子宮を残して未来をつなぐ―挙児希望のある症候性子宮筋腫に何を選ぶか
第119回医師国家試験 D問題 第43問
国試問題にチャレンジ
33歳の女性(0妊0産)。下腹部痛と過多月経を主訴に来院した。5か月前から月経血量の増加と下腹部鈍痛が増悪し,早期の挙児希望もあるため受診した。2年前から避妊はしていない。月経周期は28日型,整,持続7日間。20年前から月経痛で市販の鎮痛薬を服用している。身長158cm,体重53kg。体温36.0℃。脈拍76/分,整。血圧112/72mmHg。内診で子宮は弾性硬で約10cmに腫大し,両側付属器は触知しない。血液所見:赤血球340万,Hb 8.4g/dL,Ht 28%,白血球6,200,血小板27万。血液生化学所見:総蛋白6.3g/dL,AST 23U/L,ALT 20U/L,LD 175U/L(基準124~222),CA125 46U/mL(基準35以下)。骨盤部単純MRIのT2強調矢状断像を下に示す。 適切な治療はどれか。

- a.子宮全摘出術
- b.子宮動脈塞栓術
- c.子宮内容除去術
- d.子宮頸部円錐切除術
- e.腹腔鏡下子宮筋腫核出術
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮筋腫はMRIのT2強調像で境界明瞭な低信号腫瘤として描出され、過多月経による鉄欠乏性貧血、月経困難症、内腔の変形による不妊・流産の原因となります。治療は症状、大きさ・位置、年齢、挙児希望の有無で選び、挙児希望のある症候性筋腫では子宮を温存する子宮筋腫核出術(腹腔鏡下・開腹、粘膜下筋腫では子宮鏡下)が標準です。子宮全摘出術は挙児希望のない場合、子宮動脈塞栓術は妊娠への安全性が確立していないため原則として挙児希望者には行わず、GnRHアゴニスト・アンタゴニストは投与中に妊娠できず中止後に再増大するため根本治療にはなりません。CA125の軽度上昇は筋腫や腺筋症でもみられ、LD上昇や急速増大、MRIでの不均一な信号が子宮肉腫を疑う手がかりとなります。核出術後の避妊期間や分娩方法まで含めて、患者さんの希望に沿った治療を組み立てる視点が大切です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・33歳、0妊0産の女性。5か月前から月経血量の増加(過多月経)と下腹部鈍痛が悪化している。20年前(思春期)から月経痛のために鎮痛薬を使っており、月経困難症が長く続いている。 ・2年間避妊せずに性交渉があるにもかかわらず妊娠しておらず、不妊症(1年以上妊娠しない状態)に該当する。早期の挙児を希望している。 ・月経周期は28日型で整っており、排卵はおおむね保たれていると考えられる。BMIは約21.2kg/m²で、肥満ややせによる排卵障害も考えにくい。 ・内診で子宮は弾性硬で約10cm(手拳大程度)に腫大し、付属器(卵巣・卵管)は触知しない。子宮そのものの腫瘍性病変を考える。 ・Hb 8.4g/dL、Ht 28%で、MCV=28/340×1,000≒82fLの貧血を認める。過多月経による慢性的な失血で鉄欠乏性貧血が進行していると考えられる。 ・LDは基準範囲内である。子宮肉腫ではLD上昇を伴うことがあり、LDが正常であることは良性腫瘍に合致する所見の一つである。CA125は46U/mLと軽度上昇しているが、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症、月経中などでも上昇するため、悪性を示す所見とはいえない。 ・骨盤部MRIのT2強調矢状断像では、子宮後壁に境界明瞭で均一な低信号を示す大きな腫瘤があり、子宮内膜(高信号の線状構造)を前方へ圧排・変形させて子宮内腔へ突出している。前壁の下部にも境界明瞭な低信号腫瘤を認める。T2強調像で周囲の筋層と明瞭に区別される低信号の腫瘤は、子宮筋腫の典型的な所見である。
診断
多発子宮筋腫(後壁の大きな筋腫は子宮内腔を変形させている)と、それに伴う過多月経・月経困難症・鉄欠乏性貧血、不妊症である。
設問の考え方
治療方針は、症状の強さ、筋腫の大きさ・位置、年齢、そして挙児希望(妊孕性温存の希望)の有無で決まる。本例は高度の貧血を伴う症状のある筋腫であり、さらに子宮内腔を変形させる筋腫は受精卵の着床を妨げ、不妊や流産の原因となりうるため、治療の適応がある。早期の妊娠を希望していることから、子宮を残し妊孕性を保つ治療を選ぶ必要がある。ホルモン療法(GnRHアゴニスト・アンタゴニストなど)は投与中に排卵が抑えられて妊娠できず、中止すると筋腫は再び大きくなるため、根本的な治療にはならない。したがって、筋腫だけを取り除いて子宮を温存する子宮筋腫核出術が最も適切である。腹腔鏡下で行えば、開腹手術に比べて創が小さく術後の回復が早く、癒着も少ない傾向がある。なお、術前に貧血の是正(鉄剤投与など)を行う。
選択肢考察
- ×a. 子宮全摘出術
子宮全摘出術は筋腫を確実に取り除き、過多月経・月経困難症も根治できる治療で、挙児希望のない女性や閉経前後の女性では標準的な選択肢である。しかし子宮を失うと妊娠は不可能になる。早期の挙児を希望する33歳の未産婦に対して行うべきではない。
