男性の胸のふくらみはホルモンの天秤から―女性化乳房の原因を機序で読み解く
第114回医師国家試験 C問題 第34問
国試問題にチャレンジ
女性化乳房の原因となり得るのはどれか。3つ選べ。
- a.肝硬変
- b.尿崩症
- c.精巣腫瘍
- d.ACTH単独欠損症
- e.ドパミン受容体拮抗薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
女性化乳房は男性の乳腺組織が良性に増殖する状態で、エストロゲン作用とアンドロゲン作用のバランスがエストロゲン側に傾いたときに生じます。肝硬変ではエストロゲンの分解低下と末梢での変換亢進、精巣腫瘍ではエストロゲンやhCGの産生、ドパミン受容体拮抗薬では高プロラクチン血症を介したテストステロン低下が原因となります。一方、尿崩症(ADHの異常)やACTH単独欠損症(コルチゾール欠乏)は性腺系に影響しないため、原因とはなりません。スピロノラクトンなどの薬剤性も多く、若年男性では精巣腫瘍の除外、片側性で硬い腫瘤では男性乳癌との鑑別が重要です。「ホルモンの天秤」という機序で整理すれば、初見の原因でも推論でき、日常診療での原因検索にも役立ちます。
解答・解説
正解はa, c, eです
女性化乳房(gynecomastia)とは、男性の乳腺組織(乳管と間質)が良性に増殖して乳房が腫大する状態である。脂肪の沈着だけで乳房が大きく見える偽性女性化乳房(肥満による)とは区別され、触診で乳輪下に弾性のある円盤状の腺組織を触れるのが特徴である。
発生の基本機序
乳腺組織はエストロゲンにより増殖が促され、アンドロゲン(テストステロン)により抑制される。したがって女性化乳房は「エストロゲン作用とアンドロゲン作用のバランスがエストロゲン側に傾いたとき」に生じる。この不均衡は次のいずれかで起こる。 1. エストロゲンの増加:エストロゲン産生腫瘍、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)産生腫瘍、末梢でのアロマターゼ活性亢進、エストロゲンの代謝(分解)低下、エストロゲン製剤 2. アンドロゲンの低下:原発性・続発性の性腺機能低下症、高プロラクチン血症によるゴナドトロピン抑制 3. アンドロゲン作用の阻害:抗アンドロゲン薬、アンドロゲン受容体の異常
考え方
各選択肢について「性ホルモンのバランスを変えるか」を検討すればよい。肝硬変はエストロゲンの分解低下とアンドロゲンからの変換亢進、精巣腫瘍はエストロゲンやhCGの産生、ドパミン受容体拮抗薬は高プロラクチン血症を介した性腺機能低下により、いずれもエストロゲン優位の状態をつくる。これに対し、抗利尿ホルモン(ADH)の異常である尿崩症や、コルチゾール欠乏を起こすACTH単独欠損症は、性ホルモンの軸に直接影響しないため、女性化乳房の原因とはならない。
選択肢考察
- ○a. 肝硬変
肝臓はエストロゲンを不活化・分解する主要臓器であり、肝硬変では肝機能低下によりエストロゲンの代謝が低下する。さらに、副腎由来のアンドロステンジオンなどのアンドロゲンが末梢組織(脂肪など)でアロマターゼによりエストロゲンへ変換される過程が亢進し、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の増加により遊離テストステロンが相対的に低下する。これらにより相対的なエストロゲン過剰となり、女性化乳房をきたす。同じエストロゲン過剰の徴候として、クモ状血管腫や手掌紅斑、精巣萎縮もみられる。なお、肝硬変の腹水治療に用いるスピロノラクトンも抗アンドロゲン作用により女性化乳房の原因となる。
- ×b. 尿崩症
尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)の分泌低下(中枢性)または腎臓での作用不全(腎性)により、多尿・口渇・多飲をきたす疾患である。尿崩症そのものは性ホルモンの産生や代謝に影響しないため、女性化乳房の原因とはならない。
