StudyMed医師国家試験

診断がついたら次は「広がり」―子宮体癌の術前評価はMRIとCTの二本立て

第120回医師国家試験 A問題 第69問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第69問

68歳の女性(0妊0産)。不正性器出血を主訴に来院した。内診で子宮はやや腫大し付属器は触知しない。経腟超音波検査で子宮内膜16mmと肥厚を認めたため子宮内膜組織診を行った。子宮内膜組織のH-E染色標本を下に示す。  治療方針決定のために必要な検査はどれか。2つ選べ。

第120回 A問題 第69問の問題画像
  1. a.胸腹部造影CT
  2. b.骨盤部造影MRI
  3. c.コルポスコピー
  4. d.子宮卵管造影検査
  5. e.子宮頸部狙い組織診

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、閉経後の不正出血から子宮体癌と診断された後、治療方針を決めるために何を調べるかを問う問題だ。診断の流れを確認したうえで、「確定診断の後に必要な検査」と「診断のための検査」を区別できるかがカギになる。まず、閉経後の不正出血でどんな病気を考えるかな。
医学生医学生
一番多いのは萎縮性腟炎だと習いましたが、見逃してはいけないのは子宮体癌ですよね。
ドクタードクター
その通り。そこで役立つのが経腟超音波での内膜厚の評価だ。閉経後の内膜は本来薄く、おおむね5mm以上なら内膜病変を疑って細胞診や組織診に進む。今回はそれを大きく超えて肥厚している。未経産という背景にも意味があるけれど、わかるかな。
医学生医学生
妊娠や排卵が少ないと、プロゲステロンの作用を受ける期間が短くて、エストロゲンに長くさらされるからでしょうか。
ドクタードクター
正解。未経産、肥満、糖尿病、エストロゲン単独のホルモン補充療法、タモキシフェン内服などはどれも子宮体癌の危険因子だ。では組織像。H-E染色では、内膜腺に似た腺管が密に増生して互いに癒合し、複雑な構造をとっている。腺管を作る細胞も核が腫大して異型が目立つ。
医学生医学生
病理実習で見た子宮内膜増殖症と似ている気もしますが、どう区別するんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。内膜増殖症では腺管が増えても腺管の間に間質が保たれている。今回は間質がほとんど介在せず腺管が背中合わせに密集・癒合していて、構造異型と細胞異型の両方がある。だから類内膜癌、つまり子宮体癌の大部分を占める組織型と診断できる。子宮肉腫なら腺管ではなく紡錘形細胞などの間葉系細胞が増えるので、これも違う。
医学生医学生
診断はもうついているわけですね。では治療方針を決めるには何が必要になるんでしょう。
ドクタードクター
癌がどこまで広がっているかを術前に知ることだ。大きく分けて2つある。1つは局所の進展、つまり筋層にどれだけ深く入っているか、頸部間質や漿膜、付属器に及んでいるか。もう1つはリンパ節転移と遠隔転移だ。
医学生医学生
局所の評価ならMRIですね。放射線科の講義で、軟部組織のコントラストが良いと習いました。
ドクタードクター
その通り。骨盤部造影MRIでは、T2強調像で内膜と筋層の境にある低信号帯、junctional zoneが途切れていないかを見る。造影後の画像と合わせて、筋層浸潤が1/2未満か1/2以上かを判定し、頸部間質浸潤や付属器への進展も評価する。これはリンパ節郭清の範囲や術式の決定に直結するんだ。
医学生医学生
遠隔転移やリンパ節の評価は、胸腹部の造影CTということですか。
ドクタードクター
そう。骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節の腫大、肺や肝への転移、腹膜播種、腹水を確認する。遠隔転移があれば手術単独ではなく化学療法中心の治療を考えるし、傍大動脈リンパ節が腫れていれば郭清範囲が変わる。だからMRIとCTの2つが治療方針決定に必要な検査になる。
医学生医学生
コルポスコピーや狙い組織診はどうでしょう。頸部に広がっていないか確かめるのに使えそうな気もします。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。コルポスコピーは頸部の表面を拡大して観察する検査で、狙い組織診はそこで異常があった部位を採取するもの。どちらも子宮頸部の異形成や頸癌を見つけるための検査で、子宮体部の病変は見えないし、体癌の頸部間質浸潤はMRIで評価するのが基本だ。
医学生医学生
子宮卵管造影は、不妊外来の見学で見たことがあります。子宮内腔の形がわかるなら役に立ちそうですが。
ドクタードクター
あれは主に卵管の通過性を見る不妊症の検査だ。しかも子宮体癌が疑われる人に行うと、造影剤の注入圧で癌細胞が卵管を通って腹腔内に散らばるおそれがある。筋層浸潤や転移の評価にも使えないから、行うべきではない検査だよ。
医学生医学生
診断は内膜組織診、局所はMRI、全身はCT、と役割分担で整理するとわかりやすいですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識として、子宮体癌の進行期は最終的には手術所見と摘出標本の病理で決まる手術進行期分類だ。術前の画像はあくまで術式を選ぶための評価になる。治療の基本は子宮全摘と両側付属器摘出で、リスクに応じて骨盤・傍大動脈リンパ節の郭清を加え、術後の病理で再発リスクが中・高なら補助療法を行う。
医学生医学生
若い人が妊娠を希望する場合はどうなるんですか。
ドクタードクター
筋層浸潤のない高分化型類内膜癌に限って、高用量の黄体ホルモン療法が選択肢になる。それからType分類も押さえておこう。エストロゲン依存性のType Iは類内膜癌が主体で比較的予後が良く、Type IIは漿液性癌や明細胞癌などで高齢者の萎縮内膜を背景に生じ、予後不良だ。最近は分子遺伝学的分類も治療選択に取り入れられつつある。

