StudyMed医師国家試験

その消毒薬、傷口に塗れますか?―「人に使えるか」「創に使えるか」で選ぶポビドンヨード

第119回医師国家試験 E問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第18問

皮膚開放創の消毒に用いることができるのはどれか。

  1. a.エタノール
  2. b.グルタールアルデヒド
  3. c.次亜塩素酸ナトリウム
  4. d.ポビドンヨード
  5. e.ホルマリン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚が破れた開放創にどの消毒薬を使えるかを問う問題だ。消毒薬は殺菌力の強さだけで選ぶものではない。「人体に使えるか、器具や環境専用か」、そして「人体用でも傷口や粘膜に使えるか」という2段階でふるい分けるのがコツだよ。
医学生医学生
殺菌力が強いほうが感染予防には良さそうなので、強い薬を選びたくなってしまいます。
ドクタードクター
その発想がまさに落とし穴なんだ。強い消毒薬ほど蛋白質を変性・凝固させる力が強く、細菌だけでなく人の細胞も傷つける。表皮のバリアがない開放創では、真皮や皮下組織が薬剤に直接さらされるから、なおさら影響が大きい。
医学生医学生
微生物学の講義で、消毒薬は高水準・中水準・低水準に分かれると習いました。高水準のものは器具用でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。高水準消毒薬は芽胞まで殺滅できるもので、グルタールアルデヒドがその代表だ。内視鏡のように熱に弱い医療器具の消毒に使う。蛋白質を架橋・固定する作用が強く、皮膚につけば化学損傷や接触皮膚炎を起こし、蒸気は眼や気道を刺激する。だから人体には使えないし、扱う医療者も手袋や換気で身を守る必要があるんだ。
医学生医学生
ホルマリンも病理実習で臓器の固定に使っていました。においだけで目がしみた記憶があります。
ドクタードクター
その体験がそのまま答えだね。ホルマリンはホルムアルデヒドの水溶液で、組織を固定する作用が強く、刺激性に加えて感作性や発がん性もある。病理標本の固定や、かつての燻蒸消毒に使われたもので、人体の消毒には使わない。
医学生医学生
次亜塩素酸ナトリウムは、感染対策の研修でノロウイルスの嘔吐物処理に使うと教わりました。
ドクタードクター
その通り。塩素系の中水準消毒薬で、ノロウイルスや肝炎ウイルスにも有効だから、嘔吐物や血液で汚れた環境表面、リネン、器具の消毒に使う。ただ酸化作用が強く、皮膚や粘膜を刺激し、高濃度では化学損傷を起こす。金属も腐食させるね。創傷の消毒薬としては用いない。
医学生医学生
エタノールはどうでしょう。採血の前に毎回皮膚を拭いているので、人に使えるのは確かですよね。
ドクタードクター
そこが2段階目のふるい分けだ。エタノールは速効性があって、注射部位や手指など健常な皮膚の消毒には広く使われる。でも蛋白変性作用と脱水作用があるから、傷ついた皮膚や粘膜にはしみるような強い痛みと組織傷害を起こす。だから開放創には用いないんだ。
医学生医学生
健常皮膚にはよくても、創にはダメということですね。そうするとポビドンヨードが残ります。
ドクタードクター
正解だ。ポビドンヨードはヨウ素をポリビニルピロリドンという高分子に結合させたもので、ヨウ素が少しずつ放出されて殺菌作用を示す。結核菌を含む細菌、真菌、多くのウイルスに有効でスペクトルが広い。それでいてヨードチンキより刺激性・組織傷害性が低いので、手術野の皮膚、粘膜、創傷部位、熱傷面に使えるんだ。
医学生医学生
外科の実習で、術野を茶色く塗ってからしばらく待っていたのはなぜだったんでしょう。
ドクタードクター
いい観察だね。ポビドンヨードは塗ったあと乾燥するまで、およそ2分の時間がかかって効果を発揮する。塗ってすぐ拭き取ったりメスを入れたりしては意味が薄れる。ほかにも、ヨウ素過敏症の患者には使わないこと、広い範囲に長く使うとヨウ素が吸収されて甲状腺機能に影響しうることも覚えておこう。
医学生医学生
クロルヘキシジンも創に使えると聞いたことがありますが、粘膜にも使えますか。
ドクタードクター
クロルヘキシジンは低濃度なら創傷部位に使えるけれど、日本では腟・膀胱・口腔などの粘膜への使用はアナフィラキシーの報告があるため禁忌とされている。ここは国試でも狙われやすいポイントだね。
医学生医学生
救急外来で擦り傷の処置を見学したとき、消毒より水でじゃぶじゃぶ洗っていたのが印象的でした。
ドクタードクター
それが現在の創傷管理の基本なんだ。消毒薬は創の治癒を担う線維芽細胞や表皮細胞にも毒性をもつから、創内への漫然とした使用は治癒を遅らせかねない。まずは生理食塩水や水道水で十分に洗浄して異物や細菌を減らす。そのうえで消毒が必要な場面、たとえば汚染創の周囲の皮膚や手術野では、組織傷害性の低いポビドンヨードのような薬剤を選ぶ、という順序で考えよう。

