StudyMed医師国家試験

「意志の強さ」では語れない―禁煙外来で患者の力を引き出すひと言

第120回医師国家試験 D問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第22問

36歳の男性。禁煙を希望し禁煙外来を受診した。喫煙は30本/日を16年間。これまでは朝起きたらまず一服し,その後出社,仕事を始める前にも一服する。仕事中もたばこを吸いたい気持ちになり,仕事を中断して喫煙所に行くことが多い。また,たばこがなくなると,雨の日でも買いに外出する。最近転職したが,新しい職場では喫煙所がなく,これをきっかけに禁煙しようと思って来院した。  この患者への声かけで適切なのはどれか。

  1. a.「意志が強ければ,禁煙は簡単です」
  2. b.「加熱式たばこへ変えてみましょうか」
  3. c.「次の外来で禁煙を始める日を決めましょう」
  4. d.「1回で禁煙できない場合,禁煙は難しいでしょう」
  5. e.「どのような方法だったら禁煙できると思いますか」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は禁煙を希望して受診した人に、医師がどんな言葉をかけるべきかを考える問題だ。ポイントは2つ。この人の喫煙が「習慣」なのか「依存症」なのかを見極めること、そして禁煙を決意した人の気持ちをどう支えるか、という視点だよ。
医学生医学生
1日30本を16年なので、ブリンクマン指数は480ですね。かなりのヘビースモーカーだと思います。
ドクタードクター
計算はその通り。ただ、本数以上に注目してほしいのが喫煙の「質」なんだ。起床直後に一服する、仕事を中断してでも吸いに行く、雨でもたばこを買いに出る。これらは何を意味すると思う?
医学生医学生
寝ている間にニコチンが切れて、朝いちばんに補充したくなる……身体的な依存が強いということでしょうか。
ドクタードクター
そう。起床後すぐの喫煙は、ファガストローム・ニコチン依存度テストでも強い依存を示す項目だ。さらに、ほかの活動を犠牲にしてでも喫煙を優先する行動は、強い渇望の表れ。つまりこの人はニコチン依存症で、ニコチンが脳の報酬系、ドパミン系に作用して生じる薬物依存、れっきとした治療対象の疾患なんだ。
医学生医学生
精神科の講義で、依存症は「意志の弱さ」ではなく脳の病気だと習いました。そう考えると、「意志が強ければ禁煙は簡単です」という声かけは明らかにまずいですね。
ドクタードクター
その通り。禁煙すればイライラや集中困難、不安、食欲増加といった離脱症状と強い喫煙欲求が出る。意志だけで決まるものではないし、そう言われた患者は失敗したときに自分を責めて、再挑戦や受診をためらうようになってしまう。
医学生医学生
加熱式たばこへの切り替えはどうでしょう。職場の喫煙所の問題は解決しませんが、害は減りそうな気もします。
ドクタードクター
そこは誤解されやすいところだね。加熱式たばこもたばこ葉を加熱してニコチンを含むエアロゾルを吸う製品だから、ニコチン依存はそのまま続く。有害物質も含まれていて、紙巻きより健康影響が小さいとは証明されていない。禁煙の代わりにはならないんだ。
医学生医学生
「1回で禁煙できなければ難しい」というのも、患者さんのやる気をくじきそうです。
ドクタードクター
うん。ニコチン依存症は再発しやすい慢性疾患で、多くの人は何度か挑戦した末に禁煙に成功する。再喫煙してしまったら、その原因を一緒に振り返って次に生かせばいい。最初から諦めを示す言葉は、自己効力感、つまり「自分にもできる」という感覚を下げてしまう。
医学生医学生
「次の外来で禁煙開始日を決めましょう」は、開始日を決めること自体は大事なステップなので、正解に近い気がしました。
ドクタードクター
迷うポイントだね。でも、この人はすでに自分から禁煙を決意して来ている。保険診療の禁煙治療も「直ちに禁煙したい」という意思が前提で、通常は初回の診察で患者と話し合って開始日を決め、禁煙補助薬を始める。わざわざ次回に先送りする理由はないし、患者の考えを聞かずに医療者が段取りを決めてしまう点でも適切とはいえない。
医学生医学生
そうすると、「どのような方法だったら禁煙できると思いますか」が正解ですね。開かれた質問になっています。
ドクタードクター
正解。はい・いいえで答えられない質問で、患者自身の考えや過去の禁煙経験、吸いたくなる場面を引き出せる。それを踏まえて、ニコチン貼付剤などのニコチン置換療法やバレニクリンを使うか、朝の一服を別の行動に置き換えるか、周りに禁煙宣言するか、と一緒に選んでいける。自分で選んだ方法は実行されやすいんだ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、最初は開かれた質問から入るように練習しました。禁煙支援でも同じ考え方なんですね。
ドクタードクター
まさにそう。これは動機づけ面接の考え方につながる。患者の中にある「変わりたい」という気持ちを、開かれた質問、是認、聞き返し、要約といった技法で引き出して強めていく。行動変容ステージモデルでいうと、この人は準備期から実行期に入ろうとしている段階だから、具体的な方法の決定と継続の支援が中心になる。
医学生医学生
ステージによって声かけを変える必要があるということですね。無関心期の人なら、まずは喫煙の害や禁煙のメリットに気づいてもらうところから、という感じでしょうか。
ドクタードクター
いい整理だね。最後に臨床で押さえておきたい点を。保険診療で禁煙治療を行うには、TDSで5点以上のニコチン依存症と判定され、35歳以上ならブリンクマン指数200以上、直ちに禁煙を希望して文書で同意していることが必要だ。標準的には12週間で5回受診し、呼気一酸化炭素濃度で禁煙の状況を確認しながら支えていく。バレニクリンは禁煙開始予定日の1週間前から内服を始めるのに対し、ニコチンパッチは禁煙開始日から使う、という違いも覚えておこう。
医学生医学生
喫煙を責めずに意欲を認め、方法は患者さんと一緒に選ぶ。病棟でも外来でも使えそうな姿勢です。

