「どこまで一人で出かけられるか」で決まる―寝たきり度J2を読み解く主治医意見書
第120回医師国家試験 F問題 第60問
国試問題にチャレンジ
88歳の女性。要介護認定の申請にあたって,主治医意見書作成のため,長女とともに来院した。68歳から一人暮らしである。これまで持病はなく内服薬はない。これまでは自分で調理していたが,①最近は宅配のお弁当を利用している。②生活用品は近所のお店で買っている。尿失禁はあるが尿とりパッドを自分で交換しており汚すことはない。③長女のところにバスに乗って行くことができなくなり,今は長女が週に1回様子を見に行くようにしている。昔から頑固で自立心が強い。④本人は受診について不満で,支援は不要と考えている様子である。医療面接では⑤同じ話の繰り返しがあり,会話の内容として理解困難なものも含まれる。歩行は正常で,ふらつきや疼痛・しびれはないという。 障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)を下記の表に照らし合わせ「J 2」と判断した。 生活自立 ランク J 何らかの障害を有するが,日常生活はほぼ自立しており独力で外出する。 1.交通機関等を利用して外出する。 2.隣近所へなら外出する。 準寝たきり ランク A 屋内での生活は概ね自立しているが,介助なしには外出しない。 1.介助により外出し,日中はほとんどベッドから離れて生活する。 2.外出の頻度が少なく,日中も寝たり起きたりの生活をしている。 寝たきり ランク B 屋内での生活は何らかの介助を要し,日中もベッド上での生活が主体であるが,座位を保つ。 1.車椅子に移乗し,食事,排泄はベッドから離れて行う。 2.介助により車椅子に移乗する。 ランク C 1日中ベッド上で過ごし,排泄,食事,着替において介助を要する。 1.自力で寝返りをうつ。 2.自力では寝返りもうたない。 下線部のうち,判断の根拠となった項目はどれか。2つ選べ。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)は、身体的な障害による生活の自立度を、主に外出の範囲と日中の離床の程度で判定する指標で、J1は交通機関を利用して外出、J2は隣近所へなら外出、Aは介助なしには外出しない状態です。本問では、近所の店で買い物をしていること(隣近所へは独力で外出)と、バスで長女宅へ行けなくなったこと(交通機関を使う外出はしない)の2点からJ2と判断されます。調理の変化はIADLの低下、支援不要という思いは本人の意向、話の繰り返しは認知機能低下の情報であり、最後のものは「認知症高齢者の日常生活自立度」の判定に用います。主治医意見書は介護認定審査会やケアプラン作成の資料となるため、身体面と認知面の指標を区別して正確に記載することが、適切な介護支援につながります。
解答・解説
正解はb, cです
問われていること
要介護認定の主治医意見書には、心身の状態を示す指標として「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」と「認知症高齢者の日常生活自立度」の2つを記載する欄がある。本問は前者を「J2」と判定した根拠を、下線部から選ばせる問題である。
寝たきり度の判定の考え方
障害高齢者の日常生活自立度は、身体的な障害による移動・生活の自立の程度を、主に「どこまで独力で外出できるか」「日中どの程度ベッドから離れているか」という観察可能な行動で判定する。認知機能、本人の意向、家事などの手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living:IADL)の巧拙は、判定の直接の根拠にはならない。 ランクJ(生活自立)は「何らかの障害はあるが日常生活はほぼ自立し、独力で外出する」状態で、外出の範囲によって次のように細分される。 ・J1:交通機関等を利用して外出する。 ・J2:隣近所へなら外出する。 したがってJ2と判定するには、(1) 近所へは独力で外出できること(J2に該当する根拠)と、(2) 交通機関を使った外出はできないこと(J1ではない根拠)の2点を確認すればよい。
症例の整理
・②「生活用品は近所のお店で買っている」→ 隣近所へは一人で外出できる。J2の定義に合致する。 ・③「長女のところにバスに乗って行くことができなくなり」→ 交通機関を利用した外出はできなくなった。J1には該当しない。 ・歩行は正常でふらつきや痛みもなく、尿失禁も自分でパッド交換して対処できており、屋内の生活は自立している。介助なしに外出しないランクA以下には該当しない。 以上から、②と③がJ2判定の根拠となる。一方、①はIADL(調理)の変化、④は本人の意向、⑤は認知機能低下を示す情報であり、寝たきり度の判定には用いない。なお⑤は、もう一方の指標である「認知症高齢者の日常生活自立度」の判定に用いる情報である。
選択肢考察
- ×a. ①
「これまでは自分で調理していたが、最近は宅配のお弁当を利用している」は、調理というIADLが難しくなってきたことを示す情報である。認知機能低下や意欲低下などが背景にある可能性があり、生活支援の必要性を考えるうえでは重要だが、寝たきり度は外出の範囲や離床の程度で判定するものであり、調理の可否はその基準に含まれない。判定の根拠にはならない。
- ○b. ②
