StudyMed医師国家試験

煮沸では死なない、でも隔離はいらない―プリオンの「強さ」と「うつりにくさ」で解くCJD

第99回医師国家試験 E問題 第57問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第57問

Creutzfeldt-Jakob病について正しいのはどれか。

  1. a.患者の診察では手袋を着用しなければならない。
  2. b.患者に使用した器具は廃棄しなければならない。
  3. c.1時間の煮沸では病原体の感染性を除去できない。
  4. d.患者は隔離しなければならない。
  5. e.原因として医原性が最も多い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はCreutzfeldt-Jakob病、いわゆるCJDの感染対策と疫学を問う問題だ。ポイントは病原体であるプリオンの性質を2つ押さえること。「物理化学的処理に非常に強い」ことと、「日常的な接触ではうつらない」こと。この2軸で選択肢を仕分けていこう。
医学生医学生
感染症というと、隔離や手袋が必要なイメージがあります。致死的な病気なので、対策も厳重にすべきかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でもまず病原体の正体から考えよう。CJDは正常なプリオン蛋白が異常な立体構造のプリオン蛋白に変わって脳にたまり、神経細胞が脱落して海綿状変性を起こす病気だ。病原体は核酸をもたない蛋白質そのものなんだ。
医学生医学生
病理学の講義で、脳がスポンジのように穴だらけになった標本写真を見ました。細菌でもウイルスでもない、というのが印象的でした。
ドクタードクター
その「蛋白質そのもの」という点が、消毒や滅菌に強い理由になる。100℃で1時間煮沸しても感染性は失われないし、121℃で20分程度の通常のオートクレーブでも不十分とされる。だから「1時間の煮沸では病原体の感染性を除去できない」が正解だ。
医学生医学生
では、どうすれば感染性を落とせるんですか。
ドクタードクター
水酸化ナトリウムや次亜塩素酸ナトリウムによる化学処理、アルカリ洗浄剤での洗浄、134℃程度での長時間のオートクレーブなどを組み合わせる。逆に乾熱滅菌、エチレンオキサイドガス、ホルマリン、アルコール、紫外線は無効か不十分だと覚えておこう。
医学生医学生
そこまで強いなら、患者さんに使った器具は全部捨てるのが安全な気がします。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。感染性が高いのは脳、脊髄、網膜などの眼といった高リスク組織だ。聴診器や血圧計のように、そうした組織に触れない器具は通常の洗浄・消毒で再使用できる。脳神経外科手術などで高リスク組織に触れる場合は、できるだけ単回使用の器具を使い、再使用するなら定められたプリオン不活化処理を行う。「すべて廃棄しなければならない」は言いすぎなんだ。
医学生医学生
なるほど、器具の扱いはどの組織に触れたかで決まるんですね。では診察時の手袋も必須ではないのでしょうか。
ドクタードクター
その通り。プリオンは健康な皮膚への接触や飛沫ではうつらない。血液や体液に触れそうなときに手袋をつけるのは、どの患者さんにも共通する標準予防策の範囲であって、CJDだから特別に義務になるわけではないんだ。
医学生医学生
同じ理由で隔離も不要、ということですね。
ドクタードクター
そう。空気・飛沫・接触でヒトからヒトへ広がることはないので、個室管理や面会制限も必要なく、一般病床で標準予防策に従って対応すればいい。過剰な隔離は患者さんや家族の負担を増やしてしまうから、正しい知識が大事なんだ。
医学生医学生
原因については、日本では硬膜移植の事件が有名なので、医原性が多いのかと思っていました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。プリオン病は孤発性、遺伝性、獲得性に分けられ、最も多いのは孤発性で、わが国のサーベイランスでは全体の約4分の3以上を占める。次がPRNP遺伝子変異による遺伝性だ。医原性は乾燥硬膜移植、角膜移植、脳外科器具、ヒト下垂体由来成長ホルモン製剤などによるもので、数としては少ない。ただ日本は乾燥硬膜移植による症例が世界的にみても多かったから、印象に残りやすいんだね。
医学生医学生
臨床実習の脳神経内科で、急速に認知症が進んでミオクローヌスが出ている患者さんの鑑別にCJDが挙がっていました。
ドクタードクター
まさに孤発性CJDの典型像だ。60歳代を中心に発症し、急速進行性の認知症にミオクローヌスや小脳失調を伴い、数か月で無動性無言に至る。脳波では周期性同期性放電、MRIの拡散強調画像では大脳皮質のリボン状高信号や基底核の高信号がみられる。髄液では14-3-3蛋白や総タウ蛋白の上昇、RT-QuIC法による異常プリオン蛋白の検出が診断に役立つ。
医学生医学生
変異型CJDとは区別して覚えたほうがよさそうですね。
ドクタードクター
そうだね。変異型は牛海綿状脳症の牛由来食品の摂取によるとされ、若年発症で精神症状から始まり、MRIで視床枕の高信号がみられ、脳波の周期性同期性放電は出にくい。なおプリオン病は感染症法で5類感染症の全数把握対象になっている。有効な治療法はまだなく対症療法が中心だから、診断と同時に適切な感染対策と家族への説明が臨床では重要になるよ。

