StudyMed医師国家試験

ミニトマトで声が出ない―「もがいている」かどうかが決める窒息対応の分かれ道

第120回医師国家試験 B問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第120回 B問題 第37問

4歳の男児。幼稚園の昼食中にミニトマトを食べた直後,突然強い咳嗽を認めた。傍らにいた教諭が男児の肩を叩き大声で呼びかけるが返事はなく,苦しそうにもがいている。口唇のチアノーゼを認めた。他の教諭に救急要請とAEDを持ってくるように依頼をした。  教諭が次に行う対応で正しいのはどれか。

  1. a.飲水を促す。
  2. b.背部を叩打する。
  3. c.胸骨圧迫を開始する。
  4. d.口対口人工呼吸を開始する。
  5. e.指で口腔内のミニトマトを除去する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、食事中に起きた小児の窒息に、居合わせた人がどう動くかを問う問題だ。救急要請とAEDの手配はもう済んでいる。そのうえで次の一手を決めるカギは「反応があるかどうか」。まずは、この子に何が起きているかを考えてみよう。
医学生医学生
食べた直後に突然むせているので、ミニトマトが気道に詰まった気道異物だと思います。でも、呼びかけに返事がないので意識障害も心配です。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。返事がないのは意識がないからではなく、声門や気管がふさがって声を出せないからと考えるべきなんだ。苦しそうにもがいているのは、反応がしっかり保たれている証拠。そこに口唇のチアノーゼが加わっているから、換気がほとんどできていない高度の閉塞、つまり窒息だと判断できる。
医学生医学生
「話せない・声が出ない」こと自体が、重い閉塞のサインということですね。
ドクタードクター
その通り。逆に、強い咳ができて声も出せる軽い閉塞なら、咳が最も有効な排出手段だから、咳を続けさせて見守る。咳が弱くなる、声が出ない、チアノーゼが出てくる、となったら直ちに介入だ。ちなみに、ミニトマトやぶどうは球形でつるつるしていて、小児の気道の太さとほぼ同じだから、はまり込むと完全閉塞を起こしやすい代表的な食品なんだよ。
医学生医学生
では、反応がある窒息なので、異物を出す手技を始めるということですね。背部叩打法でしょうか。
ドクタードクター
正解。1歳以上の子どもや成人では、児の後ろやや横に立って片手で胸を支え、頭を下げた前傾姿勢にさせて、もう一方の手のひらの付け根で左右の肩甲骨の間を力強く数回叩く。効果がなければ腹部突き上げ法、いわゆるHeimlich法を組み合わせ、異物が出るか、反応がなくなるまで繰り返すんだ。
医学生医学生
BLSの実習ではまず胸骨圧迫と教わったので、反射的にそちらを選びそうになりました。
ドクタードクター
心肺蘇生の印象が強いとそうなりがちだね。でも胸骨圧迫は、窒息の子がぐったりして反応がなくなった段階で始めるもの。そのときは異物除去の手技をやめて、すぐに胸骨圧迫からCPRに移る。胸腔内圧が上がって異物が押し出される効果も期待できるんだ。今はまだもがいているから、その段階ではない。
医学生医学生
口対口人工呼吸はどうでしょう。息を吹き込めば酸素が入りそうな気もします。
ドクタードクター
気道が異物でふさがっている以上、吹き込んでも肺には空気が入らないし、異物をさらに奥へ押し込むおそれもある。人工呼吸は反応消失後のCPRの流れの中で行う手技で、反応のある窒息への初期対応ではないよ。
医学生医学生
水を飲ませて流し込むのは、素人考えでもやってしまいそうです。
ドクタードクター
よくある誤解だね。詰まっているのは食道ではなく喉頭から気管にかけての気道だから、水を飲んでも異物は流れていかない。むしろ水そのものを誤嚥して状況を悪化させる。そもそも窒息している子に飲ませるのは無理に近いんだ。
医学生医学生
指で口の中のミニトマトをかき出すのは?目の前にあるなら取りたくなります。
ドクタードクター
見えていないのに指を奥へ入れて探る盲目的指拭法は、異物をさらに押し込んだり、口腔や咽頭を傷つけたりする危険があって推奨されない。口の中にはっきり見えて簡単につまみ出せる場合に限って取り除いてよい。今回は見えているという情報がないから、優先すべきは背部叩打だ。
医学生医学生
整理すると、反応があれば背部叩打と腹部突き上げ、反応がなくなれば胸骨圧迫からCPR、という二本立てですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、年齢による違いも押さえておこう。1歳未満の乳児では、腹部突き上げ法は肝臓などを傷つけるおそれがあるので行わない。頭を低くしてうつ伏せにし前腕で支えて背部叩打、次に仰向けにして胸部突き上げ、これを交互に繰り返す。妊婦や高度肥満の人でも腹部ではなく胸部突き上げ法を使う。
医学生医学生
小児科の実習で、乳児の人形を腕に乗せて練習したのを思い出しました。腹部突き上げ法をした後は何か注意がありますか。
ドクタードクター
内臓損傷の可能性があるから、異物が取れて元気そうでも医療機関で診察を受けてもらうことが大切だ。気管支に異物が残っている疑いがあれば、胸部画像や気管支鏡で確認する。そして何より予防。ミニトマトやぶどうは4等分に切る、ナッツや豆類は就学前の子には与えない、座って落ち着いて食べさせる。保護者や保育者への指導も医師の大事な役割だよ。

