StudyMed医師国家試験

明け方の胸痛を「誘発」して確かめる―アセチルコリン負荷試験の前に止めるべき薬

第119回医師国家試験 A問題 第57問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第57問

65歳の女性。胸痛を主訴に来院した。高血圧症,脂質異常症,糖尿病および骨粗鬆症に対してそれぞれ内服治療中である。2か月前から明け方に冷汗を伴う5~10分程度の胸部絞扼感を自覚している。日中の労作時には同様の症状はない。冠動脈CTでは器質的冠動脈狭窄を認めなかった。午前4時にいつもと同様の胸部絞扼感を認め,ニトログリセリンを舌下したところ数十秒後に症状は消失したが心配になり受診した。身長158cm,体重56kg。体温36.1℃,脈拍72/分,整。血圧138/80mmHg。呼吸数14/分。SpO2 98%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。四肢に異常を認めない。血液生化学所見:AST 28U/L,LD 177U/L(基準124~222),CK 42U/L(基準41~153),尿素窒素12mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL,血糖118mg/dL,HbA1c 6.7%(基準4.9~6.0),トリグリセリド160mg/dL,HDLコレステロール31mg/dL,LDLコレステロール138mg/dL。心筋トロポニンT迅速検査陰性。   この患者にアセチルコリン負荷冠動脈造影検査を実施するにあたり,検査結果に影響を与える薬剤はどれか。

  1. a.スタチン
  2. b.DPP-4阻害薬
  3. c.カルシウム拮抗薬
  4. d.ビスホスホネート製剤
  5. e.アンジオテンシン受容体拮抗薬〈ARB〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胸痛の診断そのものよりも一歩先、確定診断のための検査を正しく行うには何に気をつけるかを問う問題だ。まず、どんな狭心症を考えているのかを押さえ、そのうえで患者さんの内服薬に目を向けよう。発作の起こり方から、何を考えるかな。
医学生医学生
冠危険因子が多いので労作性狭心症かと思いましたが、日中の労作では症状が出ないんですね。
ドクタードクター
そこが大事なポイントだ。動脈硬化で冠動脈が狭くなっている労作性狭心症なら、心臓の酸素需要が増える労作時に症状が出る。今回は明け方の安静時に起こり、冠動脈CTでも器質的な狭窄がない。そしてニトログリセリンで数十秒で消えている。
医学生医学生
夜間から早朝の安静時、硝酸薬が著効、狭窄なし……冠攣縮性狭心症ですね。
ドクタードクター
その通り。冠動脈が一過性に強く収縮して血流が途絶える病態だ。副交感神経の活動が高まる夜間から早朝に起こりやすく、日本人を含む東アジア人に多いとされる。喫煙が重要な危険因子なんだ。
医学生医学生
循環器内科の臨床実習で、発作時の心電図でST上昇が出ると教わりました。でも受診時には治っていることが多いんですよね。
ドクタードクター
そう、発作は数分から15分程度で消えてしまうから、心電図を捕まえるのが難しい。そこで確定診断のために、冠動脈造影の最中にアセチルコリンやエルゴノビンを冠動脈に注入して、攣縮を人為的に起こしてみる。これが薬物負荷試験だ。
医学生医学生
アセチルコリンって、薬理学の講義では血管を拡張させると習った気がします。なぜ攣縮が起こるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。正常な内皮があれば、アセチルコリンは内皮から一酸化窒素を放出させて血管を広げる。ところが内皮機能が障害された冠動脈では、平滑筋のムスカリン受容体に直接働いて収縮させてしまう。冠攣縮性狭心症の冠動脈はまさにこの状態なので、攣縮が誘発されるわけだ。
医学生医学生
なるほど。普段どおりの胸痛と心電図変化を伴って高度に狭くなれば陽性、ということですね。
ドクタードクター
そう。では本題。攣縮を起こさせる検査なのに、もし攣縮を抑える薬を飲んでいたらどうなるだろう。
医学生医学生
攣縮が起こりにくくなって、本当は病気なのに陰性と出てしまう。偽陰性ですね。
ドクタードクター
その通り。だから患者さんの内服薬のうち、冠攣縮を抑えるものを探せばいい。高血圧の治療薬としてよく使われ、冠攣縮性狭心症の第一選択薬でもあるのは何かな。
医学生医学生
カルシウム拮抗薬です。平滑筋のL型カルシウムチャネルを遮断して、カルシウムの流入を抑えるから収縮しにくくなります。
ドクタードクター
完璧だ。カルシウム拮抗薬は冠攣縮の予防に最も有効な薬で、飲んだまま検査すると攣縮が出にくくなる。そのため検査前に一般に48時間程度以上休薬する。長時間作用型の硝酸薬やニコランジルも同じ理由で休薬の対象だよ。
医学生医学生
同じ降圧薬でもARBは止めなくていいんですか。血管を広げる薬ですよね。
ドクタードクター
鋭い質問だね。ARBはアンジオテンシンⅡのAT1受容体への結合を妨げて血圧を下げるから、結果として末梢血管は広がる。でもカルシウム拮抗薬のような冠攣縮抑制効果は確立しておらず、冠攣縮性狭心症の治療薬ではない。だから負荷試験前に休薬を求められる薬ではないんだ。
医学生医学生
スタチンには内皮機能を改善する多面的作用があると聞いたことがあります。
ドクタードクター
そういう報告はあるけれど、冠攣縮を直接、速やかに抑える薬ではなく、検査前に止めるべき薬とはされていない。DPP-4阻害薬はインクレチンを分解する酵素を阻害して血糖依存性にインスリン分泌を促す糖尿病薬、ビスホスホネート製剤は破骨細胞を抑える骨粗鬆症の薬で、どちらも冠動脈の緊張には関係しない。
医学生医学生
検査の前に、その結果を左右する薬を飲んでいないか確認する。CBTの薬理では作用機序ばかり覚えていましたが、こういう使い方があるんですね。
ドクタードクター
作用機序がわかっていれば、検査との関係も自然に導けるよ。最後に臨床での注意点だ。負荷試験では強い虚血や徐脈、心室細動などの不整脈が起こりうるので、一時ペーシングや硝酸薬の冠注を準備して行う。治療の基本は禁煙で、発作時はニトログリセリンの舌下、予防はカルシウム拮抗薬が第一選択。効果が不十分なら長時間作用型硝酸薬やニコランジルを加える。
医学生医学生
β遮断薬は狭心症の薬なのに、冠攣縮性狭心症では使わないと聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。β遮断薬を単独で使うと、α受容体を介した冠動脈収縮が相対的に優位になり、攣縮を悪化させうる。労作性狭心症とは治療の考え方が違う点として、ぜひ押さえておこう。