まとめ

閉経後の不正性器出血で経腟超音波上の内膜肥厚(おおむね5mm以上)を認めたら、子宮体癌を疑って内膜細胞診・組織診を行います。組織で異型腺管の密な増殖を認めれば類内膜癌と診断でき、治療方針の決定には病変の広がりの術前評価が欠かせません。筋層浸潤や頸部間質浸潤などの局所進展は骨盤部造影MRIで、リンパ節転移や肺・肝などへの遠隔転移は胸腹部造影CTで評価し、その結果が術式やリンパ節郭清の範囲、化学療法の要否を左右します。コルポスコピーや狙い組織診は子宮頸部病変の検査であり、子宮卵管造影は癌細胞を腹腔内に散布するおそれがあるため行いません。「診断の検査」と「病期評価の検査」を区別して整理することは、あらゆる悪性腫瘍の診療に共通する基本的な考え方です。

解答・解説

正解はa, bです

所見の整理

・68歳、0妊0産(未経産)の閉経後女性 ・主訴は不正性器出血 ・内診:子宮はやや腫大、付属器は触知しない ・経腟超音波:子宮内膜厚16mm(閉経後としては明らかな肥厚) ・子宮内膜組織診(H-E染色):内膜腺に似た腺管が密に増生して癒合・複雑化し(構造異型)、腺管を構成する細胞は核が腫大して異型が目立つ(細胞異型)

診断へのプロセス

閉経後の不正性器出血の原因として頻度が高いのは萎縮性腟炎(萎縮性子宮内膜を含む)であるが、見逃してはならないのは子宮体癌(子宮内膜癌)である。閉経後の内膜は通常薄く、経腟超音波でおおむね5mm以上の厚さがあれば内膜病変を疑って内膜細胞診・組織診を行う。本例は16mmと著明に肥厚している。さらに未経産は、排卵・妊娠による黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用を受ける期間が短く、エストロゲンに長く曝露されることから子宮体癌の危険因子である。 組織像で、子宮内膜腺に類似した異型腺管が密に増殖していることから、子宮体癌の大部分を占める類内膜癌と診断できる。鑑別となる子宮内膜増殖症(異型の有無を問わない)は腺管の増加はあっても間質の介在が保たれ、子宮肉腫は腺管ではなく紡錘形細胞などの間葉系細胞が増殖する点で異なる。

設問の考え方

子宮体癌と確定した後の治療方針(手術術式、リンパ節郭清の範囲、手術が可能かどうか、術前治療の要否)を決めるには、病変がどこまで広がっているかを術前に評価する必要がある。具体的には、①局所の進展(子宮筋層浸潤の深さ、子宮頸部間質浸潤、子宮漿膜・付属器への進展)と、②リンパ節転移・遠隔転移(肺・肝・腹膜播種など)である。①は骨盤部 MRI、②は胸腹部(骨盤を含む)CT が担う。子宮体癌の進行期は手術所見と摘出標本の病理所見で最終決定する手術進行期分類であるが、術前の画像評価は術式選択に不可欠である。

