軽症の潰瘍性大腸炎は「まず5-ASA」―範囲と重症度で決める治療の階段
第120回医師国家試験 D問題 第23問
国試問題にチャレンジ
28歳の男性。血便を主訴に来院した。2週間前から血液が混じった下痢が出現したため受診した。排便回数は1日3回,便に少量の血液が混じっていた。身長170cm,体重58kg。体温36.8℃。脈拍72/分,整。血圧130/80mmHg。腹部は平坦,軟で圧痛を認めず,腸雑音はやや亢進していた。直腸指診で少量の粘血便を認める。赤沈8mm/1時間。血液所見:赤血球468万,Hb 13.9g/dL,Ht 42%,白血球4,800。下部消化管内視鏡検査を行ったところ,直腸からS状結腸にかけての粘膜は微細顆粒状で,血管透見像は減少しており,発赤および粘液付着を認めた。生検組織の病理検査で好中球の陰窩内への浸潤と杯細胞の減少を認めた。 この患者に対する初期治療で投与すべき薬剤はどれか。
- a.抗菌薬
- b.免疫抑制薬
- c.生物学的製剤
- d.グルココルチコイド
- e.5-アミノサリチル酸製剤〈5-ASA〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
直腸から口側へ連続するびまん性の粘膜炎症(微細顆粒状粘膜、血管透見像の減少、発赤、粘液付着)に、陰窩への好中球浸潤と杯細胞減少が加われば潰瘍性大腸炎と診断できます。治療は病変範囲と重症度で決まり、本例は脾彎曲部を越えない左側大腸炎型で、排便回数や血便量、発熱・頻脈・貧血・赤沈のすべてが軽症基準を満たすため、寛解導入の第一選択は5-ASA製剤(メサラジンなど)です。左側大腸炎型では経口薬に注腸剤を併用すると効果が高まり、全身性ステロイドは中等症以上や5-ASA不応例に、免疫抑制薬や生物学的製剤はステロイド依存・抵抗例などの難治例に用います。抗菌薬は感染症の合併や重篤な合併症がある場合に限られます。「診断→範囲→重症度→治療の段階」という流れで考える習慣は、炎症性腸疾患に限らず慢性疾患の治療選択全般に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・28歳の若年男性で、2週間前から血液の混じった下痢(血性下痢)が続いている。 ・排便回数は1日3回、血液は少量である。 ・体温36.8℃、脈拍72/分、Hb 13.9g/dLで、発熱・頻脈・貧血はない。赤沈8mm/1時間、白血球4,800/μLと炎症所見もみられない。 ・直腸指診で粘血便を認める。 ・下部消化管内視鏡検査:直腸からS状結腸にかけて、粘膜の微細顆粒状変化、血管透見像(粘膜を通して見える血管の模様)の減少、発赤、粘液の付着がみられる。直腸から口側へ連続して広がるびまん性の炎症であり、潰瘍性大腸炎の典型的な所見である。 ・生検:陰窩(大腸粘膜の腺管)内への好中球浸潤(陰窩炎・陰窩膿瘍につながる所見)と、杯細胞(粘液を分泌する細胞)の減少を認め、活動期の潰瘍性大腸炎に合致する。
診断へのプロセス
若年者の血性下痢では、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患のほか、感染性腸炎(カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌、アメーバ赤痢など)、虚血性大腸炎、大腸癌などを鑑別する。本例は直腸から連続するびまん性の粘膜炎症と特徴的な病理所見があり、潰瘍性大腸炎と診断できる(実臨床では便培養などで感染性腸炎の除外も行う)。 ・病変範囲:直腸からS状結腸までで、脾彎曲部を越えていないため「左側大腸炎型」に分類される。 ・臨床的重症度:排便回数4回以下、血便は少量、発熱・頻脈・貧血なし、赤沈正常であり、「軽症」の基準をすべて満たす。
設問の考え方
潰瘍性大腸炎の治療は、病変範囲と重症度によって段階的に選択する。軽症〜中等症の寛解導入療法の第一選択は5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤であり、左側大腸炎型では経口薬に加えて注腸剤や坐剤を併用すると効果が高まる。グルココルチコイドや免疫抑制薬、生物学的製剤などは、5-ASAで効果が不十分な場合や中等症〜重症例で段階的に用いる。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
潰瘍性大腸炎は感染症ではなく、免疫の異常を背景とする原因不明の慢性炎症性疾患であるため、抗菌薬は基本的な治療薬ではない。抗菌薬が用いられるのは、感染性腸炎の合併(クロストリディオイデス・ディフィシル感染症など)が疑われる場合や、重症・劇症例で腸管穿孔や中毒性巨大結腸症などの重篤な合併症がある場合である。本例は内視鏡・病理所見から潰瘍性大腸炎と診断でき、発熱や炎症所見もないため適応はない。
- ×b. 免疫抑制薬