まとめ

消毒薬は、まず人体に使えるものと器具・環境専用のものに分け、さらに人体用の中でも創や粘膜に使えるかで選びます。グルタールアルデヒドやホルマリン、次亜塩素酸ナトリウムは蛋白変性や酸化作用が強く、器具・環境用で人体には用いません。エタノールは健常皮膚には有用ですが、創や粘膜には刺激と組織傷害が強いため使いません。ポビドンヨードは抗微生物スペクトルが広く刺激性が比較的低いため、創傷・熱傷・粘膜・手術野に使用でき、乾燥までの時間やヨウ素過敏症、甲状腺への影響に注意します。また現在の創傷処置では、消毒よりも十分な洗浄が基本であることも臨床で欠かせない知識です。

解答・解説

正解はdです

問われていること

皮膚が破綻した開放創(擦過傷・切創・裂創など)に対して使ってよい消毒薬を選ぶ問題である。

考え方

消毒薬は「何に使うか(生体か、器具・環境か)」で大きく二つに分けて覚えるとよい。 ・生体(手指・皮膚・粘膜・創傷)に使えるもの:ポビドンヨード、クロルヘキシジン、ベンザルコニウム塩化物、オキシドール(過酸化水素水)など ・器具・環境にのみ使うもの:グルタールアルデヒド、フタラール、過酢酸、ホルマリン、次亜塩素酸ナトリウムなど 後者は殺菌力が強い反面、蛋白質の変性・凝固や化学損傷を起こすため、人体、とくに組織が露出した創には使えない。 さらに、生体に使える消毒薬の中でも「健常な皮膚にはよいが、創や粘膜には刺激が強すぎる」ものがある。その代表がエタノールなどのアルコール類である。 開放創では表皮のバリアがなく、真皮・皮下組織が直接薬剤に触れるため、組織傷害性と刺激性が低く、かつ広い抗微生物スペクトルを持つ薬剤が求められる。この条件を満たすのがポビドンヨードである。

選択肢考察

  1. ×a.  エタノール

    消毒用エタノール(約76.9〜81.4vol%)は速効性があり、注射部位や手指など健常皮膚の消毒に広く使われる中水準消毒薬である。しかし、蛋白質を変性させる作用と脱水作用により、損傷した皮膚や粘膜には強い刺激(疼痛)と組織傷害を生じるため、開放創には用いない。また芽胞には無効である。

  2. ×b.  グルタールアルデヒド

    芽胞まで殺滅できる高水準消毒薬で、内視鏡などの熱に弱い医療器具の消毒に用いる。蛋白質を架橋・固定する作用が強く、皮膚に付着すると化学損傷や接触皮膚炎を起こし、蒸気は眼・気道の粘膜を刺激する。人体には使用できず、取り扱う医療者も手袋・換気などの防護が必要である。

