「壊れる心臓」の3パターン―心筋梗塞後の機械的合併症を部位で覚える
第118回医師国家試験 D問題 第13問
国試問題にチャレンジ
急性心筋梗塞後の機械的合併症はどれか。3つ選べ。
- a.心室中隔穿孔
- b.左室流出路狭窄
- c.心タンポナーデ
- d.急性僧帽弁閉鎖不全症
- e.急性大動脈弁閉鎖不全症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性心筋梗塞の機械的合併症とは、壊死して脆くなった心筋が物理的に裂けて心臓の構造が壊れるもので、左室自由壁破裂による心タンポナーデ、心室中隔穿孔による左右シャント、乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症の3つが代表です。いずれも壊死組織が最も軟らかくなる発症後数日〜1週間以内に多く、突然のショックや肺水腫で発症し、緊急手術を要します。乳頭筋断裂は単一血流支配の後内側乳頭筋、つまり下壁梗塞に多く、新たな収縮期雑音が出現したら心エコーで中隔穿孔との鑑別を急ぎます。一方、左室流出路狭窄は閉塞性肥大型心筋症、急性大動脈弁閉鎖不全症は大動脈解離や感染性心内膜炎が典型的な原因です。合併症を「時期」と「壊れる部位」で整理しておくことは、梗塞後の患者を安全に管理するための基本となります。
解答・解説
正解はa, c, dです
急性心筋梗塞の合併症は、①不整脈(心室細動、房室ブロックなど)、②ポンプ失調(心不全、心原性ショック)、③機械的合併症、④その他(梗塞後心膜炎、Dressler症候群、左室血栓・塞栓症など)に大別される。 機械的合併症とは、壊死に陥って脆くなった心筋が物理的に裂ける・ちぎれることで、心臓の構造そのものが壊れる合併症を指す。壊れる部位によって次の3つが代表である。 ・左室自由壁(心臓の外壁)が裂ける → 左室自由壁破裂 → 心膜腔に血液が貯留し心タンポナーデ ・心室中隔が裂ける → 心室中隔穿孔 → 左室から右室への短絡(左右シャント) ・乳頭筋が裂ける → 乳頭筋断裂 → 急性僧帽弁閉鎖不全症 いずれも梗塞巣の壊死組織が最も軟らかくなる発症後数日〜1週間以内(特に3〜5日目前後)に多く、突然の血行動態の破綻(ショック、急性肺水腫)で発症し、緊急手術を要する致死的な合併症である。再灌流療法の普及で頻度は減ったが、発症すれば死亡率は依然として高い。 以上の枠組みで選択肢を見れば、心筋梗塞による組織の断裂・穿孔で生じるものを選べばよい。左室流出路狭窄と急性大動脈弁閉鎖不全症は、それぞれ別の疾患に特徴的な病態である。
選択肢考察
- ○a. 心室中隔穿孔
機械的合併症である。心室中隔は主に左冠動脈前下行枝の中隔枝(下部・後方は右冠動脈系の後下行枝)から血流を受けており、この領域の梗塞で中隔が壊死・穿孔すると、圧の高い左室から右室へ血液が流れ込む左右シャントが生じる。前壁梗塞では心尖部寄り、下壁梗塞では心基部寄りの中隔に起こりやすい。新たに出現する胸骨左縁の粗い全収縮期雑音(しばしば振戦を伴う)、急速な心不全・ショックが特徴で、右心カテーテルで右房から右室・肺動脈にかけて酸素飽和度が上昇する(ステップアップ)ことや、心エコーのカラードプラで短絡血流をとらえることで診断する。頻度は急性心筋梗塞の0.1〜0.2%程度とまれだが、死亡率は高く、大動脈内バルーンパンピング(IABP)などで循環を補助しつつ外科的閉鎖を行う。
- ×b. 左室流出路狭窄
機械的合併症ではない。左室流出路狭窄(閉塞)は、肥厚した心室中隔基部と、収縮期に前方へ引き寄せられる僧帽弁前尖(収縮期前方運動:SAM)によって左室から大動脈への出口が狭くなる病態で、典型的には閉塞性肥大型心筋症でみられる。なお、前壁・心尖部の梗塞で基部が代償的に過収縮した場合などに一過性の流出路閉塞が起こる例も報告されているが、心筋の断裂によるものではなく、心筋梗塞の機械的合併症には含まれない。
- ○c. 心タンポナーデ
