StudyMed医師国家試験

痛いOsler、痛くないJaneway―指先に現れる感染性心内膜炎のサイン

第117回医師国家試験 B問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第117回 B問題 第6問

感染性心内膜炎を示唆する皮膚所見はどれか。

  1. a.Roth斑
  2. b.輪状紅斑
  3. c.Koplik斑
  4. d.Osler結節
  5. e.遊走性紅斑

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、感染性心内膜炎を示唆する身体所見のうち「皮膚」に現れるものを選ぶ問題だ。ポイントは、所見の名前と疾患を結びつけるだけでなく、それが体のどこに出る所見なのかまで押さえておくこと。まず、感染性心内膜炎でなぜ全身に所見が出るのか、考えてみようか。
医学生医学生
弁に付いた疣腫が飛んで、末梢の血管に詰まるからでしょうか。
ドクタードクター
それが一つ。疣腫は細菌や血小板、フィブリンの塊で、ちぎれて塞栓を起こす。もう一つは、持続する菌血症に対する免疫反応、つまり免疫複合体が沈着して起こる血管炎だ。この「塞栓による血管現象」と「免疫学的現象」の2本立てで所見を整理すると覚えやすい。
医学生医学生
循環器の講義で、Osler結節とJaneway病変とRoth斑がセットで出てきました。どれも感染性心内膜炎ですよね。
ドクタードクター
そう、どれも感染性心内膜炎を示唆する。だからこそ今回は「皮膚所見」という条件が効いてくる。Osler結節は手指や足趾の先端の腹側、指腹などにできる数mmの赤紫色の結節で、押すと痛む、自発痛もあるのが特徴だ。数時間から数日で消えてしまう。主に免疫複合体による血管炎が機序と考えられている。
医学生医学生
Roth斑もセットで覚えていたので、ついそちらも選びたくなります。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。Roth斑は眼底鏡で見る網膜出血で、中心が白っぽく、周囲を出血が縁取る形をしている。感染性心内膜炎を示唆する所見ではあるけれど、皮膚ではなく眼底の所見だ。しかも白血病や重症貧血でもみられて、特異的とはいえない。
医学生医学生
眼科の実習で眼底を見たとき、白血病の患者さんで似た出血があると教わりました。
ドクタードクター
いい経験だね。では残りの選択肢。輪状紅斑は何の所見だったかな。
医学生医学生
A群溶連菌感染のあとに起こるリウマチ熱で、Jones基準の主症状でした。
ドクタードクター
正解。体幹や四肢近位に、辺縁が淡紅色で中心が退色した輪状の紅斑が出たり消えたりする。リウマチ熱は弁膜症の原因にはなるけれど、輪状紅斑自体は感染性心内膜炎の所見ではない。Koplik斑は?
医学生医学生
麻疹のカタル期に頬粘膜に出る白い小斑点です。小児科の実習で、発疹より先に出るから早期診断に役立つと習いました。
ドクタードクター
その通り。皮膚ではなく口腔粘膜の所見で、感染性心内膜炎とは無関係だ。遊走性紅斑はマダニが媒介するボレリア感染、ライム病の早期にみられる所見で、刺咬部を中心に紅斑が環状に広がっていく。これも別の疾患だね。
医学生医学生
つまり、感染性心内膜炎を示唆して、なおかつ皮膚に出るのはOsler結節だけ、ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。ここで頻出なのがJaneway病変との区別だ。Janeway病変は手掌や足底にできる無痛性の小さな出血斑で、こちらは塞栓による血管現象とされる。
医学生医学生
「痛いOsler、痛くないJaneway」ですね。CBTの勉強のときにその語呂で覚えました。
ドクタードクター
それで十分役に立つ。修正Duke診断基準では、Osler結節やRoth斑は小基準の「免疫学的現象」、Janeway病変や結膜出血は「血管現象」に入る。ほかに爪下線状出血や眼瞼結膜の点状出血も末梢所見として知っておこう。
医学生医学生
でも、実際の診断ではこういう末梢所見が決め手になるんですか。
ドクタードクター
大事な質問だ。これらの所見は出現頻度が高くないから、ないことで感染性心内膜炎は否定できない。診断の柱は、抗菌薬を始める前に時間をあけて複数セット採る血液培養と、心エコーでの疣腫の確認だ。経胸壁エコーでまず評価して、必要なら感度の高い経食道エコーを行う。原因不明の発熱が続く人で、弁膜症や人工弁、歯科処置後といった背景があれば、まず疑うことが何より重要なんだ。
医学生医学生
不明熱の人を診るときは、手指や眼瞼結膜、眼底まで丁寧に見るようにします。
ドクタードクター
その姿勢がいい。末梢所見は「疑うきっかけ」として、診断基準は「確かめる道筋」として使い分けよう。