まとめ

夜間から早朝の安静時に起こり、ニトログリセリンが速やかに効き、器質的狭窄を伴わない胸痛発作は冠攣縮性狭心症に典型的です。確定診断には冠動脈造影下でアセチルコリンやエルゴノビンを注入して攣縮を誘発する負荷試験が用いられ、内皮機能が障害された冠動脈ではアセチルコリンが平滑筋に直接作用して収縮を起こします。カルシウム拮抗薬は冠攣縮予防の第一選択薬であり、服用したまま検査すると偽陰性となりうるため、長時間作用型硝酸薬やニコランジルとともに検査前に休薬します。一方、スタチン、DPP-4阻害薬、ビスホスホネート製剤、ARBは冠攣縮を直接抑えず、負荷試験の結果を左右しません。薬の作用機序から検査結果への影響を予測する視点は、検査の精度を保ち、正しい診断と治療選択につなげるうえで欠かせません。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・65歳女性。高血圧症、脂質異常症、糖尿病で治療中であり、冠危険因子を複数もつ。骨粗鬆症の治療も受けている。 ・2か月前から、明け方(午前4時頃)の安静時に冷汗を伴う5~10分の胸部絞扼感が繰り返し起きている。日中の労作では症状が出ない。 ・冠動脈CTで器質的な狭窄はない。 ・発作時にニトログリセリンを舌下すると数十秒で症状が消失した。 ・来院時のバイタルサイン、心音・呼吸音に異常はなく、CK正常、心筋トロポニンT迅速検査陰性であり、心筋壊死(急性心筋梗塞)を示す所見はない。

診断へのプロセス

冠危険因子を多くもつ高齢者の胸痛では、まず動脈硬化による器質的狭窄が原因の労作性狭心症を考える。しかし本例は労作で症状が誘発されず、冠動脈CTでも有意狭窄がないため、器質的狭窄による狭心症は考えにくい。発作が反復性・一過性で硝酸薬が速やかに効くことは心筋虚血によるものとして矛盾せず、心雑音がないことから大動脈弁狭窄症も考えにくい。持続性の激しい痛みではなくバイタルサインも安定しており、大動脈解離や肺血栓塞栓症も示唆されない。 夜間から早朝の安静時に起こり、硝酸薬で速やかに改善し、器質的狭窄を伴わない胸痛発作という組み合わせは、冠動脈が一過性に強く収縮する冠攣縮性狭心症(vasospastic angina)に典型的である。冠攣縮は副交感神経の活動が高まる夜間~早朝に起こりやすい。

設問の考え方

冠攣縮性狭心症は、発作時心電図(ST上昇など)が記録できれば診断に近づくが、発作は短時間で受診時には消えていることが多い。そこで確定診断のために、冠動脈造影中にアセチルコリン(またはエルゴノビン)を冠動脈内に注入して攣縮を人為的に誘発する薬物負荷試験が行われる。アセチルコリンは正常な内皮では一酸化窒素(NO)を放出させて血管を拡張させるが、内皮機能が障害された冠動脈では平滑筋のムスカリン受容体に直接作用して収縮を引き起こす。これを利用して攣縮の起こりやすさを評価する。 したがって、冠攣縮を抑える作用をもつ薬剤を服用したまま検査すると、攣縮が誘発されにくくなり、偽陰性(本当は冠攣縮性狭心症なのに陰性と判定される)となる。問われているのは、患者の内服薬のうち冠攣縮抑制作用をもつものはどれか、ということである。

