「桜・猫・電車」を繰り返して―高齢者総合機能評価で復唱が測るもの
第117回医師国家試験 B問題 第7問
国試問題にチャレンジ
高齢者総合機能評価〈CGA〉において,復唱を用いて評価するのはどれか。
- a.意欲
- b.運動機能
- c.認知機能
- d.基本的日常生活動作
- e.手段的日常生活動作
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者総合機能評価(CGA)は、高齢者を疾患だけでなく身体機能・精神心理機能・生活機能・社会環境から多面的に評価する手法で、外来ではスクリーニング版のCGA7がよく用いられます。3つの言葉をその場で繰り返す復唱は即時記憶(記銘)を確かめる手順であり、後の遅延再生と組み合わせて認知機能を評価するもので、MMSEや改訂長谷川式の3単語課題と同じ原理です。意欲は自発的な挨拶、基本的日常生活動作は入浴・排泄の自立、手段的日常生活動作は交通機関を使った外出で評価し、運動機能はTimed Up and Go テストや握力などで評価します。評価項目と評価方法の対応を押さえておくと、高齢者の生活上の問題を短時間で拾い上げ、多職種によるケアにつなげる力が身につきます。
解答・解説
正解はcです
問われていること
高齢者総合機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)で用いる評価項目のうち、「言葉を復唱させる」という手法で評価するものはどれかを問う問題である。
CGAとは
CGAは、高齢者を病気の有無だけでなく、身体機能・精神心理機能・生活機能・社会環境などの側面から多面的に評価し、問題点を拾い上げて医療・介護のケアに結び付ける手法である。項目が多く全てを行うと時間がかかるため、日常診療ではスクリーニング版として7項目からなるCGA7がよく用いられる。CGA7では、診察室での自然なやりとりの中で次のように評価する。 1. 意欲: 診察時に自分から挨拶をするか 2. 認知機能(復唱): 「桜・猫・電車」のような3つの言葉を言ってもらい、後で尋ねるので覚えておくよう伝える 3. 手段的日常生活動作(IADL): バスや電車、自家用車などを使って一人で外出できるか(外来なら、ここまでどのように来たか) 4. 認知機能(遅延再生): 先ほどの3つの言葉を思い出してもらう 5. 基本的日常生活動作(入浴): 一人で入浴し、体を洗えるか 6. 基本的日常生活動作(排泄): トイレで失敗することはないか 7. 情緒・気分: 自分が無力だと感じるか
考え方
3つの言葉を聞いてその場で繰り返してもらう「復唱」は、言葉を正しく聞き取り覚え込む即時記憶(記銘)を確認する作業であり、その後の遅延再生と組み合わせて記憶障害(認知機能障害)をスクリーニングする。これはMMSE(Mini-Mental State Examination)や改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)における3単語の記銘・遅延再生と同じ考え方である。したがって、復唱で評価するのは認知機能である。
選択肢考察
- ×a. 意欲
意欲は、自ら進んで物事に取り組もうとする気力のことである。CGA7では、診察室に入った際に患者が自分から挨拶をするかどうかで評価する(自発的に挨拶すれば意欲は保たれていると判断する)。より詳しくはVitality indexなどを用いる。表情、身だしなみ、会話から伝わる活気なども参考になる。復唱で評価するものではない。
- ×b. 運動機能
運動機能は、椅子からの立ち上がりや歩行の様子、Timed Up and Go テスト(椅子から立ち上がり3m先で折り返して戻り再び座るまでの時間を測る)、握力、歩行速度などで評価する。上肢では手指の巧緻運動や腕の挙上なども確認する。復唱で評価するものではない。
- ○c. 認知機能
CGA7では、3つの言葉を言ってその場で復唱してもらい(即時記憶・記銘の確認)、別の質問を挟んだ後にそれらを思い出してもらう(遅延再生)ことで認知機能をスクリーニングする。復唱は注意力や聴覚的な理解とともに記銘力をみる手段であり、MMSEやHDS-Rの3単語課題と同じ原理である。遅延再生ができない場合は、詳しい認知機能検査に進む。
- ×d. 基本的日常生活動作
基本的日常生活動作(BADL:basic activities of daily living)は、食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行(移動)、階段昇降、更衣、排便・排尿の管理など、身の回りの基本的な動作である。CGA7では入浴と排泄の自立について質問して評価し、詳しくはBarthel indexなどを用いる。復唱で評価するものではない。
- ×e. 手段的日常生活動作
手段的日常生活動作(IADL:instrumental activities of daily living)は、BADLより複雑で、自立した社会生活に必要な動作である。電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通機関を使った外出、服薬管理、金銭管理などが含まれ、Lawtonの尺度で評価される。CGA7では交通機関や自家用車を使って一人で外出できるか(受診時の来院手段)を尋ねて評価する。復唱で評価するものではない。
CGAの評価領域と代表的な評価法
・基本的ADL: Barthel index、Katz index ・手段的ADL: Lawtonの尺度、老研式活動能力指標 ・認知機能: MMSE、HDS-R(いずれも30点満点) ・情緒・気分(抑うつ): GDS(Geriatric Depression Scale)-15 ・意欲: Vitality index ・運動機能・転倒リスク: Timed Up and Go テスト、握力、歩行速度 ・栄養: MNA(Mini Nutritional Assessment) ・社会環境: 家族構成、介護者の有無、住環境、経済状況、介護保険サービスの利用状況
CGAの意義
高齢者は複数の疾患を抱えやすく、加齢変化・多疾患・廃用などが絡み合って、転倒、認知機能低下、尿失禁、低栄養などの老年症候群を呈しやすい。疾患ごとの診療だけでは見落とされる生活機能の問題を、CGAによって多面的・網羅的に拾い上げることができる。抽出された問題点は、医師・看護師・リハビリテーション職・ソーシャルワーカー・ケアマネジャーなどの多職種で共有し、ケアプランの作成や社会資源の活用に生かす。これにより高齢者のADLやQOL(生活の質)の維持・向上を図る。
POINT
・CGAの復唱(3単語の即時記憶)と遅延再生は認知機能の評価である。 ・CGA7の評価: 意欲=自発的な挨拶、認知機能=3単語の復唱と遅延再生、IADL=交通機関を使った外出、BADL=入浴・排泄、情緒=無力感。 ・BADLは身の回りの動作(Barthel index)、IADLは社会生活の動作(Lawtonの尺度)。 ・認知機能のスクリーニングにはMMSE、HDS-Rも用いる。
