「言葉が出ない」の奥にあるもの―人見知り・こだわり・感覚過敏から読み解く自閉スペクトラム症
第120回医師国家試験 D問題 第43問
国試問題にチャレンジ
2歳の男児。有意語を認めないことを心配した両親に連れられて来院した。在胎40週,体重3,400gで出生した。運動発達は月齢相当であったが,9か月健診で人見知りをしなかった。1歳6か月児健診で有意語がないことを指摘され,経過観察とされていた。一つの食品にこだわる極端な偏食があり,掃除機の音が苦手でパニックになる。いつも同じ動画を見たがるという。 最も考えられるのはどれか。
- a.学習障害
- b.場面緘黙
- c.Tourette障害
- d.注意欠如多動症
- e.自閉スペクトラム症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
言葉の遅れを主訴とする幼児で、乳児期からの対人的反応の乏しさ(人見知りがない)、特定の物事への強いこだわり、音などへの感覚過敏がそろう場合は、自閉スペクトラム症を考えます。DSM-5では、社会的コミュニケーション・対人的相互反応の障害と、感覚過敏・鈍麻を含む限定された反復的な行動・興味の2領域が中核で、症状が発達早期から存在することが求められます。学習障害は学齢期に明らかになる特定技能の困難、場面緘黙は特定場面でのみ話せない不安症、Tourette障害はチック、ADHDは不注意・多動・衝動性が主症状であり、本症例の特徴とは合いません。実際の診療では難聴と知的発達症の除外・評価を行ったうえで、早期の療育と家族支援につなげることが重要です。乳幼児健診のサインを正しく読み取る力は、発達障害の早期発見と支援の出発点になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・2歳男児。主訴は「意味のある言葉(有意語)が出ない」こと。 ・周産期に問題はなく(正期産、出生体重3,400g)、運動発達は月齢相当である。発達全般が遅れているのではなく、遅れが言語と対人面に偏っている。 ・9か月健診で人見知りがなかった:人見知りは生後6〜8か月ごろに現れ、養育者と他人を区別して愛着を形成していることを示すサインである。これがみられないことは、早い時期からの対人関係の発達の偏りを示唆する。 ・1歳6か月児健診で有意語なし、2歳でも有意語なし:通常、有意語は1歳前後で出始め、1歳6か月では数語、2歳では二語文が出始める。明らかな言語発達の遅れである。 ・一つの食品へのこだわりによる極端な偏食、いつも同じ動画を見たがる:同じものへの強いこだわり(同一性への固執)や限られた興味を示す。 ・掃除機の音でパニックになる:特定の音に対する感覚過敏である。
診断への道筋
言葉の遅れで受診した幼児では、まず難聴、知的発達症(知的能力障害)、自閉スペクトラム症(ASD)、言語発達だけが遅れる発達性言語障害、養育環境の問題などを鑑別する。本症例では、言葉の遅れに加えて、①乳児期からの対人的相互反応の乏しさ(人見知りがない)、②限定された反復的な行動・興味(偏食、同じ動画へのこだわり)、③感覚刺激への過敏(掃除機の音)がそろっている。 DSM-5(米国精神医学会の診断基準)では、ASDを「社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な欠陥」と「行動・興味・活動の限定された反復的な様式(感覚過敏・鈍麻を含む)」の2領域で定義し、症状が発達早期から存在することを求めている。本症例の所見はこの2領域の両方に当てはまり、自閉スペクトラム症が最も考えられる。 選択肢にはないが、実際の診療では言葉の遅れの原因として難聴を除外するため聴力検査を行い、発達検査で知的発達の程度も評価する。ASDに知的発達症が併存することは珍しくない。
選択肢考察
- ×a. 学習障害
学習障害(DSM-5では限局性学習症)は、全般的な知的発達に遅れはないのに、読む・書く・計算するなど特定の学習技能の習得に著しい困難がある状態である。学習が始まる学齢期になって初めて明らかになるもので、2歳児で診断されることはない。また、本症例にみられる対人面の問題、こだわり、感覚過敏は学習障害の特徴ではない。
- ×b. 場面緘黙
場面緘黙(選択性緘黙)は、家庭などでは普通に話せるのに、園や学校など特定の社会的場面では一貫して話せなくなる状態で、DSM-5では不安症群に分類される。言葉の能力そのものは保たれているのが前提であり、多くは集団生活が始まる幼児期後半以降に気付かれる。本症例はどの場面でも有意語がなく、言語発達自体が遅れているため当てはまらない。
