ビールと痛風の深い関係―栄養素ごとの「因果の矢印」を正しく結ぶ
第115回医師国家試験 F問題 第29問
国試問題にチャレンジ
栄養と病態の組合せで正しいのはどれか。
- a.アルコールの摂取 ―― 尿酸の排泄低下
- b.高い糖質摂取割合 ―― 体重の減少
- c.2週間の絶食後の輸液 ―― マラスムス
- d.タンパク質の過剰摂取 ―― 胆石形成
- e.動物性脂肪の過剰摂取 ―― 血中LDLコレステロールの低下
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
アルコールは肝代謝でNADHが増えて乳酸が蓄積し、尿細管での尿酸排泄を妨げるとともに、ATP分解亢進による尿酸産生増加も起こすため、高尿酸血症や痛風発作の誘因となります。糖質の過剰摂取はエネルギー過剰として体重増加や高トリグリセリド血症に、動物性脂肪(飽和脂肪酸)はLDL受容体の減少を介してLDLコレステロール上昇につながります。長期絶食後の急な栄養再開で注意すべきは低リン血症を中心とするリフィーディング症候群であり、マラスムスは低栄養そのものによる病態です。コレステロール胆石の栄養要因は脂質や高エネルギー食で、タンパク質過剰とは結びつきません。栄養素と病態の因果関係を機序から理解しておくことは、生活指導や入院患者の栄養管理を安全に行う土台になります。
解答・解説
正解はaです
本問は、日常の食事内容や栄養療法が体にどのような代謝上の変化をもたらすかを、五つの組合せで確認する問題である。それぞれの栄養素について「何が増え、何が起こるか」という基本的な因果関係を思い出せれば正解にたどり着ける。 ・アルコール:肝臓での代謝に伴って乳酸が増え、尿酸の腎排泄が妨げられる。同時に尿酸の産生も増える。→ 高尿酸血症・痛風発作の誘因。 ・糖質:摂取エネルギーに占める割合が高く、総エネルギーが過剰になれば余剰分は脂肪として蓄えられる。→ 体重増加、高トリグリセリド血症。 ・長期絶食後の栄養再開:急激な糖負荷により電解質が細胞内へ移動する。→ リフィーディング症候群。 ・脂質(特に動物性脂肪):胆汁中コレステロールの増加や LDL 受容体の減少をもたらす。→ コレステロール胆石、LDL コレステロール上昇。 この整理に照らすと、病態との組合せが正しいのはアルコールと尿酸排泄低下のみである。
選択肢考察
- ○a. アルコールの摂取 ―― 尿酸の排泄低下
正しい。エタノールは肝臓でアセトアルデヒド、さらに酢酸へと酸化される。この過程で NADH が過剰になるため、ピルビン酸が乳酸へ変換されやすくなり、血中乳酸が増加する。乳酸は腎尿細管で尿酸の排泄を妨げるため、尿酸の尿中排泄が低下する。加えて、酢酸の代謝で ATP が消費されて AMP が増え、プリン体(アデニンヌクレオチド)の分解が亢進して尿酸の産生も増える。ビールなどプリン体を多く含む酒ではその摂取も上乗せされ、飲酒時の脱水も尿酸値上昇を助長する。このように、アルコールは産生増加と排泄低下の両面から高尿酸血症をもたらし、痛風発作の誘因となる。
- ×b. 高い糖質摂取割合 ―― 体重の減少
誤り。糖質の摂取割合が高い食事で総摂取エネルギーが消費量を上回れば、余った糖は肝臓や脂肪組織で中性脂肪に変換されて蓄積し、体重は増加する方向に働く。また、果糖やショ糖の過剰摂取は肝での脂肪合成を高め、高トリグリセリド血症や脂肪肝の原因となる。体重を左右する基本はエネルギー収支であり、糖質を多くとることが体重減少につながるという関係はない。
- ×c. 2週間の絶食後の輸液 ―― マラスムス