まとめ

起床直後の喫煙や、仕事を中断してまで吸いに行く行動は強いニコチン依存を示し、ニコチン依存症は意志の問題ではなく治療すべき疾患です。禁煙を自ら希望する準備期〜実行期の患者には、喫煙を責めたり不安をあおったりせず、「どのような方法だったら禁煙できると思いますか」といった開かれた質問で本人の考えや経験を引き出し、主体的に方法を選べるよう支えることが大切です。加熱式たばこはニコチン依存を維持するため禁煙の代わりにならず、禁煙は複数回の挑戦で成功することも多いため、一度の失敗で諦めさせる声かけは避けます。保険診療ではTDS 5点以上、35歳以上ならブリンクマン指数200以上、直ちに禁煙を希望し文書で同意していることが要件で、ニコチン置換療法やバレニクリンを組み合わせて12週間で支援します。動機づけ面接や行動変容ステージモデルの考え方は、禁煙に限らず生活習慣病の指導全般に応用できる重要な土台です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・36歳男性で、1日30本を16年間吸っている。ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)は30×16=480である。 ・起床後すぐに一服する:起床後すぐの喫煙は、睡眠中に下がった血中ニコチン濃度を補おうとする行動であり、身体的なニコチン依存が強いことを示す代表的な所見である。 ・仕事を中断してでも喫煙所に行く、たばこが切れると雨の日でも買いに出る:喫煙への強い渇望(欲求)と、喫煙のために他の活動を犠牲にする行動がみられ、依存症の特徴に合致する。 ・新しい職場に喫煙所がないことをきっかけに、自ら禁煙を希望して受診している。

病態の判断

以上からニコチン依存症と考えられる。ニコチン依存症は「意志の弱さ」ではなく、ニコチンが脳内の報酬系(ドパミン系)に作用して生じる薬物依存であり、治療の対象となる疾患である。

設問の考え方

本例は禁煙への意欲がすでにあり、変化のステージモデル(行動変容ステージモデル)では「準備期」から「実行期」に入ろうとしている段階にある。この段階の患者に対しては、医療者が一方的に方法を押しつけたり、不安や罪悪感をあおったりするのではなく、患者自身の考えや過去の経験、生活状況を聞き出し、本人が主体的に選んだ方法で禁煙を始められるよう支援することが大切である。これは動機づけ面接(患者の中にある変わりたい気持ちを引き出し、強める対話技法)の考え方にも通じる。開かれた質問(「はい/いいえ」では答えられない質問)で患者の考えを尋ねる声かけが最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  「意志が強ければ,禁煙は簡単です」

    不適切である。ニコチンは強い依存性をもつ物質であり、依存が形成されると、禁煙時には離脱症状(イライラ、集中困難、不安、落ち着きのなさ、食欲増加など)と強い喫煙欲求が生じる。禁煙の成否は意志の強さだけでは決まらない。このような声かけは、禁煙に失敗したときに患者が「自分の意志が弱いからだ」と自分を責める原因となり、受診や再挑戦をためらわせることにもつながる。

  2. ×b.  「加熱式たばこへ変えてみましょうか」

    不適切である。加熱式たばこもたばこ葉を加熱してニコチンを含むエアロゾルを吸入するたばこ製品であり、ニコチン依存は維持される。有害物質も含まれ、健康への影響が紙巻きたばこより小さいとは証明されていない。禁煙の代わりにはならず、禁煙治療の選択肢として勧めるものではない。また、喫煙所のない新しい職場で吸いたい気持ちが続く状況も解決しない。

