StudyMed医師国家試験

ホルモンで体重はどう動く?―「代謝を上げるか」「食べられなくなるか」で見抜くやせの内分泌疾患

第116回医師国家試験 F問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第34問

やせをきたすのはどれか。3つ選べ。

  1. a.Addison病
  2. b.褐色細胞腫
  3. c.甲状腺機能亢進症
  4. d.原発性アルドステロン症
  5. e.原発性副甲状腺機能亢進症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、内分泌疾患のなかから体重減少、つまり「やせ」をきたすものを選ぶ問題だ。ポイントは、それぞれのホルモンが体重を増やす方向に働くのか、減らす方向に働くのかを整理できているかどうか。まず、やせはどういうときに起こると思う?
医学生医学生
食べる量より使う量が多いとき、でしょうか。エネルギー収支がマイナスになる状態だと生理学で習いました。
ドクタードクター
その通り。原因は大きく、食欲低下で摂取が減るもの、消化管で吸収できないもの、糖尿病のように栄養を尿に失ってしまうもの、そして代謝が亢進して消費が増えるもの、の4つに分けると整理しやすい。内分泌疾患はこのうち「代謝亢進」と「食欲低下」に関わることが多いんだ。
医学生医学生
代謝亢進といえば、まず甲状腺機能亢進症ですね。内分泌内科の実習でBasedow病の患者さんが「よく食べるのに痩せていく」と話していたのを覚えています。
ドクタードクター
いい経験をしたね。甲状腺ホルモンは全身の細胞の酸素消費と熱産生を高めて基礎代謝を上げる。だから食欲が増して食べる量が増えても、消費がそれを上回って体重が落ちる。「食欲亢進なのにやせる」というのが特徴的なんだ。動悸、発汗、暑がり、手指振戦、排便回数の増加もセットで覚えておこう。
医学生医学生
褐色細胞腫も同じように代謝が上がるんでしょうか。高血圧のイメージが強くて、体重とはあまり結びついていませんでした。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。褐色細胞腫はカテコラミンを過剰に分泌する腫瘍で、カテコラミンはβ受容体を介して脂肪分解やグリコーゲン分解を促し、代謝を高める。高血圧、頭痛、発汗過多、代謝亢進、高血糖の5Hのうち、代謝亢進がやせにつながるわけだ。
医学生医学生
5Hは授業で何度も見ました。代謝亢進が体重減少に直結するんですね。では、Addison病は代謝が下がるイメージなので、むしろ太りそうに思えるのですが……。
ドクタードクター
そこが引っかけになりやすいところだ。Addison病は副腎皮質そのものが壊れて、コルチゾールとアルドステロンがともに不足する病気。コルチゾールが足りないと食欲不振や悪心・嘔吐といった消化器症状、全身倦怠感が出て、食べられなくなる。さらにアルドステロン不足でNaが失われて脱水も加わる。つまり「代謝亢進」ではなく「摂取低下と喪失」でやせるんだ。
医学生医学生
なるほど、コルチゾール過剰のCushing症候群が中心性肥満になるのと、ちょうど逆なんですね。
ドクタードクター
その理解でばっちり。Addison病ではACTHが代償的に増えるので皮膚や口腔粘膜に色素沈着が出るし、低血圧、低Na血症・高K血症、低血糖も手がかりになる。では、原発性アルドステロン症はどうだろう。
医学生医学生
アルドステロンはNaを再吸収してKを排泄させるホルモンなので、高血圧と低K血症が主ですよね。体重を減らす作用はなさそうです。
ドクタードクター
正解。周期性四肢麻痺や多尿などは出るけれど、エネルギー代謝を高める作用はないので、やせは典型的な症状ではない。最後に原発性副甲状腺機能亢進症は?
医学生医学生
高Ca血症で食欲不振になると聞いた気がします。それならやせることもありそうで、少し迷います。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。高Ca血症が高度になれば食欲不振や悪心は起こりうる。ただPTHは主にCaとPの調節を担うホルモンで、エネルギー代謝を亢進させるわけではない。症状の中心は骨粗鬆症などの骨病変、尿路結石、多尿・口渇で、最近は健診で偶然見つかる無症候例も多い。やせをきたす代表的な疾患とはいえないんだ。
医学生医学生
整理すると、甲状腺ホルモンとカテコラミンは過剰で代謝が上がってやせる、コルチゾールは不足すると食べられなくてやせる。アルドステロンとPTHは電解質のホルモンなので体重への直接の影響は小さい、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。逆に体重が増えやすいのは、Cushing症候群、甲状腺機能低下症、それから低血糖を避けるために過食してしまうインスリノーマなどだね。内分泌以外では、コントロール不良の糖尿病も忘れずに。インスリン作用不足で糖を利用できず尿に失い、脂肪や筋も分解されてやせる。
医学生医学生
臨床でやせの患者さんを診るときは、どんな順番で考えればいいですか。
ドクタードクター
一般に、6〜12か月で体重の5%以上が意図せず減ったら精査を考える。高齢者ではまず悪性腫瘍の除外が大切で、若年女性なら神経性やせ症が代表的だ。ほかに結核などの慢性感染症、心不全やCOPD、炎症性腸疾患、うつ病、そして今回の内分泌疾患をスクリーニングしていく。そのとき役立つのが食欲の有無だ。食欲があるのにやせるなら甲状腺機能亢進症や糖尿病、吸収不良を、食欲が落ちているなら悪性腫瘍やAddison病、うつ病を考える。ただし高齢者の甲状腺機能亢進症では、食欲がむしろ落ちて活気がなくなるだけ、という非典型例もあるから注意しよう。
医学生医学生
「やせ」という一つの症状でも、食欲を聞くだけで鑑別がぐっと絞れるんですね。医療面接の大切さを改めて感じました。

