StudyMed医師国家試験

針はどこを通り、どこで止めるか―胸腔穿刺を安全にする「深さの確認」

第120回医師国家試験 E問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第120回 E問題 第7問

胸水検査のための胸腔穿刺で正しい手技はどれか。

  1. a.第9肋間を穿刺する。
  2. b.手技中に咳が生じても急いで手技を進める。
  3. c.肋骨下縁に沿って穿刺針を胸腔内に進める。
  4. d.局所麻酔をしながら胸腔までの距離を確認する。
  5. e.胸水が吸引されたら穿刺針をさらに5cm進める。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胸水を調べるための胸腔穿刺の手技を問う問題だ。ポイントは「どこを刺すか」「どの経路で針を進めるか」「どこで止めるか」「トラブル時にどうするか」の4つ。この4つの観点で各選択肢を見ていこう。まず、胸腔穿刺とはどんな手技か説明できるかな。
医学生医学生
壁側胸膜と臓側胸膜の間にたまった液体を針で抜く手技ですよね。原因を調べる診断目的と、息苦しさを取る排液目的があると呼吸器内科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。今回は診断目的の穿刺だね。では最初の観点、穿刺部位から。肋間の番号で決めるのは適切だと思う?
医学生医学生
第9肋間あたりなら胸水は下にたまるので、確実に引けそうな気もします。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。横隔膜は呼気時にかなり高い位置まで挙上するから、第9肋間のように低い位置を刺すと、横隔膜を貫いて肝臓や脾臓を傷つける危険がある。そもそも穿刺部位は番号で機械的に決めるものではなく、超音波で胸水が十分あって臓器から離れている場所を確認してマーキングするのが基本だ。結果として、座位で背側の第7〜8肋間付近が選ばれることが多いね。
医学生医学生
番号を覚えるより、超音波で「安全な窓」を探すことが大事なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。次は針の通り道。肋骨の上縁と下縁、どちらに沿って進める?
医学生医学生
解剖実習で肋骨溝を確認しました。肋間動静脈と神経は肋骨の下縁を走るので、下縁沿いは危ないですね。
ドクタードクター
正解。上から静脈・動脈・神経の順に並ぶVANだね。下縁に沿って刺すとこれらを傷つけて、血胸や胸壁血腫、肋間神経痛を起こしうる。だから「穿刺する肋間の下にある肋骨の上縁」に沿って針を進めるのが原則だ。では正解の選択肢、局所麻酔をしながら胸腔までの距離を確認する、の意味を考えてみよう。
医学生医学生
麻酔は痛みを取るためだけかと思っていました。距離の確認にも使うんですか。
ドクタードクター
そこが大事なところ。局所麻酔は皮膚、皮下、肋間筋、そして特に痛みに敏感な壁側胸膜まで行う。麻酔針を少しずつ進めて、吸引して血液が引けないことを確かめながら薬液を入れていくと、ある深さで胸水が引けてくる。そこが胸腔の入り口だ。この深さを把握しておけば、本穿刺の針を必要以上に深く刺さずに済む。
医学生医学生
胸壁の厚さは体格で全然違うから、人ごとに測っておく必要があるわけですね。
ドクタードクター
その通り。痩せた人と肥満の人では数cm違うこともある。だからこそ、胸水が引けたらさらに5cm進める、という選択肢は危険だとわかるね。
医学生医学生
胸水が引けた時点で針先はもう胸腔内なので、そこから進めたら肺を刺してしまいます。
ドクタードクター
そう。臓側胸膜と肺を損傷して気胸や出血を起こしかねない。胸水が引けたらその位置で針を固定し、外套カテーテルを使うなら内針を少し引いてカテーテルだけを進める。最後に、手技中の咳はどう対応する?
医学生医学生
患者さんがつらそうなら、早く終わらせてあげたほうがいいのかなと思ってしまいます。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、それは逆なんだ。咳は針先が胸膜や肺を刺激しているサインのことがあるし、排液中なら肺の再膨張、さらには再膨張性肺水腫の前兆のこともある。咳で体が動けば針先もずれて肺を傷つけやすい。咳が出たらいったん中断して、SpO2低下、胸痛、呼吸困難、泡沫状痰がないかを確認する。
医学生医学生
「急ぐ」ではなく「止めて評価する」ですね。OSCEの手技でも、患者さんの変化に気づいたら手を止めるよう指導されました。
ドクタードクター
まさにその姿勢が大切。発展として、合併症と検査もまとめておこう。主な合併症は気胸、血胸、再膨張性肺水腫、血管迷走神経反射、感染、肝臓・脾臓の損傷。排液するなら1回量はおおむね1,000〜1,500mL程度までにとどめ、ゆっくり行う。終了後は胸部X線写真で気胸の有無を必ず確認するんだ。
医学生医学生
採った胸水は、Lightの基準で滲出性か漏出性かを見るんですよね。
ドクタードクター
そう。胸水と血清の総蛋白比が0.5を超える、LD比が0.6を超える、胸水LDが血清LD基準値上限の3分の2を超える、のいずれかを満たせば滲出性だ。そのほか細胞分画、糖、pH、ADA、培養、細胞診などを組み合わせて原因に迫っていく。安全に採ってこそ、検査の情報が生きるんだよ。

