。再発性の口腔内アフタ性潰瘍が疑われる。 ・細隙灯顕微鏡写真:結膜(毛様)充血とともに、前房の下方に白色の沈殿が水平な液面(ニボー)を形成している。これは前房蓄膿(hypopyon:前房内に炎症細胞が多量に出て下方に沈んだもの)であり、強い非肉芽腫性の前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)を示す。

鑑別診断のプロセス

急性の充血と視力低下で前房に炎症所見があることから、ぶどう膜炎を考える。ぶどう膜炎の三大原因として、サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病が知られる。 ・サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病:肉芽腫性ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節などを伴う)で、両眼性が多い。前房蓄膿はまれである。 ・ヘルペス性虹彩毛様体炎:片眼性だが、肉芽腫性の炎症で眼圧上昇を伴いやすく、前房蓄膿は通常みられない。 ・急性前部ぶどう膜炎(HLA-B27関連など):片眼性・非肉芽腫性で前房蓄膿を伴うこともあるが、口内炎などの粘膜症状は伴わず、強直性脊椎炎などの脊椎関節炎を背景にすることが多い。 ・Behçet病:非肉芽腫性ぶどう膜炎で、前房蓄膿は特徴的所見である。左右差をもって片眼ずつ発作を繰り返すことが多い。再発性口腔内アフタ性潰瘍はほぼ全例にみられる。 本例は、若年男性・片眼の急性ぶどう膜炎・前房蓄膿・反復する有痛性口内炎の組み合わせから、Behçet病が最も考えやすい。

設問の考え方

Behçet病の診断は、主症状(口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍)と副症状の組み合わせで行い、疾患特異的な確定診断検査は存在しない。そのため診断基準では、参考となる検査所見として針反応とHLA-B51(B5)・HLA-A26の陽性が挙げられている。これらがBehçet病の診断に有用な検査である。その他の選択肢は、鑑別疾患(Vogt-小柳-原田病、サルコイドーシス)の診断に用いる検査である。

選択肢考察

  1. ○a.  針反応

    Behçet病では皮膚が軽い刺激に過敏に反応する(皮膚の被刺激性亢進)。採血や点滴の刺入部位が赤く腫れたり、髭剃り後に毛嚢炎様の発疹が出たりするのはこのためである。針反応(パテルギー試験)は、滅菌した針で前腕皮膚を穿刺し、24~48時間後に穿刺部に紅斑・丘疹・小膿疱が生じれば陽性とする検査で、Behçet病の診断基準で参考となる検査所見に含まれる。疾患特異度は高いが、近年わが国では陽性率が低下している。診断に有用な検査として正しい。

  2. ×b.  聴力検査

    聴力検査が診断に役立つぶどう膜炎は、Vogt-小柳-原田病である。この病気はメラノサイト(色素細胞)を標的とする自己免疫疾患で、メラノサイトの分布する眼(両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎・漿液性網膜剝離)、髄膜(頭痛、髄液細胞増多)、内耳(感音難聴、耳鳴、めまい)、皮膚・毛髪(回復期の白斑、白髪、脱毛)が障害される。本例は片眼性で前房蓄膿と口内炎を伴い、Vogt-小柳-原田病の病像とは異なるため、Behçet病の診断に聴力検査は役立たない。

  3. ×c.  胸部エックス線撮影

    胸部エックス線撮影は、サルコイドーシスの診断で両側肺門リンパ節腫脹(bilateral hilar lymphadenopathy:BHL)や肺野病変を確認するために行う。サルコイドーシスのぶどう膜炎は両眼性の肉芽腫性ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節、隅角結節、網膜静脈周囲炎など)が典型で、前房蓄膿や再発性口内炎は特徴ではない。Behçet病の診断に有用な検査ではない。

  4. ○d.  組織適合抗原〈HLA〉検査

    Behçet病は特定のHLA(ヒト白血球抗原)と強く関連し、わが国の患者ではHLA-B51の陽性率が約半数以上と、健常者(1~2割程度)より明らかに高い。HLA-A26との関連も知られ、特に眼病変を伴う例で陽性率が高い。診断基準でもHLA-B51(B5)・A26の陽性は参考となる検査所見に挙げられている。ただし健常者にも陽性者がおり、陽性でも確定診断にはならず、陰性でも否定はできない点に注意する。診断に有用な検査として正しい。なお、Vogt-小柳-原田病ではHLA-DR4、急性前部ぶどう膜炎ではHLA-B27との関連が知られる。

