√の形が語る「硬い袋」―dip and plateauと拡張期等圧化で読む収縮性心膜炎
第119回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
心不全精査目的の心臓カテーテル検査の左右心室圧波形を下に示す。 考えられる疾患はどれか。

- a.急性心筋炎
- b.収縮性心膜炎
- c.肥大型心筋症
- d.大動脈弁狭窄症
- e.大動脈弁閉鎖不全症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心室圧波形で拡張早期に鋭く落ち込んだ後すぐ平坦になるdip and plateau(square root sign)は、心室の拡張が強く制限されていることを示し、収縮性心膜炎と拘束型心筋症でみられます。両者の鑑別では左右心室の拡張期圧の関係が鍵で、ほぼ等しく重なれば収縮性心膜炎、左室が右室より明らかに高ければ拘束型心筋症を考えます。収縮性心膜炎は硬く肥厚・石灰化した心膜が心臓を締め付ける疾患で、頸静脈怒張や腹水などの右心不全症状、Kussmaul徴候、心膜ノック音が特徴であり、根治治療は心膜切除術です。急性心筋炎は収縮障害、大動脈弁狭窄症は左室‐大動脈間の収縮期圧較差、大動脈弁閉鎖不全症は脈圧の増大が特徴で、いずれも左右の拡張期等圧化は示しません。圧波形を「形」と「左右の関係」の2段階で読む習慣は、心不全の原因を見極めるうえで大いに役立ちます。
解答・解説
正解はbです
波形の読み取り
心電図の下に、左室圧と右室圧が同時に記録されている。目盛りは0、25、50mmHgである。 ・収縮期:左右の心室圧は重なっておらず、高さが明らかに異なる。左室圧は細い線として急峻に立ち上がり、50mmHgの目盛りを超えて記録範囲の上端からはみ出している(左室収縮期圧は50mmHgより高く、図の範囲外)。一方、右室圧は丸みを帯びた幅広い山を描き、頂点はおよそ45〜50mmHgにとどまる。収縮性心膜炎であっても収縮期の左右心室圧が等しくなるわけではなく、左室が体循環、右室が肺循環を受け持つ以上、収縮期には左室圧の方が高いのが通常である。 ・拡張期:ここで初めて2本の曲線がほぼ完全に重なる。両心室圧とも拡張早期に急峻に低下して0mmHg近く(数mmHg程度)まで鋭く落ち込む谷(dip)をつくり、その後すぐに20mmHg前後まで急上昇して、拡張期の残りの間はほぼ平らな高原(plateau)となる。これがいわゆる「dip and plateau」パターン(平方根の記号√に似た形から square root sign とも呼ぶ)である。 ・拡張期の左右心室圧が重なっていることは、拡張期圧・拡張末期圧が左右で等しい(等圧化)ことを意味する。 ・なお、右室拡張末期圧(約20mmHg)は右室収縮期圧(約50mmHg)の1/3を超えており、これも収縮性心膜炎に合致する。
所見の意味
dip and plateauは、心室が拡張早期には素早く充満するものの、ある容量に達した時点で外側から(または心筋自体の硬さによって)それ以上広がれなくなり、拡張中期以降は流入が止まって圧が一定となることを示す。この所見は心室の拡張が強く制限される病態、すなわち収縮性心膜炎と拘束型心筋症で認められる。 両者を見分ける鍵が左右心室の拡張期圧の関係である。収縮性心膜炎では、硬く肥厚した心膜が両心室を一つの固い袋のように包み込むため、左右の心室の拡張期圧がほぼ同じ値に揃う(差が5mmHg未満)。一方、拘束型心筋症は心筋そのものが硬くなる病態で、一般に左室の方が強く障害されるため、左室拡張末期圧が右室より5mmHg以上高くなることが多い。 本問は、収縮期には左室圧が右室圧より高い別々の波形を示しつつ、拡張期には左右心室圧が重なってdip and plateauを描き等圧化しており、収縮性心膜炎と判断できる。
選択肢考察
- ×a. 急性心筋炎
急性心筋炎は主にウイルス感染を契機に心筋に炎症が起こる疾患で、左室収縮能の低下による心不全・心原性ショック、不整脈などを来す。収縮力低下に伴い左室収縮期圧の立ち上がりが鈍くなったり拡張末期圧が上昇したりすることはあるが、拡張期のdip and plateauや左右心室拡張期圧の等圧化を特徴とする疾患ではない。
- ○b. 収縮性心膜炎
