「最初の一手」を誤ると危険―内分泌疾患の治療は順番が命
第99回医師国家試験 E問題 第61問
国試問題にチャレンジ
疾患と最初に投与すべき薬物の組合せで正しいのはどれか。
- a.汎下垂体機能低下症 ―― 甲状腺ホルモン
- b.褐色細胞腫 ―― β遮断薬
- c.心因性多飲症 ―― バソプレシン
- d.特発性アルドステロン症 ―― スピロノラクトン
- e.1型糖尿病 ―― スルホニルウレア
対話形式の解説
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ドクターまとめ
特発性アルドステロン症は両側副腎過形成による原発性アルドステロン症で、片側副腎摘除では治癒が期待できないため、スピロノラクトンなどのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬による薬物療法が第一選択となります。一方、汎下垂体機能低下症で甲状腺ホルモンを先行させると副腎クリーゼを、褐色細胞腫でα遮断前にβ遮断薬を使うと高血圧クリーゼを、心因性多飲症にバソプレシンを投与すると水中毒を招くおそれがあり、いずれも避けるべき組合せです。1型糖尿病ではβ細胞が破壊されているためSU薬は無効で、インスリン療法が必須です。原発性アルドステロン症では片側性か両側性かの鑑別(副腎静脈サンプリング)が治療方針を分けることも重要です。内分泌疾患の治療は「何を使うか」だけでなく「どの順番で、どの前提で使うか」が安全性を左右するため、病態生理に基づいて考える力が問われます。
解答・解説
正解はdです
本問は、各内分泌代謝疾患の病態生理から「最初に何を投与するか」を問う組合せ問題である。正解以外の選択肢の多くは、誤って投与すると患者を危険にさらす組合せ(副腎クリーゼ、高血圧クリーゼ、水中毒など)になっており、病態を理解したうえで治療の順序を判断できるかが問われている。 考え方の軸は次のとおりである。 ・不足しているホルモンを補う場合、どのホルモンから補うと安全か(汎下垂体機能低下症)。 ・過剰なホルモンの作用を遮断する場合、どの受容体から遮断すべきか(褐色細胞腫、特発性アルドステロン症)。 ・そもそも投与する薬物がその病態に合っているか(心因性多飲症、1型糖尿病)。 特発性アルドステロン症は原発性アルドステロン症のうち両側副腎の過形成によるもので、手術で片側副腎を摘除しても治癒が期待できないため、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬による薬物療法が第一選択となる。この組合せが正しい。
選択肢考察
- ×a. 汎下垂体機能低下症 ―― 甲状腺ホルモン
汎下垂体機能低下症では副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)がともに不足し、続発性副腎皮質機能低下症と中枢性甲状腺機能低下症が併存する。この状態で甲状腺ホルモンを先に補充すると、代謝が亢進してコルチゾールの需要と分解(代謝クリアランス)が増える一方、コルチゾールを増やすことができないため、副腎不全が顕在化・増悪して副腎クリーゼを起こす危険がある。したがって、まず副腎皮質ホルモン(ヒドロコルチゾンなどの糖質コルチコイド)を補充し、その後に甲状腺ホルモンを少量から開始する。甲状腺ホルモンを最初に投与するのは禁忌である。
- ×b. 褐色細胞腫 ―― β遮断薬
褐色細胞腫はカテコールアミンを過剰に産生する腫瘍である。α遮断薬を投与していない状態でβ遮断薬を単独で投与すると、β2受容体を介する骨格筋血管などの拡張作用が失われ、α1受容体を介する血管収縮作用が相対的に優位となって、著しい血圧上昇(高血圧クリーゼ)を招くおそれがある。最初に投与すべきはドキサゾシンなどのα1遮断薬であり、β遮断薬は十分なα遮断を行ったうえで、頻脈や不整脈を抑える目的で追加する。α遮断に先行するβ遮断薬の投与は禁忌である。
