StudyMed医師国家試験

「待てない」「割り込む」がカギ―ADHDの三主徴とASD・知的発達症との線引き

第119回医師国家試験 D問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第1問

注意欠如多動性障害〈注意欠如多動症〉〈ADHD〉で正しいのはどれか。

  1. a.こだわりが強い。
  2. b.知能低下を伴う。
  3. c.独り遊びが多い。
  4. d.衝動的行動を認める。
  5. e.多動は次第に悪化する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は注意欠如多動症、ADHDの基本的な特徴を問う問題だ。ポイントは、ADHDそのものの中核症状と、よく混同される自閉スペクトラム症や知的発達症の特徴をきちんと切り分けられるかどうか。まずADHDの中核症状を3つ挙げてみてくれるかな。
医学生医学生
不注意、多動性、それと……衝動性でしょうか。精神医学の講義で「三主徴」として習いました。
ドクタードクター
その通り。不注意・多動性・衝動性の3つが、年齢や発達の水準に見合わない程度にあって、家庭と学校など複数の場面で持続し、生活に支障をきたしている状態をADHDと呼ぶ。では選択肢の中で、この3つにそのまま当てはまるものはどれだろう。
医学生医学生
衝動的行動ですね。でも、こだわりが強いというのも、発達障害のイメージとしてはありそうで少し迷います。
ドクタードクター
そこが整理のしどころだね。こだわり、つまり特定の手順や物事への固執、同じ行動の繰り返し、変化への抵抗といった「限局された反復的な行動・興味」は自閉スペクトラム症の中核症状なんだ。ADHDの診断要素には入っていない。ただしADHDとASDは併存が少なくないので、こだわりが目立つならASDの合併を考える、という順番で捉えるといい。
医学生医学生
独り遊びが多いというのも、ASDのほうの特徴でしょうか。小児科実習で、ASDの子が友達の輪に入らず電車のおもちゃを並べ続けていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい記憶だね。他者への関心が乏しく独りで遊ぶのは、対人相互関係や社会的コミュニケーションの障害を背景とするASDの特徴だ。ADHDの子はむしろ積極的に人と関わろうとすることが多い。ところが順番を待てない、ルールを守れない、ちょっかいを出すといった衝動性のせいで、友人関係のトラブルになりやすいんだ。
医学生医学生
関わりたいのにうまくいかない、という感じですね。知能低下を伴うというのはどうですか。
ドクタードクター
ADHDは知的水準とは独立した障害で、知能が平均以上の人も多い。知能低下を本質的な特徴とするのは知的発達症だ。ただ、不注意のために成績が振るわなかったり、知的発達症や限局性学習症が併存したりすることはあるし、知能検査で能力の凸凹がみられることもある。「伴うことがある」と「本質的に伴う」は区別しておこう。
医学生医学生
多動は次第に悪化する、というのは逆な気がします。大人で走り回っている人はあまり見ないので。
ドクタードクター
その直感は正しい。外から見える多動は幼児期から学童期に最も目立ち、年齢とともに軽快するのが一般的な経過だ。思春期以降はそわそわ感や落ち着かなさといった内的な形に変わることが多い。成人期まで残りやすいのはむしろ不注意で、仕事のミスや忘れ物、段取りの悪さとして問題になる。
医学生医学生
では衝動的行動が正解で、具体的には質問の途中で答えてしまう、順番を待てない、会話に割り込む、といった行動ですね。
ドクタードクター
そう、それに危険を考えずに道路へ飛び出すような行動もある。整理すると、ADHDの軸は不注意・多動性・衝動性、ASDの軸は対人コミュニケーションの障害とこだわり、知的発達症の軸は全般的な知的機能の低下と適応機能の障害。この3本の軸で選択肢を見れば、迷わず切り分けられる。
医学生医学生
診断基準では年齢の条件もありましたよね。CBTの勉強で「12歳」という数字を見た覚えがあります。
ドクタードクター
よく覚えているね。DSM-5では症状のいくつかが12歳になる前から存在し、2つ以上の場面でみられることが求められる。不注意と多動性・衝動性はそれぞれ9項目あって、6項目以上、17歳以上なら5項目以上が6か月以上続くことが条件だ。またDSM-5以降はASDとの併存診断が可能になった。
医学生医学生
男の子に多いと聞きますが、女の子は少ないということですか。
ドクタードクター
小児では男児に数倍多いとされるけれど、女児は多動・衝動性が目立たず、忘れ物が多い、片付けられないといった不注意優勢型が多いので見逃されやすい、という側面もある。臨床では「おとなしいから違う」と決めつけないことが大切だ。
医学生医学生
治療は薬が中心なんでしょうか。
ドクタードクター
基本は心理社会的治療で、刺激の少ない座席配置や短く具体的な指示といった環境調整、本人への行動療法、保護者へのペアレント・トレーニングなどが土台になる。薬物療法としては、中枢神経刺激薬のメチルフェニデート徐放剤やリスデキサンフェタミン、非刺激薬のアトモキセチンやグアンファシンが用いられる。薬だけに頼らず、環境と関わり方を整えることが支援の出発点だね。

まとめ

ADHDは不注意・多動性・衝動性を中核症状とする神経発達症で、順番を待てない、会話に割り込む、質問の途中で答えるといった衝動的行動はその代表的な表れです。こだわりや独り遊びは自閉スペクトラム症、知能低下は知的発達症の特徴であり、ADHDの本質的な症状ではありませんが、これらの障害は併存しうる点にも注意が必要です。多動は年齢とともに軽快して内的な落ち着かなさに変わり、成人期には不注意が残りやすいという経過の特徴があります。DSM-5では12歳以前からの症状と2つ以上の場面での出現が求められ、治療は環境調整やペアレント・トレーニングを土台に、必要に応じて刺激薬・非刺激薬を用います。ADHD・ASD・知的発達症を「中核症状の軸」で区別する視点は、小児科・精神科の診療で子どもの困りごとを正しく理解するための基本になります。

