StudyMed医師国家試験

痩せ方にも「理由」がある―食欲が落ちて痩せる内分泌疾患を見抜く

第117回医師国家試験 F問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第18問

食思不振により体重が減少するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.糖尿病
  2. b.副腎不全
  3. c.褐色細胞腫
  4. d.Basedow病
  5. e.副甲状腺機能亢進症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、内分泌疾患でみられる体重減少を「なぜ痩せるのか」という機序で分類する問題だ。体重減少という症状は同じでも、食べられなくなって痩せるのか、食べているのに痩せるのかで、背景にある病態はまったく違う。ここを意識して選択肢を眺めてみよう。
医学生医学生
正直、全部痩せる病気に見えてしまいます。内分泌の講義でも「体重減少」はどの疾患の症状一覧にも載っていた気がします。
ドクタードクター
そう、だから症状一覧の暗記だけだと迷うんだ。体重は「摂取エネルギー」と「消費・喪失エネルギー」のバランスで決まる。痩せる仕組みは、摂取が減る食思不振型と、消費が増えたり栄養をうまく使えなかったりする型の大きく2つに分けられる。
医学生医学生
なるほど。Basedow病は代謝が上がるので、消費が増えるほうですね。
ドクタードクター
その通り。甲状腺ホルモンの過剰で基礎代謝が著しく亢進するから、むしろ食欲は増して食事量も増えるのに痩せていく。動悸、発汗、暑がり、手指振戦、排便回数の増加などもセットだね。
医学生医学生
褐色細胞腫も、カテコラミンで代謝が上がるタイプだと思います。
ドクタードクター
いいね。カテコラミン過剰で熱産生や脂肪分解が亢進し、インスリン分泌抑制や糖新生促進で高血糖にもなる。高血圧、頭痛、動悸、発汗が典型で、痩せるのは消費エネルギーの増加が主因だ。では糖尿病はどうだろう。
医学生医学生
糖尿病の痩せは……血糖が高くて食欲がなくなるから、でしょうか。
ドクタードクター
そこが誤解しやすいところ。コントロール不良の糖尿病では、インスリン作用不足でブドウ糖を細胞がエネルギーとして使えない。血糖が腎の再吸収閾値を超えると尿糖としてカロリーが失われ、足りない分を補うために脂肪や筋蛋白が分解される。症状は口渇・多飲・多尿、そしてむしろ多食なんだ。
医学生医学生
利用障害型ということですね。食欲はむしろ保たれている、と。
ドクタードクター
そう。では残る2つ、副腎不全と副甲状腺機能亢進症はどうかな。
医学生医学生
Addison病は、臨床実習の内分泌内科で「倦怠感と食欲不振でうつ病と間違われていた」という患者さんの話を聞きました。
ドクタードクター
まさに典型的なエピソードだ。副腎不全ではコルチゾール欠乏により、全身倦怠感や低血圧、低血糖に加えて、食欲不振・悪心・嘔吐・腹痛といった消化器症状が高頻度に出る。食べられなくなることが体重減少の主因だから、食思不振型の代表なんだ。原発性なら低Na血症・高K血症や、ACTH高値による色素沈着もヒントになる。
医学生医学生
副甲状腺機能亢進症は、骨と結石のイメージが強くて、食欲とは結びついていませんでした。
ドクタードクター
鍵は高カルシウム血症だよ。PTH過剰で骨吸収が亢進し、腎でのCa再吸収や活性型ビタミンDの産生も増えて血中Caが上がる。高Ca血症は食欲不振、悪心・嘔吐、便秘といった消化器症状を起こすから、摂取量が落ちて痩せる。消化性潰瘍や膵炎を合併すれば、それも食欲低下につながる。
医学生医学生
「Bones, stones, abdominal groans, and psychic moans」の abdominal groans の部分ですね。CBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。腎では尿濃縮力が落ちて口渇・多尿、精神面では倦怠感や抑うつ、心電図ではQT短縮も出る。というわけで正解は副腎不全と副甲状腺機能亢進症の2つだ。
医学生医学生
整理すると、食欲が落ちて痩せるのが副腎不全と副甲状腺機能亢進症、代謝亢進で痩せるのがBasedow病と褐色細胞腫、利用障害で痩せるのが糖尿病、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。逆に体重が増える疾患も一緒に整理しておくといい。Cushing症候群の中心性肥満、甲状腺機能低下症、低血糖を避けるために過食になるインスリノーマなどだね。汎下垂体機能低下症も副腎不全を介して食欲低下と体重減少をきたしうる。
医学生医学生
Basedow病でも、高齢者だと食欲が落ちることはありませんか。
ドクタードクター
鋭い質問だ。高齢者では無気力や食欲低下が目立つ非典型例、いわゆる無欲状甲状腺機能亢進症があって、見逃されやすい。試験では典型像として過食傾向で捉えればいいけれど、臨床では「高齢者の原因不明の痩せ」に甲状腺機能をチェックする習慣をつけておこう。同じように、原因不明の食欲不振や倦怠感では、血清Caとコルチゾールの評価を忘れないこと。精神疾患や悪性腫瘍と思い込む前に、治療可能な内分泌疾患を拾い上げるのが大事なんだ。
医学生医学生
副甲状腺機能亢進症を見つけたら、MENも考えるべきでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。MEN1では副甲状腺機能亢進症がほぼ必発で、膵・消化管神経内分泌腫瘍や下垂体腺腫を伴う。MEN2Aは甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症の組み合わせだ。若年発症や多腺性病変、家族歴があれば積極的に疑おう。