- ×c. Tourette障害
Tourette障害(トゥレット症)は、複数の運動チックと1つ以上の音声チックが、18歳未満で発症し1年以上持続するチック症である。チックは突発的・急速・反復的で律動性のない運動や発声で、多くは4〜6歳ごろに始まる。本症例にはチックの記載がなく、言葉の遅れやこだわりとも結びつかない。
- ×d. 注意欠如多動症
注意欠如多動症(ADHD)は、不注意(集中が続かない、忘れ物が多いなど)と多動性・衝動性(じっとしていられない、順番を待てないなど)を主症状とする神経発達症である。本症例には多動や衝動性の記載がなく、中心となるのは言葉の遅れ、対人関係の乏しさ、こだわり、感覚過敏であって、ADHDでは説明できない。なお、幼児は年齢的にもともと活動性が高いため、ADHDの診断は通常もう少し年長になってから行われる。ADHDとASDは併存することがある。
- ○e. 自閉スペクトラム症
乳児期から人見知りがなく対人的な反応が乏しいこと、有意語がない言語発達の遅れ、特定の食品や同じ動画への強いこだわり、掃除機の音への感覚過敏がそろっており、DSM-5のASDの2つの中核領域(社会的コミュニケーション・対人的相互反応の障害、限定された反復的な行動・興味)を満たす。運動発達が正常で周産期に異常がないことも、発達の偏りが社会性と言語に集中しているという点でASDに合う。ASDは言葉の遅れをきっかけに1歳6か月〜3歳ごろに気付かれることが多く、本症例の経過は典型的である。
自閉スペクトラム症(ASD)の概要
・神経発達症(発達障害)の一つで、男児に多い(女児の約3〜4倍)。遺伝的要因の関与が大きい。 ・DSM-5の診断基準の骨子 A:社会的コミュニケーションと対人的相互反応の持続的な欠陥(視線が合いにくい、共同注意(指さしや視線で興味を共有すること)が乏しい、他者への関心が薄い、ごっこ遊びをしない、会話のやりとりが成り立ちにくい など) B:行動・興味・活動の限定された反復的な様式が2つ以上(常同的な動作やオウム返し、同一性への固執や習慣へのこだわり、限られた対象への強い興味、感覚刺激への過敏または鈍麻) C:症状は発達早期から存在する D:社会生活上の重大な障害を引き起こしている ・かつての自閉症(自閉性障害)、アスペルガー症候群(アスペルガー障害)、特定不能の広汎性発達障害などは、DSM-5で「自閉スペクトラム症」に統合された。
乳幼児期に気付かれやすいサイン
・乳児期:視線が合いにくい、あやしても笑わない、人見知りがない、後追いをしない。 ・1歳6か月ごろ:指さしをしない、名前を呼んでも振り向かない、有意語がない。 ・2〜3歳:言葉の遅れ、オウム返し、一人遊びが多い、同じ行動の繰り返し、変化を嫌う、偏食、特定の音や触覚への過敏。 ・1歳6か月児健診は、言葉の遅れや指さし・共同注意の有無を確認し、ASDを早期に拾い上げる重要な機会である。スクリーニングにはM-CHAT(乳幼児期自閉症チェックリスト修正版)などが用いられる。
言葉の遅れの鑑別
・難聴:聴性脳幹反応(ABR)などで聴力を評価する。言葉の遅れをみたらまず除外する。 ・知的発達症:言語以外も含め発達全般が遅れる。ASDとしばしば併存する。 ・発達性言語障害:言語のみが遅れ、対人関係やこだわりの問題はない。 ・不適切な養育環境:ネグレクトなどによる刺激不足。
対応
ASDを根本的に治す薬物療法はなく、早期からの療育(応用行動分析に基づく支援、言語療法、作業療法など)と、家族への支援・環境調整が中心となる。易刺激性(かんしゃく、自傷など)に対しては、リスペリドンやアリピプラゾールが用いられることがある。経過中に知的発達症、ADHD、限局性学習症、発達性協調運動症などの併存が明らかになることもある。
POINT
・言葉の遅れ+対人的相互反応の乏しさ(人見知りがない、視線が合わない、指さしをしない)+こだわり・感覚過敏→自閉スペクトラム症を考える。 ・DSM-5のASDの中核は「社会的コミュニケーション・対人的相互反応の障害」と「限定された反復的な行動・興味(感覚過敏・鈍麻を含む)」の2領域。 ・言葉の遅れをみたら、難聴と知的発達症を必ず鑑別する。 ・学習障害は学齢期、Tourette障害はチック、場面緘黙は特定場面でのみ話せない不安症、ADHDは不注意・多動・衝動性が主症状である。