- ×b. 子宮動脈塞栓術
子宮動脈塞栓術(UAE)は、カテーテルを用いて子宮動脈に塞栓物質を注入し、筋腫への血流を遮断して縮小させる低侵襲な治療で、子宮は温存できる。ただし、正常な子宮筋層や卵巣への血流にも影響しうること、術後の妊娠で流産、胎盤の異常、分娩時の合併症などが増える可能性が指摘されており、妊娠・分娩への安全性は確立していない。このため、子宮温存を望むが妊娠は希望しない女性に用いるのが原則であり、早期の挙児を希望する本例には適さない。
- ×c. 子宮内容除去術
子宮内容除去術は、流産(稽留流産・不全流産など)や胞状奇胎などで子宮内に残った妊娠組織を除去する処置であり、子宮内膜の組織診断を目的に行うこともある。本例は妊娠しておらず、子宮内に除去すべき内容物もない。筋層内にある筋腫を取り除くこともできないため、不適切である。
- ×d. 子宮頸部円錐切除術
子宮頸部円錐切除術は、子宮頸部の扁平上皮内病変(高度異形成・上皮内癌など)や、ごく初期の子宮頸癌に対して、診断と治療を兼ねて頸部を円錐状に切除する手術である。本例の病変は子宮体部の筋腫であり、頸部の異常を示す細胞診・組織診の所見もない。適応がない。また円錐切除術は頸管が短くなるため、その後の妊娠で早産のリスクが上がることにも注意が必要な手術である。
- ○e. 腹腔鏡下子宮筋腫核出術
子宮筋腫核出術は、筋腫のみを子宮筋層からくり抜くように摘出し、子宮を温存する手術であり、妊孕性の温存を希望する症候性子宮筋腫の標準治療である。筋腫を取り除くことで過多月経とそれによる貧血、月経痛が改善し、子宮内腔の変形が解消されて着床環境の改善が期待できる。本例は筋層内から子宮内腔側へ張り出す筋腫が複数あり、子宮鏡下手術(内腔へ大部分が突出した粘膜下筋腫が対象)での切除は難しいため、腹腔鏡下(大きさや数によっては開腹)での核出術が適する。術後は子宮の創部が治癒するまで一定期間(一般に数か月)避妊を指導する。筋層を大きく切開した場合は妊娠中・分娩時の子宮破裂のリスクを考慮して帝王切開が選択されることがある。また、残存した小さな筋腫や新たな筋腫が再発する可能性がある。
子宮筋腫の概要
・子宮平滑筋から発生する良性腫瘍で、30歳以上の女性の2~3割にみられるとされる。エストロゲンとプロゲステロンに依存して増大し、閉経後は縮小する。 ・発生部位による分類:粘膜下筋腫(子宮内腔側に突出)、筋層内筋腫(筋層内にとどまる、最も多い)、漿膜下筋腫(子宮の外側へ突出)。筋腫分娩は有茎性の粘膜下筋腫が子宮頸管から腟内へ脱出したものである。 ・症状:過多月経・貧血(特に粘膜下筋腫で強い)、月経困難症、下腹部腫瘤、周囲臓器の圧迫症状(頻尿、便秘、水腎症など)、不妊・流産。 ・画像:MRIのT2強調像で境界明瞭な低信号腫瘤として描出される。変性(硝子変性、嚢胞変性、赤色変性など)を伴うと信号が不均一になる。
子宮肉腫・子宮腺筋症との鑑別
・子宮肉腫(平滑筋肉腫など):急速な増大、閉経後の増大、MRIで境界不明瞭・内部不均一・出血や壊死、血清LD上昇などが手がかりになる。 ・子宮腺筋症:子宮内膜類似組織が筋層内に入り込む疾患で、子宮はびまん性に腫大し、MRIでは境界不明瞭な低信号域の内部に点状高信号を伴う。強い月経困難症を特徴とし、CA125が上昇しやすい。核出が難しい点が筋腫との違いである。
子宮筋腫の治療選択
・無症状で小さい筋腫:経過観察。 ・薬物療法: 対症療法…鉄剤、鎮痛薬、止血薬、漢方薬、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、レボノルゲストレル放出子宮内システムなど。 偽閉経療法…GnRHアゴニスト、GnRHアンタゴニスト(レルゴリクス)。筋腫を縮小させ症状を改善するが、骨量減少などの副作用のため使用期間に制限があり、中止すると再増大する。術前に筋腫を縮小させ貧血を改善する目的や、閉経までの逃げ込み療法として用いられる。 ・手術療法: 挙児希望あり…子宮筋腫核出術(腹腔鏡下、開腹、粘膜下筋腫では子宮鏡下)。 挙児希望なし…子宮全摘出術(腹腔鏡下、腟式、開腹)。 ・その他の子宮温存療法:子宮動脈塞栓術(UAE)、MRガイド下集束超音波療法(MRgFUS)など。妊娠・分娩への安全性が確立していないため、原則として妊娠を希望しない女性が対象となる。
POINT
・子宮筋腫はMRIのT2強調像で境界明瞭な低信号腫瘤。過多月経による鉄欠乏性貧血、月経困難症、不妊の原因となる。 ・治療は症状・大きさ・位置・年齢と挙児希望の有無で選ぶ。 ・挙児希望がある症候性筋腫には子宮筋腫核出術(腹腔鏡下・開腹・子宮鏡下)。 ・子宮全摘出術は挙児希望のない場合。子宮動脈塞栓術は妊娠への安全性が確立しておらず、挙児希望者には原則行わない。 ・GnRHアゴニスト・アンタゴニストは中止後に再増大し、投与中は妊娠できないため根治にはならない。 ・LD上昇、急速増大、MRIでの不均一な信号は子宮肉腫を疑う手がかり。
