StudyMed医師国家試験

血が出るなら「機能性」ではない―過敏性腸症候群と下血をきたす大腸疾患の分かれ道

第119回医師国家試験 C問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第30問

下血を認めないのはどれか。

  1. a.大腸癌
  2. b.潰瘍性大腸炎
  3. c.虚血性大腸炎
  4. d.過敏性腸症候群
  5. e.非閉塞性腸管虚血症〈NOMI〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、下血をきたす疾患とそうでない疾患を見分ける問題だ。着眼点はシンプルで、「粘膜に出血源となる器質的な病変があるかどうか」。まず、下血という言葉の意味から確認しておこう。
医学生医学生
下血は黒いタール便のことだと習った気がします。今回の選択肢は大腸の病気ばかりなので、少し違和感がありました。
ドクタードクター
いい疑問だね。狭義の下血は上部消化管出血による黒色便を指すけれど、日本の臨床では鮮血便や暗赤色便も含めて広く「下血」と呼ぶことが多い。この問題も、肛門から血液が出てくること全般の意味で使っている。
医学生医学生
それなら、出血の元になる傷やできものが腸にあるかどうかで考えればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。腫瘍、炎症によるびらん・潰瘍、虚血による粘膜の壊死。こうした器質的病変があれば出血しうる。逆に、粘膜がきれいなら血は出ない。では大腸癌から考えよう。
医学生医学生
消化器内科の実習で、便潜血陽性から内視鏡で見つかった大腸癌の患者さんがいました。腫瘍の表面から出血するんですよね。
ドクタードクター
そう、もろい腫瘍の表面から出血する。左側結腸や直腸の癌では便が固形化していて肛門にも近いから、鮮血〜暗赤色の血便として気づかれやすい。一方、右側結腸癌は出血が便に混ざって目立たず、鉄欠乏性貧血で見つかることが多いんだ。
医学生医学生
潰瘍性大腸炎は粘血便が代表的な症状なので、迷う余地はなさそうです。
ドクタードクター
そうだね。直腸から連続性にびらんや潰瘍が広がる炎症性腸疾患で、血便は診断の手がかりになるし、重症度分類でも顕血便の程度が評価項目に入っている。次は虚血性大腸炎。
医学生医学生
高齢で便秘がちの人が、急に左下腹部が痛くなって、そのあと血便が出る病気ですよね。血管が詰まっているわけではないんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。主幹動脈に明らかな閉塞はなく、一時的な血流低下で粘膜が障害される。血流の境界領域である下行結腸〜S状結腸に好発し、多くは保存的治療で改善する。では、名前が似ているNOMIはどうだろう。
医学生医学生
非閉塞性というくらいなので、軽い病気かと思っていました。
ドクタードクター
そこは要注意。NOMIは腸間膜血管の攣縮で広範な腸管虚血が起こる疾患で、心不全などの低心拍出状態、透析、心臓血管外科術後、血管収縮薬の使用といった重症患者に生じやすい。初期は腹部所見に乏しくて診断が遅れやすく、進むと粘膜が壊死・脱落して下血をきたし、腸管壊死から腹膜炎、ショックに至る予後不良の病気なんだ。
医学生医学生
閉塞がなくても虚血は起こるし、むしろ見逃されやすいんですね。となると、残る過敏性腸症候群が答えでしょうか。
ドクタードクター
正解。過敏性腸症候群は腹痛と便通異常を慢性的に繰り返すけれど、内視鏡や画像、血液検査で症状を説明する器質的異常が見つからない機能性疾患だ。病態には腸管運動の異常、内臓知覚過敏、脳腸相関、ストレス、腸内細菌叢などが関わる。出血源となる病変がないから、下血は起こらない。
医学生医学生
OSCEの医療面接で腹痛の患者さんを想定したとき、ストレスで下痢をする人ならIBSかな、と安易に考えてしまいそうです。
ドクタードクター
その落とし穴を避けるのが臨床の大事なポイントだね。血便、体重減少、発熱、夜間の症状、50歳以上での発症、大腸癌の家族歴といったアラームサインがあれば、IBSと決めつけずに大腸内視鏡などで器質的疾患を除外する。今回の問題は、裏を返せば「血便があればIBSではない」というメッセージでもある。
医学生医学生
血便の色で出血部位を推測する話も、あわせて覚えておきたいです。
ドクタードクター
大まかには、黒色便は上部消化管、暗赤色便は小腸〜右側結腸、鮮血便は左側結腸・直腸・肛門からの出血を考える。ただし上部消化管でも大量出血なら暗赤色になることがあるから、色だけで決めつけず、バイタルや貧血の進行もあわせて評価しよう。

