3歳の言葉の遅れ、どの物差しで測る?―自閉スペクトラム症疑いの子に使える知能検査
第120回医師国家試験 F問題 第45問
国試問題にチャレンジ
3歳の男児。言葉の遅れを心配した母親に連れられて来院した。襟のついた服や長いズボンをはくことを嫌がり,家ではおもちゃを一列に並べる一人遊びをしていることが多いという。聴力検査では異常を認めない。 この患児に用いる検査で適切なのはどれか。
- a.田中・Binet知能検査
- b.前頭葉機能検査〈FAB〉
- c.標準型失語症検査〈SLTA〉
- d.改訂長谷川式簡易知能評価スケール
- e.Wechsler児童用知能検査〈WISC-Ⅳ〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
言葉の遅れに加えて衣服の感触を嫌がる感覚過敏や、物を並べるこだわり行動がみられ、聴力が正常であれば自閉スペクトラム症を疑います。自閉スペクトラム症には知的発達症の合併が少なくないため、言葉の遅れの背景を見極め、療育や就学支援につなげるうえで知的水準の評価が重要です。3歳児に施行できる知能検査は2歳から使える田中・Binet知能検査や幼児用のWPPSIであり、WISCは5歳0か月からなので適用できません。改訂長谷川式簡易知能評価スケールや前頭葉機能検査、標準型失語症検査は、成人で獲得した機能の低下を評価する検査で幼児の発達評価には用いません。検査を選ぶ際は「何を測る検査か」と「対象年齢」の両面から考える習慣が、小児・精神領域の臨床で役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・3歳の男児で、主訴は言葉の遅れ(言語発達の遅れ)である。 ・襟付きの服や長ズボンを嫌がる:衣服の肌ざわりや締めつけを極端に嫌う触覚過敏であり、感覚刺激への過敏・鈍麻は自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)の特徴の一つである。 ・おもちゃを一列に並べる一人遊びが多い:物を規則的に並べることへの没頭や、他者と関わらない遊び方は、限定された反復的な行動・興味(こだわり)と、対人相互交流の乏しさを示唆する。 ・聴力検査は正常:言葉の遅れの原因として最初に除外すべき難聴は否定的である。
診断へのプロセス
幼児の言葉の遅れの原因としては、①聴覚障害、②知的発達症(知的能力障害)、③ASD、④発達性言語障害(表出性・受容性の言語発達の遅れのみが目立つもの)、⑤養育環境の問題(ネグレクトなど)が代表的である。本例では聴力が正常であり、感覚過敏とこだわり行動を伴うことから、ASDが最も疑われる。DSM-5-TRでは、ASDは「社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な欠陥」と「限定された反復的な様式の行動・興味・活動(感覚刺激への過敏・鈍麻を含む)」の両方で定義される。
設問の考え方
ASDの児では知的発達症を合併することが少なくなく、言葉の遅れが知的な遅れによるものか、ASDの社会的コミュニケーションの障害によるものかを見極めるため、全般的な知的水準の評価が欠かせない。また、知的水準は療育や就学先の検討にも直結する。したがって本問は、「3歳児に実施できる知能検査はどれか」を問うている。選択肢を、①小児に適用できるか、②3歳という年齢が対象範囲に入るか、の2段階で絞り込むと解きやすい。成人の高次脳機能・認知症評価用の検査(FAB、SLTA、HDS-R)は①で除外され、Wechsler児童用知能検査は②で除外される。
選択肢考察
- ○a. 田中・Binet知能検査
フランスのBinetが考案した知能検査を日本向けに標準化した個別式知能検査であり、適用年齢は2歳から成人までと幅広い。年齢ごとに配列された課題(言語、記憶、数量、図形など)をどこまで通過できるかで精神年齢〈MA〉を求め、生活年齢〈CA〉との比から知能指数(IQ=MA÷CA×100)を算出できる(現行版では14歳以上は偏差知能指数で表す)。3歳児でも施行でき、言葉の遅れを示す児の全般的な知的発達水準を把握するのに適しているため、本例で用いる検査として適切である。
- ×b. 前頭葉機能検査〈FAB〉
