「やめたら体が暴れる」薬はどれ?―精神依存と身体依存を分けて考える
第119回医師国家試験 C問題 第31問
国試問題にチャレンジ
反復使用した場合,身体依存を形成するのはどれか。
- a.LSD
- b.大麻
- c.コカイン
- d.アンフェタミン類
- e.ベンゾジアゼピン系薬
対話形式の解説
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ドクターまとめ
依存性薬物はすべて精神依存を形成しますが、中止によって振戦・発汗・けいれん・せん妄などの離脱症状を生じる身体依存を形成するのは、主に中枢神経抑制薬(オピオイド、アルコール、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系)です。コカインやアンフェタミン類などの興奮薬、LSDなどの幻覚薬、大麻は精神依存が中心で、古典的分類では身体依存を形成しないとされます。ベンゾジアゼピン系薬はGABA_A受容体を介して作用する抗不安薬・睡眠薬で、臨床用量でも長期連用で身体依存(常用量依存)が生じうるため、中止は数週〜数か月かけた漸減で行います。「抑制系をやめると反跳的に興奮する」という原理を押さえておけば、試験だけでなく、入院時の持参薬管理や漫然処方の見直しといった日常診療にも直結します。
解答・解説
正解はeです
依存性薬物を理解するには、精神依存・身体依存・耐性の3つを区別して考える必要がある。 ・精神依存:その薬物の効果を得たいという強い欲求(渇望)が生じ、使用をやめられなくなる状態。依存性薬物はすべて精神依存を形成する。 ・身体依存:薬物が存在する状態に身体が適応してしまい、急に中止・減量すると離脱症状(禁断症状)として振戦、発汗、不眠、不安、けいれん、せん妄などの身体症状が現れる状態。 ・耐性:反復使用により同じ量では効果が弱くなり、同じ効果を得るために使用量を増やさなければならない状態。 古典的なWHOの依存性薬物の分類では、明らかな身体依存を形成するのは中枢神経抑制薬である、①アヘン類(モルヒネ、ヘロインなどのオピオイド)、②アルコール、③バルビツール酸系およびベンゾジアゼピン系などの鎮静催眠薬(アルコール・バルビツール酸型)である。これに対し、中枢神経興奮薬(コカイン、アンフェタミン類)、幻覚薬(LSDなど)、大麻は、強い精神依存を形成するものの、臨床上問題となる身体依存は形成しないとされる。本問ではこの区別から、身体依存を形成するのは中枢神経抑制薬であるベンゾジアゼピン系薬と判断できる。
選択肢考察
- ×a. LSD
LSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)は、メスカリンやシロシビンと同じ幻覚薬に属し、主にセロトニン5-HT2A受容体を刺激して幻視などの知覚変容、気分の変化を引き起こす。精神依存を形成し、耐性は数日の連用で急速に生じる(中止すると短期間で消失する)が、中止しても臨床的に問題となる離脱症状は生じず、身体依存は形成しない。使用中止後も幻覚体験が突然よみがえるフラッシュバック(幻覚剤持続性知覚障害)が問題となる。
- ×b. 大麻
大麻の主な精神作用成分はΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)であり、カンナビノイドCB1受容体を介して多幸感、知覚の変化、時間感覚の変容、記憶・注意の障害などを引き起こす。精神依存を形成する。古典的な分類では身体依存・耐性はないかごく弱いとされる。近年は長期大量使用者の中止後にいらいら、不眠、食欲低下などの離脱症状がみられることが知られているが、アルコールやオピオイド、鎮静催眠薬のような明らかな身体依存とは程度が異なる。長期使用では無動機症候群や精神病症状が問題となる。本問の選択肢の中で身体依存を形成する薬物とはいえない。
- ×c. コカイン