機械的合併症(左室自由壁破裂)の結果として生じる。壊死した左室自由壁が裂けると心膜腔に血液が急速に貯留し、心臓が外から圧迫されて拡張できなくなり、心拍出量が急激に低下する。急激に大量出血するblow-out型では、心電図上はQRS波がみられるのに有効な心収縮・脈拍がない無脈性電気活動(PEA、かつて電気収縮解離〈EMD〉と呼ばれた)となり、短時間で死亡することが多い。出血が少量ずつ進むoozing型では、血圧低下、頸静脈怒張、奇脈などのタンポナーデ症状が比較的緩やかに進行し、心膜穿刺で循環を保ちつつ緊急手術につなげられることがある。高齢者、女性、初回梗塞、高血圧の合併、再灌流の遅れなどが危険因子とされ、発症後1週間以内に多い。再灌流療法の普及により頻度は1%程度に減少している。
- ○d. 急性僧帽弁閉鎖不全症
機械的合併症(乳頭筋断裂)の結果として生じる。僧帽弁は腱索を介して前外側・後内側の2本の乳頭筋で支えられている。前外側乳頭筋は左前下行枝と回旋枝の二重支配を受けるのに対し、後内側乳頭筋は主に右冠動脈(または回旋枝)からの単一支配であるため虚血に弱く、下壁梗塞に伴う後内側乳頭筋の断裂が多い。断裂すると弁尖が左房側へ翻転して高度の逆流が突然生じ、急性肺水腫や心原性ショックを来す。左房が急な容量負荷に慣れておらず圧が急上昇するため、逆流量が多くても心雑音は短く小さいことがあり、心エコーでの確認が重要である。乳頭筋が断裂しなくても、虚血による乳頭筋機能不全や左室リモデリングで僧帽弁閉鎖不全を来すことがある。頻度は急性心筋梗塞の1%以下で、発症後数日〜1週間以内に多く、緊急の僧帽弁手術(置換または形成)を要する。
- ×e. 急性大動脈弁閉鎖不全症
機械的合併症ではない。大動脈弁は乳頭筋のような心筋性の支持構造をもたないため、心筋梗塞で直接壊れることはない。急性大動脈弁閉鎖不全症は、上行大動脈に及ぶ急性大動脈解離(Stanford A型)による弁輪拡大や弁交連の支持喪失、感染性心内膜炎による弁尖の破壊・穿孔、外傷などで生じる。なお、大動脈解離が冠動脈入口部(特に右冠動脈)に及ぶと心筋梗塞を合併することがあるが、その場合も大動脈弁逆流の原因は解離であり、心筋梗塞の機械的合併症ではない。
急性心筋梗塞の主な合併症と発症時期の目安
・心室細動などの致死的不整脈:発症直後〜24時間以内に多い(病院到着前の死亡の主因) ・房室ブロック:下壁梗塞(右冠動脈)で起こりやすく、多くは一過性 ・心不全・心原性ショック:急性期全般 ・機械的合併症(左室自由壁破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂):発症後数日〜1週間以内に多い ・梗塞後早期の心膜炎:数日以内 ・左室瘤・左室内血栓:数週以降。瘤では心電図でST上昇が持続する ・Dressler症候群(自己免疫性の心膜炎):数週後
3つの機械的合併症の比較
・左室自由壁破裂:心タンポナーデ、PEA。心エコーで心嚢液貯留。危険因子は高齢、女性、初回梗塞、高血圧。 ・心室中隔穿孔:新たな胸骨左縁の全収縮期雑音(振戦)、右室での酸素飽和度ステップアップ、左右シャント。 ・乳頭筋断裂:新たな心尖部の収縮期雑音(小さいこともある)、急性肺水腫、肺動脈楔入圧波形で大きなv波。後内側乳頭筋(下壁梗塞)に多い。
急性心筋梗塞後に新たな収縮期雑音が出現したら
心室中隔穿孔と乳頭筋断裂を鑑別する必要があり、心エコー(カラードプラ)が最も迅速で有用である。いずれもIABPや補助循環で循環を維持しつつ緊急手術を検討する。
左室仮性瘤
自由壁破裂が心膜の癒着などで覆われて限局したもので、壁は心膜と血栓のみからなるため再破裂の危険が高く、手術適応となる。
POINT
・心筋梗塞の機械的合併症は、左室自由壁破裂(→心タンポナーデ)、心室中隔穿孔(→左右シャント)、乳頭筋断裂(→急性僧帽弁閉鎖不全症)の3つ。 ・いずれも発症後数日〜1週間以内に多く、突然のショック・肺水腫で発症し、緊急手術が必要。 ・乳頭筋断裂は単一血流支配の後内側乳頭筋(下壁梗塞)に多い。 ・左室流出路狭窄は閉塞性肥大型心筋症、急性大動脈弁閉鎖不全症は大動脈解離・感染性心内膜炎で生じる。