まとめ

Creutzfeldt-Jakob病の病原体であるプリオンは核酸をもたない異常プリオン蛋白で、1時間の煮沸や通常条件のオートクレーブでは感染性を除去できず、化学処理や高温・長時間のオートクレーブなど特別な不活化処理が必要です。一方で皮膚接触や飛沫、空気を介してヒトからヒトへうつることはないため、隔離や特別な手袋着用は不要で、標準予防策で対応します。器具は脳・脊髄・眼などの高リスク組織に触れたかどうかで扱いが変わり、すべてを廃棄する必要はありません。原因は孤発性が最も多く、医原性は乾燥硬膜移植などによる少数例にとどまります。急速進行性認知症、ミオクローヌス、脳波の周期性同期性放電、MRI拡散強調画像の皮質高信号という臨床像とあわせて理解することで、診断と過不足のない感染対策の両方に活かせます。

解答・解説

正解はcです

Creutzfeldt-Jakob病(CJD)は、正常なプリオン蛋白(PrPC)が異常な立体構造をもつプリオン蛋白(PrPSc)に変換されて脳に蓄積し、神経細胞が脱落して海綿状変性をきたす致死性の疾患である。病原体は核酸をもたない蛋白質そのもの(プリオン)であり、細菌やウイルスとは性質が大きく異なる。 本問では、プリオンの二つの特徴を押さえることが鍵となる。 ・物理化学的処理に非常に強い:通常の煮沸、乾熱滅菌、通常条件のオートクレーブ、エチレンオキサイドガス、ホルマリン、アルコールなどでは感染性を十分に失わせることができない。 ・日常的な接触では感染しない:感染性が高いのは脳・脊髄・眼(網膜など)といった高リスク組織であり、皮膚接触、飛沫、空気を介してヒトからヒトへ広がることはない。医原性感染は、汚染された脳外科手術器具、乾燥硬膜の移植、角膜移植、ヒト下垂体由来成長ホルモン製剤などを介して起こった。 この二点から、「隔離」「診察時の手袋必須」「使用器具はすべて廃棄」といった過剰な対応は不要であり、一方で「煮沸では感染性を除去できない」という記述は正しいと判断できる。また疫学的には孤発性が大多数を占める点も重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の診察では手袋を着用しなければならない。

    プリオンは健常な皮膚への接触や飛沫では感染しないため、通常の問診・身体診察でCJD患者だからといって特別に手袋を着用する必要はない。血液・体液や創部に触れる可能性があるときに手袋を用いるのは、どの患者にも適用される標準予防策(スタンダードプリコーション)の範囲の対応であり、CJDに特有の義務ではない。

  2. ×b.  患者に使用した器具は廃棄しなければならない。

    聴診器や血圧計など、脳・脊髄・眼といった高リスク組織に触れない器具は、通常の洗浄・消毒で再使用でき、廃棄の必要はない。一方、脳神経外科手術などで高リスク組織に接触した器具では、可能な限り単回使用(ディスポーザブル)の器具を用い、再使用する場合はアルカリ洗浄剤による洗浄と高温・長時間のオートクレーブ処理など、プリオン対策として定められた特別な処理を行う。「すべて廃棄しなければならない」は誤りである。