まとめ

感染性心内膜炎では、疣腫からの塞栓と免疫複合体による血管炎によって、全身にさまざまな末梢所見が現れます。指腹にできる有痛性の赤紫色の結節であるOsler結節は代表的な皮膚所見で、手掌・足底の無痛性出血斑であるJaneway病変と「痛いOsler、痛くないJaneway」で区別します。Roth斑も感染性心内膜炎を示唆しますが眼底所見であり、輪状紅斑はリウマチ熱、Koplik斑は麻疹、遊走性紅斑はライム病の所見です。これらの末梢所見は頻度が高くないため、診断は抗菌薬投与前の複数セットの血液培養と心エコーを柱とする修正Duke診断基準で行います。所見の名前だけでなく出現部位と機序まで整理しておくことが、不明熱の診療で感染性心内膜炎を見逃さない力につながります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

感染性心内膜炎(IE:infective endocarditis)に特徴的な身体所見のうち、「皮膚」に現れるものを選ぶ問題である。IEに関連する所見であっても、皮膚以外の部位(眼底など)の所見は該当しない点に注意する。

IEの末梢所見の整理

IEでは、弁などに付着した疣腫(ゆうしゅ、vegetation:細菌・血小板・フィブリンなどからなる塊)から生じる塞栓と、持続的な菌血症に対する免疫反応(免疫複合体の沈着による血管炎)によって、全身にさまざまな所見が現れる。代表的なものは次のとおりである。 ・Osler結節: 手指・足趾の先端の腹側(指腹)などにできる、有痛性の赤紫色の小結節(皮膚所見) ・Janeway病変: 手掌・足底にできる、無痛性の小さな出血性斑(皮膚所見) ・爪下線状出血(splinter hemorrhage): 爪の下の線状の出血(皮膚付属器の所見) ・眼瞼結膜の点状出血(結膜所見) ・Roth斑: 眼底の網膜出血(眼底所見) したがって、選択肢のうちIEを示唆し、かつ皮膚に現れる所見はOsler結節である。Roth斑もIEを示唆する重要な所見だが眼底所見であり、皮膚所見ではない。残りの選択肢は他疾患を示唆する所見である。

選択肢考察

  1. ×a.  Roth斑

    Roth斑は眼底鏡で観察される、中心部が白っぽく周囲が出血で縁取られた網膜出血である。主に免疫学的機序(免疫複合体による血管障害)によると考えられており、IEの診断基準(修正Duke診断基準)では小基準の「免疫学的現象」に含まれる。IEを示唆する所見ではあるが、皮膚ではなく眼底の所見であるため本問の答えにはならない。また白血病や重症貧血などでもみられ、IEに特異的ではない。出現頻度も低い。

  2. ×b.  輪状紅斑

    輪状紅斑は、A群β溶血性レンサ球菌感染後に起こるリウマチ熱で重要な皮膚所見であり、Jones診断基準(改訂版)の主症状(major criteria)の一つである。体幹や四肢近位部に、辺縁が淡紅色で中心が退色した輪状の紅斑が出没する。このほか、Sjögren症候群など膠原病でも環状の紅斑がみられる。IEを示唆する所見ではない。

