StudyMed医師国家試験

父からは伝わらない遺伝子―母系遺伝とヘテロプラスミーで読み解くミトコンドリア遺伝病

第115回医師国家試験 F問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第28問

ミトコンドリア遺伝病について正しいのはどれか。

  1. a.女性患者が多い。
  2. b.両親が保因者である。
  3. c.次子の罹患率を予測できる。
  4. d.子は親より重症化する傾向がある。
  5. e.ミトコンドリア遺伝子の点変異は母から子に伝達する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ミトコンドリア遺伝病の遺伝形式を問う問題だ。メンデル遺伝とどこが違うのかを整理できれば、どの選択肢も迷わず判断できる。まず、ミトコンドリアDNAの特徴から確認しよう。
医学生医学生
ミトコンドリアには核とは別に、独自の環状DNAがあるんですよね。生化学の講義で、呼吸鎖の酵素の一部をコードしていると習いました。
ドクタードクター
その通り。約16.6 kbの小さな環状DNAで、呼吸鎖複合体のサブユニット13種と、その翻訳に必要なrRNA 2種、tRNA 22種がコードされている。この変異で起こるのがミトコンドリア遺伝病だ。では、子のミトコンドリアはどこから来るかな。
医学生医学生
卵子由来ですよね。精子のミトコンドリアは受精のときに卵の中に入らない、と覚えていました。
ドクタードクター
実はそこは少し違うんだ。精子のミトコンドリアも受精時に卵内へ入るけれど、その後選択的に分解・排除される。だから結果として、子のミトコンドリアDNAは実質的にすべて母由来になる。これが母系遺伝だ。
医学生医学生
入らないのではなく、入ったあとで消されるんですね。だから点変異は母から子に伝わる、というのが正しいわけですか。
ドクタードクター
そう、それが正解だ。代表例はMELAS(tRNA-Leu遺伝子の3243A>G変異が多い)、MERRF(tRNA-Lys遺伝子の8344A>G変異が多い)、Leber遺伝性視神経症などだね。では、母から伝わるなら女性患者が多いと言えるかな。
医学生医学生
母親由来だから女性に多そうな気もしますが……あれ、母は息子にもミトコンドリアを渡しますよね。
ドクタードクター
そこに気づけば十分。母は息子にも娘にも区別なくミトコンドリアを渡すから、患者の性別に偏りはない。「母から伝わる」と「女性に多い」を混同しないこと。男女の違いは、罹患男性が子に変異を伝えない点にある。
医学生医学生
両親が保因者というのは、常染色体劣性遺伝の話ですよね。
ドクタードクター
その通り。両親がヘテロ接合体で子が1/4の確率で発症する、というのが常染色体劣性だ。ミトコンドリアDNAは父からは伝わらないから、この図式は成り立たない。ここで大事な概念が2つある。ヘテロプラスミーとボトルネック効果だ。
医学生医学生
ヘテロプラスミーは、1つの細胞の中に正常なDNAと変異DNAが混ざっている状態でしたっけ。
ドクタードクター
正解。1個の細胞には数百〜数千コピーのミトコンドリアDNAがあり、変異型の割合が閾値を超えた臓器で症状が出る。さらに卵子ができる過程でコピー数がいったん大きく減ってから増えるため、同じ母親から生まれた子どうしでも変異の割合が大きくばらつく。これがボトルネック効果だ。
医学生医学生
だから、メンデル遺伝のように1/2や1/4と計算できず、次の子の罹患率は予測できないんですね。
ドクタードクター
その通り。発症するかどうかも、どの程度重症になるかも正確には予測しにくい。遺伝カウンセリングで難しさが出るところだね。では、子が親より重症化する傾向はどうだろう。
医学生医学生
世代を経るごとに重くなるのは表現促進現象で、筋強直性ジストロフィーやHuntington病のようなトリプレットリピート病の特徴だった気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。反復配列が世代ごとに伸びることで起こる現象だ。ミトコンドリア遺伝病では、子の重症度は受け継いだ変異DNAの割合で決まるから、親より軽いことも重いこともあり、一方向に重くなる傾向はない。
医学生医学生
臨床ではどんな所見から疑えばいいでしょうか。病理実習で赤色ぼろ線維を見たのを思い出しました。
ドクタードクター
良い連想だ。エネルギー需要の大きい脳、骨格筋、心筋、網膜、内耳、膵β細胞が障害されやすい。低身長、感音難聴、糖尿病、けいれんなど多臓器にまたがる症状に加え、血中・髄液中の乳酸とピルビン酸の上昇、筋生検のゴモリ・トリクローム変法染色での赤色ぼろ線維が手がかりになる。
医学生医学生
性差はないと言いましたが、例外はありますか。
ドクタードクター
Leber遺伝性視神経症は母系遺伝なのに若年男性に多い例外的な疾患だ。また、Kearns-Sayre症候群などにみられるミトコンドリアDNAの単一大欠失は多くが孤発例。さらに、ミトコンドリアで働くタンパク質の大部分は核DNAにコードされているから、核遺伝子の変異によるミトコンドリア病もあり、それらはメンデル遺伝の形式をとる。Leigh脳症はどちらでも起こりうるよ。「ミトコンドリア病=すべて母系遺伝」と短絡しないことが大切だ。