まとめ

やせは摂取エネルギーが消費を下回ると生じ、内分泌疾患では「代謝亢進」と「摂取低下」の2つの機序が中心となります。甲状腺機能亢進症と褐色細胞腫は、それぞれ甲状腺ホルモンとカテコラミンの過剰で代謝が亢進してやせ、Addison病はコルチゾール不足による食欲不振・消化器症状とNa喪失でやせます。一方、原発性アルドステロン症と原発性副甲状腺機能亢進症は主に電解質の異常をきたす疾患で、やせの代表的原因ではありません。コルチゾールは不足でやせ、過剰(Cushing症候群)で太るように、ホルモンごとに体重への影響の方向を整理しておくと、内分泌疾患の理解が深まります。実際の診療では食欲の有無や年齢を手がかりに、悪性腫瘍や糖尿病なども含めてやせの原因を系統的に鑑別することが大切です。

解答・解説

正解はa, b, cです

やせ(体重減少)は、摂取エネルギーが消費エネルギーを下回る状態が続くと生じる。原因は大きく、①食欲低下・摂取不足(悪性腫瘍、慢性炎症、うつ病・神経性やせ症など)、②吸収障害(消化管疾患、膵外分泌不全)、③利用障害・喪失(コントロール不良の糖尿病で糖が尿中に失われる)、④代謝亢進(甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、慢性感染症など)に分けて考えると整理しやすい。 内分泌疾患では、ホルモンごとに「体重を増やす方向に働くか、減らす方向に働くか」を押さえておくとよい。体重を減らす方向に働く代表は、甲状腺ホルモンとカテコラミンの過剰(代謝亢進・脂肪分解の亢進)、そして副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の不足である。反対に、コルチゾール過剰(Cushing症候群)、甲状腺機能低下症、インスリノーマ(低血糖を避けるための過食)などは体重増加をきたしやすい。 アルドステロンや副甲状腺ホルモン(PTH)は、主に電解質(Na・K、Ca・P)の調節を担うホルモンであり、エネルギー代謝や体脂肪量に直接大きく作用するわけではない。したがって、典型的にやせをきたす疾患としてはAddison病、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症の3つを選ぶことになる。

選択肢考察

  1. ○a.  Addison病

    Addison病は副腎皮質そのものが障害される原発性副腎皮質機能低下症で、コルチゾールとアルドステロンがともに不足する。コルチゾール不足により食欲不振・悪心・嘔吐などの消化器症状、全身倦怠感、糖新生の低下が起こり、体重減少をきたす。さらにアルドステロン不足によるNa喪失と脱水も体重減少に加わる。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の代償的な増加による皮膚・口腔粘膜の色素沈着、低血圧、低Na血症・高K血症、低血糖を伴うのが特徴である。コルチゾール過剰で中心性肥満をきたすCushing症候群とちょうど逆の病態と理解するとよい。