FAB(Frontal Assessment Battery)は、類似性の理解、語の流暢性、運動系列、葛藤指示、Go/No-Go課題、把握行動の6項目(各3点、計18点)からなるベッドサイド用の簡易検査である。主に成人の前頭葉性の遂行機能障害(前頭側頭型認知症などの評価)に用いられ、3歳児の発達評価や知能評価には用いない。
- ×c. 標準型失語症検査〈SLTA〉
SLTA(Standard Language Test of Aphasia)は、脳血管障害や頭部外傷などで一度獲得した言語機能が損なわれた成人の失語症を評価する検査であり、聴く・話す・読む・書く・計算の側面を26の下位検査で評価する。本例の問題は言語をまだ獲得していく途上での発達の遅れであり、後天的な失語症ではない。文字の読み書きを前提とする課題も多く、3歳児には適さない。
- ×d. 改訂長谷川式簡易知能評価スケール
改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈HDS-R〉は、年齢、日時の見当識、場所の見当識、3単語の記銘と遅延再生、計算、数字の逆唱、物品記銘、言語流暢性の9項目からなる高齢者向けの認知症スクリーニング検査である(30点満点、20点以下で認知症の疑い)。成人で獲得した認知機能の低下を測るものであり、小児の知的発達の評価には用いない。
- ×e. Wechsler児童用知能検査〈WISC-Ⅳ〉
WISC(Wechsler Intelligence Scale for Children)は小児用の知能検査であり、全検査IQに加えて言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度などの指標得点を算出でき、能力の偏り(得意・不得意)を把握できる点で発達障害の評価に有用である。しかし適用年齢は5歳0か月〜16歳11か月であり、3歳児には施行できない。3歳児にWechsler系の検査を用いるなら、幼児用のWPPSI(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence、WPPSI-Ⅲは2歳6か月〜7歳3か月)を選ぶ。
主な知能検査・発達検査と対象年齢
・田中・Binet知能検査:2歳〜成人。精神年齢とIQを算出する。 ・WPPSI(Wechsler幼児用):WPPSI-Ⅲは2歳6か月〜7歳3か月。 ・WISC(Wechsler児童用):WISC-Ⅳ/Ⅴは5歳0か月〜16歳11か月。 ・WAIS(Wechsler成人用):WAIS-Ⅳは16歳0か月〜90歳11か月。 ・新版K式発達検査:乳児期から成人まで。姿勢・運動、認知・適応、言語・社会の3領域で発達年齢・発達指数を求める。 ・遠城寺式乳幼児分析的発達検査法、津守式乳幼児精神発達診断法、KIDS乳幼児発達スケール:養育者からの聞き取りや観察で乳幼児の発達を評価する。
ASDに関連する評価ツール
・M-CHAT(乳幼児期自閉症チェックリスト修正版):1歳6か月健診前後のスクリーニングに用いる養育者記入式の質問紙。 ・PARS-TR(親面接式自閉スペクトラム症評定尺度):養育者への面接で特性を評定する。 ・ADOS-2、ADI-R:診断評価のための行動観察・面接ツール。
成人の高次脳機能・認知症評価に用いる検査
・HDS-R、MMSE(Mini-Mental State Examination):認知症スクリーニング。 ・FAB、Wisconsinカード分類テスト、Trail Making Test:前頭葉・遂行機能の評価。 ・SLTA、WAB失語症検査:失語症の評価。
ASDの臨床像
男児に多く、言葉の遅れ、視線が合いにくい、指さしが乏しい、呼びかけに反応しにくい、ごっこ遊びをしない、物を並べる・回るものを見続けるなどの常同的な遊び、手順や物の配置への強いこだわり、感覚過敏(音・衣服の感触・偏食など)がみられる。知的発達症や注意欠如多動症〈ADHD〉、てんかんを合併することがある。根治的な薬物療法はなく、早期からの療育(行動療法的アプローチ、視覚的構造化など)と環境調整が中心となる。
POINT
・言葉の遅れ+感覚過敏+こだわり行動(物を並べる一人遊び)+聴力正常 → 自閉スペクトラム症を疑う。 ・言葉の遅れの評価では、まず難聴を除外し、次に知的水準を評価する。 ・3歳児に使える知能検査は田中・Binet知能検査(2歳〜成人)やWPPSI。WISCは5歳0か月から。 ・FAB、SLTA、HDS-Rは成人の高次脳機能障害・認知症の評価用であり、幼児の発達評価には用いない。