まとめ

ミトコンドリアDNAの変異によるミトコンドリア遺伝病は、精子由来のミトコンドリアが受精後に分解されるため母系遺伝をとり、点変異は母から息子にも娘にも伝わりますが、父からは伝わりません。性差は原則としてなく(Leber遺伝性視神経症は例外的に男性に多い)、両親が保因者という常染色体劣性の図式も当てはまりません。ヘテロプラスミーとボトルネック効果により子ごとに変異の割合が大きく異なるため、次子の罹患や重症度は予測困難で、世代ごとに重症化する表現促進現象はトリプレットリピート病の特徴です。MELAS、MERRFなどではエネルギー需要の大きい臓器が障害され、乳酸・ピルビン酸上昇や赤色ぼろ線維が診断の手がかりになります。核DNA変異によるミトコンドリア病も存在することを含め、遺伝形式の違いを整理しておくことは遺伝カウンセリングや家族歴の解釈に直結します。

解答・解説

正解はeです

ミトコンドリアは細胞内でエネルギー(ATP)を産生する小器官で、核とは別に独自の環状 DNA(ミトコンドリア DNA:mtDNA、約 16.6 kb)をもつ。mtDNA には呼吸鎖(酸化的リン酸化)を担う酵素複合体のサブユニット 13 種と、それらの翻訳に必要な rRNA 2 種・tRNA 22 種の遺伝子がコードされている。この mtDNA の変異で生じる疾患がミトコンドリア遺伝病であり、メンデル遺伝(常染色体・X 連鎖)とは異なる次の三つの特徴を押さえることが本問を解く鍵となる。 1. 母系遺伝:受精卵のミトコンドリアは卵子に由来する。精子のミトコンドリアも受精時に卵内へ入るが、選択的に分解・排除されるため、子の mtDNA は実質的にすべて母由来となる。したがって変異は母から子へ(息子にも娘にも)伝わり、父からは伝わらない。 2. ヘテロプラスミー:1 個の細胞には数百〜数千コピーの mtDNA があり、変異型と正常型が混在した状態をヘテロプラスミーという。変異型の割合が一定の閾値を超えた臓器で症状が出る(閾値効果)。 3. ボトルネック効果:卵子が形成される過程で mtDNA のコピー数がいったん大きく減少し、その後増えるため、同じ母親から生まれた子どうしでも変異型の割合が大きくばらつく。 これらの性質から、性差はなく、両親が保因者という概念は当てはまらず、次子の罹患の有無や重症度は予測しにくい。

選択肢考察

  1. ×a.  女性患者が多い。

    誤り。変異は母親から伝わるが、母は息子・娘の区別なく全ての子にミトコンドリアを渡すため、患者の性別に偏りはない。「母から伝わる」ことと「女性に多い」ことは別であり、混同しないよう注意する。なお、罹患男性は子に変異を伝えない点が男女の違いである。

