夜明け前に締めつける胸―冠攣縮性狭心症は「いつ起こるか」で見抜く
第120回医師国家試験 E問題 第8問
国試問題にチャレンジ
冠攣縮性狭心症の胸部症状に特徴的なのはどれか。
- a.頭痛を伴う。
- b.飲水で改善する。
- c.吸気で増悪する。
- d.早朝起床前に発症する。
- e.持続時間は5秒以内である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
冠攣縮性狭心症は、心外膜冠動脈の一過性の攣縮によって酸素供給が突然低下する病態で、労作と無関係に安静時、特に夜間から早朝の起床前後に発作が起こるのが最大の特徴です。痛みは前胸部の圧迫感・絞扼感で数分から十数分続き、呼吸や飲水では変化しないため、吸気で増悪すれば胸膜・心膜・胸壁由来、飲水で軽快すれば食道疾患、数秒で消える痛みは胸壁由来などを考えます。発作時にST上昇を示すものは異型狭心症と呼ばれ、診断にはホルター心電図やアセチルコリン・エルゴノビンによる誘発試験が用いられます。治療は禁煙とカルシウム拮抗薬(就寝前投与)、発作時の硝酸薬が基本で、非選択的β遮断薬の単独使用は避けます。「いつ、何で起こり、何で治まるか」を問診で整理する力は、胸痛診療全般の土台となります。
解答・解説
正解はdです
冠攣縮性狭心症(vasospastic angina:VSA)は、心外膜の太い冠動脈が一過性に強く収縮(攣縮)し、血流が途絶・減少することで心筋虚血を起こす病態である。動脈硬化による固定した狭窄で生じる労作性狭心症とは発症の仕方が異なる。
労作性狭心症との違い
労作性狭心症は、運動や階段昇降などで心筋の酸素需要が増えたときに、狭窄した冠動脈では血流の増加が追いつかずに胸痛が出現し、安静で数分以内に治まる。 一方、冠攣縮性狭心症は酸素供給の側が突然低下することで起こるため、労作とは無関係に安静時に発作が起こりやすい。特に夜間から早朝(睡眠中〜起床前後)に好発し、日中の運動能力は保たれていることが多い。早朝に起こりやすい背景には、自律神経のバランスの変化(副交感神経優位からの切り替わり)、血管内皮機能の日内変動などが関与すると考えられている。
胸痛の鑑別の考え方
胸痛の原因を推定するには、痛みの性状(圧迫感・絞扼感か、刺すような痛みか)、持続時間、誘因(労作・安静・呼吸・体位・食事)、軽快因子、随伴症状を整理する。狭心症の痛みは前胸部の圧迫感・絞めつけ感で、持続は数分〜15分程度、呼吸や体位では変化しない。本問の選択肢は、虚血性の胸痛とは異なる「別の疾患を示唆する特徴」と、冠攣縮性狭心症に固有の「好発時間帯」とを見分けさせる構成になっている。
選択肢考察
- ×a. 頭痛を伴う。
冠攣縮性狭心症に特徴的な随伴症状ではない。狭心症の痛みは肩・上肢・頸部・下顎・歯などへ放散することがあり、まれに頭部の痛みとして感じられる例もあるが、診断の手がかりとなる特徴ではない。なお、治療・診断に用いる硝酸薬(ニトログリセリン)は血管拡張作用によって頭痛を副作用として起こしやすく、発作そのものの症状と混同しないよう注意する。
- ×b. 飲水で改善する。
飲水によって冠動脈の攣縮が解除されることはない。飲水や飲食、制酸薬で軽快する胸痛(胸やけ様の痛み)は、胃食道逆流症(GERD)・逆流性食道炎などの食道疾患を考える。ただし、食道痙攣による胸痛は硝酸薬で軽快することもあり、冠攣縮性狭心症との鑑別が難しい場合がある。
- ×c. 吸気で増悪する。
心筋虚血による痛みは呼吸によって変化しない。深吸気や咳で増悪する胸痛は、胸膜炎・気胸・肺塞栓症(胸膜の刺激を伴う場合)などの胸膜由来の痛み、急性心膜炎(前かがみの座位で軽快し、仰臥位で増悪する)、肋間神経痛・肋軟骨炎などの胸壁由来の痛みを示唆する。