解答・解説

正解はdです

注意欠如多動性障害〈注意欠如多動症〉〈ADHD:attention-deficit/hyperactivity disorder〉は、神経発達症(発達障害)の一つであり、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つを中核症状とする。これらが年齢や発達の水準に見合わない程度に存在し、家庭と学校など複数の場面で持続して生活に支障をきたしている状態である。 本問は、ADHDの中核症状を理解しているか、そしてしばしば混同される自閉スペクトラム症〈ASD:autism spectrum disorder〉や知的発達症〈知的能力障害〉の特徴と区別できるかを問うている。 ・ADHDの核:不注意・多動性・衝動性 ・ASDの核:対人関係・社会的コミュニケーションの障害と、限局された反復的な行動・興味(こだわり) ・知的発達症の核:全般的な知的機能の低下と適応機能の障害 この3つの軸を整理しておけば、選択肢の中で「衝動的行動」だけがADHDの中核症状に当たると判断できる。また、ADHDの症状は成長とともに形を変え、目に見える多動は年齢とともに目立たなくなっていくという経過の特徴も押さえておく。

選択肢考察

  1. ×a.  こだわりが強い。

    特定の物事や手順への強いこだわり、同じ行動の繰り返し、変化への抵抗といった「限局された反復的な行動・興味」は、自閉スペクトラム症の中核症状である。ADHDの診断要素には含まれない。なお、ADHDとASDは併存することが少なくないため、こだわりがみられる場合はASDの合併を考える。

  2. ×b.  知能低下を伴う。

    ADHDは知的水準とは独立した障害であり、知能が平均以上の例も多い。知能低下を本質的な特徴とするのは知的発達症〈知的能力障害〉である。ただし、不注意のために学業成績が振るわないことや、知的発達症・限局性学習症が併存することはあり、知能検査では能力のばらつき(凸凹)がみられることもある。

  3. ×c.  独り遊びが多い。

    他者への関心が乏しく、友達と関わらずに独りで遊ぶことが多いのは、社会的コミュニケーションや対人相互関係の障害を背景とする自閉スペクトラム症にみられる特徴である。ADHDの子どもはむしろ他者に積極的に関わろうとすることが多いが、順番を待てない、ルールを守れない、ちょっかいを出すといった衝動性のために友人関係のトラブルを生じやすい。

  4. ○d.  衝動的行動を認める。

    衝動性はADHDの中核症状の一つである。具体的には、質問が終わる前に答えてしまう、順番を待つことが難しい、他人の会話や遊びに割り込む、危険を考えずに道路へ飛び出す、といった行動として現れる。不注意・多動性とともにADHDの診断基準を構成する症状であり、正しい記述である。

  5. ×e.  多動は次第に悪化する。

    多動は幼児期から学童期に最も目立ち、年齢とともに軽快していくのが一般的な経過である。思春期以降は、席を離れて歩き回るといった外から見える多動は減り、落ち着かなさ・そわそわ感といった内的な形に変わることが多い。成人期まで残りやすいのはむしろ不注意症状であり、仕事上のミスや忘れ物、段取りの悪さなどとして問題になる。

ADHDの概要

・神経発達症群に属し、学童期の有病率は約5%、成人でも2〜3%程度とされる。 ・小児では男児に多い(数倍)。女児では多動・衝動性が目立たず、忘れ物が多い、片付けられないなど不注意が前景に立つ不注意優勢型が多いため、見逃されやすい。 ・遺伝的要因が大きく、家族内集積がみられる。病態として、前頭前野を中心とした実行機能(計画・抑制・作業記憶)の障害、報酬系(ドパミン系)の機能異常、情動調節の障害などが想定されている。

診断(DSM-5の要点)

・不注意症状群、多動性・衝動性症状群のそれぞれ9項目のうち6項目以上(17歳以上では5項目以上)が6か月以上持続する。 ・症状のいくつかが12歳になる前から存在する。 ・症状が2つ以上の場面(家庭、学校、職場など)で認められる。 ・社会的・学業的・職業的機能を損なっている。 ・病型として、混合型、不注意優勢型、多動・衝動優勢型に分けられる。 ・DSM-5以降はASDとの併存診断が可能となった。

併存しやすい障害

自閉スペクトラム症、限局性学習症、チック症、発達性協調運動症、反抗挑発症・素行症、不安症、抑うつなど。

治療

・環境調整(刺激の少ない座席配置、指示を短く具体的にする等)、本人への行動療法、保護者へのペアレント・トレーニングなどの心理社会的治療が基本となる。 ・薬物療法として、中枢神経刺激薬(メチルフェニデート徐放剤、リスデキサンフェタミン)と非刺激薬(アトモキセチン:選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、グアンファシン:α2A受容体作動薬)が用いられる。

ASDとの対比

ASDは「社会的コミュニケーション・対人相互作用の障害」と「限局された反復的な行動・興味・活動(こだわり、感覚の過敏・鈍麻など)」の2領域で定義される。こだわりや独り遊びはASDを連想させるキーワードである。

POINT

・ADHDの三主徴:不注意、多動性、衝動性 ・こだわり・独り遊び(対人関心の乏しさ)は自閉スペクトラム症の特徴 ・知能低下はADHDの特徴ではない(知的発達症の特徴) ・多動は年齢とともに軽快し、成人期には不注意が残りやすい ・DSM-5:症状の一部が12歳以前から存在し、2つ以上の場面でみられる ・男児に多いが、女児は不注意優勢型が多く見逃されやすい

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。