  5. ×e.  血清アンジオテンシン変換酵素測定

    血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、サルコイドーシスの肉芽腫を構成する類上皮細胞などから産生されるため、サルコイドーシスで上昇し、診断や活動性の指標として用いられる(リゾチーム、可溶性インターロイキン2受容体なども同様の目的で測定される)。Behçet病では特異的に上昇するものではなく、本例の診断には役立たない。

Behçet病の概要

口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍を主症状とし、急性炎症発作を繰り返す原因不明の全身性炎症性疾患である。好中球の機能亢進が病態に関わり、HLA-B51との関連が強い。日本、トルコ、中東などシルクロード沿いの地域に多い。20~40歳代に好発し、眼病変などの重症型は男性に多い。

主症状

・口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍:ほぼ全例にみられ、初発症状となることが多い。 ・皮膚症状:結節性紅斑様皮疹、皮下の血栓性静脈炎、毛嚢炎様皮疹・痤瘡様皮疹。皮膚の被刺激性亢進(針反応陽性)。 ・眼症状:非肉芽腫性ぶどう膜炎。前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎や、網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)を発作性に繰り返す。眼底病変を繰り返すと視力予後が悪い。 ・外陰部潰瘍:陰嚢、陰茎、大小陰唇などの有痛性潰瘍。

副症状

関節炎(変形・強直を伴わない)、精巣上体炎(副睾丸炎)、回盲部潰瘍に代表される消化器病変、血管病変、中等度以上の中枢神経病変。消化器・血管・神経病変が前面に出る病型は特殊型(腸管型・血管型・神経型)とよばれ、重症化しやすい。

診断(厚生労働省研究班の基準の要旨)

・完全型:経過中に4主症状が出現したもの。 ・不全型:3主症状、2主症状と2副症状、定型的眼症状と1主症状、または定型的眼症状と2副症状が出現したもの。 ・参考となる検査所見:針反応陽性、HLA-B51(B5)陽性またはHLA-A26陽性、炎症反応(赤沈亢進、CRP陽性、白血球増加など)。病理所見も参考とする。 本例は再発性口腔内アフタ性潰瘍と定型的眼症状(前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎)を有しており、臨床症状の組み合わせからも不全型Behçet病に該当しうる。

Behçet病の前房蓄膿の特徴

炎症が強くても線維素(フィブリン)の析出が少ないため、前房蓄膿はさらさらとして、頭位を変えると移動しやすい。発作は急激に起こり、比較的短期間で自然軽快しやすいが、反復することが特徴である。

治療の概略(眼病変)

発作時は副腎皮質ステロイド点眼・散瞳薬で消炎する。発作予防にはコルヒチン、シクロスポリン、効果不十分例や重症例では抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ)を用いる。副腎皮質ステロイドの全身投与は眼発作を誘発・悪化させうるため、眼病変に対しては原則として慎重に扱う。

ぶどう膜炎の三大原因の比較

・サルコイドーシス:肉芽腫性、両眼性が多い。BHL、血清ACE・リゾチーム・可溶性IL-2受容体上昇、ツベルクリン反応陰性化。 ・Vogt-小柳-原田病:肉芽腫性、両眼性。漿液性網膜剝離、髄液細胞増多、感音難聴、回復期の夕焼け状眼底・白斑・白髪。HLA-DR4と関連。 ・Behçet病:非肉芽腫性、発作性・反復性、前房蓄膿。口腔内アフタ、皮膚症状、外陰部潰瘍。針反応陽性、HLA-B51・A26と関連。

POINT

・若年者の片眼性の急性ぶどう膜炎+前房蓄膿+再発性口腔内アフタ → Behçet病。 ・Behçet病の診断の参考となる検査:針反応(皮膚の被刺激性亢進)、HLA-B51・A26。ただしいずれも確定診断にはならない。 ・ぶどう膜炎の三大原因と特徴的検査:サルコイドーシス → 胸部エックス線(BHL)・血清ACE、Vogt-小柳-原田病 → 聴力検査・髄液検査・HLA-DR4、Behçet病 → 針反応・HLA-B51。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。