  3. ○c.  1時間の煮沸では病原体の感染性を除去できない。

    プリオンは熱に対して極めて抵抗性が高く、100℃での煮沸を1時間行っても感染性は失われない。通常の条件のオートクレーブ(121℃・20分程度)でも不十分とされる。感染性を低減させるには、水酸化ナトリウムや次亜塩素酸ナトリウムによる化学処理、アルカリ洗浄剤による洗浄、134℃程度での長時間のオートクレーブ処理などを組み合わせる必要がある。

  4. ×d.  患者は隔離しなければならない。

    CJDは空気感染・飛沫感染・接触感染によってヒトからヒトへ広がることはないため、日常の看護・介護の場面で感染が拡大することはなく、隔離は不要である。個室管理や面会制限を行う必要もなく、一般病床で標準予防策に従って対応すればよい。

  5. ×e.  原因として医原性が最も多い。

    CJDを含むプリオン病は、孤発性(原因不明、弧発性CJD)、遺伝性(プリオン蛋白遺伝子PRNPの変異による)、獲得性(医原性CJD、変異型CJDなど)に分類される。最も多いのは孤発性で、わが国のプリオン病サーベイランスでは全体の約4分の3以上を占め、遺伝性がこれに次ぐ。医原性は少数であるが、日本では乾燥硬膜移植による症例が世界的にみても多く報告されている。

プリオン病の分類

・孤発性CJD:最多。60歳代を中心とした中高年に発症する。 ・遺伝性プリオン病:PRNP遺伝子変異による。遺伝性CJD、Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)など。 ・獲得性プリオン病:医原性CJD(乾燥硬膜移植、角膜移植、脳外科手術器具、ヒト下垂体由来ホルモン製剤)、変異型CJD(牛海綿状脳症〈BSE〉の牛由来食品の摂取によるとされる)、クールー(パプアニューギニアの食人儀式に関連)。

孤発性CJDの臨床像

・急速進行性の認知症で、発症から数か月で無動性無言に至り、多くは1〜2年以内に死亡する。 ・ミオクローヌス、小脳失調、錐体路・錐体外路症状、視覚異常などを伴う。 ・脳波:周期性同期性放電(PSD)。 ・頭部MRI:拡散強調画像で大脳皮質(リボン状)や基底核の高信号。 ・髄液:14-3-3蛋白、総タウ蛋白の上昇。RT-QuIC法による異常プリオン蛋白の検出は特異度が高い。 ・有効な治療法はなく、対症療法が中心である。

変異型CJDの特徴

・若年発症、精神症状や感覚障害で始まり、経過が比較的長い。 ・MRIで視床枕の高信号(pulvinar sign)、脳波でPSDを認めにくい。 ・扁桃など末梢リンパ組織にも異常プリオン蛋白が検出される。

感染対策の要点

・通常のケアは標準予防策でよく、隔離は不要。 ・脳・脊髄・眼など高リスク組織に触れる手術器具は、単回使用器具の使用、または定められたプリオン不活化処理を行う。 ・通常の煮沸、乾熱滅菌、エチレンオキサイドガス、ホルマリン、アルコール、紫外線などは無効または不十分である。 ・プリオン病は感染症法で5類感染症(全数把握)に指定されている。

POINT

・CJDの病原体はプリオン(異常プリオン蛋白)で、熱や通常の消毒に極めて強く、煮沸では感染性を除去できない。 ・日常的な接触では感染せず、隔離は不要。標準予防策で対応する。 ・高リスク組織(脳・脊髄・眼)に触れた器具は特別な不活化処理が必要だが、すべての器具を廃棄する必要はない。 ・原因は孤発性が最多。医原性(乾燥硬膜移植など)は少数。 ・臨床像:急速進行性認知症、ミオクローヌス、脳波PSD、MRI拡散強調画像での皮質・基底核高信号。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。