- ○d. 早朝起床前に発症する。
冠攣縮性狭心症の発作は、労作とは関係なく安静時、特に夜間から早朝の睡眠中〜起床前後に起こりやすいのが最大の特徴である。発作時の心電図ではST上昇(冠動脈の完全またはほぼ完全な閉塞による貫壁性虚血)またはST低下がみられ、ST上昇を伴うものは異型狭心症(Prinzmetal angina)と呼ばれる。早朝に好発するため、通常の外来受診時の心電図では異常がみられないことが多く、ホルター心電図による発作時の記録が診断に役立つ。
- ×e. 持続時間は5秒以内である。
狭心症発作の持続時間は通常数分〜15分程度である(冠攣縮性狭心症では数分〜十数分続くことが多い)。数秒程度で消える一瞬の痛みや、ピンポイントで指し示せる刺すような痛みは、心筋虚血としては短すぎ、肋間神経痛などの胸壁由来の痛み、期外収縮などの不整脈、僧帽弁逸脱症などを考える。逆に、20〜30分以上持続する場合は急性冠症候群(急性心筋梗塞・不安定狭心症)や大動脈解離、肺塞栓症などを疑う。
冠攣縮性狭心症の概要
・病態:心外膜冠動脈の一過性の過剰収縮による心筋虚血。血管内皮機能障害、血管平滑筋の過収縮性などが関与する。 ・疫学:日本人を含む東アジア人に多いとされる。喫煙が最大の危険因子であり、飲酒、ストレス、寒冷、過換気、マグネシウム欠乏なども発作の誘因となる。 ・症状:安静時、特に夜間〜早朝に起こる前胸部の圧迫感・絞扼感。数分〜十数分持続し、硝酸薬の舌下投与で速やかに軽快する。発作時に心室性不整脈や房室ブロックを起こし、失神や突然死の原因となることもある。 ・心電図:発作時にST上昇(異型狭心症)またはST低下を示し、発作が治まると正常化する。
診断
・ホルター心電図で、自覚症状と一致した一過性のST変化を捉える。 ・確定診断には、冠動脈造影の際にアセチルコリンまたはエルゴノビン(エルゴメトリン)を冠動脈内に投与して攣縮を誘発する冠攣縮誘発試験(薬物負荷試験)を行う。 ・労作で誘発されにくいため、運動負荷試験の診断的価値は低い(早朝の運動負荷で誘発されることはある)。
治療
・発作時:硝酸薬(ニトログリセリン)の舌下投与またはスプレー。 ・予防:禁煙が最も重要である。薬物療法の中心はカルシウム拮抗薬であり、特に夜間〜早朝の発作に備えて就寝前の服用が有効とされる。長時間作用型硝酸薬やニコランジルを併用することもある。 ・注意:非選択的β遮断薬は、β2受容体を介した血管拡張を抑え、α受容体刺激による血管収縮が優位となるため、冠攣縮を悪化させるおそれがあり、単独使用は避ける。
胸痛の特徴と考えるべき疾患
・労作時に出現し安静で数分以内に軽快:労作性狭心症 ・安静時、夜間〜早朝に出現:冠攣縮性狭心症 ・20〜30分以上持続し冷汗を伴う:急性冠症候群 ・突然発症の引き裂かれるような痛み、背部へ移動:急性大動脈解離 ・吸気・咳で増悪:胸膜炎、気胸、心膜炎 ・前かがみで軽快:急性心膜炎 ・飲食・体位(臥位・前屈)と関連、胸やけ:胃食道逆流症 ・数秒程度の刺すような痛み、圧痛あり:肋間神経痛、肋軟骨炎などの胸壁由来の痛み
POINT
・冠攣縮性狭心症は労作と無関係に安静時、特に夜間〜早朝(起床前後)に発作が起こるのが特徴である。 ・発作時の心電図でST上昇を示すものを異型狭心症と呼ぶ。診断にはホルター心電図やアセチルコリン・エルゴノビンによる冠攣縮誘発試験を用いる。 ・治療の基本は禁煙とカルシウム拮抗薬(就寝前投与が有効)、発作時は硝酸薬。非選択的β遮断薬の単独使用は攣縮を悪化させるため避ける。 ・狭心症の痛みは数分〜15分程度持続し、呼吸・体位・飲水では変化しない。数秒の痛みや吸気で増悪する痛みは別の原因を考える。