まとめ

内分泌疾患による体重減少は、摂取が減る「食思不振型」と、消費増加や栄養利用障害による「食べているのに痩せる型」に分けて考えると整理しやすくなります。副腎不全はコルチゾール欠乏による食欲不振・悪心・嘔吐、原発性副甲状腺機能亢進症は高カルシウム血症による消化器症状のために摂取量が減り、体重が落ちます。一方、Basedow病や褐色細胞腫は代謝亢進、コントロール不良の糖尿病は尿糖喪失と異化亢進が痩せの主因で、食欲はむしろ保たれる、あるいは亢進することが多い疾患です。原因不明の食欲不振や倦怠感ではコルチゾールや血清Caの評価を、高齢者の痩せでは無欲状甲状腺機能亢進症も念頭に置く必要があります。症状の有無だけでなく「なぜその症状が起こるのか」という機序から考える姿勢は、鑑別診断の精度を高め、見逃しを防ぐ土台になります。

解答・解説

正解はb, eです

体重減少は内分泌疾患でしばしばみられる症状だが、その「起こり方」は疾患によって異なる。大きく分けると、(1) 食欲が落ちて摂取エネルギーが減るために痩せるもの、(2) 食欲は保たれる、あるいはむしろ増しているのに、消費エネルギーの増加や栄養素の利用障害のために痩せるもの、の2通りがある。 本問は(1)、すなわち「食思不振(食欲不振)が体重減少の主な原因になる疾患」を選ばせる問題である。

考え方

・代謝亢進型(Basedow病、褐色細胞腫):甲状腺ホルモンやカテコラミンの過剰により基礎代謝が上がり、エネルギー消費が摂取を上回る。Basedow病ではむしろ過食傾向となることが多い。 ・利用障害型(コントロール不良の糖尿病):インスリン作用不足でブドウ糖を細胞内に取り込んで利用できず、尿糖としてエネルギーが失われ、代わりに脂肪・筋蛋白が分解される。口渇・多飲・多尿とともに多食傾向を示すことがある。 ・食思不振型(副腎不全、副甲状腺機能亢進症):副腎不全ではコルチゾール欠乏による消化器症状(食欲不振・悪心・嘔吐)が、副甲状腺機能亢進症では高カルシウム血症による消化器症状が前面に出て、摂取量が減ることで体重が落ちる。 このように、体重減少の「機序」に着目して選択肢を分類すれば正解の2つが導ける。

選択肢考察

  1. ×a.  糖尿病

    コントロール不良の糖尿病では体重減少がみられるが、主な原因は食思不振ではない。インスリンの作用不足によって細胞がブドウ糖をエネルギー源として使えなくなり、高血糖が腎の再吸収閾値(血糖値でおよそ160〜180 mg/dL)を超えると尿糖としてカロリーが失われる。不足したエネルギーを補うために脂肪組織や筋蛋白が分解され(異化亢進)、体重が減る。インスリンは本来、グリコーゲン・脂肪・蛋白の合成を促す同化ホルモンであり、その不足が体重減少の本態である。症状としてはむしろ口渇・多飲・多尿・多食がみられ、食欲は保たれることが多い。