アザチオプリンや6-メルカプトプリンなどのチオプリン製剤は、ステロイド依存例(ステロイドを減量すると再燃する例)の寛解維持に用いられる。タクロリムスやシクロスポリンは、ステロイド抵抗性の中等症〜重症例の寛解導入に用いられる。いずれも感染症や骨髄抑制などの副作用があり、軽症例の初期治療で用いる薬剤ではない。
- ×c. 生物学的製剤
抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ)、抗α4β7インテグリン抗体(ベドリズマブ)、抗IL-12/23抗体(ウステキヌマブ)などの生物学的製剤は、5-ASAやステロイドで効果が不十分な例、ステロイド依存・抵抗性の中等症〜重症例などの難治例に用いる。重い感染症などの副作用リスクや費用もあり、軽症例の初期治療としては適切でない。
- ×d. グルココルチコイド
全身投与のグルココルチコイド(プレドニゾロンなど)は、中等症〜重症例や、5-ASAで効果が不十分な例の寛解導入に用いられる。寛解維持の効果はなく、長期使用で骨粗鬆症、糖尿病、感染症などの副作用があるため、軽症例でいきなり用いることはない。なお、局所で作用し全身への影響が少ないブデソニドの注腸フォーム剤などは、直腸〜S状結腸の病変に対して5-ASAで効果が不十分な場合の選択肢となるが、最初に用いる薬剤ではない。
- ○e. 5-アミノサリチル酸製剤〈5-ASA〉
5-ASA製剤(メサラジン、サラゾスルファピリジン)は、腸管の粘膜に直接作用して炎症性物質の産生を抑えるなどして抗炎症効果を発揮する。軽症〜中等症の潰瘍性大腸炎の寛解導入療法の第一選択であり、寛解維持療法の基本薬でもある。本例は左側大腸炎型・軽症であるため、経口5-ASA製剤で治療を開始し、必要に応じて5-ASAの注腸剤や坐剤を併用すると、病変部に高濃度で届き効果が高まる。副作用として、発熱、下痢・腹痛の悪化などの不耐症状、間質性腎炎や膵炎などがあるため、投与開始後は経過をみる必要がある。
潰瘍性大腸炎の概要
大腸の粘膜にびらんや潰瘍を形成する原因不明の慢性炎症性疾患で、若年者(20歳代が発症のピーク)に多いが、高齢発症もある。病変は直腸から始まり、口側へ連続性・びまん性に広がる。主症状は粘血便、下痢、腹痛で、再燃と寛解を繰り返す。
病変範囲による分類
・直腸炎型:病変が直腸に限局。 ・左側大腸炎型:病変が脾彎曲部より肛門側にとどまる。 ・全大腸炎型:脾彎曲部を越えて口側に広がる。 ・右側または区域性大腸炎型(まれ)。
臨床的重症度分類(厚生労働省研究班)
6項目:(1)排便回数(重症6回以上、軽症4回以下)、(2)顕血便(重症+++、軽症+〜-)、(3)発熱(重症37.5℃以上、軽症なし)、(4)頻脈(重症90/分以上、軽症なし)、(5)貧血(重症Hb 10g/dL以下、軽症なし)、(6)赤沈(重症30mm/時以上、軽症正常)またはCRP(重症3.0mg/dL以上、軽症正常)。 ・重症:(1)と(2)を満たし、さらに全身症状である(3)または(4)のいずれかを満たし、かつ6項目のうち4項目以上を満たす。 ・軽症:6項目すべてを満たす。 ・中等症:重症と軽症の中間。 ・劇症:重症の中でも、15回/日以上の血性下痢、38℃以上の持続する高熱、10,000/μL以上の白血球増多、強い腹痛をすべて満たすもの。
内視鏡・病理所見
内視鏡では血管透見像の消失、粗糙または微細顆粒状の粘膜、易出血性(接触出血)、膿性粘液の付着、びらん・潰瘍、偽ポリポーシスなどがみられる。病理では陰窩炎・陰窩膿瘍、杯細胞の減少、陰窩のねじれや萎縮などの構造の乱れがみられる。
治療の段階的な選択(概略)
・軽症〜中等症:5-ASA製剤(経口、注腸、坐剤)。直腸炎型では坐剤・注腸剤などの局所療法が有効。効果不十分ならステロイドの局所製剤や経口ステロイドを追加する。 ・中等症〜重症:経口・静注のステロイド。 ・ステロイド抵抗例・依存例:タクロリムス、シクロスポリン、生物学的製剤、JAK阻害薬、血球成分除去療法、チオプリン製剤など。 ・内科治療に反応しない重症例、大量出血、穿孔、中毒性巨大結腸症、癌・高度異形成の合併:大腸全摘術の適応。
クローン病との違い
クローン病は口腔から肛門までの消化管のどこにでも生じ、非連続性(skip lesion)の縦走潰瘍・敷石像、全層性炎症、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫、痔瘻などの肛門病変を特徴とする。
POINT
・直腸から連続するびまん性炎症(血管透見像の消失、微細顆粒状粘膜、発赤、粘液付着)+陰窩への好中球浸潤・杯細胞減少 → 潰瘍性大腸炎。 ・脾彎曲部を越えない病変は左側大腸炎型。 ・排便4回/日以下、少量の血便、発熱・頻脈・貧血なし、赤沈正常 → 軽症。 ・軽症〜中等症の寛解導入・寛解維持の第一選択は5-ASA製剤(左側大腸炎型では経口と注腸・坐剤の併用が有効)。 ・ステロイドは中等症以上や5-ASA不応例に用い、寛解維持には使わない。 ・免疫抑制薬・生物学的製剤はステロイド依存・抵抗例などの難治例に用いる。
