「来年の健診で様子見」は危ない―赤血球円柱が告げる糸球体腎炎と専門医紹介のタイミング
第120回医師国家試験 D問題 第42問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。尿検査の異常を指摘されて来院した。昨年の職場健診で尿検査の異常を初めて指摘されたが,医療機関を受診しなかった。今年の健診でも尿検査の異常を指摘されて受診した。身長172cm,体重76kg。血圧144/86mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。尿所見:蛋白1+,潜血2+,尿蛋白/Cr比0.90g/gCr(基準0.15未満),沈渣に赤血球15~20/HPF,赤血球円柱を認める。血液所見:赤血球460万,Hb 14.6g/dL,Ht 40%,白血球7,300,血小板25万。血液生化学所見:総蛋白7.0g/dL,アルブミン4.0g/dL,AST 24U/L,ALT 30U/L,LD 155U/L(基準124~222),尿素窒素16mg/dL,クレアチニン0.9mg/dL,eGFR 70.8mL/分/1.73m2,血糖98mg/dL,HbA1c 5.8%(基準4.9~6.0),総コレステロール220mg/dL,トリグリセリド140mg/dL,Na 142mEq/L,K 4.0mEq/L,Cl 107mEq/L。免疫血清学所見:CRP 0.1mg/dL,抗核抗体陰性,血清補体価(CH50)35 U/mL(基準30~40)。腹部超音波検査で腎臓に異常を認めない。 患者への説明で適切なのはどれか。
- a.「尿細胞診を検討しましょう」
- b.「腎臓専門医に紹介しましょう」
- c.「早朝尿で検尿を再検査しましょう」
- d.「職場健診で経過をみていきましょう」
- e.「3か月後に検尿を再検査して方針を決めましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
尿沈渣の赤血球円柱は、血尿が糸球体由来であることを示し、糸球体腎炎を強く示唆する所見です。持続する蛋白尿と血尿があり補体が正常な成人では、IgA腎症をはじめとする慢性糸球体腎炎をまず考え、腎生検による組織診断が必要になります。尿蛋白/Cr比0.50g/gCr以上、または蛋白尿と血尿がともに陽性であれば腎臓専門医への紹介基準を満たし、eGFRが保たれていてもCKDとしては高リスクと評価されます。早朝尿での再検は若年者の起立性蛋白尿、尿細胞診は円柱や蛋白尿を伴わない血尿での尿路上皮癌検索に用いるもので、すでに持続が確認された糸球体性の尿異常を健診や再検で先送りするのは不適切です。血尿の由来を見極め、紹介のタイミングを判断する力は、健診後の外来診療で腎予後を守るための基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・50歳男性。職場健診で2年続けて尿検査異常を指摘されている。つまり尿異常は少なくとも1年近く持続している。 ・身長172cm、体重76kg(BMI約25.7で軽度の肥満)、血圧144/86mmHgと高めである。 ・尿所見:蛋白1+、潜血2+。尿蛋白/Cr比0.90g/gCrと、正常(0.15未満)を大きく超えている。尿沈渣で赤血球15〜20/HPF(強拡大1視野あたり。5個以上で血尿とする)と顕微鏡的血尿があり、さらに赤血球円柱を認める。 ・腎機能:Cr 0.9mg/dL、eGFR 70.8mL/分/1.73m2で、まだ大きくは低下していない。 ・糖尿病はない(血糖98mg/dL、HbA1c 5.8%)。CRPは陰性、抗核抗体陰性、補体価(CH50)も正常。腹部超音波で腎の形態異常はない。
診断への道筋
赤血球円柱は、糸球体から尿細管に漏れ出た赤血球が、尿細管内で蛋白(Tamm-Horsfall蛋白)の鋳型に閉じ込められてできるものである。したがって赤血球円柱が見つかれば、血尿の出どころは糸球体であると考えてよく、糸球体腎炎の存在を強く示唆する。これに中等度の蛋白尿(0.90g/gCr)と高血圧が加わっており、糸球体疾患による尿異常と判断できる。 補体は正常で、抗核抗体も陰性であるため、低補体血症を伴う溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎は考えにくい。急性の経過を示す症状もなく、健診で偶然見つかって1年以上続いている点から、慢性糸球体腎炎、とりわけ日本の成人で最も頻度の高いIgA腎症がまず疑われる。 50歳男性の顕微鏡的血尿では膀胱癌など尿路上皮癌も鑑別に挙がるが、赤血球円柱と蛋白尿の存在は糸球体性の血尿を示しており、尿路悪性腫瘍が第一の疑いとはならない。
CKDとしての評価と対応
CKD(慢性腎臓病)の重症度分類に当てはめると、eGFR 70.8はG2、糖尿病以外の腎疾患で尿蛋白/Cr比0.50g/gCr以上はA3に当たり、G2A3はリスクの高い区分である。日本腎臓学会などによる「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」では、糖尿病以外の腎疾患で尿蛋白/Cr比0.50g/gCr以上(または試験紙で2+以上)の場合、あるいは蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上)の場合は紹介が勧められる。本症例はこの両方を満たす。 確定診断には腎生検による組織診断が必要で、IgA腎症などでは組織所見と尿蛋白量・腎機能に応じて、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、副腎皮質ステロイド、扁桃摘出術+ステロイドパルス療法などの治療が検討される。腎機能が保たれているうちに診断・治療を始めることが腎予後の改善につながるため、経過観察ではなく速やかに腎臓専門医へ紹介すべきである。