選択肢考察

  1. ○a.  胸腹部造影CT

    胸部から腹部・骨盤までの造影 CT(computed tomography)で、骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節の腫大、肺・肝などへの血行性転移、腹膜播種、腹水の有無を評価する。遠隔転移があれば手術単独ではなく化学療法などを中心とした治療が選択され、傍大動脈リンパ節の腫大があれば郭清範囲が変わるため、治療方針の決定に必要な検査である。

  2. ○b.  骨盤部造影MRI

    MRI(magnetic resonance imaging)は軟部組織のコントラストに優れ、子宮体癌の局所進展の評価に最も有用である。T2強調像で腫瘍は正常内膜より低信号・正常筋層より高信号に描出され、内膜と筋層の境界にある低信号帯(junctional zone)の途絶や、造影後の像で筋層浸潤が1/2未満か1/2以上かを判定する。頸部間質浸潤や子宮漿膜・付属器への進展も評価でき、これらはリンパ節郭清の範囲や術式の決定に直結する。

  3. ×c.  コルポスコピー

    コルポスコピー(腟拡大鏡診)は、子宮頸部細胞診で異常が出た際に、子宮頸部の表面を拡大して観察し、異形成や子宮頸癌の病変を探す検査である。子宮体部内腔の病変は観察できず、子宮体癌の進展範囲の評価にも役立たない。

  4. ×d.  子宮卵管造影検査

    子宮卵管造影検査は、子宮頸管から造影剤を注入して子宮内腔の形態や卵管の通過性を調べる検査で、主に不妊症の評価に用いる。子宮体癌が疑われる例では、注入圧によって癌細胞が卵管を通じて腹腔内へ散布されるおそれがあるため行わない。また、癌の筋層浸潤や転移の評価にも役立たない。

  5. ×e.  子宮頸部狙い組織診

    狙い組織診は、コルポスコピーで子宮頸部に異常所見(白色上皮、モザイク、異型血管など)を認めた部位を狙って組織を採取する検査で、子宮頸部の前癌病変や子宮頸癌の診断に用いる。本例の病変は子宮体部内膜にあり、すでに内膜組織診で診断が確定している。子宮体癌の頸部間質浸潤の評価は MRI で行うのが基本である。

子宮体癌の概要

・好発年齢は50〜60歳代で、閉経後女性に多い。初発症状は不正性器出血が最多。 ・エストロゲン依存性の Type I(類内膜癌が主体、比較的予後良好、子宮内膜異型増殖症を前駆病変とする)と、エストロゲン非依存性の Type II(漿液性癌・明細胞癌など、萎縮内膜を背景に高齢者に多く予後不良)に大別される。近年は分子遺伝学的分類(POLE 変異型、ミスマッチ修復欠損型、p53 異常型など)も予後予測・治療選択に取り入れられている。 ・Type I の危険因子:未経産、肥満、糖尿病、高血圧、遅い閉経、多嚢胞性卵巣症候群、エストロゲン単独のホルモン補充療法、タモキシフェン内服、Lynch 症候群など。

診断の流れ

不正出血 → 経腟超音波で内膜厚評価 → 子宮内膜細胞診・組織診(必要に応じて子宮内膜全面掻爬)で確定 → MRI(局所進展)・CT(リンパ節・遠隔転移)で術前評価 → 手術で進行期を確定

治療

・基本は手術:子宮全摘出術+両側付属器摘出術を行い、再発リスクに応じて骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節の郭清(または生検)を加える。 ・術後の病理所見で再発リスクを評価し、中・高リスク群には化学療法などの術後補助療法を行う。 ・妊孕性温存を強く希望する若年者で、筋層浸潤のない高分化型類内膜癌に限り、高用量の黄体ホルモン療法(メドロキシプロゲステロン酢酸エステル)が選択肢となる。

子宮体癌の進展様式

・直接浸潤:内膜 → 筋層 → 漿膜 → 付属器・腹腔内、あるいは頸部間質 → 腟・膀胱・直腸 ・リンパ行性:骨盤リンパ節、傍大動脈リンパ節(卵巣動静脈に沿う経路) ・血行性:肺、肝、骨

POINT

・閉経後の不正性器出血+内膜肥厚(おおむね5mm以上)→ 子宮体癌を疑い内膜細胞診・組織診 ・未経産・肥満・糖尿病・エストロゲン単独療法などは子宮体癌の危険因子 ・術前評価:局所進展(筋層浸潤・頸部間質浸潤)は骨盤 MRI、リンパ節・遠隔転移は胸腹部 CT ・コルポスコピー・狙い組織診は子宮頸部病変の検査 ・子宮体癌疑い例に子宮卵管造影は行わない(腹腔内散布のおそれ)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。