- ○c. 精巣腫瘍
精巣腫瘍の一部はエストロゲン過剰を介して女性化乳房を起こす。Leydig細胞腫やSertoli細胞腫などの性索間質性腫瘍は、エストロゲンそのものや、アロマターゼを介してエストロゲンを産生する。また、絨毛癌や合胞体栄養膜細胞を含むセミノーマなどの胚細胞腫瘍はhCGを産生し、hCGがLHと同様に正常のLeydig細胞を刺激してアロマターゼ活性を高め、エストロゲン産生を増加させる。若年男性に新たに生じた女性化乳房では、精巣の触診や超音波検査、hCG測定で精巣腫瘍を除外することが重要である。
- ×d. ACTH単独欠損症
ACTH単独欠損症は、下垂体前葉ホルモンのうち副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)だけが欠乏する疾患で、続発性副腎皮質機能低下症(コルチゾール欠乏)による倦怠感、食欲不振、低血糖、低ナトリウム血症などを呈する。ゴナドトロピン(LH・FSH)の分泌は保たれるため、精巣でのテストステロン産生は低下せず、女性化乳房は起こらない。なお、LH分泌も低下する汎下垂体機能低下症であれば、テストステロン低下により女性化乳房を生じうる点は区別しておく。
- ○e. ドパミン受容体拮抗薬
下垂体前葉からのプロラクチン分泌は、視床下部から放出されるドパミンにより持続的に抑制されている。スルピリドやハロペリドールなどの抗精神病薬、メトクロプラミドやドンペリドンなどの制吐薬といったドパミンD2受容体拮抗薬はこの抑制を解除し、高プロラクチン血症をきたす。高プロラクチン血症は視床下部のGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)分泌を抑えてLH分泌を低下させ、テストステロンを減少させる(続発性性腺機能低下症)。その結果エストロゲン優位となり女性化乳房が生じる。乳汁漏出や性欲低下、勃起障害を伴うこともある。
女性化乳房の主な原因
・生理的:新生児期(母体由来エストロゲン)、思春期(エストロゲン分泌がテストステロンに先行して増加するため一過性に生じ、多くは自然消退)、高齢者(テストステロン低下と体脂肪増加によるアロマターゼ活性亢進) ・疾患 エストロゲン増加:肝硬変、精巣腫瘍(Leydig細胞腫、Sertoli細胞腫、hCG産生胚細胞腫瘍)、副腎皮質癌(エストロゲン産生)、hCG産生肺癌など、甲状腺機能亢進症(SHBG増加とアロマターゼ活性亢進)、栄養障害からの回復期(refeeding) アンドロゲン低下:Klinefelter症候群などの原発性性腺機能低下症、下垂体機能低下症(LH低下)、プロラクチノーマ、慢性腎不全 ・薬剤 抗アンドロゲン作用:スピロノラクトン、前立腺癌の抗アンドロゲン薬(ビカルタミドなど)、5α還元酵素阻害薬、シメチジン エストロゲン作用:エストロゲン製剤、ジギタリス 高プロラクチン血症:抗精神病薬、メトクロプラミド、ドンペリドン、スルピリドなど その他:ケトコナゾール、アルコール、マリファナなど
診療の流れ
触診で真の女性化乳房か脂肪沈着かを区別し、乳癌(片側性、硬い、乳頭直下から偏在する、皮膚の陥凹や乳頭分泌を伴う)を見逃さないようにする。原因検索として服薬歴、肝・腎・甲状腺機能、精巣の診察を行い、必要に応じてテストステロン、エストラジオール、LH、FSH、プロラクチン、hCGを測定する。
POINT
・女性化乳房はエストロゲン作用とアンドロゲン作用の比がエストロゲン側に傾くと生じる。 ・肝硬変:エストロゲンの分解低下とアンドロゲンからの変換亢進(クモ状血管腫・手掌紅斑と同じ機序)。 ・精巣腫瘍:エストロゲン産生、またはhCG産生によるLeydig細胞刺激。若年男性の女性化乳房では必ず精巣を診察する。 ・ドパミン受容体拮抗薬:高プロラクチン血症→GnRH・LH抑制→テストステロン低下。 ・スピロノラクトンも頻出の薬剤性原因。 ・尿崩症(ADH異常)、ACTH単独欠損症(コルチゾール欠乏)は性腺系に影響せず原因とならない。