誤り。長期の絶食や高度の低栄養のあとに急に栄養(特にブドウ糖)を投与すると、インスリン分泌が増え、リン・カリウム・マグネシウムが細胞内へ急速に取り込まれて血中濃度が低下する。ビタミン B1(チアミン)の消費も増える。こうして低リン血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症、ビタミン B1 欠乏、体液貯留が起こり、不整脈、心不全、呼吸不全、意識障害などを来すのがリフィーディング症候群(refeeding syndrome)である。予防には少量から栄養を開始し、電解質を補正しつつ漸増し、ビタミン B1 を補充する。一方、マラスムス(marasmus)は長期間エネルギーとタンパク質の両方が不足して起こる低栄養状態で、皮下脂肪や筋肉が著しく失われた極度のやせを特徴とする。マラスムスは「絶食そのもの」の結果であり、輸液によって生じる病態ではない。
- ×d. タンパク質の過剰摂取 ―― 胆石形成
誤り。胆石形成と関係が深い栄養要因は脂質(特に動物性脂肪)の過剰摂取や高エネルギー食による肥満である。これらは胆汁中のコレステロールを過飽和にし、コレステロール胆石ができやすくなる。急激な体重減少や長期絶食による胆嚢の運動低下(胆汁うっ滞)も危険因子である。タンパク質の過剰摂取は尿中カルシウム排泄の増加(尿路結石の危険因子)や腎への窒素負荷の増大と関連づけられるが、胆石形成の主要な原因とはされていない。
- ×e. 動物性脂肪の過剰摂取 ―― 血中LDLコレステロールの低下
誤り。肉の脂身、バター、ラードなどの動物性脂肪には飽和脂肪酸が多く含まれる。飽和脂肪酸は肝細胞表面の LDL 受容体を減少させて LDL の取り込みを低下させるため、血中 LDL コレステロールは上昇する。卵黄や内臓類に多い食事性コレステロールの過剰摂取も LDL 上昇に寄与する。このため脂質異常症の食事療法では、飽和脂肪酸を控え、不飽和脂肪酸(魚油や植物油)や食物繊維を多くとることが勧められる。
高尿酸血症の病型と関与する生活因子
高尿酸血症は、尿酸の産生過剰型、腎からの排泄低下型、腎外(腸管)排泄低下を含む腎負荷型などに分けられる。アルコールは産生増加と排泄低下の両方に関わる。そのほか、プリン体の多い食品(レバー、魚卵、干物など)、果糖の多い清涼飲料水、肥満、激しい無酸素運動(乳酸産生)、利尿薬(サイアザイド系、ループ)なども尿酸値を上げる。
リフィーディング症候群
高リスクなのは、数日以上ほとんど栄養をとっていない人、神経性やせ症、慢性アルコール依存症、高度の低体重などである。最も特徴的な検査所見は低リン血症で、ATP や 2,3-DPG が不足して筋力低下、呼吸不全、心機能低下などを来す。栄養再開時には目標量より少ないエネルギーから始め、血清リン・カリウム・マグネシウムを頻回に測定し、ビタミン B1 を投与する。
マラスムスとクワシオルコル
・マラスムス:エネルギーとタンパク質がともに長期間不足する。著明なやせ(皮下脂肪・筋肉の消失)が中心で、浮腫はみられないのが典型で、血清アルブミンは比較的保たれる。 ・クワシオルコル:エネルギーは比較的保たれるがタンパク質が著しく不足する。低アルブミン血症による浮腫・腹水、脂肪肝、皮膚・毛髪の変化を伴う。
コレステロール胆石の危険因子
女性、40 歳代以上、妊娠・多産、肥満、高脂肪・高エネルギー食、急激な体重減少、脂質異常症、エストロゲン製剤の使用など(英語の頭文字から「5F」と呼ばれることがある)。
POINT
・アルコールは乳酸増加による尿酸排泄低下と、ATP 分解亢進による尿酸産生増加の両面から高尿酸血症を来す。 ・糖質過剰摂取(エネルギー過剰)は体重増加、高トリグリセリド血症につながる。 ・長期絶食後の急な栄養再開ではリフィーディング症候群(低リン血症など)に注意する。マラスムスは低栄養そのものによる病態。 ・胆石(コレステロール胆石)の栄養要因は脂質・高エネルギー食であり、タンパク質ではない。 ・動物性脂肪(飽和脂肪酸)は LDL 受容体を減らし LDL コレステロールを上昇させる。