- ×c. 心因性多飲症 ―― バソプレシン
心因性多飲症は、精神的要因などで過剰に飲水し、その結果として多尿となる病態である。バソプレシン(抗利尿ホルモン)の分泌や作用には異常がなく、尿が薄いのは水分過剰に対する正常な反応である。ここにバソプレシンやその誘導体(デスモプレシン)を投与すると、腎での水再吸収が増える一方で飲水は続くため、体内に水が貯留して低ナトリウム血症・水中毒(頭痛、嘔吐、痙攣、意識障害)をきたす危険がある。治療は飲水制限と原因となる精神的要因への対応であり、バソプレシン投与は禁忌である。
- ○d. 特発性アルドステロン症 ―― スピロノラクトン
特発性アルドステロン症は、両側副腎の過形成によってアルドステロンが過剰分泌される原発性アルドステロン症の病型である。病変が両側にあるため片側副腎摘除術の適応とならず、アルドステロンの作用をミネラルコルチコイド受容体レベルで遮断する薬物療法が治療の中心となる。スピロノラクトンはその代表薬で、ナトリウム貯留による高血圧と、カリウム排泄亢進による低カリウム血症をともに改善する。女性化乳房などの副作用が問題となる場合は、選択性の高いエプレレノンやエサキセレノンを用いる。血圧が十分に下がらなければカルシウム拮抗薬などの降圧薬を併用する。
- ×e. 1型糖尿病 ―― スルホニルウレア
スルホニルウレア(SU)薬は膵β細胞のSU受容体に結合してインスリン分泌を促す薬物であり、効果を発揮するには分泌能をもつβ細胞が残っていることが前提となる。1型糖尿病は主に自己免疫機序によりβ細胞が破壊され、インスリン分泌が枯渇(またはその方向に進行)する疾患であるため、SU薬は無効である。治療の基本はインスリン療法で、特にインスリン依存状態では生命維持のために不可欠である。
原発性アルドステロン症の病型と治療
・アルドステロン産生腺腫(片側性):腹腔鏡下副腎摘除術が第一選択。 ・特発性アルドステロン症(両側副腎過形成):ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノン)による薬物療法。 ・病型の鑑別(片側性か両側性か)には副腎静脈サンプリングが用いられる。CTだけでは判定できないことが多い。 ・スクリーニングは血漿アルドステロン濃度と血漿レニン活性の比(ARR)で行い、カプトプリル負荷試験、生理食塩水負荷試験などの確認検査で診断する。
治療の順序で注意すべき組合せ
・汎下垂体機能低下症、Addison病と甲状腺機能低下症の合併(Schmidt症候群):副腎皮質ホルモン → 甲状腺ホルモンの順に補充する。 ・褐色細胞腫:α遮断薬 → 必要に応じてβ遮断薬。手術前には循環血漿量の補正も行う。
多尿の鑑別
・中枢性尿崩症:バソプレシン分泌低下。デスモプレシンが有効。 ・腎性尿崩症:腎のバソプレシン反応性低下。デスモプレシンは無効で、サイアザイド系利尿薬などを用いる。 ・心因性多飲症:過剰飲水。飲水制限が治療。血漿浸透圧・血清ナトリウムは正常〜低めとなりやすい。 ・高張食塩水負荷試験や水制限試験、バソプレシン負荷試験で鑑別する。
糖尿病の病型と治療
・1型糖尿病:インスリン療法が必須。 ・2型糖尿病:食事・運動療法を基本とし、病態に応じて経口血糖降下薬(ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、SU薬など)、GLP-1受容体作動薬、インスリンを用いる。
POINT
・特発性アルドステロン症(両側副腎過形成)はスピロノラクトンなどミネラルコルチコイド受容体拮抗薬で治療する。腺腫なら手術。 ・汎下垂体機能低下症では副腎皮質ホルモンを先に補充する。甲状腺ホルモン先行は副腎クリーゼを誘発する。 ・褐色細胞腫ではα遮断薬を先行させる。β遮断薬単独は高血圧クリーゼを誘発する。 ・心因性多飲症にバソプレシンを投与すると水中毒になる。 ・1型糖尿病にSU薬は無効で、インスリンが必須。