  3. ×c.  Koplik斑

    Koplik斑は麻疹のカタル期(発疹出現前)に、臼歯に面した頬粘膜に現れる、周囲に発赤を伴う白色の小斑点である。口腔粘膜の所見であり、麻疹の早期診断に有用である。IEとは関係がない。

  4. ○d.  Osler結節

    Osler結節は、手指・足趾の先端の腹側(指腹)や母指球・小指球などに生じる、圧痛・自発痛を伴う数mm程度の赤紫色の皮下結節で、数時間から数日で消退する。免疫複合体の沈着による血管炎が主な機序と考えられており、修正Duke診断基準では小基準の「免疫学的現象」に含まれる。IEを示唆する皮膚所見である。出現頻度は高くないため、ないことでIEを否定はできない。無痛性で手掌・足底にできるJaneway病変(塞栓による「血管現象」)との区別が頻出である。

  5. ×e.  遊走性紅斑

    遊走性紅斑は、マダニが媒介するスピロヘータであるボレリア(Borrelia)属の感染症、ライム病の早期にみられる特徴的な皮膚所見である。マダニの刺咬部を中心に紅斑が生じ、中心部が退色しながら環状に遠心性に拡大する。IEを示唆する所見ではない。

感染性心内膜炎(IE)の概要

IEは、心臓の弁や心内膜、大血管内膜に細菌などが感染して疣腫を形成し、菌血症、塞栓症、弁破壊による心不全などを起こす全身性の敗血症性疾患である。 ・基礎疾患: 弁膜症、先天性心疾患、人工弁置換術後、ペースメーカなどの心内デバイス、IEの既往など。異常な血流による内膜の損傷や異物の存在が、菌の付着を起こしやすくする。 ・誘因: 歯科処置、耳鼻咽喉科・泌尿器科・婦人科の処置などによる一過性の菌血症、静注薬物の使用など。 ・主な起炎菌: 黄色ブドウ球菌、緑色レンサ球菌(口腔内常在菌)、腸球菌など。 ・症状: 発熱、全身倦怠感、新たな心雑音、心不全、塞栓症状(脳梗塞、脾梗塞、腎梗塞など)、上記の末梢所見。

診断(修正Duke診断基準)

大基準: ①血液培養陽性(IEに典型的な菌が複数回の培養で検出されるなど)、②心内膜病変の証拠(心エコーでの疣腫、膿瘍、人工弁の新たな部分的離開、新たな弁逆流)。 小基準: ①素因(心疾患、静注薬物使用)、②38℃以上の発熱、③血管現象(主要動脈塞栓、敗血症性肺梗塞、感染性動脈瘤、頭蓋内出血、結膜出血、Janeway病変)、④免疫学的現象(糸球体腎炎、Osler結節、Roth斑、リウマトイド因子陽性)、⑤大基準を満たさない微生物学的所見。 確定診断: 大基準2つ、または大基準1つ+小基準3つ、または小基準5つ。

検査・治療の要点

・血液培養は抗菌薬投与前に、時間をあけて複数セット採取する。 ・心エコーは経胸壁でまず評価し、疣腫の検出感度が高い経食道心エコーを必要に応じて行う。 ・治療は起炎菌に合わせた長期間の静注抗菌薬投与が基本で、難治性心不全、制御困難な感染、塞栓リスクの高い大きな疣腫などでは外科手術を検討する。

POINT

・IEの末梢所見: Osler結節(有痛性、指腹)、Janeway病変(無痛性、手掌・足底)、爪下線状出血、眼瞼結膜点状出血、Roth斑(眼底)。 ・Osler結節とRoth斑は「免疫学的現象」、Janeway病変は「血管現象」として修正Duke診断基準の小基準に含まれる。 ・「痛いOsler、痛くないJaneway」で区別する。 ・輪状紅斑→リウマチ熱、Koplik斑→麻疹、遊走性紅斑→ライム病。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。