まとめ

食事中の突然の咳嗽に続いて声が出ず、チアノーゼを伴う場合は、気道異物による窒息を考えます。対応の分かれ道は反応の有無で、もがいているなど反応がある1歳以上の児では背部叩打法と腹部突き上げ法(Heimlich法)を異物が出るか反応がなくなるまで繰り返し、反応がなくなれば直ちに胸骨圧迫からCPRを開始してAEDを用います。飲水は誤嚥を招き、見えない異物を指で探る盲目的指拭法や、閉塞した気道への人工呼吸も行いません。乳児では腹部突き上げ法を避け、背部叩打法と胸部突き上げ法を交互に行う点も重要です。窒息は数分で命に関わるため、手順を迷わず実行できるよう理解しておくことが、医療者としても市民への指導者としても欠かせません。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・4歳の男児が、昼食でミニトマトを食べた直後に突然激しく咳き込んだ。食事中の急激な発症であり、食物が気道に入ったこと(気道異物)を強く示唆する。 ・呼びかけに返事がないが、苦しそうにもがいている。これは意識がなくなったのではなく、声門・気管が異物でふさがれて声を出せない状態と考えられる。「話せない・声が出ない」は気道の高度閉塞を示す重要なサインである。 ・口唇チアノーゼがあり、換気が著しく障害されて低酸素血症に陥りつつある。

判断

以上から、ミニトマトによる上気道の完全(またはそれに近い)閉塞、すなわち窒息である。ミニトマト・ぶどう・ナッツ類・団子などは小児の窒息の原因食品として代表的で、特にミニトマトやぶどうは球形でつるつるしており、小児の気道の太さとほぼ同じため、はまり込むと完全閉塞を起こしやすい。 喘息発作なども呼吸困難をきたすが、食事中の突然発症、発声不能という経過は気道異物に特徴的である。

設問の考え方

救急要請とAEDの手配はすでに済んでいる。次の一手は「反応があるか(意識があるか)」で分かれる。 ・反応がある(もがいている)窒息:異物を除去する手技を直ちに行う。1歳以上では背部叩打法と腹部突き上げ法(Heimlich法)を、異物が取れるか反応がなくなるまで繰り返す。 ・反応がなくなった窒息:異物除去の手技をやめ、直ちに胸骨圧迫から心肺蘇生(CPR)を開始する。 本症例はもがいており反応が保たれているので、まず行うべきは背部叩打である。

選択肢考察

  1. ×a.  飲水を促す。

    異物は食道ではなく気道(喉頭〜気管)を閉塞しているため、水を飲ませても異物が流れ落ちることはない。むしろ水そのものを誤嚥して窒息を悪化させる危険があり、そもそも窒息している小児に飲ませることは不可能に近い。不適切である。