  3. ×c.  次亜塩素酸ナトリウム

    塩素系の中水準消毒薬で、ノロウイルスや肝炎ウイルスなどにも有効であり、器具・リネン・環境表面(嘔吐物や血液で汚染された場所など)の消毒に用いる。酸化作用が強く、皮膚・粘膜に刺激性があり、高濃度では化学損傷を起こす。金属腐食性もある。創傷の消毒薬としては用いない。

  4. ○d.  ポビドンヨード

    ヨウ素をポリビニルピロリドンという高分子に結合させた中水準消毒薬で、遊離したヨウ素がゆっくり放出されて殺菌作用を示す。細菌(結核菌を含む)、真菌、多くのウイルスに有効で、抗微生物スペクトルが広い。ヨウ素単独(ヨードチンキ)に比べ刺激性・組織傷害性が低いため、手術野の皮膚、粘膜、創傷部位、熱傷面の消毒に使用できる。このため開放創の消毒に用いることができる薬剤として正しい。なお、効果発現には塗布後に乾燥するまでの時間(約2分)が必要で、ヨウ素過敏症の患者には使用しない。広範囲・長期の使用ではヨウ素吸収による甲状腺機能異常に注意する。

  5. ×e.  ホルマリン

    ホルムアルデヒドの水溶液で、蛋白質を強く固定する作用をもち、病理組織標本の固定や、かつては室内・器具の燻蒸消毒に用いられた。皮膚・粘膜への刺激性が非常に強く、感作性(アレルギー)や発がん性もあるため、人体の消毒には使用しない。

消毒薬の抗微生物活性による分類

・高水準消毒薬:大量の芽胞を除くすべての微生物を殺滅し、長時間作用させれば芽胞も殺滅できる。グルタールアルデヒド、フタラール、過酢酸。器具専用で人体には使わない。 ・中水準消毒薬:芽胞以外の細菌(結核菌を含む)、多くのウイルス・真菌に有効。次亜塩素酸ナトリウム、エタノール、ポビドンヨードなど。 ・低水準消毒薬:一般細菌や一部の真菌・ウイルスに有効だが、結核菌や芽胞には無効。クロルヘキシジン、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、両性界面活性剤など。

創傷・粘膜に使用できる主な消毒薬

・ポビドンヨード:創傷、熱傷、粘膜、手術野に使用可能。 ・クロルヘキシジン:低濃度(0.05%程度)で創傷部位に使用可能。ただし、わが国では腟・膀胱・口腔などの粘膜への使用はアナフィラキシーの報告があるため禁忌である。 ・ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物:低濃度で創傷や粘膜に使用される。 ・オキシドール(約3%過酸化水素):発泡による物理的な洗浄効果を利用する。ただし正常な組織も傷つけうる。 ・ヨードチンキ:殺菌力は強いが刺激性が強く、現在は創にはあまり用いない。

創傷管理の現在の考え方

消毒薬は細菌だけでなく創の治癒を担う線維芽細胞や表皮細胞にも毒性をもつ。そのため、現在の創傷処置では、まず生理食塩水や水道水による十分な洗浄で異物や細菌量を減らすことが基本とされ、創内への消毒薬の漫然とした使用は治癒を遅らせるとして避ける傾向にある。消毒が必要な場合(汚染創の周囲皮膚、手術野など)には、ポビドンヨードのような組織傷害性の低い薬剤を選ぶ。

Spaulding分類(器具の消毒水準)

・クリティカル器具(無菌の組織・血管に入るもの:手術器具など):滅菌 ・セミクリティカル器具(粘膜や損傷皮膚に触れるもの:内視鏡など):高水準消毒 ・ノンクリティカル器具(健常皮膚にのみ触れるもの:血圧計のカフなど):低水準消毒または洗浄

POINT

・開放創・粘膜の消毒にはポビドンヨードを用いる。 ・エタノールは健常皮膚には使えるが、創・粘膜には刺激が強く使わない。 ・グルタールアルデヒド、ホルマリン、次亜塩素酸ナトリウムは器具・環境用で、人体には使わない。 ・クロルヘキシジンは創には使えるが、わが国では粘膜への使用は禁忌。 ・創傷処置の基本は消毒よりも十分な洗浄である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。