針を刺す価値がある肝臓、ない肝臓―組織が語る自己免疫性肝炎とNASH
第119回医師国家試験 F問題 第32問
国試問題にチャレンジ
肝生検が診断に有用なのはどれか。2つ選べ。
- a.Gilbert症候群
- b.肝外門脈閉塞症
- c.自己免疫性肝炎
- d.Budd-Chiari症候群
- e.非アルコール性脂肪性肝炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
肝生検は出血などの合併症を伴う侵襲的検査であり、組織像そのものが診断や病期判定の決め手になる疾患で行います。自己免疫性肝炎ではIgG高値や自己抗体は非特異的で、インターフェイス肝炎、形質細胞浸潤、ロゼット形成などの組織所見が確定診断に重要です。非アルコール性脂肪性肝炎(MASH)は単純性脂肪肝との区別に生検が基準となり、脂肪化・小葉内炎症・風船様変性が要点で、線維化の程度は予後に直結します。一方、肝組織がほぼ正常なGilbert症候群は血液検査で、血管閉塞が本体の肝外門脈閉塞症やBudd-Chiari症候群は画像検査で診断します。「決め手は組織か、血液か、画像か」という視点は、侵襲的検査の適応を判断する臨床的思考の基本となります。
解答・解説
正解はc, eです
肝生検(多くは超音波ガイド下に経皮的に穿刺針で肝組織を採取する検査)が診断に役立つ疾患を選ぶ問題である。 肝生検は出血などの合併症を伴いうる侵襲的検査であるため、「血液検査や画像検査だけでは確定できず、肝臓の組織像そのものが診断基準や病期判定の中心になる疾患」で行われる。逆に、診断の決め手が血液検査(ビリルビン分画、遺伝子検査など)や血管の画像評価にある疾患では、肝生検の意義は乏しい。 この観点で選択肢を整理すると次のようになる。 ・肝実質の炎症や組織変化そのものが診断の根拠となる疾患:自己免疫性肝炎(インターフェイス肝炎、形質細胞浸潤)、非アルコール性脂肪性肝炎(脂肪化・炎症・肝細胞の風船様変性) ・ビリルビン代謝の異常で、肝組織はほぼ正常:Gilbert症候群 ・血管の閉塞が病態の本体で、画像で血管を評価して診断する疾患:肝外門脈閉塞症、Budd-Chiari症候群 したがって、肝生検が診断に有用なのは自己免疫性肝炎と非アルコール性脂肪性肝炎である。
選択肢考察
- ×a. Gilbert症候群
Gilbert症候群は、ビリルビンをグルクロン酸抱合する酵素UGT1A1(UDP-グルクロン酸転移酵素1A1)の活性が遺伝的に軽度低下した体質性黄疸である。間接(非抱合型)ビリルビンが軽度上昇し、絶食・ストレス・疲労・感染などで増悪するが、肝機能(AST・ALTなど)は正常で予後は良好である。診断は、溶血がないことを確認したうえでの間接ビリルビン優位の高ビリルビン血症、絶食試験などの負荷試験、必要に応じたUGT1A1遺伝子検査で行い、肝組織はほぼ正常であるため肝生検は不要である。
- ×b. 肝外門脈閉塞症
肝外門脈閉塞症は、肝門部を含む肝外の門脈が閉塞して門脈圧亢進症(食道・胃静脈瘤、脾腫など)をきたす疾患である。小児期に発症する原発性と、腹腔内炎症や血液凝固異常などに続発するものがある。閉塞した門脈とその周囲に発達した求肝性の側副血行路(海綿状血管増生、cavernous transformation)を、腹部超音波(ドプラ)、造影CT・MRI、血管造影で確認して診断する。肝実質そのものはほぼ正常であるため、肝生検は診断に用いない。
- ○c. 自己免疫性肝炎
自己免疫性肝炎(AIH)は、肝細胞に対する自己免疫反応によって慢性に肝障害が進行する疾患で、中年以降の女性に多い。血清IgG高値、抗核抗体や抗平滑筋抗体の陽性が手がかりとなるが、これらは特異的ではない。確定診断には肝生検が重要で、門脈域から肝小葉の境界部へ炎症が及び肝細胞が破壊されるインターフェイス肝炎、リンパ球・形質細胞の浸潤、ロゼット形成、エンペリポレーシス(リンパ球が肝細胞内に取り込まれる像)などが特徴である。急性発症例では小葉中心性の壊死を示すこともある。組織所見は国際診断基準のスコアにも組み込まれており、ウイルス性肝炎や薬物性肝障害などとの鑑別や線維化の程度の評価にも役立つ。