まとめ

胸腔穿刺では、局所麻酔の針を少しずつ進めながら壁側胸膜まで麻酔し、胸水が引ける深さで胸腔までの距離を確認しておくことが、本穿刺で針を進めすぎないための要となります。穿刺部位は肋間の番号ではなく超音波で胸水量と周囲臓器を確認して決め、低位穿刺は横隔膜や肝臓・脾臓の損傷につながるため避けます。肋間動静脈・神経は肋骨下縁を走るため下位肋骨の上縁に沿って穿刺し、胸水が引けたらそれ以上針を進めません。手技中の咳・胸痛・SpO2低下は中断して評価するサインであり、大量・急速な排液は再膨張性肺水腫を招きます。解剖と合併症の理屈を押さえておくことは、研修医として最初に任される侵襲的手技を安全に行う土台になります。

解答・解説

正解はdです

胸腔穿刺は、胸腔(壁側胸膜と臓側胸膜の間の空間)に貯留した液体を針で採取・排出する手技である。原因診断のための胸水検査(診断的穿刺)と、呼吸困難を軽減するための排液(治療的穿刺)の両方の目的で行われる。 安全に行うために押さえるべき原則は次のとおりである。 1. 穿刺部位は超音波検査で胸水が十分にあることを確認して決め、横隔膜より下の臓器(肝臓・脾臓)を傷つけない位置を選ぶ。 2. 肋骨の下縁には肋間動静脈・肋間神経が走行するため、下位の肋骨の上縁に沿って針を進める。 3. 局所麻酔の針で皮膚から壁側胸膜まで麻酔しながら進め、胸水が引ける深さ(胸腔までの距離)を確認したうえで本穿刺を行う。 4. 胸腔に達したら針を必要以上に進めず、肺を傷つけない。 5. 咳・胸痛・呼吸困難・SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)低下などが生じたら手技を中断して評価する。 これらの原則に照らして、各選択肢の手技が安全かどうかを判断すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  第9肋間を穿刺する。

    誤り。穿刺部位は肋間の番号で機械的に決めるのではなく、超音波検査(または打診・画像)で胸水の貯留範囲を確認し、胸水が十分にあり臓器損傷の危険が少ない部位を選ぶ。一般には座位で背側(後腋窩線〜肩甲骨線)の第7〜8肋間付近が選ばれることが多い。横隔膜は呼気時にかなり高位まで挙上するため、第9肋間のような低い位置を穿刺すると横隔膜や肝臓・脾臓などの腹部臓器を損傷する危険が高まる。

  2. ×b.  手技中に咳が生じても急いで手技を進める。

    誤り。手技中の咳は、針先による胸膜・肺への刺激、肺の再膨張、再膨張性肺水腫の前兆などを示すことがある。咳による体動で針先が動けば肺損傷・気胸の危険も高まる。咳が生じたらいったん手技を中断し、SpO2の低下、胸痛、呼吸困難、泡沫状痰を伴う湿性咳嗽などがないかを確認する。排液中であれば排液を中止する判断も必要である。なお、咳を抑えられない状態は胸腔穿刺の相対的禁忌とされる。