まとめ

下血・血便が起こるには、腫瘍、炎症によるびらん・潰瘍、虚血による粘膜壊死など、出血源となる粘膜の器質的病変が必要です。大腸癌は腫瘍表面から、潰瘍性大腸炎は炎症性の粘膜障害から、虚血性大腸炎や非閉塞性腸管虚血症(NOMI)は血流低下による粘膜の壊死・脱落から出血します。一方、過敏性腸症候群は内視鏡などで器質的異常を認めない機能性消化管疾患であり、下血はきたしません。そのため、腹痛や便通異常を訴える患者に血便、体重減少、発熱、夜間症状、50歳以上の発症などのアラームサインがあれば、器質的疾患を除外する精査が必要です。「器質的か機能的か」という視点は、消化器症状の鑑別で重大な疾患を見逃さないための基本となります。

解答・解説

正解はdです

下血とは、消化管からの出血が肛門から排出されることをいう。狭義には上部消化管出血による黒色便(タール便)を指すが、日本の臨床では鮮血便や暗赤色便(血便)を含めて広く「下血」と呼ぶことが多く、本問もその意味で用いている。 下血が起こるには、消化管の粘膜に びらん・潰瘍・腫瘍・壊死などの「器質的な病変」があり、そこから出血する必要がある。したがって、本問は各疾患が粘膜の器質的障害を伴うかどうかで判断すればよい。 ・大腸癌:腫瘍表面からの出血 ・潰瘍性大腸炎:炎症による粘膜のびらん・潰瘍 ・虚血性大腸炎、NOMI:血流低下による粘膜の壊死・脱落 ・過敏性腸症候群:器質的病変を認めない機能性疾患 このうち過敏性腸症候群だけが、内視鏡などで粘膜に異常を認めない機能性消化管疾患であり、下血をきたさない。逆に、腹痛や便通異常を訴える患者に下血があれば、過敏性腸症候群ではなく器質的疾患を疑って精査する必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  大腸癌

    大腸癌では、もろい腫瘍の表面から出血するため下血・血便がみられる。左側結腸(下行結腸・S状結腸)や直腸の癌では、出血部位が肛門に近く便が固形化しているため、鮮血〜暗赤色の血便として自覚されやすく、便柱の狭小化や便秘・下痢の交代、腹部膨満などの通過障害症状も伴いやすい。一方、右側結腸癌では出血が便と混ざって目立たず、無症状のまま慢性的な出血による鉄欠乏性貧血や腹部腫瘤で見つかることが多い。肉眼では分からない微量の出血は便潜血検査(免疫法)で検出され、大腸癌検診に用いられている。下血を認めるので誤りである。

  2. ×b.  潰瘍性大腸炎

    潰瘍性大腸炎は、直腸から口側へ連続性・びまん性に大腸粘膜のびらんや潰瘍を生じる原因不明の炎症性腸疾患である。主な症状は持続性・反復性の粘血便(血液と粘液の混じった便)、下痢、腹痛、しぶり腹であり、血便は本疾患の診断の手がかりとなる代表的な症状である。重症度分類でも排便回数や顕血便の程度が評価項目に含まれる。下血を認めるので誤りである。

  3. ×c.  虚血性大腸炎

    虚血性大腸炎は、主幹動脈に明らかな閉塞がないにもかかわらず、大腸の血流が一時的に低下して粘膜に虚血性の障害(浮腫・出血・潰瘍)が生じる疾患である。動脈硬化のある高齢者や便秘のある人に多く、血流の境界領域である下行結腸〜S状結腸に好発する。典型的には、突然の左下腹部痛に続いて下痢と下血(鮮血便)が出現する。多くは一過性型で保存的治療により改善する。下血を認めるので誤りである。