  2. ×b.  両親が保因者である。

    誤り。両親がともに保因者(ヘテロ接合体)で子が 1/4 の確率で発症するのは常染色体劣性遺伝の特徴である。mtDNA 変異は母からのみ伝わり、父親の mtDNA は子に伝わらないため、「両親が保因者」という図式は成り立たない。また母親自身も、変異型の割合が低ければ無症状のことも、症状をもつこともある。

  3. ×c.  次子の罹患率を予測できる。

    誤り。メンデル遺伝であれば常染色体顕性(優性)で 1/2、常染色体潜性(劣性)で 1/4 のように再発率を計算できる。しかし mtDNA 変異では、ヘテロプラスミーとボトルネック効果により、卵子ごとに受け継がれる変異 mtDNA の割合が大きく異なる。さらに臓器ごとにも割合が異なるため、母が変異をもつことが分かっていても、次子が発症するか、どの程度重症になるかを正確に予測することは困難である。

  4. ×d.  子は親より重症化する傾向がある。

    誤り。世代を経るごとに発症年齢が早まり重症化する現象を表現促進現象(anticipation)といい、筋強直性ジストロフィー、ハンチントン病、脊髄小脳変性症の一部などのトリプレットリピート病で、反復配列が世代ごとに伸長することによって起こる。ミトコンドリア遺伝病では子の重症度は受け継いだ変異 mtDNA の割合で決まり、親より軽いことも重いこともあって、一定の方向に重症化する傾向はない。

  5. ○e.  ミトコンドリア遺伝子の点変異は母から子に伝達する。

    正しい。子のミトコンドリアは卵子由来であり、精子由来のミトコンドリアは受精後に分解されるため、mtDNA の点変異は母系遺伝の形式で母から子へ伝わる。代表例として、MELAS(mtDNA の tRNA-Leu 遺伝子の 3243A>G 変異が多い)、MERRF(tRNA-Lys 遺伝子の 8344A>G 変異が多い)、Leber 遺伝性視神経症(11778G>A 変異など)がある。一方、慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)や Kearns-Sayre 症候群にみられる mtDNA の単一大欠失は多くが孤発例である。

主なミトコンドリア病

・MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作):脳卒中様発作、けいれん、低身長、感音難聴、糖尿病など。 ・MERRF(赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群):ミオクローヌス、てんかん、小脳失調。 ・Leber 遺伝性視神経症:若年男性に多い両眼の亜急性視力低下(mtDNA は母系遺伝だが、発症には性差がみられる例外的な疾患である)。 ・Kearns-Sayre 症候群:外眼筋麻痺、網膜色素変性、心伝導障害。 ・Leigh 脳症:乳幼児の進行性脳症。mtDNA 変異でも核 DNA 変異でも起こる。

共通する所見

エネルギー需要の大きい臓器(脳、骨格筋、心筋、網膜、内耳、膵 β 細胞など)が障害されやすい。血中・髄液中の乳酸とピルビン酸の上昇、筋生検での赤色ぼろ線維(ragged-red fiber、ゴモリ・トリクローム変法染色)が手がかりとなる。

補足:核 DNA 異常によるミトコンドリア病

ミトコンドリアで働くタンパク質の大部分は核 DNA にコードされているため、核遺伝子の変異によるミトコンドリア病もあり、それらは常染色体潜性遺伝などのメンデル遺伝の形式をとる。本問は mtDNA の変異による「ミトコンドリア遺伝病」の特徴を問うている。

POINT

・mtDNA 変異は母系遺伝(母から息子にも娘にも伝わる、父からは伝わらない)。 ・性差はない(例外的に Leber 遺伝性視神経症は男性に多い)。 ・ヘテロプラスミーとボトルネック効果のため、次子の罹患・重症度は予測困難。 ・表現促進現象はトリプレットリピート病の特徴であり、ミトコンドリア遺伝病の特徴ではない。 ・両親が保因者で 1/4 の再発率となるのは常染色体潜性遺伝。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。