線維化・石灰化して硬くなった心膜が心臓全体を締め付け、心室の拡張を外から制限する疾患である。拡張早期は心房圧が高いため心室へ急速に血液が流れ込む(dip)が、心膜の容量限界に達すると流入が急に止まり、圧は高い値のまま一定となる(plateau)。また、左右の心室が共通の硬い心膜に閉じ込められているため両心室の拡張期圧がほぼ等しくなる。本問の波形はこれらの特徴をすべて満たしている。
- ×c. 肥大型心筋症
肥大型心筋症では肥大した左室の弛緩・伸展性が低下し、左室拡張末期圧が上昇することがある。閉塞性の場合は左室流出路に圧較差を生じ、期外収縮後に圧較差が増大し大動脈脈圧はむしろ減少する現象(Brockenbrough現象)が特徴的である。しかし、障害の主体は左室であり、本問のような左右心室拡張期圧の等圧化を伴うdip and plateauを示す疾患ではない。
- ×d. 大動脈弁狭窄症
大動脈弁狭窄症の特徴的な圧所見は、収縮期に左室圧が大動脈圧を大きく上回る左室-大動脈間の収縮期圧較差である。大動脈圧波形は立ち上がりが遅く低い(遅脈・小脈)。左室肥大により左室拡張末期圧が上昇することはあるが、右室を含めた拡張期圧の等圧化は生じない。
- ×e. 大動脈弁閉鎖不全症
大動脈弁閉鎖不全症では拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流するため、大動脈拡張期圧が低下して脈圧が大きくなる。急性例では左室拡張期圧が急上昇し大動脈拡張期圧に近づくこともあるが、これは左室のみの変化であり、右室と等圧になるdip and plateauパターンにはならない。
収縮性心膜炎の概要
・原因:特発性・ウイルス性のほか、心臓手術後、縦隔への放射線照射後、結核(わが国でも以前は主要な原因であった)、膠原病、腎不全などがある。 ・病態:硬い心膜により拡張が制限され、心拍出量の低下と体静脈うっ血(右心不全)症状が前面に出る。 ・症状・身体所見:頸静脈怒張、肝腫大、腹水、下腿浮腫などの右心不全徴候が主体。吸気時に頸静脈圧が低下せずむしろ上昇するKussmaul徴候、拡張早期の心膜ノック音(心室への急速流入が急に止まることで生じる)が特徴的である。頸静脈波ではy谷が深く急峻になる。 ・画像:胸部X線・CTで心膜の肥厚や石灰化を認める。心エコーでは心室中隔の拡張早期の異常運動(septal bounce)、呼吸による左右心室流入血流の大きな変動、下大静脈の拡張などがみられる。 ・治療:利尿薬による対症療法、炎症が残る一過性の例では抗炎症治療。慢性で進行した例では心膜切除術が根治的治療である。
収縮性心膜炎と拘束型心筋症の鑑別(カテーテル所見)
・dip and plateau:両者でみられる。 ・左右心室の拡張末期圧:収縮性心膜炎ではほぼ等しい(差5mmHg未満)。拘束型心筋症では左室が右室より5mmHg以上高いことが多い。 ・右室拡張末期圧/右室収縮期圧:収縮性心膜炎では1/3を超えやすい。 ・右室収縮期圧:収縮性心膜炎では著しい肺高血圧は少なく、50〜55mmHg未満のことが多い。拘束型心筋症ではより高値になりやすい。 ・呼吸性変動:収縮性心膜炎では心膜によって総容量が固定されているため、吸気時に右室収縮期圧が上昇し左室収縮期圧が低下する(左右が逆方向に動く:心室相互依存の増強)。拘束型心筋症では両者が同方向に変動する。これは鑑別に最も有用な所見の一つとされる。
心タンポナーデとの違い
心タンポナーデでも拡張制限と右室・左室拡張期圧の等圧化がみられるが、心膜腔内の液体により拡張期全体を通じて圧がかかり続けるため、拡張早期の急速流入が起こりにくく、明瞭なdip and plateau(頸静脈波の深いy谷)は生じない。奇脈が目立つのはタンポナーデである。
POINT
・心室圧波形のdip and plateau(square root sign)=拡張制限の所見:収縮性心膜炎、拘束型心筋症 ・左右心室の拡張期圧が等しい(差5mmHg未満)→収縮性心膜炎 ・左室拡張期圧が右室より5mmHg以上高い→拘束型心筋症を考える ・収縮性心膜炎:右心不全症状、Kussmaul徴候、心膜ノック音、心膜の肥厚・石灰化。根治は心膜切除術 ・大動脈弁狭窄症は左室-大動脈間の収縮期圧較差、肥大型心筋症(閉塞性)はBrockenbrough現象が特徴
