何を何で割る?―%肺活量の計算から拘束性換気障害を見抜く
第120回医師国家試験 F問題 第46問
国試問題にチャレンジ
64歳の男性。腎細胞癌の術前呼吸機能評価のために受診した。自覚症状はなく,既往歴に特記すべきことはない。身長164cm,体重64kg。呼吸音はfine cracklesを聴取する。呼吸機能検査を行ったところ,肺活量2,500mL,1秒量2,200mL,努力性肺活量2,300mL,予測肺活量3,600mL,予測1秒量2,900mLであった。 %肺活量を求めよ。 ただし,小数点以下の数値が得られた場合には,小数第1位を四捨五入すること。
- a.64%
- b.69%
- c.76%
- d.81%
- e.92%
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
%肺活量は実測肺活量を予測肺活量で割って100をかけた値で、本例では2,500÷3,600×100≒69%となり、基準の80%を下回ります。1秒率は1秒量を努力性肺活量で割った値で約96%と保たれているため、拘束性換気障害と判定でき、fine cracklesと合わせて間質性肺炎が疑われます。努力性肺活量と肺活量、%1秒量と1秒率など似た指標が多く、分子と分母の取り違えが典型的な誤答パターンになるため、定義を正確に覚えることが大切です。間質性肺炎は手術後の急性増悪のリスクにもなるため、術前のスパイロメトリーと聴診で異常を拾い上げ、画像評価につなげる意義は大きいといえます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・64歳男性、腎細胞癌の術前に呼吸機能を評価する目的で受診。自覚症状なし。 ・身長164cm、体重64kgで、BMI(体重kg÷身長mの2乗)は64÷1.64²≒23.8と標準体型であり、肥満による肺活量低下は考えにくい。 ・聴診でfine crackles(捻髪音:吸気終末に聴かれる細かく高調な断続性副雑音)を聴取する。これは間質性肺炎・肺線維症など、肺間質が硬くなる病態で特徴的な所見である。
解き方
%肺活量(%VC)は、実測した肺活量(VC)が、性別・年齢・身長から求めた予測肺活量の何%にあたるかを示す指標である。 %肺活量(%)=実測肺活量÷予測肺活量×100 本例の値を代入すると、 2,500mL÷3,600mL×100=69.44…% 小数第1位を四捨五入して69%となる。
計算結果の解釈
%肺活量の基準は80%以上であり、69%は低下している。同時に1秒率(努力性肺活量に対する1秒量の割合、FEV1/FVC)を求めると、 2,200mL÷2,300mL×100≒95.7% となり、基準の70%以上を保っている。%肺活量<80%かつ1秒率≧70%であるから拘束性換気障害と判定でき、fine cracklesと合わせて間質性肺疾患の存在が疑われる。術前評価としては、胸部CTなどで間質性肺炎の有無・程度を確認することが重要であり、間質性肺炎は術後の急性増悪のリスクにもなる。 本問の誤りの選択肢は、与えられた数値の分母・分子の取り違えで得られる値になっているため、各指標の定義(何を何で割るか)を正確に覚えておく必要がある。
選択肢考察
- ×a. 64%
努力性肺活量2,300mLを予測肺活量3,600mLで割ると2,300÷3,600×100≒63.9%となり、64%が得られる。%肺活量の分子は(努力性肺活量ではなく)通常の肺活量2,500mLを用いるため誤りである。
- ○b. 69%
%肺活量=実測肺活量÷予測肺活量×100=2,500÷3,600×100=69.44…%であり、小数第1位を四捨五入して69%となる。80%未満であり、拘束性換気障害の基準を満たす。
- ×c. 76%
1秒量2,200mLを予測1秒量2,900mLで割ると2,200÷2,900×100≒75.9%となり、76%が得られる。これは%1秒量(%FEV1)であり、COPDの病期(重症度)分類などに用いる指標で、%肺活量ではない。
- ×d. 81%
予測1秒量2,900mLを予測肺活量3,600mLで割ると2,900÷3,600×100≒80.6%となり、81%が得られる。予測値同士の比であり、患者の実測値を反映した指標ではないため誤りである。
- ×e. 92%
努力性肺活量2,300mLを肺活量2,500mLで割ると2,300÷2,500×100=92%となる。%肺活量の計算には予測肺活量を分母に用いるため誤りである。なお、1秒率(FEV1/FVC)は2,200÷2,300×100≒95.7%であり、92%とも一致しない。
スパイロメトリーの主な指標
・肺活量(VC):最大吸気位からゆっくり最大限に吐き出した量。 ・努力性肺活量(FVC):最大吸気位から一気に最大努力で吐き出した量。閉塞性障害では呼気時に気道が虚脱して空気とらえこみ(air trapping)が起こり、FVCがVCより小さくなりやすい。 ・1秒量(FEV1):努力呼出の最初の1秒間に吐き出した量。 ・%肺活量(%VC)=VC÷予測VC×100。基準80%以上。 ・1秒率(FEV1%)=FEV1÷FVC×100(Gaenslerの1秒率)。基準70%以上。 ・%1秒量(%FEV1)=FEV1÷予測FEV1×100。COPDの病期分類(Ⅰ期:80%以上、Ⅱ期:50〜80%未満、Ⅲ期:30〜50%未満、Ⅳ期:30%未満)に用いる。
換気障害の分類
・正常:%VC≧80%かつ1秒率≧70% ・拘束性換気障害:%VC<80%かつ1秒率≧70%(間質性肺炎・肺線維症、胸膜疾患、胸郭変形、神経筋疾患、高度肥満など) ・閉塞性換気障害:%VC≧80%かつ1秒率<70%(COPD、気管支喘息など) ・混合性換気障害:%VC<80%かつ1秒率<70%
間質性肺炎の特徴
肺間質の炎症・線維化により肺が硬くなる(コンプライアンス低下)ため肺活量が減少する。気道の閉塞は伴わないので1秒率は保たれ、線維化による気道の牽引でむしろ高値となることも多い。拡散能(DLCO)が早期から低下し、両側下肺野背側でfine cracklesを聴取するのが典型である。ばち指を伴うこともある。血清マーカーとしてKL-6、SP-D、SP-Aが上昇する。
POINT
・%肺活量=実測肺活量÷予測肺活量×100(基準80%以上)。 ・1秒率=1秒量÷努力性肺活量×100(基準70%以上)。%1秒量(1秒量÷予測1秒量)と混同しない。 ・%VC<80%かつ1秒率≧70% → 拘束性換気障害。fine cracklesがあれば間質性肺炎を疑う。 ・本例:%VC=2,500÷3,600×100≒69%、1秒率≒95.7% → 拘束性換気障害。
