逆流するのは膵液か胆汁か―膵・胆管合流異常で癌になるのはどちら側?
第118回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
疾患とその原因の組合せで誤っているのはどれか。
- a.肝細胞癌 ―― 肝硬変
- b.食道腺癌 ―― Barrett食道
- c.胆道癌 ―― 先天性胆道拡張症
- d.膵管癌 ―― 膵・胆管合流異常症
- e.胃癌 ―― ヘリコバクター・ピロリ感染症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
膵・胆管合流異常では膵管と胆管が十二指腸壁外で合流するためOddi括約筋が機能せず、膵液が胆道へ逆流して胆道粘膜を慢性的に障害し、胆管癌・胆嚢癌の危険が高まります。一方、胆汁の膵管への逆流で膵炎は起こりえますが、膵管癌の危険因子ではないため、「膵管癌―膵・胆管合流異常症」が誤った組合せです。肝細胞癌と肝硬変、食道腺癌とBarrett食道、胃癌とピロリ菌感染、胆道癌と先天性胆道拡張症はいずれも正しい対応です。先天性胆道拡張症では分流手術、胆管拡張のない合流異常では予防的胆嚢摘出が基本となります。癌と発生母地を病態の流れとともに理解しておくことは、高危険群の拾い上げや予防的治療の判断に直結します。
解答・解説
正解はdです
消化管・肝胆膵の癌について、発生の母地となる病態(前癌病変・危険因子)との対応を問う一般問題である。「誤っているのはどれか」を選ぶ形式なので、癌と危険因子の対応が成り立たない組合せを探す。 押さえておくべき対応は次のとおりである。 ・肝細胞癌:B型・C型肝炎ウイルスの持続感染やアルコール、代謝異常に伴う脂肪性肝疾患などによる慢性肝炎から肝硬変を経て発生することが多い。 ・食道腺癌:胃食道逆流によって食道下端の扁平上皮が円柱上皮に置き換わったBarrett食道から発生する。 ・胆道癌:膵・胆管合流異常(先天性胆道拡張症はその代表的な病型)では膵液が胆道へ逆流し、慢性的な粘膜障害から胆管癌・胆嚢癌が生じやすい。 ・胃癌:Helicobacter pylori感染による慢性胃炎・萎縮性胃炎・腸上皮化生を背景に発生する。 膵・胆管合流異常症で増えるのは「胆道」の癌であり、膵管癌(通常型膵癌)の危険因子とはされていない。この点に気づけば正解を選べる。合流異常では膵液と胆汁が互いに逆流しうるため、胆汁が膵管へ流れ込んで起こる膵炎は合併しやすい。しかし、発癌が問題になるのは膵液にさらされる胆道側である。
選択肢考察
- ×a. 肝細胞癌 ―― 肝硬変
正しい組合せである。肝細胞癌の多くは慢性肝疾患を背景に発生し、特に肝硬変は最大の発生母地である。肝細胞の壊死と再生が長く繰り返されるうちに遺伝子異常が積み重なり、癌化に至ると考えられている。わが国ではかつてC型肝炎ウイルス(HCV)による肝硬変からの発癌が過半数を占めていた。近年は抗ウイルス療法の進歩でウイルス性の割合が減り、アルコール性肝疾患や代謝異常に伴う脂肪性肝疾患(MASLD/MASH、旧称NAFLD/NASH)など非B非Cの背景をもつ症例が増えている。B型肝炎ウイルス(HBV)は肝硬変を経ずに発癌することもある。
- ×b. 食道腺癌 ―― Barrett食道
正しい組合せである。Barrett食道とは、胃食道逆流症(GERD)による胃酸・胆汁酸の逆流が繰り返された結果、食道下部の扁平上皮が胃側から連続する円柱上皮(Barrett粘膜)に置き換わった状態をいう。この円柱上皮は腸上皮化生や異形成を経て腺癌(Barrett食道腺癌)の発生母地になる。全周性に3cm以上あるものをLSBE(long segment Barrett's esophagus)、それ以外をSSBE(short segment Barrett's esophagus)と呼び、LSBEの方が発癌リスクが高い。わが国の食道癌は大部分が扁平上皮癌で、腺癌は1割に満たない。ただし、ピロリ菌感染率の低下や肥満・GERDの増加に伴い、腺癌は増加傾向にある。
- ×c. 胆道癌 ―― 先天性胆道拡張症