- ×d. Budd-Chiari症候群
Budd-Chiari症候群は、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈が閉塞・狭窄して肝臓からの血液の流出が障害され、門脈圧亢進症や肝うっ血をきたす疾患である。わが国では膜様閉塞などの原発性のものが多く、海外では骨髄増殖性腫瘍などに伴う血栓性のものが多い。診断は超音波ドプラ、造影CT・MRI、下大静脈造影などで閉塞部位を画像で証明して行う。肝組織では小葉中心部のうっ血や壊死がみられることがあるが、診断の決め手は画像所見であり、肝生検は一般に必要としない。
- ○e. 非アルコール性脂肪性肝炎
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、明らかな飲酒歴がないにもかかわらず脂肪肝に炎症と肝細胞障害を伴う病態で、肝硬変や肝細胞癌へ進展しうる。単純性脂肪肝との区別は血液検査や画像では確実にできず、肝生検による組織診断が基準となる。大滴性の脂肪化、小葉内の炎症細胞浸潤、肝細胞の風船様変性(ballooning)が診断の要点で、Mallory-Denk体や中心静脈周囲の線維化(pericellular fibrosis)もみられる。線維化の病期は予後に直結するため、その評価にも肝生検が有用である。
肝生検の適応の考え方
・原因不明の肝機能異常の精査 ・自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎(PBC)の一部、薬物性肝障害、NASHなど、組織像が診断や鑑別の中心になる疾患 ・慢性肝疾患の炎症の程度(活動度)と線維化の程度(病期)の評価 ・肝腫瘍の質的診断(画像で確定できない場合) 近年は、線維化の評価にFIB-4 indexなどの血液検査スコアや、エラストグラフィ(肝硬度測定)などの非侵襲的手法が広く用いられ、肝生検の対象はより絞り込まれている。
肝生検の主な禁忌
出血傾向(血小板減少、凝固異常)、大量腹水、肝外胆管閉塞、肝包虫症の疑い、協力の得られない患者など。合併症として出血、胆汁性腹膜炎、気胸などがある。
名称の変更について
2023年に国際的な名称変更が行われ、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)と呼ぶことが推奨されている。代謝異常(肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧など)の存在を前提とする定義に改められたが、組織学的な診断の考え方は変わらない。
体質性黄疸の整理
間接ビリルビン優位:Gilbert症候群(UGT1A1活性の軽度低下、予後良好)、Crigler-Najjar症候群(UGT1A1活性の欠損または高度低下、I型は核黄疸の危険) 直接ビリルビン優位:Dubin-Johnson症候群(MRP2の異常、肝細胞に黒色色素沈着、肝は黒色調)、Rotor症候群 Dubin-Johnson症候群は肝生検で特徴的な色素沈着を認める点で、Gilbert症候群と対照的である。
肝外門脈閉塞症・Budd-Chiari症候群・特発性門脈圧亢進症
いずれも門脈圧亢進症をきたす疾患で、前2者は画像による血管の評価が診断の中心である。特発性門脈圧亢進症では肝内末梢門脈枝の閉塞・狭窄など組織所見が参考になり、肝硬変との鑑別のために肝生検が行われることがある。
POINT
・肝生検は、組織像が診断・病期判定の決め手となる疾患で行う(自己免疫性肝炎、NASHなど)。 ・自己免疫性肝炎:インターフェイス肝炎、形質細胞浸潤、ロゼット形成。 ・NASH:脂肪化+小葉内炎症+肝細胞の風船様変性。Mallory-Denk体、線維化。 ・Gilbert症候群は血液検査、肝外門脈閉塞症とBudd-Chiari症候群は画像検査で診断し、肝生検は不要。