  2. ○b.  副腎不全

    副腎不全(Addison病などの原発性、下垂体・視床下部障害やステロイド長期投与後の中止による続発性)では、コルチゾール欠乏により全身倦怠感、易疲労感、脱力、筋力低下、低血圧、低血糖などに加え、食欲不振・悪心・嘔吐・腹痛・下痢といった消化器症状が高頻度にみられる。これらによって経口摂取量が落ちることが体重減少の主因であり、食思不振による体重減少の代表的な内分泌疾患である。原発性では低Na血症・高K血症や、ACTH高値に伴う皮膚・粘膜の色素沈着も特徴となる。無気力や抑うつなどの精神症状を伴うこともあり、神経性やせ症やうつ病と誤認されることがある点にも注意が必要である。

  3. ×c.  褐色細胞腫

    褐色細胞腫は副腎髄質(または傍神経節)由来でカテコラミン(アドレナリン・ノルアドレナリン)を過剰に産生する腫瘍である。高血圧(発作性または持続性)、頭痛、動悸、発汗過多、振戦などを呈し、カテコラミンによる代謝亢進(熱産生・脂肪分解の亢進)とインスリン分泌抑制・糖新生促進による高血糖をきたす。体重減少はみられるが、その機序は消費エネルギーの増加(代謝亢進)であり、食思不振が主因ではない。

  4. ×d.  Basedow病

    Basedow病はTSH受容体を刺激する自己抗体(TRAb)により甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患である。甲状腺ホルモン過剰で基礎代謝が著しく亢進するため、食欲はむしろ亢進して食事量が増えるにもかかわらず体重が減少するのが特徴である。ほかに動悸・頻脈、発汗過多、暑がり、手指振戦、下痢(排便回数の増加)、眼球突出などがみられる。体重減少は食思不振によるものではないため誤りである(なお高齢者では食欲低下・無気力が目立つ非典型例=無欲状甲状腺機能亢進症もあるが、典型像としては過食傾向と捉える)。

  5. ○e.  副甲状腺機能亢進症

    原発性副甲状腺機能亢進症では副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌により骨吸収の亢進、腎でのCa再吸収増加、活性型ビタミンD産生促進を介して高カルシウム血症をきたす。症状の多くは高カルシウム血症によるもので、全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、便秘などの消化器症状、口渇・多尿(腎の尿濃縮力低下)、筋力低下、精神症状などが出現する。消化器症状のために摂取量が落ちて体重が減少するので、食思不振による体重減少をきたす疾患として正しい。さらにPTH・高Caによる消化性潰瘍や膵炎も食欲低下の一因となりうる。

内分泌疾患と体重変化の整理

・体重減少+食欲亢進:Basedow病などの甲状腺中毒症、コントロール不良の糖尿病(多食) ・体重減少(代謝亢進が主体):褐色細胞腫 ・体重減少+食欲低下:副腎不全(Addison病など)、高カルシウム血症をきたす疾患(原発性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍に伴う高Ca血症など)、汎下垂体機能低下症 ・体重増加:Cushing症候群(中心性肥満)、甲状腺機能低下症(浮腫・代謝低下)、インスリノーマ(低血糖回避のための過食)

高カルシウム血症の症状

消化器:食欲不振、悪心・嘔吐、便秘、消化性潰瘍、膵炎 腎:多尿・口渇(腎性尿崩症様)、尿路結石、腎石灰化 神経・精神:倦怠感、筋力低下、抑うつ、意識障害 心血管:QT短縮 「Bones, stones, abdominal groans, and psychic moans」として覚えるとよい。

副甲状腺機能亢進症と多発性内分泌腫瘍症(MEN)

原発性副甲状腺機能亢進症は、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)や2A型(MEN2A)の部分症状として出現することがある。MEN1では副甲状腺機能亢進症がほぼ必発で、ほかに膵・消化管神経内分泌腫瘍、下垂体腺腫が多発性に腺腫や過形成として生じる。膵・十二指腸の神経内分泌腫瘍ではガストリノーマが多く、ガストリンによる胃酸分泌亢進から多発性・難治性の消化性潰瘍(Zollinger-Ellison症候群)を生じる。MEN2Aは甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症の組み合わせである。

POINT

・体重減少は「食欲低下による摂取不足」か「代謝亢進・利用障害による消費増加」かで分けて考える。 ・食思不振による体重減少:副腎不全、副甲状腺機能亢進症(高Ca血症の消化器症状)。 ・食欲は保たれる(むしろ亢進)のに痩せる:Basedow病、コントロール不良の糖尿病。 ・褐色細胞腫はカテコラミンによる代謝亢進で痩せる。 ・副甲状腺機能亢進症はMEN1でほぼ必発、MEN2Aでも出現する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。