  4. ○d.  過敏性腸症候群

    過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)は、腹痛と便通異常(下痢、便秘、またはその両者)が慢性的に繰り返されるが、内視鏡や画像検査、血液検査で症状を説明する器質的疾患が見つからない機能性消化管疾患である。病態には腸管の運動異常、内臓知覚過敏、脳腸相関の異常、心理社会的ストレス、腸内細菌叢の変化などが関与する。粘膜に出血源となる病変がないため下血は起こらない。そのため、血便、体重減少、発熱、夜間の症状、50歳以上での発症、大腸癌の家族歴などの警告症状・徴候(アラームサイン)がある場合は、IBSと考える前に大腸内視鏡検査などで器質的疾患を除外する必要がある。

  5. ×e.  非閉塞性腸管虚血症〈NOMI〉

    非閉塞性腸管虚血症(NOMI:non-occlusive mesenteric ischemia)は、腸間膜動脈に血栓や塞栓などの器質的な閉塞がないにもかかわらず、腸間膜血管の攣縮(強い収縮)によって広範な腸管虚血が起こる疾患である。心不全などの低心拍出状態、脱水、血液透析、心臓血管外科術後、ショック、血管収縮薬やジギタリスの使用などが背景となり、重症患者に発症しやすい。腹痛・嘔吐で発症するが、初期には腹部所見に乏しく診断が遅れやすい。虚血が進むと腸粘膜が壊死・脱落して下血をきたし、さらに全層性の腸管壊死から腹膜炎、ショックに至る予後不良の疾患である。下血を認めうるので誤りである。

下血・血便の用語

・黒色便(タール便):主にTreitz靱帯より口側の上部消化管出血。血液中のヘモグロビンが胃酸や腸内細菌により変化して黒くなる。 ・暗赤色便:小腸〜右側結腸からの出血、または大量の上部消化管出血。 ・鮮血便:左側結腸・直腸・肛門からの出血。 ・粘血便:粘液と血液が混じった便。潰瘍性大腸炎や感染性腸炎(赤痢アメーバ、細菌性赤痢など)でみられる。

下血・血便をきたす主な下部消化管疾患

大腸癌、大腸ポリープ、大腸憩室出血、潰瘍性大腸炎、Crohn病、虚血性大腸炎、感染性腸炎(腸管出血性大腸菌、カンピロバクターなど)、薬剤性腸炎(抗菌薬による出血性腸炎、NSAIDs腸症など)、放射線性腸炎、腸重積、Meckel憩室、上腸間膜動脈閉塞症・NOMI、内痔核・裂肛など。

過敏性腸症候群(Rome IV基準の概要)

最近3か月間、平均して週1日以上繰り返す腹痛があり、①排便に関連する、②排便頻度の変化を伴う、③便形状(外観)の変化を伴う、のうち2項目以上を満たすもの(6か月以上前から症状があること)。便の性状により便秘型・下痢型・混合型・分類不能型に分けられる。治療は生活・食事指導、腸管運動調整薬、高分子重合体、セロトニン5-HT3受容体拮抗薬(下痢型)、粘膜上皮機能変容薬(便秘型)、抗不安薬・抗うつ薬、心理療法などである。

POINT

・下血には出血源となる粘膜の器質的病変(腫瘍・炎症・潰瘍・虚血壊死)が必要。 ・過敏性腸症候群は器質的異常のない機能性疾患であり、下血をきたさない。 ・腹痛・便通異常の患者に血便、体重減少、発熱、夜間症状、50歳以上の発症などのアラームサインがあれば、IBSと決めつけず大腸内視鏡などで器質的疾患を除外する。 ・NOMIは腸間膜動脈の攣縮による腸管虚血で、低心拍出・透析・血管収縮薬使用などの重症患者に起こり、進行すると下血・腸管壊死をきたす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。