コカインは中枢神経興奮薬であり、神経終末でのドパミン・ノルアドレナリン・セロトニンの再取り込みを阻害して、多幸感、覚醒、自信の高揚などをもたらす。作用時間が短く、効果が切れると強い渇望が生じるため精神依存は極めて強い。一方、古典的な分類では身体依存と耐性は形成しないとされる。中止後に抑うつ、疲労、過眠などの「反跳(crash)」がみられるが、生命を脅かすような身体的離脱症状は起こらない。急性中毒では交感神経刺激による高血圧、頻脈、不整脈、心筋梗塞、けいれんなどが問題となる。
- ×d. アンフェタミン類
アンフェタミン、メタンフェタミン(いわゆる覚醒剤)などのアンフェタミン類は中枢神経興奮薬で、神経終末からのドパミン・ノルアドレナリンの放出を促進し、再取り込みも阻害する。強い精神依存と耐性を形成するが、身体依存は形成しない。中止後には脱力、過眠、抑うつなどがみられるが、オピオイドや鎮静催眠薬のような身体的離脱症状ではない。慢性使用では統合失調症に類似した幻覚・妄想状態(覚醒剤精神病)をきたし、断薬後もストレスや少量の再使用で症状が再燃しやすい(フラッシュバック)。
- ○e. ベンゾジアゼピン系薬
ベンゾジアゼピン系薬は、GABA_A受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用して抑制性神経伝達物質GABAの作用を増強する中枢神経抑制薬であり、抗不安薬・睡眠薬・抗けいれん薬として広く使われている。古典的なWHOの分類ではアルコールやバルビツール酸系と同じ群(アルコール・バルビツール酸型)に属し、精神依存・身体依存・耐性のすべてを形成する。注目すべきは、臨床用量であっても長期連用すると身体依存が生じうる点(常用量依存)である。急な中止・減量で不安・焦燥、不眠、振戦、発汗、知覚過敏、さらにはけいれん発作やせん妄などの離脱症状が出現しうるため、中止する際は数週〜数か月かけて漸減する。
依存性薬物の古典的な分類と特徴(WHO)
・アヘン類(モルヒネ、ヘロイン、コデインなど):精神依存++、身体依存++、耐性++。離脱症状は流涙、鼻漏、あくび、散瞳、立毛、発汗、下痢、腹痛、筋肉痛など。 ・アルコール・バルビツール酸型(アルコール、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系など):精神依存++、身体依存++、耐性+。離脱症状は振戦、発汗、不眠、不安、けいれん、せん妄(アルコールでは振戦せん妄)など。 ・コカイン型:精神依存+++、身体依存−、耐性−。 ・アンフェタミン型(アンフェタミン、メタンフェタミン、メチルフェニデートなど):精神依存+++、身体依存−、耐性+。 ・大麻型:精神依存+、身体依存−(またはごく軽度)、耐性−〜±。 ・幻覚薬型(LSD、メスカリン、シロシビンなど):精神依存+、身体依存−、耐性+。 ・有機溶剤型(シンナー、トルエンなど):精神依存+、身体依存−〜±、耐性+。 ・ニコチン:精神依存+、軽度の身体依存(いらいら、集中困難、食欲増加などの離脱症状)、耐性+。
整理のコツ
身体依存を形成するのは主に「中枢神経抑制薬」(オピオイド、アルコール、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系)と覚えるとよい。中枢神経抑制薬を急にやめると、抑えられていた神経活動が反跳的に過剰となり、けいれんやせん妄など生命に関わる離脱症状を生じうる。興奮薬(コカイン、アンフェタミン類)や幻覚薬、大麻は精神依存が中心である。
ベンゾジアゼピン系薬の依存への対策
漫然とした長期処方を避ける、短時間作用型より長時間作用型への置換を行ったうえで漸減する、複数のベンゾジアゼピン系薬の併用を避ける、などが推奨される。
POINT
・依存性薬物はすべて精神依存を形成する。 ・身体依存を形成するのは中枢神経抑制薬:オピオイド、アルコール、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系。 ・コカイン・アンフェタミン類(興奮薬)、LSD(幻覚薬)、大麻は身体依存を形成しない(古典的分類)。 ・耐性を形成しないのはコカインと大麻(古典的分類)。 ・ベンゾジアゼピン系薬は常用量でも身体依存が生じうるため、中止は漸減で行う。