  3. ×c.  肋骨下縁に沿って穿刺針を胸腔内に進める。

    誤り。肋間動脈・肋間静脈・肋間神経は各肋骨の下縁に沿う肋骨溝を走行する(上から静脈・動脈・神経の順でVANと覚える)。肋骨下縁に沿って穿刺するとこれらを損傷し、血胸や胸壁血腫、肋間神経痛を起こすおそれがある。正しくは、穿刺する肋間の下にある肋骨の上縁に沿って針を進める。

  4. ○d.  局所麻酔をしながら胸腔までの距離を確認する。

    胸腔穿刺では、皮膚、皮下組織、肋間筋、そして特に痛みの強い壁側胸膜に局所麻酔を行う。麻酔の注射針を少しずつ進めながら、吸引して血液が引けないことを確かめて薬液を注入し、胸水が引けた深さで胸腔に達したと判断する。この深さ(皮膚から胸腔までの距離)を把握しておけば、本穿刺の針を必要以上に深く進めずに済み、肺損傷や気胸を防げる。胸壁の厚さは体格によって大きく異なるため、この確認は安全な手技に欠かせない。

  5. ×e.  胸水が吸引されたら穿刺針をさらに5cm進める。

    誤り。胸水が吸引された時点で針先はすでに胸腔内にある。そこからさらに5 cmも進めれば、胸水層を突き抜けて臓側胸膜・肺を損傷し、気胸や出血を起こす危険が高い。胸水が引けたらその位置で針を固定し(外套カテーテルを用いる場合は内針を少し引いてカテーテルのみを進める)、検査に必要な量を採取する。排液を行う場合も、再膨張性肺水腫を避けるため1回の排液量を制限し(一般に1,000〜1,500 mL程度まで)、ゆっくり行う。

胸腔穿刺の手順

1. 体位:座位で前かがみになり、テーブルなどにもたれかかる姿勢が一般的である(背側の肋間が広がる)。座位が困難な場合は側臥位や半座位で行う。 2. 部位決定:超音波検査で胸水の深さ、周囲臓器との位置関係を確認し、穿刺部位にマーキングする。 3. 消毒・清潔操作:穿刺部位を広く消毒し、滅菌手袋・滅菌ドレープを用いる。 4. 局所麻酔:皮膚から壁側胸膜まで麻酔し、胸水が引ける深さを確認する。 5. 穿刺:下位肋骨の上縁に沿って、陰圧をかけながら針を進める。胸水が引けたらそれ以上進めない。 6. 採取・排液:検査用の胸水を採取する。排液する場合は量と速度に注意する。 7. 終了後:抜針して圧迫し、胸部X線写真で気胸や残存胸水を確認する。しばらく安静にして経過を観察する。

主な合併症

・気胸:針による肺損傷や、手技中の空気の流入による。 ・血胸、胸壁血腫:肋間動静脈の損傷による。 ・再膨張性肺水腫:長期間虚脱していた肺が急速に再膨張することで生じる。大量・急速な排液を避ける。 ・血管迷走神経反射:徐脈・血圧低下・失神。 ・感染(膿胸):清潔操作の不備による。 ・肝臓・脾臓の損傷:低位穿刺で起こり得る。超音波ガイドで大きく減らせる。

胸水検査の基本

外観、細胞数と分画、総蛋白、LD(乳酸脱水素酵素)、糖、pH、ADA(アデノシンデアミナーゼ)、細菌学的検査(グラム染色・培養)、細胞診などを調べる。漏出性と滲出性の鑑別にはLightの基準を用い、次のいずれか一つ以上を満たせば滲出性と判断する。 ・胸水総蛋白/血清総蛋白 > 0.5 ・胸水LD/血清LD > 0.6 ・胸水LDが血清LD基準値上限の2/3を超える

POINT

・穿刺部位は超音波で確認して決め、低位穿刺は横隔膜・肝臓・脾臓損傷の危険があるため避ける。 ・肋間動静脈・神経は肋骨下縁を走るため、下位肋骨の上縁に沿って穿刺する。 ・局所麻酔の際に胸水が引ける深さを確認し、本穿刺で針を進めすぎない。 ・咳・胸痛・呼吸困難・SpO2低下が生じたら手技を中断する。 ・大量・急速な排液は再膨張性肺水腫を招くため避ける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。