褥瘡と体重減少は栄養のSOS―高齢者の入院時に低栄養を見抜く視点
第119回医師国家試験 F問題 第33問
国試問題にチャレンジ
高齢者の入院時の栄養評価で低栄養が疑われるのはどれか。2つ選べ。
- a.褥瘡
- b.難聴
- c.腰痛
- d.高血圧
- e.体重減少
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者は食欲低下、咀嚼・嚥下機能の低下、慢性疾患、多剤服用、社会的要因などが重なって低栄養に陥りやすく、入院時の栄養評価で早期に拾い上げることが重要です。低栄養を疑う所見は、意図しない体重減少や低BMI、筋肉量減少、食事摂取量低下といった栄養不足そのものを反映するものと、褥瘡や創傷治癒遅延など低栄養の結果として生じやすい合併症に整理できます。体重減少はMNA-SFやGLIM基準の中核項目であり、褥瘡は低栄養が主要な危険因子でブレーデンスケールにも栄養状態の項目が含まれます。一方、難聴・腰痛・高血圧は主に加齢変化や運動器疾患、生活習慣によるもので低栄養の指標ではなく、血清アルブミンも炎症などの影響を受けるため単独での判断は避けるべきです。所見を「栄養不足の反映か、その結果か」という軸で整理する考え方は、高齢者医療やチーム医療での栄養介入の出発点になります。
解答・解説
正解はa, eです
高齢者が入院したときの栄養評価(栄養スクリーニング・アセスメント)で、低栄養を疑う手がかりとなる所見を選ぶ問題である。 高齢者は、食欲低下、咀嚼・嚥下機能の低下、慢性疾患、多剤服用、独居や認知機能低下などの社会的・精神的要因が重なって低栄養に陥りやすい。入院時の低栄養は、感染症や褥瘡などの合併症、筋力低下・転倒、在院日数の延長、死亡率の上昇と関連するため、入院時に早期に拾い上げることが重要である。 低栄養を疑う所見は、大きく次の2つに整理できる。 ・栄養の不足そのものを反映する所見:体重減少、BMI低値、筋肉量の減少(下腿周囲長の低下など)、食事摂取量の低下 ・低栄養の結果として生じやすい合併症:褥瘡、創傷治癒の遅延、易感染性、浮腫など 一方、難聴・腰痛・高血圧は高齢者に多くみられるが、主に加齢変化や骨・関節疾患、本態性高血圧などによるもので、低栄養を示す所見ではない。したがって、低栄養を疑うのは褥瘡と体重減少である。
選択肢考察
- ○a. 褥瘡
褥瘡は、骨突出部などの皮膚・軟部組織が持続的な圧迫を受けて血流が途絶え、壊死に陥ったものである。低栄養ではたんぱく質やエネルギーの不足により皮下脂肪や筋肉が減って骨が突出し、圧迫が集中しやすくなるうえ、皮膚が脆弱になり、創傷治癒も遅れる。このため低栄養は褥瘡の主要な危険因子であり、褥瘡の発生リスクを評価するブレーデンスケールにも「栄養状態」が評価項目として含まれている。入院時に褥瘡を認める場合は、背景に低栄養があることを疑って栄養評価を行う。
- ×b. 難聴
高齢者の難聴の多くは、内耳の有毛細胞や聴神経の加齢変化による加齢性難聴(老人性難聴)であり、両側性・高音域優位の感音難聴を示す。低栄養を示す所見ではない。なお、難聴は社会的孤立や認知機能低下の危険因子とされ、高齢者総合機能評価では重要な項目であるが、栄養評価の指標ではない。
- ×c. 腰痛
高齢者の腰痛は、変形性脊椎症、腰部脊柱管狭窄症、骨粗鬆症に伴う椎体圧迫骨折などの運動器疾患によることが多く、低栄養を直接示す所見ではない。骨粗鬆症にはカルシウムやビタミンDの不足が関与しうるが、腰痛そのものを低栄養の指標として扱うことはない。ただし、がんの骨転移など悪性疾患による腰痛には体重減少を伴うことがあり、その場合は別途注意が必要である。
- ×d. 高血圧
加齢に伴い動脈硬化が進んで血管の弾力性が低下するため、高齢者では収縮期血圧が上昇しやすく、高血圧の有病率は高い。高血圧は食塩の過剰摂取や肥満などと関連するが、低栄養を示す所見ではない。
- ○e. 体重減少
エネルギーやたんぱく質の摂取が必要量を下回ると、体脂肪や骨格筋が分解されて体重が減少する。意図しない体重減少は低栄養を最も直接的に反映する所見であり、MNA-SF(簡易栄養状態評価表)などの栄養スクリーニングツールや、国際的な低栄養診断基準であるGLIM基準にも中核的な項目として含まれている。GLIM基準では、6か月以内に5%を超える体重減少、または6か月を超えて10%を超える体重減少を低栄養の表現型の基準の一つとしている。
高齢者の栄養評価の流れ
栄養スクリーニングで低栄養のリスクがある者を拾い上げ、栄養アセスメントで低栄養の有無と程度、原因を評価し、栄養介入につなげる。
代表的なスクリーニング・評価ツール
・MNA-SF(簡易栄養状態評価表):高齢者向け。食事量の減少、体重減少、自力歩行の可否、精神的ストレスや急性疾患、認知症やうつなどの神経・精神的問題、BMI(測定できない場合は下腿周囲長)の6項目で評価する。 ・SGA(主観的包括的評価):病歴(体重変化、食事摂取の変化、消化器症状、身体機能、疾患とストレス)と身体所見(皮下脂肪・筋肉の減少、浮腫、腹水)から総合的に判定する。 ・MUST、NRS-2002なども用いられる。
GLIM基準(低栄養の診断基準)
表現型の基準(意図しない体重減少、低BMI、筋肉量の減少)と病因の基準(食事摂取量の減少または消化吸収能の低下、疾患による負荷や炎症)から、それぞれ1項目以上を満たす場合に低栄養と診断し、表現型の程度で重症度を判定する。アジア人ではBMIの基準を70歳未満で18.5 kg/m²未満、70歳以上で20 kg/m²未満としている。
血液検査の位置づけ
血清アルブミンは長期の栄養状態の目安として用いられてきたが、炎症・肝疾患・腎疾患(ネフローゼ症候群)・脱水などの影響を強く受けるため、単独で栄養状態を判断するのは適切でない。半減期の短いトランスサイレチン(プレアルブミン)、トランスフェリン、レチノール結合蛋白(rapid turnover protein)は短期間の栄養状態の変化を反映する。総リンパ球数、総コレステロールなども補助的に用いられる。
低栄養が高齢者に及ぼす影響
筋肉量・筋力の低下(サルコペニア)、フレイル、転倒・骨折、易感染性、褥瘡、創傷治癒遅延、ADL(日常生活動作)の低下、入院期間の延長、死亡率の上昇につながる。
POINT
・高齢者の低栄養を疑う所見:意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少(下腿周囲長低下)、食事摂取量低下、褥瘡。 ・低栄養は褥瘡の主要な危険因子(ブレーデンスケールに「栄養状態」の項目がある)。 ・GLIM基準:体重減少は6か月以内で5%超、または6か月超で10%超。 ・血清アルブミンは炎症などの影響を受けるため、単独での栄養評価は不適切。 ・難聴・腰痛・高血圧は主に加齢変化や運動器疾患によるもので、低栄養の指標ではない。