  3. ×c.  「次の外来で禁煙を始める日を決めましょう」

    不適切である。禁煙開始日の設定自体は禁煙治療で重要なステップだが、本人がすでに禁煙を希望して受診しているにもかかわらず、開始日の相談を次回に先送りする理由はない。保険診療による禁煙治療では「直ちに禁煙を始めたい」という意思が前提であり、通常は初回の診察で患者と話し合って禁煙開始日を決め、禁煙補助薬の使用を開始する。また、患者の考えを確かめないまま医療者が予定を決めてしまう点でも適切とはいえない。

  4. ×d.  「1回で禁煙できない場合,禁煙は難しいでしょう」

    不適切である。ニコチン依存症は再発しやすい慢性疾患であり、多くの喫煙者は禁煙を何度か試みたのちに成功する。一度の失敗で禁煙できないと決めつける根拠はなく、再喫煙した場合は失敗の要因を一緒に振り返って次の挑戦に生かせばよい。禁煙を始めようとしている患者の意欲(自己効力感)を下げる発言であり、避けるべきである。

  5. ○e.  「どのような方法だったら禁煙できると思いますか」

    適切である。開かれた質問によって、患者自身が考える禁煙の方法、過去の禁煙経験、喫煙しやすい場面(起床時、仕事前など)や対処法を引き出すことができる。それを踏まえて、禁煙補助薬(ニコチン貼付剤などのニコチン置換療法や、バレニクリン)の使用、喫煙の引き金となる行動の置き換え、周囲への禁煙宣言などを患者と相談しながら選べる。患者が自分で選んだ方法は実行されやすく、主体性と自己効力感を高めることで禁煙の継続にもつながる。

ニコチン依存症の評価

・TDS(Tobacco Dependence Screener):10項目の質問で、5点以上をニコチン依存症と判定する。 ・ファガストローム・ニコチン依存度テスト(FTND):起床後最初の1本までの時間や1日の本数などから身体的依存の程度を評価する。起床後5分以内の喫煙は強い依存を示す。 ・ブリンクマン指数:1日の喫煙本数×喫煙年数。

保険診療による禁煙治療(ニコチン依存症管理料)の主な要件

・TDSでニコチン依存症と診断されている(5点以上)。 ・35歳以上ではブリンクマン指数が200以上(35歳未満ではこの要件はない)。 ・直ちに禁煙することを希望し、禁煙治療プログラムについて説明を受け、文書で同意している。 標準的な治療では、12週間に計5回の診察を行い、呼気一酸化炭素濃度の測定などで禁煙状況を確認しながら支援する。

禁煙補助薬

・ニコチン置換療法:ニコチン貼付剤(パッチ)、ニコチンガム。ニコチンを徐々に減らしながら離脱症状を和らげる。禁煙開始日から使用する。 ・バレニクリン:ニコチン受容体(α4β2)の部分作動薬で、離脱症状を和らげると同時に、喫煙による満足感を減らす。禁煙開始予定日の1週間前から内服を始める。なお、国内では製造上の問題で供給が停止された時期がある。

行動変容ステージモデル

無関心期(6か月以内に禁煙する気がない)→ 関心期(6か月以内に禁煙を考えている)→ 準備期(1か月以内に禁煙する意思がある)→ 実行期(禁煙して6か月未満)→ 維持期(6か月以上継続)。ステージに応じて働きかけを変えることが重要で、準備期〜実行期では具体的な方法の決定と継続の支援が中心となる。

禁煙支援の基本的な姿勢

喫煙を責めず、禁煙の意欲を認めて支持する。患者の考えや価値観を尊重し、開かれた質問、是認、聞き返し、要約などの技法で本人の動機を引き出す(動機づけ面接)。再喫煙を失敗と決めつけず、学びの機会として扱う。

POINT

・起床後すぐの喫煙、喫煙のための仕事の中断や外出は、強いニコチン依存の所見である。 ・ニコチン依存症は治療すべき疾患であり、意志の強さの問題として扱わない。 ・禁煙支援では、患者の考えを開かれた質問で引き出し、本人が主体的に方法を選べるよう支える。 ・加熱式たばこへの切り替えは禁煙ではない(ニコチン依存は続く)。 ・禁煙は複数回の挑戦で成功することが多く、一度の失敗で諦めさせる声かけは不適切。 ・禁煙の意思がある患者では、受診当日から禁煙開始日の設定と治療を始める。 ・保険診療の要件:TDS 5点以上、35歳以上はブリンクマン指数200以上、直ちに禁煙を希望、文書同意。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。