選択肢考察
- ×a. 「尿細胞診を検討しましょう」
尿細胞診は、尿中に剝がれ落ちた細胞から膀胱癌などの尿路上皮癌を探す検査で、蛋白尿を伴わない肉眼的血尿や、喫煙歴のある中高年の顕微鏡的血尿などで行われる。本症例は赤血球円柱と中等度の蛋白尿があり、血尿は糸球体由来と判断できるため、まず行うべき対応ではない。年齢から尿路悪性腫瘍の検索が完全に不要というわけではないが、最も優先されるのは糸球体疾患の精査である。
- ○b. 「腎臓専門医に紹介しましょう」
赤血球円柱を伴う糸球体性血尿と、尿蛋白/Cr比0.90g/gCrの蛋白尿が1年以上持続しており、IgA腎症をはじめとする慢性糸球体腎炎が強く疑われる。CKD重症度分類でG2A3と高リスクで、蛋白尿0.50g/gCr以上、蛋白尿と血尿の両方陽性という点で腎臓専門医への紹介基準を満たす。腎生検による組織診断と、それに基づく治療方針の決定が必要であるため、専門医への紹介が適切な説明である。
- ×c. 「早朝尿で検尿を再検査しましょう」
早朝第一尿での再検査は、立位や運動の影響で日中のみ蛋白尿が出る起立性(体位性)蛋白尿を見分けるために行う。起立性蛋白尿は思春期の若年者に多い良性の病態で、血尿や円柱は伴わない。本症例は50歳で、血尿と赤血球円柱を伴い、2年続けて異常を指摘されているため、起立性蛋白尿は考えにくく、再検査で時間をかける意味はない。
- ×d. 「職場健診で経過をみていきましょう」
年1回の健診に任せて経過をみる対応は、精査の結果、問題のない尿所見と判断された場合に限られる。本症例は昨年も異常を指摘されながら受診しておらず、今回は赤血球円柱を伴う糸球体腎炎が疑われる状態である。放置すると腎機能が徐々に低下し、末期腎不全に至る危険があるため、経過観察は不適切である。
- ×e. 「3か月後に検尿を再検査して方針を決めましょう」
CKDの定義は異常が3か月以上続くことであるが、本症例では前年の健診からすでに尿異常が続いていることがわかっており、改めて3か月待って持続性を確認する必要はない。赤血球円柱と中等度の蛋白尿という糸球体腎炎を示す所見がそろっているため、再検査を待たずに専門医へ紹介し、腎生検を含めた精査を進めるべきである。
血尿の由来を見分ける手がかり
・糸球体性血尿:赤血球円柱、変形赤血球(大きさや形が不揃いな赤血球。とくに有棘赤血球)、蛋白尿の合併。糸球体腎炎を示唆する。 ・非糸球体性血尿:形の均一な赤血球、凝血塊、円柱なし。尿路結石、尿路感染症、尿路上皮癌、腎細胞癌などを考える。
IgA腎症の要点
・メサンギウム領域にIgAが優位に沈着する慢性糸球体腎炎で、日本の成人の一次性糸球体疾患で最も多い。 ・健診での顕微鏡的血尿・蛋白尿で見つかることが多く、上気道感染の直後(数日以内)に肉眼的血尿をきたすことがある。 ・血清IgA高値(315mg/dL以上)を示すことがあるが、補体は通常正常である。 ・確定診断は腎生検(蛍光抗体法でメサンギウムへのIgA沈着)。 ・治療:血圧管理(レニン・アンジオテンシン系阻害薬)、副腎皮質ステロイド、扁桃摘出術+ステロイドパルス療法などを、組織所見・蛋白尿・腎機能をもとに選ぶ。 ・長期的には20年で約30〜40%が末期腎不全に至るとされ、蛋白尿の量、高血圧、腎機能低下が予後不良因子である。
補体価で考える糸球体腎炎の鑑別
・低補体:溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎、クリオグロブリン血症に伴う腎炎、感染性心内膜炎に伴う腎炎。 ・補体正常:IgA腎症、ANCA関連血管炎、抗GBM病、膜性腎症、微小変化型ネフローゼ症候群など。
腎臓専門医への紹介基準(かかりつけ医向けの目安)
・糖尿病以外の腎疾患:尿蛋白/Cr比0.50g/gCr以上または試験紙で2+以上、蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上)、eGFR 45mL/分/1.73m2未満(40歳未満では60未満)。 ・その他、急速な腎機能低下(3か月以内に30%以上の低下など)がある場合も紹介の対象となる。
CKDにおける血圧管理
蛋白尿を伴うCKDでは降圧目標を130/80mmHg未満とし、レニン・アンジオテンシン系阻害薬が第一選択となる。本症例の144/86mmHgは目標を上回っている。
POINT
・赤血球円柱は糸球体由来の血尿を示し、糸球体腎炎を強く示唆する。 ・持続する蛋白尿+血尿+補体正常の成人では、IgA腎症などの慢性糸球体腎炎をまず考え、腎生検で確定する。 ・尿蛋白/Cr比0.50g/gCr以上、または蛋白尿と血尿がともに陽性なら腎臓専門医へ紹介する。 ・早朝尿での再検査は起立性蛋白尿(若年者、血尿なし)を疑う場合、尿細胞診は尿路上皮癌(蛋白尿・円柱を伴わない血尿など)を疑う場合に行う。 ・すでに1年以上持続している尿異常を、健診や再検査で様子をみるのは不適切である。