正しい組合せである。先天性胆道拡張症は、総胆管を含む肝外胆管が拡張する先天異常であり、ほぼ全例に膵・胆管合流異常を伴う。膵管と胆管が十二指腸壁外で合流するため、Oddi括約筋による逆流防止機構がはたらかず、膵液が胆道内へ逆流する。活性化した膵酵素によって胆道粘膜の慢性炎症と再生が繰り返され、胆管癌・胆嚢癌の発生率が一般人口に比べて大きく上昇する。発癌は年齢とともに増えるため、診断がつけば拡張胆管の切除と胆道再建(分流手術)を行うのが原則である。
- ○d. 膵管癌 ―― 膵・胆管合流異常症
誤った組合せであり、これが正解である。膵・胆管合流異常症は、解剖学的に膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天的な形成異常である。膵液が胆道に逆流するため、発癌リスクが上がるのは胆道(胆嚢・胆管)である。胆管拡張を伴う型(先天性胆道拡張症)では胆管癌と胆嚢癌が、胆管拡張を伴わない型では主に胆嚢癌が多い。一方、胆汁が膵管へ逆流することで膵炎(急性・慢性)や膵石の原因になることはあるが、膵管癌(通常型膵癌)の危険因子とはされていない。膵管癌の危険因子としては、膵癌の家族歴、遺伝性腫瘍症候群、喫煙、糖尿病、慢性膵炎、肥満、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵嚢胞などが挙げられる。
- ×e. 胃癌 ―― ヘリコバクター・ピロリ感染症
正しい組合せである。Helicobacter pyloriの持続感染は慢性活動性胃炎を引き起こし、萎縮性胃炎、さらに腸上皮化生へと進行する。この変化を背景に、主に分化型(腸型)胃癌が発生する。未分化型胃癌の発生にも関与する。WHOの国際がん研究機関(IARC)はピロリ菌を確実な発癌因子(グループ1)に分類している。除菌によって胃癌の発生リスクは低下するが、ゼロにはならない。除菌後も萎縮が高度な例などでは定期的な内視鏡検査が必要である。
膵・胆管合流異常と先天性胆道拡張症
・膵・胆管合流異常:膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天異常である。合流部にOddi括約筋の作用が及ばないため、膵液と胆汁が相互に逆流する。 ・膵液の胆道内逆流 → 胆道粘膜の慢性炎症・過形成 → 胆道癌(胆嚢癌・胆管癌)。胆汁の膵管内逆流 → 膵炎。 ・胆管拡張あり(先天性胆道拡張症):胆管癌・胆嚢癌のいずれも多い。腹痛・黄疸・腹部腫瘤などで小児期に見つかることが多い。治療は拡張胆管切除+胆道再建(肝管空腸吻合など)。 ・胆管拡張なし:主に胆嚢癌が問題になる。治療は予防的胆嚢摘出術が基本である。 ・診断はMRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)やERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)で合流形態を確認するほか、胆汁中アミラーゼの高値も参考になる。
主な消化器癌と危険因子
・食道扁平上皮癌:喫煙、飲酒(特にALDH2不活性型でのアルコール摂取)、熱い飲食物、アカラシア、腐食性食道炎 ・食道腺癌:GERD、Barrett食道、肥満 ・胃癌:ピロリ菌感染、高塩分食、喫煙 ・大腸癌:家族性大腸腺腫症、Lynch症候群、潰瘍性大腸炎・Crohn病の長期罹患、肥満、赤身肉・加工肉 ・肝細胞癌:HBV・HCV持続感染、肝硬変、アルコール、MASLD/MASH、アフラトキシン ・胆嚢癌:膵・胆管合流異常、胆嚢結石(関連が指摘される)、胆嚢腺筋腫症の一部 ・胆管癌:膵・胆管合流異常、原発性硬化性胆管炎、肝内結石、肝吸虫、印刷業での有機溶剤(1,2-ジクロロプロパン)曝露 ・膵癌:家族歴、遺伝性腫瘍症候群、喫煙、糖尿病、慢性膵炎、肥満、IPMN、膵嚢胞
POINT
・膵・胆管合流異常症で増えるのは胆道癌(胆嚢癌・胆管癌)であり、膵癌ではない。膵側に起こるのは膵炎である。 ・先天性胆道拡張症はほぼ全例に膵・胆管合流異常を伴い、胆道癌の高危険群である。診断がつけば分流手術を行う。 ・Barrett食道は食道腺癌の、ピロリ菌感染は胃癌の、肝硬変は肝細胞癌の発生母地である。
