ホルモンで体重はどう動く?―「代謝を上げるか」「食べられなくなるか」で見抜くやせの内分泌疾患
第116回医師国家試験 F問題 第34問
国試問題にチャレンジ
やせをきたすのはどれか。3つ選べ。
- a.Addison病
- b.褐色細胞腫
- c.甲状腺機能亢進症
- d.原発性アルドステロン症
- e.原発性副甲状腺機能亢進症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
やせは摂取エネルギーが消費を下回ると生じ、内分泌疾患では「代謝亢進」と「摂取低下」の2つの機序が中心となります。甲状腺機能亢進症と褐色細胞腫は、それぞれ甲状腺ホルモンとカテコラミンの過剰で代謝が亢進してやせ、Addison病はコルチゾール不足による食欲不振・消化器症状とNa喪失でやせます。一方、原発性アルドステロン症と原発性副甲状腺機能亢進症は主に電解質の異常をきたす疾患で、やせの代表的原因ではありません。コルチゾールは不足でやせ、過剰(Cushing症候群)で太るように、ホルモンごとに体重への影響の方向を整理しておくと、内分泌疾患の理解が深まります。実際の診療では食欲の有無や年齢を手がかりに、悪性腫瘍や糖尿病なども含めてやせの原因を系統的に鑑別することが大切です。
解答・解説
正解はa, b, cです
やせ(体重減少)は、摂取エネルギーが消費エネルギーを下回る状態が続くと生じる。原因は大きく、①食欲低下・摂取不足(悪性腫瘍、慢性炎症、うつ病・神経性やせ症など)、②吸収障害(消化管疾患、膵外分泌不全)、③利用障害・喪失(コントロール不良の糖尿病で糖が尿中に失われる)、④代謝亢進(甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、慢性感染症など)に分けて考えると整理しやすい。 内分泌疾患では、ホルモンごとに「体重を増やす方向に働くか、減らす方向に働くか」を押さえておくとよい。体重を減らす方向に働く代表は、甲状腺ホルモンとカテコラミンの過剰(代謝亢進・脂肪分解の亢進)、そして副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の不足である。反対に、コルチゾール過剰(Cushing症候群)、甲状腺機能低下症、インスリノーマ(低血糖を避けるための過食)などは体重増加をきたしやすい。 アルドステロンや副甲状腺ホルモン(PTH)は、主に電解質(Na・K、Ca・P)の調節を担うホルモンであり、エネルギー代謝や体脂肪量に直接大きく作用するわけではない。したがって、典型的にやせをきたす疾患としてはAddison病、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症の3つを選ぶことになる。
選択肢考察
- ○a. Addison病
Addison病は副腎皮質そのものが障害される原発性副腎皮質機能低下症で、コルチゾールとアルドステロンがともに不足する。コルチゾール不足により食欲不振・悪心・嘔吐などの消化器症状、全身倦怠感、糖新生の低下が起こり、体重減少をきたす。さらにアルドステロン不足によるNa喪失と脱水も体重減少に加わる。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の代償的な増加による皮膚・口腔粘膜の色素沈着、低血圧、低Na血症・高K血症、低血糖を伴うのが特徴である。コルチゾール過剰で中心性肥満をきたすCushing症候群とちょうど逆の病態と理解するとよい。
- ○b. 褐色細胞腫
褐色細胞腫は副腎髄質(または傍神経節)のクロム親和性細胞から生じ、カテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)を過剰に分泌する腫瘍である。カテコラミンはβ受容体を介して脂肪分解やグリコーゲン分解を促進し、基礎代謝を高めるため、体重減少をきたす。典型的な症状は5H(Hypertension 高血圧、Headache 頭痛、Hyperhidrosis 発汗過多、Hypermetabolism 代謝亢進、Hyperglycemia 高血糖)としてまとめられ、このうち代謝亢進がやせの原因となる。
- ○c. 甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンは全身の細胞の酸素消費と熱産生を高め、基礎代謝を上昇させる。過剰になると、食欲が増して摂食量が増えているにもかかわらず、消費がそれを上回って体重が減少するのが特徴である(食欲亢進を伴う体重減少)。代表疾患はBasedow病(Graves病)で、動悸・頻脈、発汗過多、暑がり、手指振戦、軟便・排便回数増加などを伴う。なお高齢者では食欲がむしろ低下し、やせと活気のなさが前景に立つこともある(無欲状甲状腺機能亢進症)。
- ×d. 原発性アルドステロン症
副腎皮質球状層の腺腫や過形成からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患である。アルドステロンは腎集合管でNaの再吸収とKの排泄を促すホルモンで、主な症状は高血圧と低K血症(それに伴う筋力低下、周期性四肢麻痺、多尿など)である。エネルギー代謝を亢進させる作用はなく、やせは典型的な症状ではない。血漿レニン活性の抑制とアルドステロン高値が診断の手がかりとなる。
- ×e. 原発性副甲状腺機能亢進症
副甲状腺の腺腫(約80〜85%)・過形成・癌からPTHが過剰分泌される疾患で、高Ca血症・低P血症をきたす。症状は骨病変(骨粗鬆症、線維性骨炎)、尿路結石、多尿・口渇、消化性潰瘍、膵炎、精神症状などである。高Ca血症が高度になると食欲不振や悪心を生じることはあるが、PTH自体は主にCa・P代謝を調節するホルモンでありエネルギー代謝を亢進させないため、やせをきたす代表的疾患とはいえない。近年は健診で偶然見つかる無症候例が多い。
体重への影響で整理する内分泌疾患
・体重減少をきたしやすい: 甲状腺機能亢進症(Basedow病など)、褐色細胞腫、副腎皮質機能低下症(Addison病)、コントロール不良の糖尿病(尿糖による喪失、インスリン作用不足による脂肪・筋の分解)、汎下垂体機能低下症(Sheehan症候群など) ・体重増加をきたしやすい: Cushing症候群(中心性肥満、満月様顔貌)、甲状腺機能低下症(主に粘液水腫による浮腫と代謝低下)、インスリノーマ(低血糖回避のための過食)、成長ホルモン分泌不全症(体脂肪増加)、視床下部性肥満
やせの鑑別の進め方
やせは肥満と比べて背景に何らかの病気が隠れていることが多い。一般に6〜12か月で体重の5%以上が意図せず減少した場合に精査を考える。高齢者ではまず悪性腫瘍の除外が重要であり、若年女性では神経性やせ症(神経性食欲不振症)が代表的である。そのほか、慢性感染症(結核、HIV感染症など)、慢性心不全(心臓悪液質)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、炎症性腸疾患、うつ病などの精神疾患、糖尿病、そして本問の内分泌疾患をスクリーニングする。
食欲の有無による手がかり
食欲があるのにやせる場合は、甲状腺機能亢進症、コントロール不良の糖尿病、吸収不良症候群、褐色細胞腫などを考える。食欲低下を伴うやせでは、悪性腫瘍、Addison病、うつ病、神経性やせ症、慢性炎症性疾患などを考える。
POINT
・やせをきたす内分泌疾患: 甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、Addison病、コントロール不良の糖尿病 ・甲状腺ホルモン・カテコラミンの過剰は代謝亢進でやせる。コルチゾールは不足(Addison病)でやせ、過剰(Cushing症候群)で太る ・アルドステロンはNa・K、PTHはCa・Pの調節が主体で、体重への直接的影響は小さい ・甲状腺機能亢進症は「食欲亢進なのに体重減少」が特徴