選択肢考察

  1. ×a.  スタチン

    スタチンはHMG-CoA還元酵素阻害薬で、肝臓でのコレステロール合成を抑えてLDLコレステロールを低下させる。本例の脂質異常症に対する治療薬である。内皮機能改善などの多面的作用が報告されてはいるが、冠攣縮を直接・速やかに抑える薬ではなく、負荷試験の前に休薬すべき薬剤とはされていない。

  2. ×b.  DPP-4阻害薬

    DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)阻害薬は、インクレチン(GLP-1、GIP)を分解する酵素DPP-4を阻害し、インクレチンの作用を長引かせることで血糖依存性にインスリン分泌を促す糖尿病治療薬である。冠動脈の攣縮に影響する作用はなく、アセチルコリン負荷試験の結果を左右しない。

  3. ○c.  カルシウム拮抗薬

    カルシウム拮抗薬は、血管平滑筋のL型カルシウムチャネルを遮断して細胞内へのCa2+流入を抑え、平滑筋の収縮を抑制する。冠攣縮の予防に最も有効な薬剤で、冠攣縮性狭心症治療の第一選択薬である。本例では高血圧症に対して内服している可能性が高い。服用したまま負荷試験を行うとアセチルコリンによる攣縮が起こりにくくなり、偽陰性となりうる。そのため、診断精度を保つために検査前に休薬する(一般に48時間程度以上前)。長時間作用型の硝酸薬やニコランジルも同じ理由で休薬の対象となる。

  4. ×d.  ビスホスホネート製剤

    ビスホスホネート製剤は骨に沈着して破骨細胞による骨吸収を抑え、骨密度の低下を防ぐ骨粗鬆症治療薬である。冠動脈の緊張には作用しないため、負荷試験の結果に影響しない。

  5. ×e.  アンジオテンシン受容体拮抗薬〈ARB〉

    ARBは、アンジオテンシンⅡがAT1受容体(アンジオテンシンⅡ1型受容体)に結合するのを阻害し、血管収縮やアルドステロン分泌を抑えて血圧を下げる降圧薬である。結果として末梢血管は拡張するが、カルシウム拮抗薬のような冠攣縮抑制効果は確立しておらず、冠攣縮性狭心症の治療薬とはされない。負荷試験前に休薬が求められる薬剤ではない。

冠攣縮性狭心症の概要

・心外膜の比較的太い冠動脈が一過性に異常収縮し、心筋虚血を起こす病態である。冠動脈の内皮機能障害や平滑筋の過収縮性が背景にあり、喫煙が重要な危険因子である。日本人を含む東アジア人に多い。 ・発作は夜間~早朝の安静時に多く、持続は数分~15分程度。過換気や飲酒、寒冷で誘発されることもある。 ・発作時心電図で、完全閉塞に近い攣縮ではST上昇(対側誘導でST低下)、不完全な攣縮ではST低下を示す。発作が治まると心電図は元に戻る。 ・器質的狭窄を伴わないことが多いが、動脈硬化病変の部位に攣縮が重なることもある。

診断

・発作時の心電図変化、ホルター心電図での安静時ST変化、硝酸薬の速やかな効果が手がかりとなる。 ・確定には冠動脈造影下でのアセチルコリンまたはエルゴノビン負荷による攣縮誘発試験が用いられる。冠動脈の一過性の高度狭窄(または閉塞)に、普段と同様の胸痛や虚血性心電図変化を伴えば陽性とする。 ・誘発時には高度の虚血や不整脈(徐脈、心室細動など)を起こしうるため、一時ペーシングや硝酸薬の冠注などを準備したうえで行う。 ・偽陰性を避けるため、カルシウム拮抗薬、長時間作用型硝酸薬、ニコランジルなど冠攣縮を抑える薬は検査前に休薬する。

治療

・禁煙が最も基本的で重要である。 ・発作時:硝酸薬(ニトログリセリン)の舌下またはスプレー。 ・発作予防:カルシウム拮抗薬が第一選択。効果不十分なら長時間作用型硝酸薬やニコランジルを追加する。 ・β遮断薬の単独使用は、α受容体を介した冠動脈収縮が相対的に優位になり攣縮を悪化させうるため避ける。

POINT

・明け方の安静時に起こり、硝酸薬が速やかに効き、器質的狭窄を伴わない胸痛発作 → 冠攣縮性狭心症。 ・確定診断はアセチルコリン(またはエルゴノビン)負荷冠動脈造影による攣縮誘発試験。 ・カルシウム拮抗薬は冠攣縮を抑える第一選択薬であり、服用したまま負荷試験を行うと偽陰性になりうるため、検査前に休薬する(長時間作用型硝酸薬、ニコランジルも同様)。 ・スタチン、DPP-4阻害薬、ビスホスホネート製剤、ARBは冠攣縮を直接抑える薬ではなく、負荷試験の結果に影響しない。 ・β遮断薬単独は冠攣縮を悪化させうるので避ける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。