「胸の形が気になる」12歳男児―画像が映す漏斗胸の正体と鳩胸との違い
第120回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
12歳の男児。胸郭の変形を主訴に来院した。学校で着替えの際に友人に胸の形について指摘され,本人が気にしている。自覚症状はない。意識は清明。身長158cm,体重40kg。体温36.6℃。脈拍60/分,整。血圧122/76mmHg。SpO2 96%(room air)。胸部エックス線写真(A)と胸部単純CT(B)とを下に示す。 身体所見としてみられるのはどれか。

- a.胸郭の動揺
- b.胸骨の陥凹
- c.胸骨の突出
- d.鎖骨の隆起
- e.肋骨の外反
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
漏斗胸は胸骨(主に胸骨体下部)と肋軟骨が背側へ陥凹する胸郭変形で、最も頻度が高く男児に多く、思春期の成長スパートで目立ってきます。身体所見の本質は前胸部中央の胸骨の陥凹であり、胸骨の突出は逆向きの変形である鳩胸、胸郭の動揺はフレイルチェストの所見として区別します。画像では、エックス線正面像で心陰影の左方偏位と偽性心拡大、側面像やCTで胸骨の後方陥凹がみられ、重症度はCTのHaller indexで評価します。Marfan症候群や側弯症の合併に注意し、心理的負担や心肺機能障害がある場合はNuss法などの手術を検討します。外見の悩みを主訴とする疾患でも、画像と身体所見を対応させて評価し、背景疾患まで視野に入れる姿勢が重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・12歳の男児で、胸の形を友人に指摘されて受診した。本人は外見を気にしているが、息切れ・動悸・胸痛などの自覚症状はない。 ・身長158cm、体重40kgとやせ型の体型である(BMI約16)。 ・バイタルサインは脈拍60/分・整、血圧122/76mmHg、SpO2 96%で、心不全や呼吸不全を示す所見はない。 ・胸部エックス線写真では、側面像で胸骨下部が後方へ落ち込んでおり、正面像では心陰影が左方へ偏位して見かけ上大きく見える(偽性心拡大)。胸部単純CTでは前胸壁中央の胸骨が椎体方向へ深く陥凹し、心臓が圧排されて左側へ押しやられている。
診断へのプロセス
思春期前後の男児で、無症状のまま外見上の胸郭変形に気付かれ、画像で胸骨の後方陥凹が確認できることから、漏斗胸(pectus excavatum)と診断できる。漏斗胸は成長期(特に思春期の急激な身長増加の時期)に陥凹が目立ってくることが多く、本症例の年齢・体型とも合致する。 鑑別としては、胸骨が前方に突き出る鳩胸(pectus carinatum)、先天性心疾患などに伴う胸郭変形、外傷による変形などが挙がる。しかし本症例は胸骨が「凹んで」おり、外傷歴や心不全徴候もないので、これらは否定的である。
設問の考え方
設問は「漏斗胸で視診・触診によりみられる身体所見」を問うている。漏斗胸の名前の由来どおり、前胸部中央が漏斗(じょうご)状にへこむ、すなわち胸骨の陥凹が本質的な所見である。
選択肢考察
- ×a. 胸郭の動揺
胸郭の動揺は、連続する複数の肋骨がそれぞれ2か所以上で骨折して胸壁の一部が周囲から遊離した状態(フレイルチェスト)でみられる。遊離した部分が吸気時に陥没し呼気時に膨隆する奇異呼吸を呈する重症胸部外傷の所見である。本症例には外傷歴も呼吸症状もなく、該当しない。
- ○b. 胸骨の陥凹
漏斗胸は胸骨(主に胸骨体下部)とそれに連なる肋軟骨が背側へ落ち込む胸郭変形であり、前胸部中央のくぼみとして視診で確認できる。本症例でも胸部エックス線側面像とCTで胸骨の後方陥凹と心臓の圧排が示されており、身体所見として胸骨の陥凹がみられる。
- ×c. 胸骨の突出
胸骨が前方へ突き出す変形は鳩胸の所見であり、漏斗胸とは逆向きの変形である。本症例の画像では胸骨は後方へ陥凹しているので当てはまらない。
- ×d. 鎖骨の隆起
鎖骨の局所的な隆起は、鎖骨骨折後の転位や仮骨形成、あるいは腫瘍などでみられる所見である。漏斗胸は胸骨と肋軟骨の変形であり、鎖骨には変化を生じない。
- ×e. 肋骨の外反
肋骨(肋骨弓)の外反は、下位肋骨が外側・前方へ張り出す状態(いわゆるリブフレア)を指し、姿勢不良や呼吸パターンの乱れなどでみられる。漏斗胸の一部では下位肋骨弓の張り出しを伴うこともあるが、それは付随的な所見にすぎず、本症を特徴づける所見は胸骨の陥凹である。最も適切な選択肢とはいえない。
漏斗胸の概要
・前胸壁の胸骨と肋軟骨が背側へ陥凹する先天性の胸郭変形で、胸郭変形の中で最も頻度が高い。男児に多い(男女比はおよそ3〜4:1)。 ・肋軟骨の過成長が原因と考えられており、乳幼児期から存在するが、思春期の成長スパートで陥凹が増強しやすい。 ・Marfan症候群などの結合組織疾患や側弯症を合併することがあるため、体型(高身長・やせ型、長い四肢)や脊柱にも注意を払う。
症状
・軽症〜中等症の多くは無症状で、外見上の悩み(入浴・着替え・水泳を避けるなど)や心理的負担が主な問題となる。 ・高度の陥凹では心臓・肺が圧迫され、易疲労感、労作時呼吸困難、動悸、不整脈、心雑音などを生じうる。
画像所見
・胸部エックス線正面像:心陰影の左方偏位と見かけ上の心拡大、右第2弓の不明瞭化(右中葉病変と紛らわしいことがある)。 ・側面像:胸骨の後方陥凹が直接確認できる。 ・CT:重症度評価にHaller index(胸郭横径を胸骨最深部と椎体前面の距離で割った値)を用いる。正常はおよそ2.5で、3.25を超えると高度とされ手術適応の目安となる。
治療
・美容的・心理的な理由、または心肺機能障害がある場合に手術を考慮する。 ・現在は胸腔鏡補助下に金属バーを挿入して胸骨を内側から持ち上げるNuss法が主流で、変形した肋軟骨を切除して胸骨を挙上するRavitch法なども用いられる。
鳩胸との対比
・鳩胸は胸骨が前方に突出する変形で、漏斗胸より頻度は低い。装具による圧迫療法が行われることがある。
POINT
・漏斗胸=胸骨(および肋軟骨)が背側へ陥凹する胸郭変形。男児に多く、思春期に目立ってくる。 ・鳩胸=胸骨の突出。漏斗胸と逆向きの変形として区別する。 ・胸郭の動揺(奇異呼吸)はフレイルチェストの所見。 ・胸部エックス線正面像では心陰影の左方偏位・偽性心拡大、側面像で胸骨陥凹。重症度はCTのHaller indexで評価する。 ・Marfan症候群や側弯症の合併に注意する。治療はNuss法などの手術。