「生活用品は近所のお店で買っている」は、隣近所までは介助なしに一人で外出できることを示している。これはランクJ2の定義「隣近所へなら外出する」にそのまま当てはまり、J2と判定する直接の根拠となる。また、独力で外出できることから、介助なしには外出しないランクA以下ではないことも分かる。
- ○c. ③
「長女のところにバスに乗って行くことができなくなり」は、以前は可能だったバス(交通機関)を利用した外出が現在はできないことを示している。ランクJ1は「交通機関等を利用して外出する」状態なので、本例はJ1には該当しない。②と合わせることで、外出範囲が隣近所までに限られるJ2と判断できる。
- ×d. ④
「本人は受診について不満で、支援は不要と考えている様子である」は本人の意向や病識・受容の状況を表す情報である。介護サービスの調整やケアプランを考えるうえでは参考になるが、日常生活自立度は実際の生活状況を客観的に評価して判定するものであり、本人の主観的な意向は判定の根拠にならない。
- ×e. ⑤
「同じ話の繰り返しがあり、会話の内容として理解困難なものも含まれる」は、記憶障害や理解・判断力の低下など認知機能の低下を示す情報である。これは主治医意見書のもう一つの指標である「認知症高齢者の日常生活自立度」の判定に用いる情報であり、身体的な障害による移動・生活の自立度をみる寝たきり度の判定には用いない。
主治医意見書
介護保険の要介護認定の申請があると、市町村が申請者の主治医に意見書の作成を依頼する。主治医意見書は、認定調査(訪問調査)の結果とともに介護認定審査会での審査判定の資料となり、要支援・要介護度の決定に使われる。さらに、介護支援専門員(ケアマネジャー)がケアプランを作成する際の資料としても活用される。そのため主治医は、生活機能低下の原因となっている疾患、心身の状態、どのような支援がどの程度必要かを中心に記載する。 介護保険サービスを利用できるのは、65歳以上の第1号被保険者で要介護・要支援状態になった者と、40歳以上65歳未満の第2号被保険者で特定疾病(末期がん、関節リウマチ、初老期における認知症、脳血管疾患など16疾病)により要介護・要支援状態になった者である。
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)
・ランクJ(生活自立):何らかの障害を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する。J1 交通機関等を利用して外出する/J2 隣近所へなら外出する。 ・ランクA(準寝たきり):屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない。A1 介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する/A2 外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている。 ・ランクB(寝たきり):屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが座位を保つ。B1 車椅子に移乗し、食事・排泄はベッドから離れて行う/B2 介助により車椅子に移乗する。 ・ランクC(寝たきり):1日中ベッド上で過ごし、排泄・食事・着替において介助を要する。C1 自力で寝返りをうつ/C2 自力では寝返りもうたない。 判定は「能力(できるかどうか)」ではなく、実際の生活状況(しているかどうか)に着目して行うのが原則である。
認知症高齢者の日常生活自立度
認知症の程度を日常生活への影響と介護の必要度で評価する指標で、ランクI、IIa、IIb、IIIa、IIIb、IV、Mに分けられる。 ・I:何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内・社会的にほぼ自立している。 ・II:日常生活に支障をきたす症状・行動や意思疎通の困難さが多少みられても、誰かが注意していれば自立できる(IIaは家庭外で、IIbは家庭内でもみられる)。 ・III:日常生活に支障をきたす症状・行動や意思疎通の困難さがみられ、介護を必要とする(IIIaは日中を中心に、IIIbは夜間を中心に)。 ・IV:上記の症状が頻繁にみられ、常に介護を必要とする。 ・M:著しい精神症状や周辺症状、あるいは重篤な身体疾患がみられ、専門医療を必要とする。 本例の⑤のような情報は、こちらの判定に用いる。
ADLとIADL
基本的日常生活動作(ADL)は食事、排泄、入浴、更衣、移動など身の回りの基本動作、手段的日常生活動作(IADL)は調理、買い物、金銭管理、服薬管理、交通機関の利用など、より複雑な生活上の動作を指す。IADLはADLより早期に低下しやすく、認知機能低下の早期の手がかりとなる。
POINT
・障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)は、外出の範囲と離床の程度で判定する。 ・J1:交通機関を利用して外出、J2:隣近所へなら外出、A:介助なしには外出しない、B:日中ベッド上主体だが座位保持可、C:1日中ベッド上。 ・認知機能に関する情報は「認知症高齢者の日常生活自立度」で評価し、寝たきり度の根拠にはしない。本人の意向やIADL(調理)も寝たきり度の根拠ではない。 ・主治医意見書には両方の自立度を記載し、介護認定審査会の資料・ケアプラン作成の資料として使われる。