  2. ○b.  背部を叩打する。

    反応がある窒息患者に対する異物除去の基本手技である。救助者は児の後方やや横に位置し、片手で胸を支えて頭部を下げた前傾姿勢をとらせ、もう一方の手掌の付け根で左右の肩甲骨の間を力強く数回叩く。1歳以上では効果がなければ腹部突き上げ法(Heimlich法)を組み合わせ、異物が出るか反応がなくなるまで繰り返す。本症例はもがいていて反応が保たれているので、教諭が次に行う対応として正しい。

  3. ×c.  胸骨圧迫を開始する。

    窒息の傷病者が反応を失った(ぐったりして呼びかけや刺激に応じない)場合には、異物除去手技を中止して直ちに胸骨圧迫からCPRを開始する。胸骨圧迫による胸腔内圧の上昇が異物を押し出す効果も期待される。しかし本症例は現時点でもがいており反応があるため、まだ胸骨圧迫の段階ではない。

  4. ×d.  口対口人工呼吸を開始する。

    気道が異物でふさがった状態で息を吹き込んでも肺に空気は入らず、異物をより奥へ押し込む可能性もある。人工呼吸は反応消失後のCPRの中で行う手技であり、反応のある窒息患者への初期対応ではない。

  5. ×e.  指で口腔内のミニトマトを除去する。

    異物が見えていない状態で指を口の奥に入れて探る(盲目的指拭法)と、異物をさらに深く押し込んだり口腔・咽頭を傷つけたりする危険があり、推奨されない。口の中に異物がはっきり見えて容易につまみ出せる場合に限って取り除いてよいが、本症例で口腔内に見えているという記載はなく、優先すべきは背部叩打である。

窒息(気道異物)の認識

・突然の激しい咳嗽、声が出ない・話せない、吸気時のヒューヒューという音(吸気性喘鳴)、チアノーゼ、喉をつかむしぐさ(チョークサイン)などがみられる。 ・強い咳ができ声も出せる(軽度閉塞)のであれば、咳による自力排出が最も有効なので、咳を続けさせて見守る。咳が弱くなる、声が出ない、チアノーゼが出現するといった高度閉塞では直ちに介入する。

反応がある場合の異物除去法

・1歳以上の小児・成人:背部叩打法と腹部突き上げ法(Heimlich法:背後から両腕を回し、臍とみぞおちの間に握りこぶしを当て、もう一方の手で包んで手前上方へ素早く突き上げる)を組み合わせ、異物が出るか反応がなくなるまで繰り返す。 ・乳児(1歳未満):腹部突き上げ法は肝臓など腹部臓器を損傷するおそれがあるため行わない。頭部を低くしてうつ伏せにし前腕で支えて背部叩打を行い、次に仰向けにして胸部突き上げ法(胸骨圧迫と同じ位置を押す)を行い、これを交互に繰り返す。 ・妊婦や高度肥満者では腹部突き上げ法の代わりに胸部突き上げ法を用いる。 ・腹部突き上げ法を行った場合は、内臓損傷の有無を確認するため後で医療機関の診察を受けさせる。

反応がなくなった場合

・直ちに胸骨圧迫から心肺蘇生を開始し、AEDが届けば装着する。 ・気道確保・人工呼吸の際に口の中を見て、異物が見えれば取り除く。見えないのに指で探ることはしない。

予防

・ミニトマトやぶどうは4等分に切る、ナッツ類・豆類は就学前の小児には与えない、食事中は座って落ち着いて食べさせ、遊びながら・走りながら食べさせない、といった対策が推奨されている。 ・医療機関では、異物除去後も気管支内残存が疑われれば胸部画像検査や気管支鏡検査を行う。

POINT

・食事中の突然の咳嗽+発声不能+チアノーゼ=気道異物による窒息。 ・反応あり:1歳以上は背部叩打法+腹部突き上げ法(Heimlich法)。乳児は背部叩打法+胸部突き上げ法(腹部突き上げ法は禁忌)。 ・反応なし:異物除去手技をやめ、直ちに胸骨圧迫からCPR+AED。 ・見えない異物を指で探る盲目的指拭法は行わない。飲水は誤嚥を悪化させる。 ・強い咳ができるうちは咳を促して見守る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。