  2. ○b.  褐色細胞腫

    褐色細胞腫は副腎髄質(または傍神経節)のクロム親和性細胞から生じ、カテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)を過剰に分泌する腫瘍である。カテコラミンはβ受容体を介して脂肪分解やグリコーゲン分解を促進し、基礎代謝を高めるため、体重減少をきたす。典型的な症状は5H(Hypertension 高血圧、Headache 頭痛、Hyperhidrosis 発汗過多、Hypermetabolism 代謝亢進、Hyperglycemia 高血糖)としてまとめられ、このうち代謝亢進がやせの原因となる。

  3. ○c.  甲状腺機能亢進症

    甲状腺ホルモンは全身の細胞の酸素消費と熱産生を高め、基礎代謝を上昇させる。過剰になると、食欲が増して摂食量が増えているにもかかわらず、消費がそれを上回って体重が減少するのが特徴である(食欲亢進を伴う体重減少)。代表疾患はBasedow病(Graves病)で、動悸・頻脈、発汗過多、暑がり、手指振戦、軟便・排便回数増加などを伴う。なお高齢者では食欲がむしろ低下し、やせと活気のなさが前景に立つこともある(無欲状甲状腺機能亢進症)。

  4. ×d.  原発性アルドステロン症

    副腎皮質球状層の腺腫や過形成からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患である。アルドステロンは腎集合管でNaの再吸収とKの排泄を促すホルモンで、主な症状は高血圧と低K血症(それに伴う筋力低下、周期性四肢麻痺、多尿など)である。エネルギー代謝を亢進させる作用はなく、やせは典型的な症状ではない。血漿レニン活性の抑制とアルドステロン高値が診断の手がかりとなる。

  5. ×e.  原発性副甲状腺機能亢進症

    副甲状腺の腺腫(約80〜85%)・過形成・癌からPTHが過剰分泌される疾患で、高Ca血症・低P血症をきたす。症状は骨病変(骨粗鬆症、線維性骨炎)、尿路結石、多尿・口渇、消化性潰瘍、膵炎、精神症状などである。高Ca血症が高度になると食欲不振や悪心を生じることはあるが、PTH自体は主にCa・P代謝を調節するホルモンでありエネルギー代謝を亢進させないため、やせをきたす代表的疾患とはいえない。近年は健診で偶然見つかる無症候例が多い。

体重への影響で整理する内分泌疾患

・体重減少をきたしやすい: 甲状腺機能亢進症(Basedow病など)、褐色細胞腫、副腎皮質機能低下症(Addison病)、コントロール不良の糖尿病(尿糖による喪失、インスリン作用不足による脂肪・筋の分解)、汎下垂体機能低下症(Sheehan症候群など) ・体重増加をきたしやすい: Cushing症候群(中心性肥満、満月様顔貌)、甲状腺機能低下症(主に粘液水腫による浮腫と代謝低下)、インスリノーマ(低血糖回避のための過食)、成長ホルモン分泌不全症(体脂肪増加)、視床下部性肥満

やせの鑑別の進め方

やせは肥満と比べて背景に何らかの病気が隠れていることが多い。一般に6〜12か月で体重の5%以上が意図せず減少した場合に精査を考える。高齢者ではまず悪性腫瘍の除外が重要であり、若年女性では神経性やせ症(神経性食欲不振症)が代表的である。そのほか、慢性感染症(結核、HIV感染症など)、慢性心不全(心臓悪液質)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、炎症性腸疾患、うつ病などの精神疾患、糖尿病、そして本問の内分泌疾患をスクリーニングする。

食欲の有無による手がかり

食欲があるのにやせる場合は、甲状腺機能亢進症、コントロール不良の糖尿病、吸収不良症候群、褐色細胞腫などを考える。食欲低下を伴うやせでは、悪性腫瘍、Addison病、うつ病、神経性やせ症、慢性炎症性疾患などを考える。

POINT

・やせをきたす内分泌疾患: 甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、Addison病、コントロール不良の糖尿病 ・甲状腺ホルモン・カテコラミンの過剰は代謝亢進でやせる。コルチゾールは不足(Addison病)でやせ、過剰(Cushing症候群)で太る ・アルドステロンはNa・K、PTHはCa・Pの調節が主体で、体重への直接的影響は小さい ・甲状腺機能亢進症は「食欲亢進なのに体重減少」が特徴

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。